
夏になると目にする、水不足と水害のニュース。この矛盾した事態を見るたび、もどかしく感じる人も多いのではないだろうか。問題を解く鍵は、水を蓄え、育む「水源林」にある。本記事では、水源林の働きを紹介するとともに、限りある水資源とともに暮らすヒントを探る。
厳しい水事情に晒される夏

水道から当たり前のように水が出てくる日本。風呂や洗濯はもちろん、飲み水にも困らない、水資源に恵まれた国だ。
だがそんな日本でも、夏は厳しい水事情に晒される。ニュースを見ると、水不足を懸念し、節水が呼びかけられる報道をたびたび目にする。その一方で、大型台風やゲリラ豪雨による洪水・土砂災害の報道も後を絶たない。一見すると、これらの雨は水不足を解消してくれるようにも思えるが、実際のところ、水資源の確保にはあまり結びついていないのが実情である。
この状況を解決する鍵となるのが、雨水を地下に蓄え、安定的に河川へと送る働きをもつ「水源林」だ。
水不足と水害の同時発生。日本の水事情が抱える矛盾

冒頭でも申し上げた通り、そもそも日本は水資源に恵まれている国のはずなのだ。年間降水量を見てみると、世界平均は約814mmである一方、日本は約1,668mmとされている。世界平均と比べて、およそ2倍の数値だ。この数値からもわかる通り、日本では雨がじゅうぶんに降っているのである。にもかかわらず水不足や水害が発生するのはなぜか。
原因として、まず日本特有の地形が挙げられる。日本の河川は勾配が急で長さも短い。この地形的特徴によって、川の流れは速くなり、雨水が短時間で海に流れ出てしまいやすくなっている。
また、人間による開発も見逃せない。たいていの場合、道路や住宅地ができると、その土地はコンクリートやアスファルトで覆われる。すると、雨水が土壌に浸透できない環境になってしまうのだ。これもまた、水資源の蓄積を阻む要因になっている。
そして、日本の水事情をさらに深刻化させているのが、気候変動による降水パターンの激変だ。気象庁によれば、1時間降水量50mm以上の激しい雨の年間発生回数は、1980年頃と比べて約1.5倍、80mm以上の猛烈な雨だと約1.7倍と大幅な増加傾向にある。一方で、雨が降らない日も増加傾向にあるという。このように、雨の降り方が両極端になっているのも、水不足や水害の大きな要因だ。
水不足解決の鍵。水源涵養林(水源林)の働きとは

水資源にかかわる問題を解決する鍵となるのが、水源林だ。ここからは、水源林がどのような働きをするのかを見ていこう。
保水・貯水
1つめに紹介するのは、保水・貯水機能だ。森林内の土壌は、堆積した落ち葉をミミズや微生物が分解して作る「腐葉土」でできている。腐葉土でできた土壌は、スポンジのようにふかふかしており、水の浸透性や保水性に優れているのが特徴である。1時間当たりに水がしみ込む量は、草木がない土地の約4倍にもなるという研究報告もあるほどだ。
その優れた土壌は、雨水を蓄え、時間をかけて河川に流出させる。この仕組みが、雨の少ない時期でも安定した水資源の供給を可能にしているのだ。
また、豪雨時には河川のピーク流量を軽減させ、氾濫のリスクを下げる役割も果たしている。
水質の浄化
水源林は、雨水が河川へ流れ出るまでのろ過装置としての機能も持つ。
降った雨水をためこみ、富栄養化の原因となるリンや窒素などの物質を、土壌中で取り除いているのだ。さらに雨水は、カルシウムやマグネシウムといったミネラル成分が溶け出す過程を経て、ある程度きれいな水となって河川に放出される。
これにより、下流の浄水処理の負担が軽減される。水源林の水質浄化機能は、水道の質を守る役割の一端を担っていると言えるだろう。
土砂流出の防止
もうひとつ、水源林には大切な働きがある。森林斜面のうち、表面をおおっている土の部分だけが崩れ落ちる「表層崩壊」を防ぐことだ。
鍵となるのは、木々の根による2つの効果である。1つは「ネット効果」だ。地表に沿って水平に伸びる根がネット状に広がり、隣り合う樹木の根と絡み合うことで、土砂の動きを抑える。もう1つは、「杭効果」だ。 樹木の下に垂直に伸びる根が、固い岩盤の隙間につながることで、まるで杭のように樹木を固定し、崩壊が発生しそうになっても抵抗力を発揮する。
ただし、この機能には限界がある。一定規模以上の豪雨に見舞われると、水源林のような森があっても、崩壊をおさえられないケースもあるので過信は禁物だ。
もう一つ注意しなければならないのは、森林を伐採すると崩壊防止機能が弱まる点だ。伐採された樹木の根系は数年で朽ちるため、ネット効果や杭効果も徐々に失われてしまう。伐採後に新しい樹木を植えたとしても、木々が大きくなるまでの10~20年ほど後までは、それまで以上に土砂災害のリスクに備えなければならない。
水源林を守り、水を大切にする暮らしを意識しよう

