ウェルビーイングエコノミーとは?「人の幸せ」を優先する新たな経済モデル

ウェルビーイングエコノミーとは

ウェルビーイングエコノミーとは、経済成長ではなく、人々の幸福・健康・環境の持続可能性などを重視する経済モデルである。簡単に述べると、「人々の幸せ」を最優先にする経済の考え方といえる。

そもそもウェルビーイングとは、心身ともに健康で幸せな状態を指す。個人としては、病気をせずに仕事にやりがいを感じ、良い人間関係を保ち、自分らしく生きられる状態を指す。また、社会としては、誰もが安心して暮らせる環境を作ることを意味する。

ウェルビーイングエコノミーでは、従来のGDPといった経済指標だけでなく、人々の健康状態・教育の質・環境保全・地域とのつながりなど、さまざまな観点から社会発展を評価する。政府は政策を決める際に、利益を追求するだけでなくすべての人々が豊かさを実感できるよう努める必要がある。

これまでは経済成長を追求する経済モデルが主流であったが、それにより環境破壊や社会的格差などが生まれた。この問題を解決する考え方としてウェルビーイングエコノミーが注目されている。

ウェルビーイングエコノミーに近い考え方

ここでは、ウェルビーイングエコノミーと関連する概念を2つ紹介する。

ドーナツ経済学

ドーナツ経済学とは、持続可能で公平な社会を実現するための経済モデルである。2011年に、イギリスの経済学者ケイト・ラワースによって提唱された。

ドーナツ経済学は、その名の通り、経済をドーナツの形で考える。ドーナツの内側の輪は「人々が最低限必要とする生活水準」、外側の輪は「地球環境が耐えられる限界」を表しており、暮らしと環境の両方を重視している。このモデルを実現できれば、人々の基本的なニーズを満たしながら、地球環境の限界を超えない経済活動が可能となるため、持続可能な社会につながるのだ。

実際、オランダのアムステルダムでは、この考え方を取り入れた街づくりを進め、注目を集めている。

エコ・ウェルフェア・ステート

エコ・ウェルフェア・ステートとは、環境保護と社会福祉を両立させた新しい国家モデルを目指す考え方である。

エコ・ウェルフェア・ステートでは、高い生活水準と環境保護の両立を目指し、再生可能エネルギーを活用したり資源を無駄なく使ったりすることで、環境に優しい社会を実現する。

北欧の国々がエコ・ウェルフェア・ステートを実現する代表例として挙げられる。教育・医療の無償化など社会保障制度を充実させ、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを導入し環境配慮にも取り組んでいる。

ウェルビーイングエコノミーの3つの意義

ウェルビーイングエコノミーの3つの意義

ウェルビーイングエコノミーを推進することで、社会やコミュニティ全体にもポジティブな効果をもたらすと言われている。ここでは、ウェルビーイングエコノミーの3つの意義を説明する。

人間社会と自然の関係を取り戻す

ウェルビーイングエコノミーの1つ目の意義は、自然と人間社会の社会の関係を築き直すことである。

これまでは経済成長のために自然を資源として利用してきたが、ウェルビーイングエコノミーでは、資源としてではなく、私たちの生活に欠かせないシステムとして捉えなおすのだ。

コスタリカでは、この考え方に基づいた取り組みを行っている。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げ、森林再生や再生可能エネルギーの導入を推進している。2018年には、発電の98%を水力や太陽光などのクリーンエネルギーで賄えるようになった。

公平な社会を作る

2つ目は、経済的な格差をなくし、公平な社会を作ることである。

ウェルビーイングエコノミーでは、安定収入や充実した医療、活気あるコミュニティなど、社会のあらゆる面での公平性を目指している。実際に、国民の幸福度が高い国では経済的な格差が小さいといわれている。

世界で一番男女の平等が進んでいる国として知られるアイスランドでは、内閣の男女比を同じにしたり男女平等に育児休暇を与えたりなど、政府が経済的な格差を無くすために積極的な取り組みを行っている。

つながりの強いコミュニティを作る

3つ目は、つながりの強いコミュニティを作ることである。

各個人が自分らしく生活でき、地域社会と積極的に関わることをウェルビーイングエコノミーでは重視している。また、つながりを持つために身体と心を健康な状態にさせることも大切にしている。

カナダでは、個人の労働時間を制限し、場合によっては時間外手当を支給している。また、子どものいる家庭には、就学前・放課後に子供を預けられるプログラムを提供することで、仕事と家庭の両立を支援している。その結果、93%の国民が「社会的なつながりがある」と回答し、生活の満足度も高くなっている。

