
コンビニで外国人店員と会話したり、地域のお祭りで多国籍料理を楽しんだりと、私たちの暮らしに自然に溶け込んでいる「多文化共生」。その意味や重要性について詳しく知っているだろうか。本記事では、多文化共生の基本的な定義から、なぜ今注目されているのか、具体的な取り組み事例まで解説する。
多文化共生とは

多文化共生とは、異なる国籍や民族の人々が互いの文化的な違いを尊重し、対等な関係を築きながら、ともに地域社会の一員として生きていくこと。こうした共生の姿勢は、社会の多様化が進む今、地域の持続可能な発展にも欠かせないものとなっている。
日本の人口が急速に減少する中、2024年12月末時点で在留外国人の数は約376万人と過去最多を記録(*1)。これは日本の総人口のおよそ3.0%にあたり、日常生活の中で外国人住民と接する機会が確実に増えていることを物語っている。
文化とは、衣食住や生活様式、伝統、言語、価値観など、世代を超えて受け継がれてきたものである。物事の捉え方や食事のマナー、時間管理といった生活スタイルも含まれ、多くは目に見えにくい要素で構成されている。多文化共生とは、こうした異なる文化的背景を持つ人々が地域の一員として互いを認め合い、協力して社会を発展させる考え方だ。少子高齢化や人口減少が進む日本はもちろん、グローバル化する世界全体で注目されている。
多文化共生が注目されている理由

多文化共生が注目される背景には、外国人人口の増加、労働力不足の深刻化、グローバル化の進展がある。
身近な例として、コンビニや飲食店での外国人店員との接触機会の増加、街中の標識やメニューの多言語化など、私たちの生活環境にも変化が現れている。コロナ禍以降、在留外国人数の増加に加え、訪日外国人数も急増した。2025年5月には約369万人が日本を訪れ、桜のシーズンを過ぎた5月としては過去最高を記録している。(*2)
制度面では、少子高齢化による人手不足への対応として、2018年の出入国管理及び難民認定法(入管法)改正により外国人労働者の受け入れが拡大された。特に人手不足が深刻な産業では、海外人材の積極的な雇用が進んでいる。
国際的には「ダイバーシティ(多様性)」の考え方が広がりを見せており、持続可能な開発目標(SDGs)とも合致する多文化共生は、地域活性化や持続可能な社会づくりに向けた重要なテーマとして位置づけられている。
多文化共生に関する自治体の取り組み事例

外国人住民が増加する今、日本各地で多文化共生に向けたさまざまな取り組みが進められている。ここでは、その中で注目したい4つの自治体の事例を紹介する。
群馬県伊勢崎市
関東有数の工業地帯である伊勢崎市は、県内最多の60か国以上の外国籍住民を抱える。製造業やサービス業での人手不足解消を目的とした海外人材の確保が進む中、多文化共生に向けた多様な取り組みを展開している。
代表的な施策として、2021年に始動した「多文化共生キーパーソン制度」がある。コミュニティ内で情報拡散力を持つメンバーを「キーパーソン」として選出し、行政と外国籍住民の架け橋として機能させる仕組みだ。コロナ関連の注意喚起動画作成やSNS発信など、日常生活の課題解決に向けた情報発信を担っている。
2023年度からは「多文化共生フェスタ」を開催し、地域全体への多文化共生意識の浸透を図っている。多国籍料理の屋台や各国の伝統舞踊ステージを通じて、多様な文化に直接触れる機会を提供する。
これらの取り組みにより、伊勢崎市が掲げる「文化の共有と交流のきっかけづくり」が着実に進展している。
静岡県浜松市
日系ブラジル人を中心とする外国人住民が多く、自動車産業などの製造業で外国人労働者が集まる浜松市は、全国に先駆けて多文化共生に取り組んできた自治体である。
同市は「浜松市多文化共生都市ビジョン」を策定し、日本語教育支援、「やさしい日本語」の活用促進、国際交流イベントの開催、災害時外国人支援情報コーディネーターの配置など、多様な分野で施策を展開している。公益財団法人浜松国際交流協会(HICE)が運営するサイトでは、行政機関のお知らせからNPO法人の取り組みまで幅広い情報をリアルタイムで発信している。
外国人材の活躍支援、危機管理体制の強化、DX推進なども重点施策に掲げ、「創造と成長を続ける多文化共生都市」の実現を目指している。多文化共生を理念にとどめず、住民理解の向上、外国人の地域参画、交流機会の拡充、情報アクセスの改善といった具体的で多面的な成果を上げている事例である。
愛知県名古屋市
技能実習生や留学生を中心に、市内人口の4.30%にあたる約100,246人(2024年末時点)の外国人住民が暮らす名古屋市は、名古屋国際センター(NIC)を中心とした支援体制を整備している。(*3)
NICの主な取り組みには、地域の国際化セミナーや多文化共生まちづくり事業の運営、災害時外国人支援研修の実施がある。また、日本語教室の運営、キャリア支援プログラム、外国人児童・生徒サポーター研修など、外国にルーツを持つ子どもや若者への支援も充実している。
同センターは、外国人住民の生活支援から地域参画の促進、災害対応まで包括的に担う支援拠点として機能しており、国内大都市における多文化共生のモデルケースである。
名古屋市は毎年8月を「名古屋市多文化共生推進月間」に制定し、市民の理解と関心を深めるためのイベント実施や啓発ポスターの掲示など、積極的な普及啓発活動を展開している。
岐阜県可児市
製造業での外国人労働者の増加に伴い、多くの外国籍の子どもたちが暮らす可児市は、全国に先駆けて「不就学ゼロ」を掲げ、2005年に「ばら教室KANI」を開設した。
ばら教室KANIは、日本の公立小・中学校に初めて就学する外国籍の子どもたちを4か月間受け入れ、日本の学校生活のルールや初歩的な日本語、算数などを学習する教育機関である。フィリピン、ブラジルなど様々な国籍の子どもたちが共に学び、修了後は市内の小・中学校に通う仕組みだ。
同教室の特徴は、単なる日本語教育にとどまらない「安心できる居場所づくり」にある。子どもたちが母国への誇りを保ちながら日本で新しい未来を築く力を養うとともに、保護者への支援体制も充実している。
これまでに1,100人以上の子どもたちが修了し、外国籍児童生徒の教育支援における全国的なモデルケースとして注目されている。
日本における多文化共生の課題

