海洋保護区とは?期待される主な役割や国際的な動向について解説

海洋保護区とは

海洋保護区(MPA:Marine Protected Area)とは、主に海の健全な生態系を守る目的で設定される自然保護区を指す。国際規模で生態系保護や生物多様性保全の必要性が高まる中で、海洋保護区の設定を通じて海洋健全性の維持を目指す動きも活発化している。

国際レベルでは、国際自然保護連合(IUCN)や生物多様性条約(CBD)の第7回締約国会議(COP7)において、海洋保護区の定義が示されている。日本における海洋保護区は、国際的な動向を踏まえた上で、2011年に以下のように定義された。

海洋生態系の健全な構造と機能を支える生物多様性の保全および生態系サービスの持続可能な利用を目的として、利用形態を考慮し、法律又はその他の効果的な手法により管理される明確に特定された区域。

引用:環境省 海洋生物多様性保全戦略サイト「海とのつきあい方:”海洋保護区”で守る」/https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/viewpoint/viewpoint05.html

また、海洋保護区は各地に指定されているものの、世界一律の設定基準が設けられている訳ではない。対象海域の特徴を踏まえ、適材適所を意識して保護区を設定する必要がある。日本においても上記の定義が公表されているが、各保護区の管理内容は制度ごとに決定される。なお、漁業協同組合が定める禁漁区や禁漁期も海洋保護区に該当する。

海洋保護区に期待される役割

海洋保護区に期待される役割

海洋保護区に期待される役割としては、主に以下の3つが挙げられる。

⑴生態系や生物多様性の保全 ⑵気候変動への適応と緩和 ⑶持続可能な資源利用

地球表面の約70%を占める海洋の保全は、地球の生態系バランスと生物多様性を守るために重要なテーマである。しかし、過剰な漁業・石油やガスの採掘・海洋汚染といった人間活動が海の生物多様性を損ない、生態系を壊しているのが現状だ。特定の海域に保護区を設けて管理することで、生態系や生物多様性の保全に寄与する役割が期待されている。

海洋保護区制度を活用し、マングローブ・藻類・サンゴ礁などの海洋環境を守る活動が、気候変動への適応と緩和につながる場合もある。例えば、マングローブ・藻類は、海面上昇や台風強度の増大による海岸侵食の作用を弱める効果を持つことで知られている。マングローブは大気からのCO2吸収を促進し、海草類は大気へのCO2放出を抑制する、という報告もあるほどだ。海洋保護区を指定し、人間活動に一定の規制を設けることで、海面上昇・海水の酸性化などに対する適応・緩和につながると考えられている。

海洋保護区は、持続的な海洋資源の利用を目指すためにも重要な役割を担う。近年、人口増加に伴う「食糧需要・エネルギー需要の高まり」や「IUU(違法・無報告・無規制)漁業」などにより、海洋に由来する資源の枯渇が問題視されるようになった。また、国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の漁業・養殖業の従事者は2020年時点で約5,900万人にのぼる。海洋資源は、多くの人々の安定的な生活や経済活動を支えていることが分かる。海洋保護区には、限りある資源の適切な使用と回復を促す役割も期待されている。

海洋保護区をめぐる世界の動向

持続可能な開発目標(SDGs)で目指すゴールの1つには、「海の豊かさを守ろう」がある。海洋保護区の設置は、国際レベルで取り組むSDGsのターゲットとしても重要視されてきた。海洋保護区をめぐる世界の動向として、国際間で合意された枠組みや、関連する重要な概念を解説する。

国際的な枠組み

海は世界中の人々が共有する大切な資源であり、人類は長い間、海洋の恵みを享受してきた。海の恵みを持続可能な形で享受するためには「共通のルール設定が必要」という考えのもと、1994年には国連海洋法条約が発効されている。

1993年に策定された生物多様性条約では、生物多様性保全に向けて、各国が取り組むべき枠組みも定められている。しかし、この条約は加盟国が管轄する陸域・排他的経済水域内を対象としており、海洋全体の約3分の2を占める公海については長期にわたり法的ルールが存在しなかった。

2023年6月には、約20年の議論を経て、「公海における生物多様性の保全と持続可能な利用」にまで踏み込んだ国際協定が採択された。新しい協定には「公海に海洋保護区を設ける」内容も含まれており、海洋保全に向けて、国際レベルでの積極的な取組が期待されている。

また、2030年までに取り組むべきグローバル目標の1つとして、30by30(サーティ・バイ・サーティ)も掲げられている。30by30とは、「2030年までに少なくとも地球の陸と海それぞれの30%を保全・保護する」という目標だ。科学的根拠に基づく国際議論を重ねた上で、以下の国際合意に30by30が記載された。

  • G7・2030年自然協約(2021年6月のG7サミットで合意)
  • 昆明-モントリオール生物多様性世界枠組みの目標3(2022年12月の生物多様性条約・COP15で採択)

