会社、役所、市民団体。垣根を超えて社会問題に向かう、“クロスセクター”の重要性

行政や企業の枠組みを超え、社会が抱える課題を解決する「クロスセクター連携」。セクターごとの強みやリソースを持ち寄ることで、単体では成し得ない解決方法を提示できるのが大きな魅力だ。本記事では、クロスセクター連携の可能性や課題について掘り下げていく。

なぜ「単独」では社会問題が解決できないのか?

私たちの生活をさまざまな方面から支える「セクター」。暮らしにおけるセクターとは、企業・行政・NPOなどの「専門領域を持つ部門・団体」を指す。

多種多様な社会問題を解決するために、他分野ごとの強みを持つセクターの存在は欠かせない。しかし現代では、環境問題、少子高齢化、貧困格差など各課題が複雑化しており、個々のセクターが抱えるには限界が生じつつある。

たとえば企業では利益追求が優先されやすく、行政では対応のスピード感に不安が残る。NPOは資金力が大きな課題だ。

各セクターの弱みをカバーし、強みを活かす方法として挙げられるのが「クロスセクター連携」だ。クロスセクター連携によって各セクターが協働することで、より幅広い社会問題の解決が期待できる。


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クロスセクター連携とは?異なる強みを掛け合わせる仕組み

クロスセクター連携とは、「異なるセクター同士がそれぞれの強みやリソースを持ち合い、社会が抱える課題の解決に取り組むこと」を指す。

クロスセクター連携の目的は、社会課題の解決だ。ただ技術や人員を持ち寄るだけではなく、セクターごとの多様な視点と専門性を交差させることにより、課題の解決方法を「共創」していく構図が特徴的だ。

課題の解決方法は一つとは限らないからこそ、ケースごとに適切な対応のためにリソースを出し合い、柔軟に答えを共創していく。リソースの持ち寄りは、共創のためのプロセスといえる。

たとえば行政はNPOの課題である資金力を、大学や研究機関は行政の課題である専門性をカバーする。協働により、今までにはない「新しい解決方法」を生み出す可能性を持っていることが、クロスセクター連携の大きな強みだ。


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各セクターが持ち寄る、4つの資源

クロスセクター連携では、各セクターが独自の強みや資源を持つからこそ、より大きなパフォーマンスを発揮できる。単独のセクターでは生み出せない相乗効果によって、新たなアイデアや価値を社会に創造できるのだ。

以下では、企業・行政・NPO・大学や研究機関の4つのセクターに分け、それぞれが持ち寄る資源について解説していく。

①企業:資金力、技術力、スピード

企業セクターの最大の強みは、「豊富な資金力と高い技術力」だ。資金と技術を背景に、課題解決を実行に移すスピード感も持つ。マーケティングの精度も高く、市場ニーズを的確に把握したうえで、サービスを実装する能力にも長けている。

また企業では効率性や生産性も重視されることから、経営手法やイノベーション推進のノウハウを持っている点も特徴的だ。ほかのセクターと連携することで、より実践的なアプローチを提供できる。

②行政:規範力(法規制)、ネットワーク、公平性

行政セクターの強みは、社会全体に影響を与えられる「規範力」だ。法や制度を通じてアプローチができる規範力は、社会課題の解決における方向性を示す重要な役割を果たす。さらに行政は、地域や業種を超えた広いネットワークも持つため、ほかのセクターを結びつけるハブ的な役割として機能する。

住民への公平性や中立性を保ちながら施策を進められるため、特定の利害関係に縛られないのも魅力だ。社会的信頼のもとで適切なサービスを提案できるのは、行政ならではの強みといえるだろう。

③NPO、市民団体:現場力、当事者性、柔軟性

市民団体であるNPOは、強い「現場力や当事者性」を持つ。NPOは日頃から当事者にもっとも近い立場で活動するため、課題の本質を把握している点が特徴的だ。日常的に当事者との直接的な支援や対話をおこなっており、行政や企業だけでは拾いきれないニーズを発見する力を持っている。

また組織規模が比較的小さいことも、クロスセクター連携では長所として輝く。意思決定や活動方針の転換が柔軟におこなえるため、社会やニーズの変化に迅速に対応しやすいのだ。ほかのセクターとの連携によって資金力や専門性をフォローできれば、より実効性のある課題解決を促せる。