外国人住民の増加に伴い、多文化共生の重要性は一層高まっている。その一方で、言語の壁、文化・習慣の違い、情報不足、教育格差といった課題が依然として存在している。
中でも深刻なのが言語の壁である。日本語が十分に理解できないことで、困りごとを誰にも相談できず孤立したり、職場での誤解やミスが安全性の問題につながったりするケースが少なくない。
こうした状況への対応として、「やさしい日本語」の活用、日本語教育の充実、多言語対応マニュアルや図解資料の整備、翻訳アプリの積極的な活用などが求められている。これらは情報格差や教育格差の解消にもつながる重要な手段である。
文化や慣習の違いも大きな課題だ。ごみ出しや騒音トラブル、近所づきあいなど、日本人にとっては「常識」とされるマナーや暗黙のルールが、異なる文化背景を持つ人々には必ずしも伝わっていない。
互いの「当たり前」の違いを理解し合い、円滑なコミュニケーションを重ねることが多文化共生の基盤となり、こうした意識の共有が課題解決の鍵となる。
多文化共生に向けて私たちができること

多文化共生の重要性が高まる中、私たち一人ひとりにもできることがある。まず大切なのは、「知る」ことから始めることだ。SNSの情報をうのみにせず、自分が住む地域にどのような外国人住民が暮らしているのか、「やさしい日本語」とは具体的にどのようなものなのかなど、現状を正しく理解することが第一歩となる。
次に、日常生活での心がけも重要だ。街中で困っていそうな人に声をかける、道案内では簡単な日本語を意識する、地域の国際交流イベントに参加するといった小さな行動から始めることができる。
学校や職場で外国人と接する際には、相手の文化的背景を尊重する姿勢も大切だ。地域レベルでは、外国人支援団体の活動への参加、ごみ出しルールや防災情報の翻訳協力、日本語学習のサポートなど、具体的な取り組みもある。
特別な知識や準備がなくても、私たちの小さな意識変化から始められることは多い。日常の小さな一歩の積み重ねが、誰にとっても暮らしやすい地域社会づくりにつながっていく。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
(*1)令和6年末現在における在留外国人数について|出入国在留管理庁
(*2)訪日外客数(2025年5月推計値)|日本政府観光局
(*3)名古屋市外国人住民統計(暮らしの情報)|名古屋市
参考サイト
多文化共生|国際協力機構(JICA)九州センター
地域の国際化の推進|多文化共生の推進|総務省
国土交通白書 2024|国土交通省
令和6年6月末現在における在留外国人数について|法務省
入管法及び法務省設置法改正について|出入国在留管理庁
「地域における多文化共生推進プラン」の改訂について|総務省自治行政局国際室
『文化を大切にする社会の構築について ~一人一人が心豊かに生きる社会を目指して』|文化庁
























ともちん
大学で英文学を学び、小売・教育・製造業界を経てフリーライターに。留学や欧州ひとり旅を通じて「丁寧な暮らし」と「日本文化の価値」に触れ、その魅力を再認識。旅や地方創生、芸術、ライフスタイル分野に興味あり。言葉を通して、自尊心と幸福感を育めるような社会の実現に貢献することを目指している。
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