各国は、30by30で掲げられた数値目標の達成に向けて陸と海を健全な生態系として効果的に保全する必要があり、海洋保護区についても積極的な拡大が求められている。

海洋保護区ネットワーク

海洋保全においては、「海洋保護区ネットワーク」という考え方も重視されている。海洋保護区ネットワークとは、海洋生態系を健全に保つために、他地域と連携・協力して保全管理を進める概念だ。例えば、渡り鳥や回遊魚の中には何千キロ・何万キロ単位で移動する種も存在する。一見、遠く離れた海の問題であっても他人事ではなく、国や地域間で互いに協力関係を築く必要がある。

2024年10月には、アゾレス諸島自治地域政府によって、北大西洋最大の海洋保護区ネットワークを指定する法案が可決された。アゾレス諸島は、ポルトガル領の9つの火山島からなる諸島であり、アゾレス海の面積は約100万㎢にのぼる。法案可決により、アゾレス諸島周辺海域の30%(287,000㎢)が保護され、対象保護区の半分は天然資源の採取が一切行われないエリアとなる。このように、海洋保護区ネットワークの概念に基づき、世界的な海洋保全目標を推進するための取組が広がっている。

日本の海洋保護区

日本において、海洋保護区のもととなるような禁漁区などの概念は、飛鳥時代から存在したと言われている。1970年には、海中公園制度が制定され、環境保全を主な目的とする規制を設けた海域が指定された。

近年では、2010年に生物多様性条約・COP10で採択された「愛知目標」において、「2020年までに世界の海域の10%を海洋保護区に指定する」という具体的な数値目標が盛り込まれた。これを受けて、日本は2011年に、既存の法制度に基づく保護区域などを指定する形で海洋保護区を設置している。

加えて、2019年には沖合域の海底の生態系を含む自然環境保全のため、「沖合海底自然環境保全地域制度」が創設された。2023年に閣議決定された「生物多様性国家戦略(生物多様性国家戦略2023-2030)」には、30by30の国際目標を達成するためのロードマップが示されている。

なお、日本の海洋保護区に該当する区域は、目的に応じて下表の3つのカテゴリーに分類される。各海洋保護区には、それぞれの根拠法令に基づく規則や義務が設けられている。

目的海洋保護区(根拠法・制度)
自然景観の保護等自然公園(自然公園法)、自然海兵保全地区(瀬戸内海環境保全特別措置法)
自然環境または生物の生息・生育場の保護等自然環境保全地域(自然環境保全法)、沖合海底自然環境保全地域(自然環境保全法)、鳥獣保護区(鳥獣保護法)、生息地等保護区(種の保存法)、天然記念物(文化財保護法)
水産生物の保護培養等保護水面(水産資源保護法)、沿岸水産資源開発区域又は指定海域(海洋水産資源開発促進法)、共同漁業権区域(漁業法)、その他都道府県又は漁業団体等による各種指定区域(漁業法、水産資源保護法、水産業協同組合法、都道府県漁業調整規則等)
出典:環境省「我が国における海洋保護区の設定のあり方について/https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/dai8/siryou3.pdf

まとめ

近年、世界では海洋保全の重要性が認識され、海を守る手段の1つとして海洋保護区の拡大や適切な管理が求められている。国際的な目標達成に向けて、各国・各地域は相互に連携しながら、海洋の保全管理に積極的に取り組む必要があるだろう。

また、海洋保護区の拡大と適切な管理を推進するには、漁業従事者・地元住民・民間企業をはじめとする関係者の正しい理解も欠かせない。海洋保護区に対する誤解・偏見が、取組推進を妨げる場合があるためだ。海洋保護区は、単に人間活動を制限するものではない。私たちが、将来も海からの恩恵を受けられるよう、海洋保全と資源利用を両立するために重要なシステムである。海洋保護区の中には、科学的根拠と海域の特性に基づいて人間活動が完全に禁止されるエリアもあるが、多くは一部の活動や漁獲量のみを制限する形をとっている。

国内外に限らず、海に関わる人々にはそれぞれの立場や考え方があるだろう。利害が異なる人々が連携して海洋環境を維持・改善する取組は容易でないが、何も行動しなければ人類や地球にとって望ましい未来は期待できない。私たちには、海洋保護区の役割と必要性を正しく理解した上で、海洋保全に向けた行動を選ぶ義務があるのではないだろうか。

参考記事
海とのつきあい方:”海洋保護区”で守る|環境省海洋生物多様性保全戦略公式サイト
第4章 海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用の基本的視点|環境省海洋生物多様性保全戦略公式サイト 
現場の声から学ぶ豊かな海のつくり方入門|WWFジャパン
The State of World Fisheries and Aquaculture 2022|FAO
日本の海洋・沿岸域における気候変動適応|IGES
マングローブ・海草複合生態系による気候変動緩和のメカニズム〜数理モデル解析〜|相馬明郎 ほか
国境を超えて:なぜ新たな「公海」条約が世界にとって不可欠なのか(UN News 記事・日本語訳)|国際連合広報センター
生物多様性国家戦略2023-2030|環境省
30by30|環境省
アゾレス諸島、北大西洋最大の海洋保護区ネットワークを確立|KYODO NEWS PRWIRE
日本の海洋保護区制度の特徴と課題|釣田いずみ ほか
我が国における海洋保護区の設定のあり方について|環境省
海洋保護区のさらなる拡大と管理のあり方に関するSG報告書|内閣府

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