
老朽化が進む社会インフラと人手不足という課題に、“遊び”の力で挑むプロジェクトがある。市民がゲーム感覚で電柱を撮影・報告し、社会インフラの維持に貢献できる「PicTrée(ピクトレ)」だ。義務ではなく“楽しみ”から始まる新しい社会参加のかたちは、地域の安全と、持続可能な未来を支える可能性を秘めている。
老朽化する社会インフラと人手不足の現実

日本の社会インフラは、高度経済成長期に集中して整備されたものが多く、建設から数十年を経た現在、老朽化が顕著になっている。
特に電柱、橋梁、上下水道、道路などでは、築50年以上の施設も珍しくなく、保守・点検・修繕の必要性が急務となっている。
しかし、専門技術者の高齢化や若年層の技術者不足が深刻化しており、現行の体制では全国的なインフラ維持が困難になりつつある。
一方、都市部では生活インフラの密集度が高く、災害や事故が発生すれば、大規模な影響が避けられない。
このため、従来の官主導・企業主導の管理だけでは、迅速かつ効率的な対応が難しいという課題が浮き彫りになっている。
そこで注目されるのが、住民自身がインフラの維持に関わる「市民参加型の新しい仕組み」である。単なる奉仕活動や義務としての参加ではなく、楽しみながら貢献できる形が求められている。
「遊び」から始まるインフラ貢献活動

従来、インフラ点検は専門家が行う高度な作業であり、市民が関わる余地はほとんどなかった。しかし近年、ボランティアや市民による参加型社会貢献に、ゲーム要素を組み合わせる「ゲーミフィケーション」が注目されている。
ゲームの「楽しさ」「競争」「報酬」といった要素を取り入れることで、人々は義務感ではなく、自発的に参加するようになる。
たとえば、日常生活の中で電柱やマンホールを見つけ、写真を撮って報告するという行為が、ゲーム内でポイントや報酬として評価される仕組みがある。
こうした仕組みは、従来の社会貢献の概念を大きく変える可能性を秘めている。義務感や善意からの参加ではなく、楽しみながら社会課題に関与できる環境が整えば、参加の継続性や広がりも期待できる。
PicTrée──“電柱点検”を遊びに変えるゲーム

街の安全を守る電柱の点検作業。その一見地味で専門的な作業を、「遊びながら参加できる社会貢献」に変えたのが、市民参加型ゲーム「PicTrée(ピクトレ)」だ。
スマートフォンを片手に電柱の異常箇所を撮影・報告するだけで、誰でも気軽に社会インフラ維持に参加できる。
ゲーミフィケーションの仕組みを取り入れることで、これまで専門家だけの領域だった点検作業が、市民の“日常の遊び”へと姿を変えつつある。
以下では、 PicTréeの仕組みと社会意義について解説する。
「PicTrée 」とはどんなゲーム?
「PicTrée(ピクトレ)」は、日本で開発された市民参加型の社会貢献ゲームである。プレイヤーは、街中の電柱やマンホールを撮影し、写真データをチーム単位で競い合う。ポイントは、撮影した設備の種類や距離、チームの連携によって決まり、ゲームとしての達成感を味わいながら、同時に実際の保守点検データが収集される仕組みになっている。
ゲームには「チームバトル」や「コネクト機能」があり、撮影した電柱同士をつなげることで追加ポイントが得られる。プレイヤーはゲーム内での活躍に応じて、デジタルギフトや暗号資産(DEAPcoin/DEP)などの報酬が獲得できる。
各シーズンの終了時には、チームランキングに基づいた報酬も用意されており、個人の成果だけでなくチームの協力も評価される点が特徴である。
実際の参加者の体験
参加者からは、
「普段意識しない街の風景が新鮮に感じられた」
「ゲーム感覚で街を歩くことで、地域への関心やインフラへの理解が深まった」
「違った目線で自分の地域を観察できるので、結構楽しい」
といった声が寄せられている。
また、自らの活動が社会貢献に直結していることを実感できるため、「遊びながら社会課題解決に参加している」という満足感が得られるという。
さらに、獲得したポイントが実際に決済や交換に使えるため、“ちょっとしたお小遣い感覚で継続できる”という意見もある。
実際、2024年4〜6月に群馬県前橋市で実施された実証試験では、電柱1本の撮影で得られる報酬は約30円。シーズン期間中に対象区域のほぼ全域にあたる約2万本の電柱が撮影された。(*1)
社会的意義
PicTréeの最大の意義は、ゲームを通じて市民がインフラ維持に参加できる点にある。限られた人材や予算の中で、これまで「専門家だけの領域」だった点検作業を、通勤や散歩のついでに行う市民の行動に置き換えることで、結果的に地域の安全性向上につながっている。
この仕組みにより、行政・事業者・市民の三者が連携する新しい社会インフラ維持モデルが生まれつつある。“遊び”を通じて社会を支える、この新しい形の市民参加が、今後のまちづくりのあり方を変えていくかもしれない。
ゲーミフィケーションがもたらす意識変化
ゲーミフィケーションは、楽しさや報酬に加えて、「行動の可視化」という側面を持つ。個人の貢献がポイントやランキングとして見える化されることで、参加者は「自分が社会に貢献している」という実感を得やすくなる。
この仕組みにより、従来の“義務感に基づく参加”ではなく、“自発的な関心や行動“が生まれる。
こうした意識の変化こそが、持続可能な社会参加の鍵である。従来の奉仕活動では、参加者の疲弊や離脱が課題となっていた。しかし、ゲーミフィケーションによって「楽しみながら貢献できる」環境が整うことで、参加が継続的に行われ、社会全体の貢献意識も高まっていく。
インフラ点検から広がる“市民参加型の社会”

