行けない人をどう支えるか。万博LET’S EXPOに学ぶユニバーサルツーリズムの実践

2025年大阪・関西万博は多くの来場者でにぎわったが、実はその裏で「誰もが参加できる万博」をめざすユニバーサルツーリズムの実践も進んでいた。閉幕を迎えた今、来場が難しい人にも体験を届けようとした取り組みを振り返り、その意義を考えたい。万博が残した小さな変化が、次の社会づくりにつながっていく。

LET’S EXPOが示すインクルーシブな万博体験

「いのち輝く未来社会のデザイン」を開催テーマに掲げた大阪・関西万博。

会場はバリアフリー化が進められ、パビリオンや施設の計画から設計、建設にいたるまで、大阪府・市の条例やバリアフリー法などの関係法令を順守し、万博協会が策定したユニバーサルデザインガイドラインにも適合していた。車いすや補助器具、ベビーカーの貸出、バリアフリーマップの配布、迷子防止のリストバンド導入など、あらゆる来場者が安心安全に楽しめるユニバーサルデザインに配慮した工夫が施されていた。

しかし、その一方で、さまざまな理由から「そもそも会場に行くことが難しい」人たちが多くいたことも確かだ。そうした人たちに向けて展開されたユニバーサルツーリズムプロジェクトが LET’S EXPO である。

一般社団法人関西イノベーションセンター(MUIC Kansai)が運営したこのプロジェクトは、当事者や家族、介護・福祉関係者と協力し合い、“誰もが楽しめる万博”を目指す取り組みだった。本プロジェクトでは、障害者手帳を持っている方、要介護認定を受けている方、年齢や障がいなどが理由で万博に行けない方を対象に、参加ハードルを下げる施策を実施。現地や自宅・施設で体験できる以下の3つのサポートが提供された。

  1. 万博会場内サポート(現地で利用)

実際に会場へ行って、現地で介護有資格者と研修受講者の2名のボランティアスタッフで介助が必要な方をサポート。場内で車いすの押し手がいない方に対する移動補助や、視覚障がいのある方へのサポート、見守りサービスなどが提供された。

  1. バーチャル体験サポート(自宅・施設で利用)

自宅や施設などで万博を体験できるサービスも実施された。会場映像やバーチャル万博アプリ、1970年大阪万博の資料などを活用し、利用者の幸福感の向上や認知症予防も期待された。

  1. オンラインツアー配信視聴(自宅・施設で利用)

旅行支援サービスを提供する『旅助TV』によるパビリオン内部の無料LIVE配信が行われ、介護施設や病院に向けた回では、話すスピードや進行への配慮、体操や旅のしおりなども取り入れられた。

これら3つの形態は、いずれもユニバーサルデザインの理念に基づいて企画され、、“会場に行けない人”にも万博を楽しんでもらうための実践となった。


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観光で「取り残される人々」が直面する現実

行きたいのに行けない――それは万博に限らず、観光全般に共通する課題である。

ここでは、高齢者、障がい者、トラベルヘルパー向けのアンケート結果から作成された国土交通省によるバリアフリー観光の調査(2023年)を基に、高齢者や障がい者が観光時に直面する現実について触れる。

移動困難

移動できなければ、“体験”にもたどり着けない。観光時の大きな壁は、現地での移動だ。

「公共交通機関での長時間移動」や「階段・段差の多さ」などは、高齢者や障がい者にとって大きな障害となる。歴史的建造物などは構造上バリアフリー対応が難しく、困難を感じる場面も多い。

駅や空港へのアクセスは整っていても、乗り換えの多さや現地での移動の不便さ、トイレの問題が遠出の妨げとなっている。

体力的制約

体力や健康への不安から、観光を諦める人もいる。観光では歩く機会が増え、1日1万歩の旅程は高齢者や持病のある人には負担が大きい。ベンチやトイレの少なさも障壁となる。