日々の生活の中ではあまり触れることのない水源林に対し、私たちに求められることは、水源林や水資源を大切にする意識を持つことである。
水源林に関する制度や仕組みを知る
そもそも水源林は、「保安林制度」のもと、水をゆっくりと蓄え育てるという公益目的のために指定・管理されている森林だ。このような森林では、木の伐採や土地の形質変更の際に許可が必要とされている。さらに伐採跡地には「指定施業要件」に沿った植栽が義務付けられている。
そんな水源林、ひいては保安林に対して、私たちができる具体的な行動としては、まず地元や旅行で訪れる地域の水源林・保安林の場所と目的を知っておくこと。そして、無許可の伐採、造成、車両侵入など、制度を損なうような行為は避けること。さらに、工事やイベントなどで水源林・保安林に関わる機会があれば、必ず所轄の行政に相談することだ。
保安林制度を理解し遵守すること自体が、水源林の維持に直結するのである。
日々の節水に取り組む
水源林だけでなく、水そのものを大切にしていく姿勢も求められる。小さな工夫を積み重ねることで、水不足対策にもなるだろう。日々の暮らしで取り入れやすいのはやはり日常的な節水だ。
節水を継続しておこなうには、”見える化”と“ルーティーン化”をしておくとよい。例えば東京都では、水を出しっぱなしにしたときの流量の目安として、水道の蛇口なら1分で約12L、シャワーなら3分で約36L、洗車なら約90Lという数字が公開されている。これらの対策になるのは、水道の水はこまめに止める、歯磨きの際はコップに水をくむ、洗車はバケツを使っておこなうといった行動だ。
このような数値と行動目標をセットで把握し、家族がいれば全員で共有しておく。さらに水道局が配布する節水ステッカーやチェックリストを水回りに掲示しておくのも、行動変容の一助となるだろう。
このような小さな工夫の継続が、結果として大きな節水効果をもたらし、水資源を守ることにもつながる。
雨水を有効活用する
限られた水を有効活用するという視点で覚えておきたいのが雨水の利用だ。
雨水タンクと呼ばれる容器に雨水をためておくことで、植物の水やりや夏季の打ち水、トイレの洗浄など、さまざまな用途で活用できる。加えて、雨水タンクを設置しておくことで、豪雨時に下水道・河川へ流れ出る雨水の量をおさえられるというメリットもある。
ただし雨水タンクの設置には、デメリットもある。まず、ある程度の容量のタンクを置くには、相応のスペースが必要であること。そして、コケやボウフラの発生を防ぐためのメンテナンスも欠かせないことだ。
住宅事情や管理に避ける時間・労力は人によって違うので、導入は慎重に検討したい。
いまこそ問われる、水への向き合い方

近年の猛暑と水不足、そして水害には、 私たちの暮らしと水の結びつきを否が応でも実感させられる。雨の“量”はあっても短時間で流れ去ってしまう日本では、水をため、育み、賢く使うことを強く求められているように思う。
本記事で紹介した水源林は、その中心的存在だ。水源林の働きを学び、保全への関心を深めていくことが私たちには必要だ。加えて家庭では、節水や雨水活用に挑戦する、といった小さな行動の積み重ねが、水不足と水害という二重のリスクを和らげ、豊かな暮らしを次世代へ手渡す道を切り拓いていくのではないだろうか。
Edited by s.akiyoshi
参考サイト
令和7年版 日本の水資源の現況 | 国土交通省
渇水を乗り切る 水インフラの力 | 独立行政法人 水資源機構
内水氾濫・外水氾濫とは? 豪雨災害への対策と発生時にとるべき行動 | AFREL-SR
日本の気候変動2025 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書— | 気象庁
森林を活用した 防災・減災のためのCOOKBOOK | 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 REDDプラス・海外森林防災研究開発センター
森林の水源涵養機能の発揮に向けて | 農林水産省
水源かん養林 | 神奈川県
水を育む森林のはなし | 林野庁
保安林制度 | 林野庁
雨水の利用の推進に関する法律について | 国土交通省
節水にご協力を|水道のご使用について | 東京都水道局

























早瀬川 シュウ
フリーライターとして活動中。「日々の生活に『喜び』を」がモットー。特に、「快適さ」や「居心地のよさ」へのこだわりが強い。子どもの頃から海や森林公園を訪れていることもあって、自然環境や景観への興味関心も持っている。せせらぎの音や木漏れ日、お茶をじっくり味わう時間を好んでいる。
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