PicTréeがもたらしたのは、単なる点検作業の効率化ではない。ゲーム感覚で誰もがインフラ維持に関われるという仕組みは、「市民が社会の一部を担う」という意識変化を促している。
これまで行政や専門業者の役割とされてきた領域に、市民が主体的に関与することで、まち全体が協働で支える新しい社会のかたちが生まれつつある。PicTréeは、“市民参加型の社会”への第一歩と言える。
遊びが日常となる社会
PicTréeの取り組みは、インフラ点検という非日常的な行為を、日常生活の中に取り込むものである。ゲームを通じて市民が地域や社会に関わることが習慣化されると、社会への関心が自然と高まる。参加すること自体が日常の一部となり、社会全体の持続可能性を支える力となる。
社会貢献活動の拡張性
遊びを起点とした市民参加は、防災訓練、環境保護、地域福祉活動など、他の社会課題解決にも応用可能である。
市民が楽しみながら参加することで、地域コミュニティのつながりが強化され、社会課題に対する即応力や協力体制も向上する。
未来の参加型社会の象徴
PicTréeは、遊びが社会インフラを動かす時代の象徴的な事例である。個々の市民が楽しみながら行う活動が、目に見えない形で社会課題の解決やインフラ維持に直結する。
ゲーム化された社会参加は、単なる娯楽を超え、持続可能な社会を形成する重要な手段となっている。
まとめ──楽しさが支える持続可能な社会
参加型社会貢献ゲームは、従来の奉仕活動とは異なり、人々の意識を変え、社会貢献をより身近で楽しいものに変える力を持っている。義務感ではなく「楽しみ」から始まる活動は、誰もが無理なく続けられる社会貢献のかたちである。
PicTréeは、遊びを通じて市民がインフラ維持に参加するモデルケースであり、地域や社会の持続可能性を支える新しい仕組みを提示している。
「楽しさ」を軸にした市民参加は、インフラの未来を支えるだけでなく、地域コミュニティの活性化や防災力の向上など、多面的な効果を生み出す可能性を秘めている。
市民一人ひとりの小さな行動が、社会の持続可能性や快適な生活環境を守る力になる。ゲームの力を活用し、楽しみながら社会に貢献すること──それこそが、未来の社会を支える新しい価値観となるだろう。
Edited by c.lin
注解・参考サイト
注解
※1 BUSINESS INSIDER「東電が『稼げるゲーム』仕掛けたワケ。電柱撮影で『数十万円』ゲットも」を参照。
参考サイト
PicTréeーぼくとわたしの電柱合戦|PlayMining
ピクトレ史上初の高額お宝電柱が登場!|Digital Entertainment Asset Pte.Ltd
Gameful civic engagement: A review of the literature on gamification of e-participation|ScienceDirect
Applying Gamification to Encourage Civic Participation|
Smartico.ai
市民参加型美化活動|行政情報ポータル





















佑 立花
2018年よりWEBライターとして活動。地方創生やサステナビリティ、ウェルビーイング、ブロックチェーンなど幅広い分野に関心を持ち、暮らしに根ざした視点で執筆。現在は農家の夫と生まれたばかりの子どもと共に古民家で暮らし、子育てと仕事を両立しながら、持続可能な未来につながる情報発信を行っている。
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