
築100年を超える歴史的建物でネットゼロは達成できるのか。世界の建築ストックの80%は2050年まで使用されると予測されており、既存建築物の脱炭素化は急務だ。イギリス・シェプレス村の集会所改修が、CO₂排出量65%削減という成果でその可能性を実証しつつある。
シェプレス集会所のネットゼロ化に向けた改修

イギリス・シェプレス村では、1909年築の集会所をネットゼロ建築へと改修するプロジェクトが進められている。歴史ある建物を環境負荷の少ない施設へと再生するこの試みは、環境負荷を抑えつつ、地域コミュニティの持続可能な未来を支える取り組みだ
本プロジェクトは、サウスケンブリッジシャー地区議会の「ネットゼロビレッジ計画」から6万2000ポンド(約1,000万円)超の助成金を受けて実施されている。2年前に太陽光パネルを設置し、その後、外壁断熱材の設置や新しい窓・ドアの取り付けが続けられた。
改修によってエネルギーの使用量が削減され、地元教区議会のジョン・フィッシャー氏は、「今回のような持続可能な改修が家庭にも波及し、省エネや燃料費削減、そしてより持続可能な未来の実現につながることを期待している」と評価している。
地域の中心施設であるこの集会所は、保育園や地域イベントの会場としても活用されており、改修後の利便性を実感する声もすでに上がっている。また、すべての住民にとって使いやすい施設とすることを目指し、収入や立場ににかかわらず誰もが等しく恩恵を受けられることを重要視している。
この集会所の改修は、今後1年以内に完了させることを目標としている。他地域との連携も進められるなかで、本事例が他の村における持続可能な取り組みの参考となるよう、積極的な情報共有も行われている。
建築分野におけるカーボンニュートラル化の潮流

このような取り組みは、建築分野全体で進むカーボンニュートラルの潮流とも深く関係している。建築を含む全産業において、温室効果ガス排出の削減に向けた取り組みが本格化している。
建築や建設の分野は、温室効果ガスの排出量が多い産業の一つだ。国連環境計画(UNEP)の報告によれば、建築分野は世界のエネルギー消費の32%、そしてCO₂排出量の34%を占めており、これは世界全体の温室効果ガス排出量の約3分の1に相当する。
私たちの生活に不可欠な住宅やビルは、建設時の資材製造や輸送から建物完成後の運用にいたるまで、あらゆる段階で大量のエネルギーが使われる。それぞれのプロセスで温室効果ガスが発生するため、建築業界のカーボンニュートラル化が実現した際の社会への影響は大きいと言える。
欧州を中心とした建築分野における脱炭素の取り組みとして、「ZEH(ネットゼロ・エネルギー・ハウス)」や「ZEB(ネットゼロ・エネルギー・ビル)」の普及が進んでいる。ZEBは主にオフィスや商業施設、ZEHは住宅を対象とした基準であり、いずれも「快適な室内環境を維持しながら、建物で消費する年間の一次エネルギー(石油や天然ガスなど、変換前のエネルギー)の収支をゼロにする」ことを目的としている。
建物の中では人が活動しているため、エネルギー消費量を完全にゼロにすることはできないものの、省エネによってエネルギーの使用量を減らしながら使う分のエネルギーを作ることで、エネルギー消費量を「ネットゼロ」にすることができる。このように、エネルギー効率の向上にとどまらず、再生可能エネルギーの活用や資材の選定までを含めた全面的な脱炭素化の対象として認識されているのだ。
日本においても、政府は2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、建築分野における脱炭素化の推進を図っている。また、2030年度以降新築される住宅を対象に、ZEH基準の省エネルギー性能の確保が求められている。
ZEBやZEHの普及においては、断熱性能の向上や高効率な設備機器の導入といった技術的進展が求められる一方、いくつかの課題も顕在化している。
例えば、建築物のカーボンフットプリントを削減するために必要な高性能な断熱材や空調設備はコストが高く、とくに中小規模の建築事業者や住宅購入者にとっては導入のハードルとなっている。また、ZEBやZEHの普及が新築を前提として進められてきたため、既存建築物の改修において同様の性能を確保することは、技術的にもコスト的にも難易度が高い。
さらに、地域の気候条件や建物の用途に応じた適切な技術の選定が不可欠であり、標準的なZEB仕様の全国展開には限界があるとも指摘されている。
依然として課題が残る中、国内外を問わず着実に脱炭素化に向けた試行錯誤が繰り返されている。シェプレス村における歴史的建造物のネットゼロ化は、建築・建設産業が「環境負荷を生み出す存在」から「環境価値を生み出す存在」へと変革していくための一つのモデルとなるだろう。
Edited by k.fukuda
参考サイト
英国 基礎情報|環境省
英国のネット・ゼロ戦略とその関連状況|早稲田大学
2024/2025年版 建築・建設の世界的現状報告書|国連環境計画(UNEP)
2050年カーボンニュートラルの実現に向けた 住宅業界の取り組み|経済産業省
国土交通省のインフラ分野におけるカーボンニュートラルに向けた取組|国土交通省
集会所のネットゼロ目標は他の村の励みになるかもしれない|BBC
カーボンニュートラルの実現に向けて|一般社団法人 日本建設業連合会
建築業界とカーボンニュートラル~現状と目標達成に向けた課題~|YANMAR
建築分野におけるカーボンニュートラルに向けて|日建設計総合研究所
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について|経済産業省 資源エネルギー庁























ともちん
大学で英文学を学び、小売・教育・製造業界を経てフリーライターに。留学や欧州ひとり旅を通じて「丁寧な暮らし」と「日本文化の価値」に触れ、その魅力を再認識。旅や地方創生、芸術、ライフスタイル分野に興味あり。言葉を通して、自尊心と幸福感を育めるような社会の実現に貢献することを目指している。
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