
2025年夏もエアコン使用により電力需要が急増している。政府は夏の電気料金を支援しているが、火力発電が7割の日本はエアコンを使うほど温暖化を促進させるジレンマを抱えている。そんな時代に知っておきたいのが「デマンド・レスポンス」である。電気代の節約とともにCO2の削減にもつながるデマンド・レスポンスについて解説する。
エアコンがなかった時代は今ほど暑くなかった

1964年7月、東京の平均気温は29.6℃だった。エアコンはまだ普及しておらず、多くの人が陽射しを遮る簾や打ち水、扇風機で暑さを凌いでいた。 1980年代以降、一般家庭にエアコンが急速に普及した。家庭の電気代の6割を占めるエアコンは夏の電力需要を大幅に増加させた。また室内機と室外機の間を循環している冷媒(フロンガス)にも温室効果がある。
2024年7月、東京の平均気温は33.5℃にまで上昇した。私たちは夏を涼しく過ごすために発明したエアコンで結果的に温暖化を促進させ、夏をさらに暑いものにしてしまったのである。
エアコンなしでは生きていけない時代のジレンマ

2025年も経験したことのない暑さが続いている。最高気温が人間の体温を越えることも常態化しつつある。次々に搬送されてくる熱中症患者で医療は逼迫し、死者も出ている。エアコンは単に涼むというよりも、命を守るために必須のものとなってしまった。
夏の電力需要は大幅に増加している。火力発電が7割を占める日本では化石燃料を輸入に依存していることから電気代も高騰している。政府はこの夏、物価高対策として一戸あたり月額約1,000円の電気料金を支援しているが、私たちは命を守るためにエアコンを使うほど地球温暖化を促進させ、今日より明日を暑くしてしまうというジレンマから抜け出せずにいるのである。 すべての事業者や家庭が太陽光パネルの設置により電力を自給自足することがこのジレンマから抜け出す最善策ではあるが、一朝一夕で実現できるものでもない。
そんな中、今すぐできる取り組みのひとつとして注目されているのが「デマンド・レスポンス」である。契約者にとっては電気料金の節約になる。電力を供給する側にとっては燃料の輸入コストの削減につながる。そして地球全体ではCO2の排出削減にもつながる省エネ施策である。
デマンド・レスポンスとは何か

デマンド・レスポンスとは電気の需要(デマンド)に応じて、利用者が使用量を調整(レスポンス)する仕組みである。 供給量が多いときは需要を増やし、蓄電池などに電気を貯める。逆に需要量がピークになるタイミングでは貯めていた電気を使ったり、電力使用を抑えたりすることで供給側が電力不足に陥らないようにする。
デマンド・レスポンスが契約者にとっては電気代の節約、供給側にとっては燃料の輸入コストの削減、そして地球全体ではCO2の排出削減になる理由に、今の日本ではピーク時の電力不足を補うために火力発電所を稼働させているという現実がある。 電気を安定して供給するには、電気をつくる量(供給)と電気をつかう量(需要)が同じときに同じ量になっていることが前提である。
しかし、導入が進んでいる太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーはまだ発電量が少ない上に、日照や風の有無によって供給量が変動するというリスクがある。今の日本では火力発電が再生可能エネルギーの発電量が落ちたときのバックアップにもなっているのである。
電気を使う側のわたしたちにできること

デマンド・レスポンスには大きく分けて2種類の方法がある。
ひとつは「電気料金型デマンド・レスポンス」である。供給側がピーク時の電気料金を値上げすることで需要を抑制する方法である。 もうひとつが「インセンティブ型デマンド・レスポンス」である。需要側がピーク時に節電する契約を結ぶことでインセンティブが得られる方法である。 どちらもピーク時に電力の需要と供給を調整することで電力不足に陥るのを防ぐ効果がある。
具体的にはさきほど挙げたようにピーク時には供給量が多いときに蓄電池に貯めた電力を使うことも一例だが、ピーク時の電力使用を抑える方法として私たちができることに行動の変容がある。 工場であればピーク時は設備を停止し、供給量が多い夜間に稼働させるなど生産計画を変更する。 家庭であれば掃除機や洗濯機、食器洗い機など大きな電力を使う家事やEVの充電などはピーク時を外し、供給量の多い時間帯に行う。
こうしたひとり一人の行動変容の積み重ねがピーク時の電力需要を抑え、トータルとしての発電量と輸入燃料などの発電コストを抑えること、すなわちCO2の排出削減へと繋がっていくのである。
もう一度、エアコンなしで過ごせる夏を取り戻すために

地球温暖化を抑制するには人類存続の鍵とも言われている2050年のカーボンニュートラルに向けて原因となっているCO2の排出を削減していくことが求められる。 2040年までにエネルギー需給の4割から5割を再生可能エネルギーとする方針を打ち出した日本でも浮体式風力発電などの設置も急ピッチで進んでいる。
しかし、どんな電力も無限ではない。再生可能エネルギーには「曇天無風」というリスクがある。太陽が雲に覆われていて風も吹いていない期間は太陽光発電も風力発電も発電量が著しく低下するのである。 再生可能エネルギーによる発電量が2位のアメリカを大きく引き離して世界1位を独走している中国が、CO2の排出量でも世界一位なのも電力不足を石炭火力発電で補っていることに原因がある。 温暖化を抑制するために再生可能エネルギーを促進させても、足りない電力を火力発電に頼っていたのでは元の木阿弥である。
そうならないためには電力を使用している私たちが電力の需要に合わせて使用量を調整し、電力不足を起こさないようにすることが重要である。 カーボンニュートラルの達成に向け、再生可能エネルギーの導入や建物の断熱によるエネルギー効率の増加などともに重要な役割を担っていく取り組み。それが「デマンド・レスポンス」なのである。
Edited by k.fukuda
























青葉 薫
横須賀市秋谷在住のライター。全国の生産者を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」を上梓。本名で放送作家/脚本家/ラジオパーソナリティーとしても活動。日本環境ジャーナリストの会会員/横須賀市都市計画審議委員/横須賀市環境審議委員/株式会社オフィスクレッシェンド取締役
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