混雑や予期せぬ環境変化は、パニック障害や発達障害のある人にとっては精神的負担となる。また、持病を持つ人たちにとっては医療インフラの不足も観光を断念する一因だ。

経済的負担

介助者の同行が必要な場合、交通費や宿泊費が2人分かかり、経済的負担が大きい。加えて、バリアフリールームは通常の客室より割高な傾向があり、旅行全体が高額になりやすい。

アンケート結果では、「経済的余裕がない」「障がい者対象のツアーなどは割高な傾向にある」など、経済的な負担に関する声も多く挙がっている。

また、障がい者割引などの支援制度があっても、申請方法が煩雑だったり、対象外のケースがあるなど、「使いこなせない制度」が経済的負担を増大させているという指摘もある。

情報格差

情報の入手や理解が難しいことは、旅行を諦める要因になる。宿泊のみならず、移動手段や観光地でのイベントなどでも事前予約制が導入されていることは多い。また、障がい者向けの情報不足や更新遅れ、高齢者のネット利用困難など、情報格差が顕著だ。

実際にアンケートでは「段差や階段の有無の情報が欲しい」「障がい者割引の制度を後で知った」という声も見られた。バリアフリーに対応している施設の情報が不足していることで、旅行の計画を立てづらい旅行者も多いのが実情だ。

このような「観光から取り残される人たち」の存在は、従来の観光の限界を浮き彫りにしている。ソーシャルインクルージョンの観点から、こうした課題に対応する観光のあり方として、ユニバーサルツーリズムが今あらためて注目されている。


インフラにもユニバーサルデザインを

誰一人取り残さない観光を目指して

観光庁は、ユニバーサルツーリズムを「障がいの有無や年齢にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行」と定義している。ユニバーサルツーリズムは、ユニバーサルデザインの理念に基づき、すべての人が安心して旅を楽しめる仕組みづくりを目指すものだ。

LET’S EXPOでは、「万博に誘いたい人がいる方の背中を押す」ことを目的とした「大阪・関西万博への無料招待企画」を実施し、9月15日(敬老の日)に500組1,000名を万博に招待した。

実際の参加者からは、「長距離移動や費用、バリアフリー対応への不安から、誘いたくても誘えていなかった」との声が寄せられた。一方で、現地での手厚いサポートに対しては、「心のバリアフリーを感じた」「一歩先を読む対応に感動した」といった、感謝や希望に満ちた声が多数寄せられた。

ユニバーサルツーリズムの定着は、地域の活性化にも直結するテーマだ。さまざまな人たちが観光地を訪れ、現地の人々や文化との交流を通じて、新たな価値や繋がりが生まれる。LET’S EXPOの試みは、誰もが参加できる観光を実現する上での大きな一歩であり、サステナブルツーリズムへの展望を示したと言えるだろう。

今後はこうした取り組みを日常へ広げていくことが求められる。観光を「誰もが手にできる喜び」とするため、私たち一人ひとりの意識が問われている。

Edited by k.fukuda

参考サイト

LET’S EXPO公式サイト
EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
旅行者としての高齢者、障がい者の潜在力:ユニバーサルツーリズム市場規模の推計(試論)|独立行政法人経済産業研究所
ユニバーサルツーリズムあ~だこ~だ vol.20 これぞ大阪・関西万博のユニバーサルツーリズムレガシー|ツーリズムメディアサービス
88.1%が「誘いたい⼈がいた」、72.5%が「誘えていなかった」ことが明らかに。大阪・関西万博に”高齢・障がいのある方”を誘うことに関するアンケート調査|PRTIMES
ユニバーサルツーリズムに関する調査業務 報告書|国土交通省観光庁観光産業課
ユニバーサルツーリズムの推進 – 観光政策・制度|国土交通省 観光庁

About the Writer

ともちん

大学で英文学を学び、小売・教育・製造業界を経てフリーライターに。留学や欧州ひとり旅を通じて「丁寧な暮らし」と「日本文化の価値」に触れ、その魅力を再認識。旅や地方創生、芸術、ライフスタイル分野に興味あり。言葉を通して、自尊心と幸福感を育めるような社会の実現に貢献することを目指している。
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