アグロフォレストリーとは
アグロフォレストリーとは、農業(agriculture)と林業(forestry)を合わせた造語である。アグロフォレストリーは樹木と農作物を一緒に育てる農法のことで、森林農法とも呼ばれるものだ。
通常、森は樹木を植えたり伐採したりしながら管理されているが、アグロフォレストリーではこの森を利用し、空いている土地を耕して農作物を植え、家畜を飼うこともある。農地のために森を切り拓くことはしないため、アグロフォレストリーによって林業と農業のバランスを取ることができるのだ。また、農薬や肥料も不要であることも大きな特徴である。
林業と農業、そして畜産業を複合的に行うこの方法は、アグロフォレストリーという概念が生まれる前から、何千年という人類の歴史の中で培われてきたものであるが、地球温暖化が大きな問題となっている今、改めて注目される農法だ。
アグロフォレストリーの歴史
アグロフォレストリーは、1970年代のカナダの国際開発研究センターで研究を行っていた林学者ジョン・ベネ氏の提唱によって生まれた。
ジョン・ベネ氏が研究していた林業と農業を同時に行う農法は世界中から評価され、アグロフォレストリーが注目されるに至ったのである。1978年には国際アグロフォレストリー研究センター(ICRAF)が設立。アグロフォレストリー研究の先駆者的存在となり、現在までその役割を担い続けている。
ちなみに「アグロフォレストリー」自体は新しい用語であるものの、この農法や概念はアフリカ、南米、東南アジアなどの熱帯地方で古くから盛んに行われていたものだ。各地域の天候や土壌の様子によって、組み合わせる樹木や農作物は様々であり、一次産業の新しい形として他地域でも科学的な研究が進められている。
アグロフォレストリーが注目される背景

アグロフォレストリーが注目されている大きな理由の一つが、一次産業の持続可能性を向上させることだ。
現在、世界の人口は増加の一途を辿り、国連によると今後2030年には85億人、2050年には97億人に達すると予想されている(※1)。人口が増えると、それだけ食べ物が必要になるが、産業革命が起きた19世紀以降、近代的な農法が主流になったことで広い農場が必要となった。そこで人々は森を切り拓いて耕し、農地として利用するようになっていく。
森林破壊は深刻で世界の森林は急速に減少し、その結果地球温暖化が加速したり生物多様性が崩れはじめていることは周知の事実だ。世界の森林面積は毎年およそ330万ヘクタール減少し、特に南アメリカやアフリカなどの地域での減少が著しい。(※2)
その理由は、これらの国の農業形態にある。途上国では、効率よく農作物を生産できるモノカルチャー(単一栽培)が主流であり、それによって収入を得ている人が多い。彼らは大規模な農地を必要とするため、次々に森を切り拓かなければならなかったのである。
一方、アグロフォレストリーを実践すれば、森林面積を減らすことなく、農作物の生産が可能になるのだ。また、モノカルチャーで生産されるものは、主に先進国の需要によるもので、自分たちが日々の食事として利用できるものを作っていない人も存在している。そのうえ、気候変動の打撃を受けやすいため、農作物が収穫できなかった場合は収入源がなくなり、日々の食事すらままならなくなってしまうのだ。
そこで、アグロフォレストリーによって多品種の農作物を生産し、経営を安定させる手段としても注目されているのである。
(※1)人口と開発|国連広報センター
(※2)世界の森林の状況|環境省
アグロフォレストリーの3要素

アグロフォレストリーは、3つの基本要素は「林業」「農業」「畜産業」によって構成される(※3)。これらを植える農作物の種類や気候、地形、土壌条件などによって組み合わせ、アグロフォレストリーを行っていく。
農林複合
農林複合の一番の特徴は、圃場(ほじょう)を最大限かつ最適な方法で有効活用できることである。また、作物同士の相互作用によって、低肥沃な土壌の改善や雑草・病害虫対策に良い影響があると考えられる。さらに、モノカルチャーが抱える問題も軽減できることが期待される。
林畜複合
林畜複合は、樹木と飼料用の作物、または林間で放牧を行う等の生産を行うこと。この方法では、牧草地に樹木を植えることで、牧草の育成に有効になるというものだ。その理由は、樹木によって遮光されることで、牧草と競合する低木の繫茂を抑制することや、特にマメ科の樹木は空中の窒素を安定させる効果が期待できることなどがある。
農林畜複合
農林畜複合は、樹木を生産しながら農作物と飼料用の作物を交互に生産し、農業と畜産を維持する方法のこと。この方法の大きな目的は、圃場(ほじょう)の生産を最適化し、農家の収入を向上させることにあるという。劣化した土壌を回復させて農地として整えることで土地が再生し、生物多様性に対して有利に作用したり、気象環境の改善が期待できる。
(※3)パラグアイにおけるクリーン開発メカニズムの仕組みを活用した農村開発手法の開発|国際農林水産業研究センター
アグロフォレストリーに関わる商品例

