エイジズムとは?高齢者差別ではなく、年齢に基づく差別
エイジズムとは、1969年に社会学者ロバート・バトラーによって初めて提唱された言葉だ。彼は、高齢者が社会的に不当な扱いを受ける現象に着目し、エイジズム(年齢差別)と名付けたのだ。
エイジズム、と聞くと「高齢だから仕事の面接で落とされたり、部屋を借りられなかったり」といったことを思い浮かべる方が多いだろう。
しかし、今日、エイジズムは高齢者の差別だけを意味しない。若いからといって意見をまともに聞かれないなど、若年層に対しても起こりうる現象もエイジズムだと現在は定義されている。
若者に対しては「若いから」と軽く見て、高齢者に対しては「もう年だから役に立たない」と戦力外扱いする、といった形で、その人個人を見るのではなく、年齢という記号で切り捨てることこそエイジズム(年齢による差別)なのだ。
エイジズムの具体例

エイジズムはさまざまな形で表れる。年齢は、職場、メディア、医療、教育など、あらゆる領域に影響を与えているのが現状だ。以下に、エイジズムの具体例を列挙する。
エイジズムの具体例1 仕事におけるエイジズム
「40歳転職限界説」という説がある。これは、中年になったら転職が難しくなることを表した言葉だ。多くの企業は、これから伸びしろがあり、他の企業の論理に染まっておらず、安く雇用できる若者をできれば採用したいと思っている。年齢差別になるため年齢の上限を求人票に記載していなくとも、実質◯歳以上は書類も見ない、ということは平然と行われているのが現実だ。
高齢者が時代遅れだとして、能力を軽視され、仕事を与えられないケースもある。また、若者は能力が高くても若いからという理由で給与を低く提示されたり、経験が少ないから、と重要なプロジェクトから外されたりというケースもある。年功序列の会社では、高い業績を叩き出しても、若い年齢が原因で昇進・昇給できないケースもあるのだ。
エイジズムの具体例2 メディアでのエイジズム
2022年に実施されたNHK放送文化研究所の調査によると、テレビ番組の出演者の性別割合は6割が男性で4割が女性、男性は40代が最も出演しているのにくらべて、女性は20代がピークで、その後、30代40代と上昇するに従って出演者が減っていく。
40代では、女性は男性の3分の1以下程度しかメディア露出がない。これは、マスメディアが圧倒的な男性社会であることが原因だ。出演者を選ぶ側に男性が偏っているため、女性は若く(多くは美しく)なければメディアに登場することができない。どれだけ実力があっても、年を重ねれば、出演者としての仕事が減っていく仕組みになっているのだ。
テレビというメディアに関しては、女性にのみ年齢が上がることで仕事が減る、という現実がある。これは、セクシズム(性差別)とエイジズム(年齢差別)が重なって起きている二重の差別だと言えるだろう。
エイジズムの具体例3 医療現場・介護現場でのエイジズム
医療現場や看護現場で、認知能力の衰えた高齢者に対して、幼児に話しかけるように話しかけたり、年齢を理由に症状や苦痛を軽視したりすることがある。また、若年層に対しても、年齢を理由に症状の訴えを真剣に取り合わない場合もある。こういったエイジズムは命の危険にも繋がりかねない危険なものだと言えるだろう。
エイジズムの具体例4 教育の場におけるエイジズム
国によっては、社会人として働いた後、大学で学び直しをすることが比較的一般的な場所もある。しかし、日本は、最近まで終身雇用が当たり前であり転職も難しかったため、一度学校を卒業したら、その後、大学に戻ることは考えられなかった。そのため、高齢になってから、大学などの学校に入ることはレアで、「あの年齢で大学に入るなんて」と偏見の目で見られることもあった。こういった教育の現場におけるエイジズムは、リスキリングなどが推奨される今、減少傾向にある。
エイジズムの問題点
エイジズムは、個人の尊厳を損なうだけでなく、社会全体に悪影響を及ぼす。以下に、エイジズムがもたらす主な問題を列挙する。
エイジズムの問題点1 機会の喪失・経済的損失
年齢を理由に教育の機会を奪われたり、職につけなかったりした場合、機会の損失だけではなく、経済的損失につながる。
エイジズムの問題点2 精神的な悪影響
年齢によって差別されることは、自己肯定感の低下につながる。仕事が得られなかった場合、経済的な苦境に立たされるだけではなく、自分の居場所がなくなったように感じる人もいるだろう。場合によっては、不安症やうつ病など、精神的な問題を発症する可能性もある。
エイジズムの問題点3 社会が分断される
若者や高齢者に対する偏見や差別が広がれば、年齢ごとの分断が起きることになる。エイジズムには、異なる世代間での信頼関係が損なわれ、相互に理解することもできなくなる、という弊害もあるのだ。
エイジズムを解消するためにできることは?
エイジズムを解消するためには、個人や組織、政府が積極的に差別解消の取り組みをする必要がある。以下に、解決策と企業の取り組みをいくつか紹介する。
エイジズムを解消するためにできること1 リサーチ、および啓発活動を行う
エイジズムを解消するためには、エイジズムがある、ということを認識する必要がある。まずは、年齢に基づく偏見や差別の実態から目を背けず、その実態を研究者や企業がリサーチし、講演会やワークショップなどを通じて問題点を啓発していくことたが大切だろう。
エイジズムを解消するためにできること2 世代間の対話を促進する
エイジズムが発生するのは、この世代の人は××に違いない、という偏見があるからだ。企業やコミュニティで異なる世代がともに学んだり働いたりするイベントを作ることで、対等な対話を促すことができるだろう。世代間の対話を促すことで、お互いに対する偏見の減少が期待できる。
エイジズムを解消するためにできること3 【企業の取り組み事例】年齢にとらわれない雇用政策を実施する
企業によっては、エイジズムにとらわれない取り組みをすでに始めているところもある。イケアは、業績を上げたものには、年齢にとらわれず昇給できる仕組みを導入している。ユニリーバでは、年齢に関わらずリスキリングを推奨し、キャリアを継続・向上させる支援制度を設けている。エイジズムの解消には、このようにエイジズムを意識的に排除する企業が増えることが不可欠だろう。
ただし、企業の取り組みだけでは限界がある。履歴書に年齢を記載することを違法にするなど、国レベルでのエイジズム解消策も必要だろう。(アメリカやカナダでは、履歴書に年齢を書かせることが違法になっているという実例もある。)
最後に
エイジズムは、社会全体に深刻な影響を及ぼす問題だ。特に、高齢者が多い日本では、高齢者差別による影響は多大だろう。
現在、雇用においてはエイジズムが顕著であり、高齢になればなるほど職を得ることが難しくなるという実態がある。しかし、国や企業、組織がエイジズムを問題だと認識し、改善に取り組むことで、エイジズムの影響を減少させることは可能だろう。
一人ひとりがエイジズムに対する問題意識を持ち、行動を起こすことが、エイジズムを克服する第一歩だ。
参考記事
テレビは社会の多様性を反映しているか②|NHK文研フォーラム2022
エイジズム(年齢差別)とは?|第一生命経済研究所
イケアとユニリーバ 年齢不問の企業と社員、大人な関係|日経クロスウーマン
多様性に関する記事
新着記事















