
物が壊れたら買い替える。そんな常識を変える動きが、EUで広まっている。それは、修理費用を公的に補助する「リペアボーナス」制度だ。背景にあるのは「修理する権利」の概念と電子ゴミ問題。本記事では、この制度が注目される理由と、ドイツやフランスなど5カ国の先進事例を紹介する。
なぜ「リペアボーナス」が注目されるのか。背景にある“修理する権利”

リペアボーナスが注目される背景には、「修理する権利(Right to Repair)」の概念と、深刻な電子ゴミ(E-waste)問題がある。
EU加盟国およびその他の国々では、2022年だけで約1,070万トンもの電気・電子機器廃棄物が発生した。この膨大な電子ゴミには、銅やアルミニウムといった重要な原材料が埋もれているが、適切に回収されずに失われているものも多い。
一方、電気・電子機器が壊れても、製品の構造が複雑だったり修理情報が不足していたりして、修理は容易ではない。この状況の改善を求めるのが「修理する権利」の考え方だ。物の修理を促進し、消費者の権利を守ろうとする動きである。
こうした背景から、EUは2024年に「修理の権利指令」を採択した。メーカーに対し、合理的な価格・期間での修理や修理情報の提供を義務付けるものだ。そして、この法的要請を後押しする手段がリペアボーナスである。金銭的負担が軽減されることで、消費者が「壊れたら直す」という選択をしやすくなると考えられている。
【事例5選】EU各国で広がるリペアボーナス

では、リペアボーナスは各国でどのような形で導入されているのだろうか。ここでは、ドイツ、オーストリア、フランスなど、EU各国の取り組みを見ていこう。
ドイツ(テューリンゲン州)
ドイツ中部に位置するテューリンゲン州は、2021年にリペアボーナス制度を開始した。州内に主な居住地がある18歳以上の住民は、修理費用総額の50%(最大100ユーロ)の補助を受けられる。さらに、ボランティアが生活用品を修理する「リペア・カフェ」に依頼した場合も、スペアパーツ費用に補助金が適用される。2024年5月以降には、約30,000件の申請が承認された。このことから、州の人々の間でリペアボーナス制度が広く浸透していることがうかがえる。テューリンゲン州の成功は、ドイツ全土のモデルケースとして評価されている。
ドイツ(ベルリン)
ベルリンは、上記のテューリンゲン州に続く形で、2024年9月から家庭用電気・電子機器へのリペアボーナス適用を開始した。補助金額は修理費用総額の50%(最大200ユーロ)に設定されている。対象製品は、スマートフォンやノートパソコンから、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電までと幅広い。また、上記のテューリンゲン州と同様、リペア・カフェで修理する際に発生するスペアパーツ代にも、補助金の利用が可能だ。
オーストリア
オーストリアは、2022年5月に全国レベルでのリペアボーナス制度を導入した。この制度はEUパンデミック救済基金「Next Generation」から、およそ1億3,000万ユーロの資金を得て実施されている。オーストリア国民は、ほぼすべての電気・電子機器において、修理費用の50%(最大200ユーロ)の補助を受けることが可能だ。また、修理見積価格の50%(最大30ユーロ)の補助も受けられる。制度開始以来、170万件以上の修理に利用され、修理業者の収益が倍増したという事例も報告された。
フランス
フランスのリペアボーナスは、2022年12月からはじまった。資金は、メーカーに廃棄物処理費用を負担させる「汚染者負担の原則」に基づいた基金から賄われている。2024年1月からは、テレビや洗濯機、食洗機などの補助金額が2倍になり、電気シェーバーや電子レンジなど、24種類の新しい機器も対象になった。また、フランスには、「修理可能性指数」という評価基準があるのも特徴だ。各製品は、分解のしやすさやスペアパーツの入手しやすさといった観点から、製品ごとに10点満点で点数がつけられている。
スウェーデン
スウェーデンは、他国が採用する直接的な補助金方式ではなく、税控除を通じて修理を促しているのが特徴だ。2016年、スウェーデン政府は衣類や自転車などの修理に対するVAT(付加価値税、日本の消費税に相当)の税率を25%から12%に引き下げることを発表した。さらに冷蔵庫やオーブンなどの高額製品については、修理の人件費の50%を所得税から控除できる。この税制度は消費者に修理を促すだけでなく、修理業への需要創出にもつながると言えるだろう。
「壊れたら直す」が当たり前になる未来へ
修理する権利と電子ゴミ問題を背景に、EU諸国は国ごとに補助政策を打ち出してきた。
しかし、修理する文化を根付かせるには課題もある。例えば、ドイツでは消費者が修理費用を前払いし、後から払い戻しを申請する必要がある。この手続きを煩わしく思う人もいるだろう。オーストリアでは、修理を担う技術者が不足しているという声も上がっている。求職者が修理工という職業を積極的に選べる環境を作っていくことも必要そうだ。
とはいえ、限りある資源を有効活用し持続可能な社会を築くうえで、修理が果たす役割は大きい。すぐに買い替えるのではなく、直して使う道を選ぶ。こうした意識の転換が、持続可能な社会の実現につながる。
Edited by c.lin
参考サイト
Critical raw materials are a vital new currency; Europe’s e-waste is the vault | EurekAlert!
Directive on repair of goods | European Commission
Request repair bonus 3.0 | Freistaat Thüringen
Berlin Rewards the Repair of Smartphones and Other Devices: How the New Repair Bonus Works – Digital for Good | RESET.ORG
Berlin launches ‘repair bonus’ for home appliances today | TheMayor.EU
Austria launches a nation-wide repair bonus scheme | Right to Repair Europe
Austria’s Repair Bonus Returns by End of 2025 | The International
Austrian government launches repair scheme for electronic goods | BBC
Repair of electronic and household appliances: bonus amounts increase! | Service Public
French Repair Index: One Year Later | iFixit
Sweden is paying people to fix their belongings instead of throwing them away | World Economic Forum
Swedish government tax break programme for repair | Knowledge Hub | Circle Economy Foundation





















早瀬川 シュウ
フリーライターとして活動中。「日々の生活に『喜び』を」がモットー。特に、「快適さ」や「居心地のよさ」へのこだわりが強い。子どもの頃から海や森林公園を訪れていることもあって、自然環境や景観への興味関心も持っている。せせらぎの音や木漏れ日、お茶をじっくり味わう時間を好んでいる。
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