ポスト・トゥルースとは?具体例や注目される背景、問題点を解説

ポスト・トゥルースとは?具体例や注目される背景、問題点を解説

ポスト・トゥルースとは

ポスト・トゥルースとは、事実が二の次となり、感情や個人的な信念が世論や社会の動向に大きな影響を与える状況を指す言葉である。ポスト・トゥルースの世界では、人々は自分の信じたいことを重視し、客観的な証拠やデータを軽視する傾向がある。

特に、情報の氾濫とソーシャルメディアの普及によって、事実と虚偽の区別が曖昧になっている。感情的に訴える情報やストーリーが広まりやすいため、真実を伝えることが難しくなるのだ。ポスト・トゥルースの環境では、意見が分かれる議題について、自分にとって都合の良い情報を選び取るバイアスが働きやすくなる。政治的な議論や社会的な問題においては、その傾向がより一層顕著だ。その影響は、情報の消費者が自身の価値観や感情に基づいて情報を選別することから、社会全体の情報共有や意思決定に大きな影響を与えている。

ポスト・トゥルースの世界では、情報の正確性を見極めるための批判的思考が一層重要となる。そして、情報の発信者も受け手も、冷静に事実を見つめ直す姿勢が求められる。

ポピュリズムとの違い

ポピュリズムは、エリートや既存の権力構造に対抗し、一般大衆の声を強調する政治運動や思想である。政治的エリートや特権層に対する反発から生まれ、大衆の意見や感情を直接反映することを目指す。

ポスト・トゥルースが情報の受け手の感情に訴えるのに対し、ポピュリズムは政治の送り手が大衆の感情を利用する点で異なる。両者は相互に影響し合うこともあるが、その根本的な目的と手法には違いがある。

また、ポスト・トゥルースはメディアの役割を重視し、情報操作を通じて世論を形成するのに対し、ポピュリズムは直接民主主義を強調し、一般大衆の声を政策に反映させようとする。そのため、政治的なアプローチや影響力の行使の仕方にも違いが見られる。

ポスト・トゥルースの具体例

ポスト・トゥルースの具体例

「ポスト・トゥルース」は、2016年に広まった言葉である。この年、以下の2つの出来事をきっかけに、「ポスト・トゥルース」という言葉の使用が急増した。

ブレグジット(英国の欧州連合離脱)

ブレグジットは、英国が欧州連合(EU)から離脱する決定を下した出来事である。2016年の国民投票で離脱派が勝利したが、その背景には感情的な訴えや誤情報が大きな影響を与えた。

離脱派は「毎週EUに拠出金として3億5,000万ポンド(約530億円)を支払っているが、そのお金を国内医療サービスに回せる」というスローガンを掲げ、多くの有権者の支持を得たのだ。しかし、実際の政府の対EU支出は週1億6,000万ポンド程度であり、誤解を招く情報であった。また、移民問題や主権の回復といったテーマが感情的に強調され、冷静な議論が妨げられた。結果として、事実よりも感情や信念が優先される状況が生まれたことが、ブレグジットの特徴である。

2016年アメリカ大統領選

2016年のアメリカ大統領選挙では、事実よりも感情や信念が重視され、多くの誤情報やフェイクニュースが広まった。例えば、ヒラリー・クリントン候補に関する虚偽情報がソーシャルメディアで拡散され、選挙結果に影響を与えたとされる。

また、ドナルド・トランプ候補は感情的な訴えや過激な発言で支持を集めた。彼の主張は、移民問題や経済的不安を強調し、有権者の恐怖や不満を煽る戦略だった。そのため、事実に基づかない情報が選挙戦の中心となり、多くの有権者が感情的な判断を下した。

トランプ政権の下では、不正確または不適切な発言で物議を醸した。例えば、大統領就任式に関する公式発表の真偽を問われた際の「代わりの事実」という表現がある。政治のエキスパートは、インターネットメディアの発達によって、それぞれの支持勢力が都合のよい情報を受け入れるようになり、市民の分断が進んでいると指摘する。重要なのは各人の嗜好に合う情報で、真偽は二の次になっているのだ。

なぜ注目されるのか

「ポスト・トゥルース」という言葉の起源は、1992年にアメリカの週刊誌『ネイション(The Nation)』に掲載されたスティーブ・テシックのエッセイに遡る。テシックはウォーターゲート事件とイラク戦争を例に挙げ、「私たちは自由な国民として、あるポスト真実の世界に生きたいと自由に決めた」と述べた。この時の「ポスト・トゥルース」は、事実の後に生じる概念として用いられていた。

しかし、ポスト・トゥルースという言葉が現在の意味で使われるようになったのは2004年のことである。アメリカ人作家ラルフ・キーズの著書『ポスト真実の時代(The Post-Truth Era)』が、事実よりも装飾された情報が真実であるかのように提示される現象を指摘し、この言葉を広めた。