ウェルビーイングエコノミーを推進する組織

ウェルビーイングエコノミー推進の動きが各所で見られている。ここでは、ウェルビーイングエコノミーを促進する組織を2つ紹介する。

ウェルビーイングエコノミーアライアンス

国際組織・ウェルビーイングエコノミーアライアンス(以下、WEAll)では、ウェルビーイングエコノミーの普及を進めている。

WEAllは、2018年に設立され、約200の自治体や企業と協力しながら、新しい経済のあり方を模索している。組織の目標は、経済活動を通じて人々の幸福と環境保護を実現させること。経済成長だけを追い求めるのではなく、さまざまな視点で社会の発展を目指している。

具体的な活動として、政府や企業に対するウェルビーイング重視の政策提案や市民向けの勉強会の開催、世界中の関連団体とのネットワークづくりなどを行っている。

ウェルビーイングエコノミーガバメント

2つ目は、「ウェルビーイングエコノミーガバメント(以下、WEGo)」である。

スコットランド・アイスランド・ニュージーランドの政府が、2018年のOECDウェルビーイングフォーラムをきっかけに設立。各国がそれぞれ進めていた幸福を重視する政策をさらに発展させることを目的に設立された。2020年には、ウェールズが新たに参加した。

WEGoでは、各国がもつ知識や政策を共有し、ウェルビーイングエコノミーの実現を目指している。

世界のウェルビーイングエコノミーの事例

世界のウェルビーイングエコノミーの事例

欧米諸国を中心に、ウェルビーイングの要素を政策に組み込む事例が増えている。ここでは、世界のウェルビーイングエコノミーの事例を紹介する。

ニュージーランド

ニュージーランドは、2019年に世界で初めて「ウェルビーイング予算」を導入。経済指標よりも国民の幸福を政策の中心に据えた取り組みを行っている。

ニュージーランドでは、GDPなどの経済指標だけでは国民の真の豊かさを測れず、より幅広い視点で社会発展を評価できる仕組みが求められていたことが、予算導入の背景にある。

ウェルビーイング予算は、経済・社会・人材育成・環境の4つの視点から国民の生活の質を向上させることを目標としている。2019年には、コミュニティの健康支援や気候変動対策、先住民の生活水準向上、子どもの貧困解消、メンタルヘルスなどに重点が置かれた。

ウェルビーイング予算は、新型コロナ対策にも貢献した。パンデミックの際、経済成長よりも国民の健康と幸福を優先させた結果、世界で最も死亡率の低い国の一つとなったのである。

オーストラリア

オーストラリアは、2023年7月に50の指標を使って国民の幸せを測るフレームワーク「Measuring What Matters」という仕組みを導入した。

オーストラリアは、過去20年間で平均寿命の延伸、雇用機会の拡大、多様性の推進など、社会が大きく変化した。一方、慢性疾患の増加や医療アクセスの悪化、住宅費の高騰など新たな問題も生じたため、このフレームワークの導入に踏み切ったという。

フレームワークでは、従来の経済指標を置き換えるのではなく、追加で50の指標を用いることで、社会発展を幅広い観点から測定。そして、測定結果を政策立案に活用しさまざまな面から国民の幸せを追求できるようにしている。

ウェールズ(イギリス)

ウェールズは、2015年にウェルビーイングに関する法律「Well-being of Future Generations Act」を制定し、現在と将来の世代の幸福を法的に保護する取り組みを行っている。

この法律が作られた背景には、気候変動や貧困、健康格差など、現在から将来にわたってつづく課題の存在があった。そのため、長期的に課題に対応できるよう、法律が制定された。

法律では、7つのウェルビーイング目標を設定し、公的機関に達成を義務付けている。また、持続可能な発展のための5つの行動指針も示し、法律という強い仕組みを利用することでウェルビーイングエコノミーを推進している。

まとめ

ウェルビーイングエコノミーとは、経済の成長だけでなく、人の幸福・健康・環境の持続可能性などを重視する経済モデルである。

GDPによって国の成長レベルを計る現行のスタイルでは、個人の幸福や自然環境の持続性などはなおざりにされてしまっており、しばしば国家の発展の要素から抜け落ちてしまう。実際、多くの社会で格差や貧困、分裂が発生している。

そのような背景から、ウェルビーイングエコノミーを取り入れることで、社会や人生の豊かさを改めて思考し直そうとする潮流が出てきていることは、前向きな変化と言えそうだ。

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