近年、アグロフォレストリーで作られた作物を原料とする製品が誕生しており、私たちは知らず知らずのうちにアグロフォレストリーに貢献しているといえる。ここでは、主な代表的な商品についてご紹介しよう。
株式会社明治
株式会社明治では、アグロフォレストリーで作られたブラジルトメアス産カカオ豆をカカオマスに使用した、「アグロフォレストリーミルクチョコレート」を製造・販売している。このカカオ豆は、森の生態系にならってカカオの苗木を他の植物と一緒に植え、豊かな森の中で育てられたものだ。4種類を並べると森が育っていく様子が分かるパッケージもユニークな商品である。
明治は、このチョコレートを作ることで、アグロフォレストリー農法を応援し、農家の安定的な生活を支えること、森林保護・再生に貢献していきたいという姿勢を示している。
参照:アグロフォレストリーミルクチョコレート | 株式会社 明治.
株式会社ハウス食品
ハウス食品では、「トメアス総合農業協同組合(C.A.M.T.A)」から購入した黒コショウを加工した「あらびき」と「パウダー」の2種類を販売している。この組合はブラジルに入植した日本人が設立したもので、トメアスのアグロフォレストリーはコショウの栽培から始まっている。
農業経営の多角化に取り組む中でアグロフォレストリーも推進しており、ハウス食品は、原材料をすべてこのC.A.M.T.Aから購入することで「原料購入」という形でアグロフォレストリーを応援している。
参照:C.A.M.T.A. ブラックペパー | ブランドサイト | ハウス食品
株式会社フルッタフルッタ
フルッタフルッタは、アグロフォレストリーを支援しようと立ち上げた企業である。フルッタフルッタの製品は、主にアサイーとアマゾンフルーツの加工食品だ。主原料はC.A.M.T.Aおよびアグロフォレストリーで作られたものであることにこだわり、顧客の美と健康に貢献するだけではなく、3F(不都合、不合理、不利益)を解消すること、そしてアグロフォレストリーの発展に貢献することを目指して製品づくりを行っている。
アジアで唯一C.A.M.T.Aの代理店として独占契約を結んでおり、フルッタフルッタが市場開拓と販売を担っている。
参照:モノづくりへのこだわり | アサイーのフルッタフルッタ オフィシャルサイト
アグロフォレストリーの注意点
アグロフォレストリーの最大の注意点は、活用する土地について徹底的に調べ、最適な品種、方法を選定することだ。植物同士の相性によっては、共生が難しく、相互作用が負に働くこともある。水や栄養分を取り合ったり、遮光によって太陽光の利用を制限したり、樹木が害虫の棲み処となってしまうことも考えられる。
また、樹木は育つのに時間がかかるため、アグロフォレストリーは長期的な視点で取り組まなければならない方法だ。農家によっては、収入を向上させるどころか、反対に減少してしまう可能性もある。運用コストもかかるうえ、市場の変化に即座に対応できない場合もあるのだ。
このように、アグロフォレストリーを行うには専門的な知識やシステムが不可欠であり、家族経営などの小規模農園にとって、取り組みが難しいものとなってしまっている。
まとめ
農業と林業を合わせたアグロフォレストリー。森林面積の減少による環境問題が取りざたされている今、注目の農法である。それは、人類がまだ科学にたどり着いていない遙か昔から行われてきたものだ。つまり昔の人々は、自然を循環させながら作物を生み出し、人間と動物と自然が共生する方法を知っていたのだろう。
私たちは、食べ物がなければ生きていくことはできないが、そのために自然を破壊することが許されるわけではない。古来受け継がれてきたアグロフォレストリーは、現代の私たちが再び自然と共生するための方法を、改めて教えてくれるのではないだろうか。
参考サイト
What is Agroforestry? | World Agroforestry | Transforming Lives and Landscapes with Trees
1.1:THE HISTORY OF AGROFORESTRY|World Agroforestry
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