④大学、研究機関:専門的な知見、客観的なデータ

大学や研究機関の持つ強みは「学術的な知見とデータ分析力」だ。社会の課題を客観的かつ論理的に捉える力があり、専門的な研究結果を通じて実用性の高いアイデアを提供できる。科学的なエビデンスに基づいた提案の説得性は、クロスセクター連携においても重要な役割を果たす。

たとえば課題の本質を理解するNPOの提案を、研究機関が具体的なアイデアに昇華する。企業の資金力やマーケティング力によって実装につなげ、発信力に優れた行政が社会にアプローチする。

クロスセクター連携は、各セクターの「いいところ取り」によって、社会に画期的な変容と改善をもたらす取り組みといえるだろう。


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連携の壁。「文化」の違いとゴール設定の難しさ

さまざまな問題解決のポテンシャルを持つクロスセクター連携だが、現状では乗り越えるべきハードルも多い。とくに各セクター同士の対話においては課題が多く、未だ活動上の共通言語を探っている状態だ。

①セクター間で用いる「言葉」や「文化」の違い

クロスセクター連携の壁として、各組織の文化や価値観のすれ違いが挙げられる。たとえば同じ物事を指す際も、業界によって形容する「言葉」が異なることは珍しくない。同じセクター内なら容易な意思疎通も、分野横断的なやり取りでは齟齬が生じる場合がある。

また一般的に、企業は成果を重視し、行政は予算を重視するものだ。セクターの文化や判断基準の違いから、互いの優先順位を理解できず、意思決定のタイミングやスピード感が合わないことが懸念される。

②「利益追求」と「社会貢献」の目的意識のすれ違い

クロスセクター連携では、企業側とNPO側の目的意識が異なる点も見過ごせない。

企業が「利益の最大化」や「事業の持続」を目的とする一方、NPOは「社会課題の解決」や「公共性の追求」を重視する。企業は費用対効果やブランド価値を求め、NPOは社会的意義の実現を求める。

この意識のズレにより、連携時に摩擦が生まれてしまう可能性がある。どちらが正しいというわけではないからこそ、互いの立場や動機を理解したうえで、共通の目的を明確に共有することが重要だ。

③成果を求める期間の違いによる「時間の壁」

セクター間の「成果の測定期間」が異なることも、クロスセクター連携の壁になる。たとえば企業は短期的な成果を求め、NPOは長期的な活動が必要であることが一般的だ。現代社会が抱える問題の原因は根深く、迅速に成果を上げたい企業に大きな負担が生じるケースも珍しくない。

地道な施策の積み重ねを重視するNPOや行政とは、評価軸が合わないことが自然なのだ。セクター間のギャップを埋めるためには、成果の測定点を段階的に設定し、すべてのセクターが納得できる成果指標を共有することが重要といえる。


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社会の共通善を生み出す、次世代の連携術

クロスセクター連携は、社会の課題を解決するだけでなく、各セクターが関わるすべての主体に革新をもたらす取り組みだ。

現在課題とされているのは、セクター間のチューニング。各セクターの本来の目的や仕組みを尊重し合うことで、クロスセクター連携の成果もより実用性の高いものになるだろう。

昨今の社会的ミッションの一つである「多様性の受容」は、クロスセクターにも当てはまる。セクター間でのリスペクトの重要性を認識することで、より多くの人々が喜び合い、支え合える「共通善」が生み出されるのだ。

Edited by s.akiyoshi

参考サイト

クロス・セクターでの社会イノベーションの促進と科学技術コミュニティに期待される役割|文部科学省
クロスセクターによる社会課題解決|pwc
NPO/企業/行政のクロスセクター連携で孤独・孤立の対策に取り組むメンバー募集|DRIVEキャリア
孤独・孤立対策事業|CROSS FIELDS
「ソーシャルセクター連携」 のすすめ|経済同友会

About the Writer
山口愛未_METLOZAPP

METLOZAPP

数多くのジャンルの経験を生かし、分野横断的な執筆を得意とするWebライター。ウェルビーイングやメンタルヘルス領域を中心に、生活に新たな気づきを与えるコンテンツを発信中。マイノリティな感性に悩む人や、孤独や寂しさを抱きながら暮らす人の心に、少しでも寄り添えるような記事執筆を目指して活動する。現在は、女性のキャリア形成や、人間と動物の関わり方などに興味を持ち学習中。
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