
ヘルステックとは
ヘルステック(Health Tech)とは、「Health(健康)」と「Technolody(テクノロジー)」を組み合わせた言葉である。最新のAI・IoT(モノのインターネット)・スマートフォン・タブレット・クラウドサービスを駆使して、医療や介護に関するさまざまな課題を解決するサービスの総称を指す。個人の健康管理をサポートする技術であり、病気の予防や健康維持に重点を置いている。
類似の単語との違い
ヘルステックとよく似た単語としてメドテックとデジタルヘルスがあるが、三者には明確な違いがある。
メドテック(MedTech)とは、「医療(Medical)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語であり、病気の治療や診断に関連する技術やサービスを指す。たとえば、医療機器や治療法の開発や手術支援ロボットが挙げられる。メドテックは、病気が発症した後の治療を目的としており、サービスは医療従事者向けが多い。
デジタルヘルスとは、デジタル技術を活用して健康管理や医療サービスの提供を行うことを指し、ヘルステックもメドテックもデジタルヘルスのうちの一つである。
つまり、メドテックは医療従事者向けの技術・サービスで、おもに発症後の治療に重点を置き、ヘルステックは消費者も利用するものであり、健康維持や予防に焦点を当てている。そしてそれらを総称したものが、デジタルヘルスということだ。
ヘルステックが注目される理由

株式会社グローバルインフォメーションのレポート(*1)によると、市場調査会社大手のBlueWeave Consultingは、日本のヘルステック市場規模が年の平均成長率が6.16%で拡大し、2030年には6億9,512万米ドルに達すると予測している。
市場規模が大きくなっている背景には、さまざまな理由が絡み合っている。
デジタル技術の発展
ヘルステックが注目され始めた大きな理由として、テクノロジーの部分にあたるデジタル技術の発展があげられる。
多くの人がスマートフォンやパソコン、ウェアラブルデバイスといったデジタル機器を持つようになったことで、機器を通してサービスを受けられるようになった。たとえば、健康状態を表すデータをクラウドに送信し、AIが解析を行い、ユーザーへフィードバックするといったサービスも気軽に受けられる。
携帯できるデジタル機器の存在により、歩数や心拍数、睡眠時間などのヘルスケアに関するデータを簡単に収集できるため、データを活用したサービスの開発も生まれはじめている。
2025年問題
「2025年問題」という1947年〜1949年生まれの団塊世代が75歳以上になることで生まれる問題も、注目される背景の一つだ。医療費を負担する世代が減ることで、医療費の高騰や社会保険料の増加、労働力不足といったことが起こるといわれている。
2025年問題により労働人口が減るため、需要増加が見込まれる医療・介護業界においても人材不足が懸念されている。そのため、ヘルステックにより医療従事者をサポートして労働力を補おうとしている。
地域ごとの医療格差
現在の日本では、地域によっては適切な治療が受けられない状況となっている。都会へ人が集まることで地方の過疎化が進んでおり、地方では医師や看護師も都市部に比べると少ないのだ。また、病院へのアクセスが悪く、受診を控えてしまうケースもある。そこで、遠隔診療や薬のデリバリーサービスなど地域の格差を埋められるような取り組みが期待されている。
健康寿命の延伸
厚生労働省のデータ(*2)によると、日本の平均寿命は年々伸びている。一方、平均寿命と健康寿命の差は男性で約9年、女性で約12年という調査(*3)もあり、平均すると晩年の約10年は健康でいられないことになる。そのため、ヘルステックで健康維持や予防に力を入れて健康寿命を伸ばすことに注力しようとする動きが高まっている。
ヘルステックの種類

