第13回 生クリームをめぐる旅|清水町・あすなろファーミング

ケーキを焼いているとき、ふと思ったのだ。
「この材料はたいてい北海道で揃うのでは?」
身近なところで、小麦粉や卵や乳製品が生産されていることに、なんだかワクワクしてきたのだった。

そこで、いちごのショートケーキができるまでの旅をすることにした。材料の生産者を訪ねてみよう。どんな人が、どうやって生産しているのか。全員の顔を思い浮かべながら、集めた材料で、最後にとびっきりのケーキを焼くつもりでいる。

さあ、一緒に出かけましょう。

生産者をめぐる旅の第7回目は、生クリームをめぐる旅だ。

いちごのショートケーキを作るにあたっては、生クリームはどうしても欠かせない。ところがバター以上に、選択肢の少ない食材であり、たいていは大手乳業メーカーの製品しか店頭で見かけることはない。

どうしたものかと思案していたところ、わがやの冷蔵庫の中にヒントがあった。かれこれ20年以上、「あすなろ放牧酪農牛乳」を配達してもらっていることを思い出したのだ。あすなろ牛乳は、あまりに美味しいことから、うちの子どもたちからは「うまぎゅう」という愛称で呼ばれている。その牛乳メーカーである、あすなろファーミングで生クリームを作っているのだった。

そういえば、長年お世話になっている牛乳なのに、一度もあすなろさんには行ったことがないのだ。ワクワクしながら十勝の清水町へ向かった。

生クリームの作り方は実にシンプル

生クリーム製造の朝は早かった。7時から始まると聞き、うかがってすぐに見学させてもらった。生クリームの製造工程は以下の通りである。

昨夕と今朝に絞ったばかりの生乳を38度まで加熱する。遠心分離機にかけて、生クリームと脱脂粉乳に分けていく。

分離した生クリームを湯煎で殺菌し、冷却してボトルに詰める。これだけだ。要するに、生乳をぐるぐる回転させて、生クリームを取り出すだけである。頭では理解していたものの、実際に工場で製造している現場を見ると、そのシンプルさに驚かされる。

あすなろファーミングでは、2〜3時間かけて160kgの生乳から80〜110kg程度の生クリームが作られている。季節によって生乳の乳脂肪分が異なるため、原料から生産される生クリームの割合は、5〜7割程度の間を推移するそうだ。

最終的には脱脂粉乳を足して、乳脂肪分が18%以上になるように調整して完成する。

取材時に使用されていた遠心分離機はサブの機械で、通常は2倍の320kgの生乳を処理できるのだそうだ。それでも手作り感のある製造工程で、うれしくなってしまった。

生クリーム製造はほぼ毎日行われ、生クリームのままで出荷されたり、ムース・プリン・バターなどの原料として使われたりしている。

村上牧場から始まったあすなろファーミング

製造工程を一通り見せていただいた後、工場に併設された直売店に移動して、取締役・村上佳奈さんにお話をうかがった。

お話を聞いてすぐに、私は、長年自分が大きく誤解をしていたことを悟ったのである。

あすなろファーミングは、乳業メーカーだと思っていたのだ。もちろん乳業メーカーであることに間違いはないのだが、一般的な乳業メーカーは、生乳を仕入れて加工して製品を製造している企業のことである。

ところがあすなろファーミングはもともと、村上牧場という酪農家が、自分の牧場の生乳を加工して出荷するために立ち上げた会社だったのである。そして、現在も基本的には村上牧場で飼育された牛の生乳だけを原料に使用している。

そして、村上牧場にしても、生産したすべての生乳があすなろファーミングに出荷される。つまり、生クリームの原料として届いた生乳は、村上牧場から来ていたのである。

創業者の次男が村上牧場を、4男があすなろファーミングを経営しているのだそうだ。あすなろ牛乳や生クリームは、村上牧場の牛たちから作られているのだ。

「 2026年で創業35周年を迎えますが、私たちの仕事は、生乳の栄養価、味を変えずにお客様に届けることです。そのため、低温殺菌・ノンホモの牛乳を製造しています」と村上佳奈さんは言う。

ノンホモとは、ホモジナイズ加工(生乳の脂肪球をこなごなに壊し、成分を均一にすること)をしない牛乳のことであり、「あすなろ放牧酪農牛乳」は自然に近い牛乳なのである。