その後、オックスフォード英語辞典が、その年を象徴した言葉として「Word of the Year 2016」に選定したことで広く知られるようになった。日本でいう流行語大賞のようなもので、同年のブレグジットやアメリカ大統領選挙が影響している。この年、ポスト・トゥルースという言葉の使用量が前年と比較して約2,000%増加したことが注目される要因となった。

個人が影響力を持つようになった背景

事実よりも個人が持つ感情や信念が重視されるようになった背景には、以下の3点が挙げられる。

社会不安・政治不信

政治家や政府に対する信頼が低下し、多くの人々が既存の権威に対して懐疑的になっている。このような状況下で、個人は自らの意見や情報を発信する手段として、ソーシャルメディアやブログを活用するようになった。従来のマスメディアを介さずに直接的に影響力を持つことが可能となったのだ。

特に、政治的な不満や社会的な不安を抱える人々は、共感を呼ぶ個人の声に耳を傾ける傾向が強まっている。このようにして、個人が影響力を持つ時代が到来したのである。

SNSの普及

SNSの普及は、個人が影響力を持つようになった背景に大きく寄与している。かつてはメディアや著名人だけが情報を発信できる立場にあったが、SNSの登場により誰もが手軽に情報を発信できるようになった。

SNSの普及により、個人の意見や情報が瞬時に広まり、多くの人々に影響を与えることが可能となった。特に感情に訴えるような情報は拡散されやすい。

情報過多

インターネット上には大量の情報が氾濫しており、誰もが簡単に情報を発信・受信する時代になった。事実と誤情報が入り混じる中で、個々の信頼性が重要視されるようになっている。

情報の選択や発信が個人の手に委ねられることで、従来のメディアを通じた情報伝達よりも、個人の影響力が増大している。どの情報が事実で、どの情報が誤情報なのか、見極める術を持たない人も少なくはない。特に、怒りや悲しみを誘う情報は信じやすく、多くの人が信用している情報も真実として広まりやすい。

ポスト・トゥルースの問題点

ポスト・トゥルースの問題点

ポスト・トゥルースの時代における大きな問題点は、事実と虚偽が混在し、誤情報やフェイクニュースが広く拡散されることである。信頼性の低い情報や感情的な内容が優先されることが多く、冷静な判断を妨げる原因となる。特に、フェイクニュースはこの現状をさらに悪化させる一因であり、政治的な意図を持って操作された情報が広まることで、有権者の意識や選挙結果にまで影響を及ぼすことがある。

また、情報過多の時代において、人々は自らの意見を裏付ける情報だけを選択的に受け取る傾向が強まり、異なる視点や反対意見を無視する傾向がある。この現象は、「エコーチェンバー」とも呼ばれ、自分の意見が強化される一方で、客観的な事実に基づく議論が困難になる。

政治家や企業が意図的にフェイクニュースを利用することも問題だ。彼らは、感情に訴えるメッセージを発信することで、自らの利益を追求し、事実を歪めることがある。このような政治家の主張を鵜呑みにすると、当選後に期待していたリーダーの役割を果たしてくれないどころか、市民の生活が脅かされかねない。

情報リテラシーを向上させるために

情報リテラシーの向上は、ポスト・トゥルースの問題に対抗するための手段の一つだ。まずは、政治家や公共の人物が発する情報の真偽を確認し、市民に知らせる「ファクトチェック」が有効である。

私たち一人ひとりが情報リテラシーを高め、真実を見極める能力を身につけることが必要である。例えば、情報の出所を確認し、複数の信頼できるソースから情報を得る習慣をつけることが大切だ。また、偏った情報に左右されず、冷静な視点を持つことも重要である。

情報を発信する側の対応

情報を受け取る側だけでなく、発信する側の意識も重要だ。2015年には国際ファクトチェッキング・ネットワーク(IFCN)が設立され、日本でも『朝日新聞』や『東京新聞』がファクトチェック記事を掲載するようになった。メディアは社会の監視役としての役割を果たすだけでなく、自らの在り方も検証の対象とする姿勢が求められている。

インターネットメディアでも「デバンキング」という、すでに広がっている誤情報を検証して真実を明らかにする試みが始まっている。バズフィードでは、この手法を取り入れて、SNS上での情報の検証を行っている。また、株式会社WAVEは「信頼できる情報を社会へ」という新たなSDGsゴールを策定し、情報発信者が良識を持って行動することを推進している。

しかし、ファクトチェックには課題も多い。例えば、虚偽情報が広まる前に正確な検証を行うためのスピードやコストの負担、また検証結果が複雑で理解しづらい場合がある。また、情報を選別する基準が自分との親和性に偏る傾向があるため、ファクトチェックが受け入れられないこともある。

Edited by k.fukuda

参考サイト

「ポスト真実」が今年の言葉 英オックスフォード辞書|BBC NEWS JAPAN
ポスト真実 Post-truthの時代とマスメディアの揺らぎ|NHK
ブレグジットについて知っておくべき全て|BBC NEWS JAPAN

About the Writer
丸山瑞季

丸山 瑞季

大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。この人が書いた記事の一覧

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