あらゆる観点から注目されていることもあり、さまざまな種類のヘルステックが登場している。
オンライン診療
まずは、病院に出向かず、パソコンやスマートフォンの画面を通してリアルタイムで診察を行うオンライン診療がある。地方や島に住んでいる人や、事情により通院できない状態にある人なども自宅で診察を受けられるのだ。また、診察だけでなく処方箋の受け取りも遠隔で可能で、最寄りの薬局で処方薬を受け取れる。
さらに、オンラインであれば全国の病院を受診可能になるため、自分では出向けない専門的な病院も受診できるメリットもある。オンライン診療は、医療の地域格差の解消につながると期待されている。
画像診断
MRIやCT、内視鏡などの画像データをAIに解析してもらい医師の画像診断をサポートすることで、業務の効率化を図る技術も登場している。医師は、膨大な画像を目で見て診断しなければならない。そこを、AIが画像上で異常だと思われる部分を指摘することで、病気の有無や進行の把握を支援している。また、健康診断のデータや治療内容の画像データを分析し、将来の病気の可能性や医者の介入の必要性を見分けることも可能になる。
電子版カルテ・お薬手帳
患者のカルテをデータで管理する電子カルテは、一般的になりつつある。厚生労働省(*4)によると、2020年時点で400床以上ある病院の電子カルテの普及率は91.2%、200床以下であっても48.8%と約半数が利用していることが分かる。電子カルテを利用すれば、通信により医師やスタッフ間の連携がスムーズにできるため、連携ミスが減り、業務の効率化につながる。
また、服薬情報をクラウドに保管できる電子版のお薬手帳も普及している。電子版であればお薬手帳を無くすことや病院に持参し忘れることもないため、医師もスムーズに服薬情報を確認できる。また、緊急時にもネットを通じて服薬の履歴や薬のアレルギーといった情報の確認ができるため、患者に適切な薬を提供できるのだ。
生活支援ロボット
高齢化社会の日本では、医療・介護業界の人材不足が大きな課題となっている。その課題の解決に一役買うのが生活支援ロボットである。生活支援ロボットは、コミュニケーション・自立支援・介護支援の3つに分けられ、利用者の状況に応じたロボットが活用されている。
コミュニケーションロボットは、会話を通じて利用者のメンタルケアを行い、異常があった場合には職員に通知するなどのサポートを行っている。自立支援ロボットは、利用者が自立した生活ができるよう、食事や歩行のサポートを行っている。また、介護支援ロボットは、移動や入浴など、介護者をサポートするためのロボットとしての役割を果たしている。人間の補助的な役割を担うために、今後もロボットの活用が期待されている。
スマートウォッチによる健康管理
スマートウォッチと呼ばれる、時計のように身に付けるだけでリアルタイムで健康状態を把握できるアイテムも登場している。スマートウォッチには、心拍数や睡眠の質、歩数や消費カロリーなど自身の健康管理に役立つ機能が多く搭載されている。
日常的に計ることで、異常があれば自分で発見できるため、気軽に健康管理できるヘルステックとして注目を集めている。
ヘルステックの普及における課題
ヘルステックの普及において、デジタル技術に関して不安を抱く人が多く、関心が高まっていないことが課題となっている。総合コンサルティングファームであるアクセンチュアが発表した2022年のレポート(*5)によると、過去1年以内で、健康管理にデジタル技術を使用した人の割合は、世界では60%を超えたのに対し、日本は37%だった。
レポートによると、医療へのAI活用に不安を感じやすい点がヘルステックの利用を妨げているといわれている。また、個人のヘルスケアデータを第三者が管理することに対する信頼度がグローバル平均より低いことが分かった。
一方、ヘルステックを利用する可能性を高める要素としては、セキュリティなどの安全性が高いことだけでなく、医療機関からのアドバイスの存在が挙げられた。日本では、医療のデジタル技術利用に対する信頼度は低いものの、病院や医師に対する信頼度は高い。つまり、病院から使用を勧められれば利用者が増えるのではないかと期待されている。
ヘルステックの活用事例
最後に、ヘルステックを活用している企業事例を2つ紹介する。
FiNC(株式会社FiNC Technologies)
株式会社FiNC Technologiesが提供する「FiNC」は予防医療に特化したヘルステックアプリである。アプリは「カラダのすべてを、ひとつのアプリで」をコンセプトとしており、歩数・運動・食事・睡眠・体重・生理など、体に関するさまざまな健康記録をひとつのアプリで無料で管理できる。若者から高齢者まで、幅広い人から人気を集め、累計1,200万ダウンロードを誇っている。
FiNCでは、歩行やヘルシーな食事といった健康に良い行動を記録することで、マイルが貯まり、さまざまな景品に交換できる仕組みとなっている。健康記録をすることでユーザーにメリットが生まれるため、継続的な健康増進が期待できるのだ。
ファストドクター(ファストドクター株式会社)
ファストドクター株式会社が提供するサービス「ファストドクター」は、全国の医療機関と連携し、夜間や休日に医師が自宅やオンラインで診察や検査を行うサービスである。総勢3,500名の医師が24時間体制で待機しており、救急・内科・小児科といったさまざまな診療科に対応している。また、診察だけでなく、30種類以上の検査や70種類以上の処置も可能だ。
一般的な病院が対応できない夜間や休日に対応することで、“もう一人のかかりつけ医”という立場で24時間医療が受けられるようにしている。また、不要な救急利用を減らし、病院の医師の負担軽減も目指している。
まとめ
ヘルステックは、医療・介護業界の人材不足や地域の医療格差などの課題が浮き彫りになる世の中で、大きな解決策の一つとなるだろう。AIを始めとするデジタル技術の発展により、デジタルに生活や業務の一部を支援してもらう社会へと変化している。
デジタル技術が止まらない限り、ヘルステックも進化していくと予想される。私たち消費者はデジタルは信用できないと敬遠せずに、うまく付き合っていくために少しずつ歩み寄っていく必要があるのではないだろうか。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
*1 株式会社グローバルインフォメーションのレポートによる。
*2 厚生労働省のデータによる。
*3 平均寿命と健康寿命の差に関する調査による。
*4 厚生労働省による。
*5 総合コンサルティングファームであるアクセンチュアが発表した2022年のレポートによる
参考サイト
日本のヘルステック市場|NEWSCAST
ヘルステックの活用が医療分野の課題解決につながる | NTTデータ関西
「ヘルステック」が実現する、 超高齢化社会の正しい健康管理の在り方|NTTコムウェア株式会社
日本におけるデジタルヘルス活用の現状と課題|アクセンチュア
ファストドクター
FiNC





















エリ
大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。( この人が書いた記事の一覧 )