あすなろファーミングの創業者は牧場の3代目だった。生乳は農協に出荷していたのだが、ある時、牛乳の品質を評価されて表彰された。その時の副賞がヨーロッパ旅行で、研修先のドイツの農場で飲んだ牛乳があまりにおいしかったことに、衝撃を受けたのだそうだ。その牛乳はオーガニックだった。

帰国後、少しずつ無農薬、無化学肥料での酪農に切り替えていき、牛乳を生産者から消費者に直接届けるべく、生乳を自社で製品化するミルクプラントの建設に乗り出した。

「大きなチャレンジだったと思います。本当に父たちには感謝しかありません」と村上さんは言う。

村上牧場からやってきた生乳から作られる生クリームは、なんと砂糖を入れなくても少し甘いのが特徴だ。

「牛乳が甘いので生クリームも甘いんです。お客様には砂糖を調整してくださいとお伝えしています」

“うまぎゅう”は、“うめちゃん”から

北海道の酪農と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、広い牧草地でのんびりと草を食む牛たちの姿ではないだろうか。しかし現実には放牧されている乳牛の割合は、2023年のデータによると全体の16%程度、北海道に限っても25%程度である。

村上牧場の牛は放牧されており、餌の8〜9割は牧草である。牧草や牧草地は、有機JAS認証を取得している。

牧草以外に与えている飼料は、規格外小麦、ふすま、飼料米ビートパルプが北海道産であり、他には沖縄の化石サンゴカルシウムと塩を混合しているそうだ。グラスフェッドミルクだが、飼料もこだわり抜いている。

だが、村上牧場の凄さはそれだけではなかった。

「あすなろファーミングのパンフレットに使われている写真の牛は、うめちゃんという名前なんです。実は村上牧場の牛には、1頭1頭に名前がついています。産業動物に名前をつけるのはどうかと思われるかもしれませんけど」

いえいえ。そんなことはありません。素敵なことじゃないですか。うめちゃん、うまぎゅうをありがとう。

牛はとても大切に飼育されており、一般的には2〜3年搾乳した乳牛は更新されていくのだが、ここではずっと長期間飼育されている。なんと、12〜13歳のレジェンドと呼ばれる牛もいたそうだ。

アニマルウェルフェア牧場

そして村上牧場は、一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会に「アニマルウェルフェア牧場」として認定されてもいるのだ。

アニマルウェルフェアに関しては、そんなのどうでもいいと言う人から、当たり前だと思う人までいろいろだろう。ただ、現場ではとても手間のかかる飼育方法であることなのは間違いない。

そしてあすなろファーミングが素晴らしいのは、有機JAS認証にせよアニマルウェルフェア認証にせよ、すでにやっていたことを、書類を整えて認証にあてはめただけ、というところなのだ。

ずっと以前から時代の最先端にある、そんな牧場から作られた生クリーム。砂糖をやや控えめにして泡立てよう。「キンキンに冷やしたほうがうまく泡立ちます」と、とびっきりの笑顔で村上さんに教えていただいたのであった。

今回の生産者さん

あすなろファーミング

あすなろファーミングは、北海道の十勝平野の清水町にある乳業メーカー。代表は村上悦啓さん。原料となる生乳のほとんどは、お兄さんが経営する村上牧場から仕入れている。土作り、草作り、牛作りをモットーに農薬や化学肥料を一切使わないリサイクル農業を進めている。牛乳、ヨーグルト、生クリームチーズ、バター、ムースなどを製造しており、直営店ではソフトクリームが人気だ。

About the Writer
林心平_横松心平

横松 心平

1972年東京都生まれ。札幌市在住。北海道大学入学後、北海道大学ヒグマ研究グループの一員になる。北海道大学大学院農学研究科修士課程修了。同博士課程中退後、農業団体や福祉施設の職員を経てライターに。農業、環境、子育て、ジェンダー、文学に関心があります。現在6冊目の著書の刊行準備中。
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いちごのショートケーキができるまで
〜生産者をめぐる旅〜

文・写真 横松心平

ケーキを焼いているとき、ふと思ったのだ。
「この材料はたいてい北海道で揃うのでは?」


身近なところで、

小麦粉や卵や乳製品が生産されていることに、
なんだかワクワクしてきたのだった。

第13回 生クリームをめぐる旅|清水町・あすなろファーミング
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