分散型ホテルで地域を活性化。新たなまちづくりの可能性を探る

地方の空き家や歴史的建物を活用し、地域全体を一つのホテルとして再生する「分散型ホテル」が注目を集めている。観光と地域住民の暮らしを組み合わせ、新しいまちづくりの可能性を切り拓くこれらのプロジェクトは、地方活性化の鍵として期待されている。今回は分散型ホテルのメリット、課題から、これから行きたくなる国内の事例まで詳しく紹介していく。

少子高齢化や都市部への人口流出が深刻化する中、地方の活性化は日本全体の重要課題となっている。人口減少に伴い、地域の商店や宿泊施設が廃業し、観光客の受け入れ体制が弱まる悪循環が各地で見られる。その解決策の一つとして注目を集めているのが「分散型ホテル」である。分散型ホテルは、点在する空き家や歴史的建物を宿泊施設として再生し、地域全体を一つのホテルのように機能させる取り組みである。本記事では、分散型ホテルの特徴やメリット、国内事例、課題と今後の展望について掘り下げ、地方創生への可能性を探る。

分散型ホテルとは?

分散型ホテル(英語では「diffuse hotel」や「albergo diffuso」)は、1980年代にイタリアで誕生した宿泊形態である。イタリアでは当時、地震や人口流出によって地方の村や町の空き家が増加し、観光業も衰退していた。その状況を打開するため、地域に点在する古民家や空き家を宿泊施設として再生し、レストランやフロント機能を別の建物に置くことで、村全体を一つのホテルのように運営する仕組みが生まれた。

このモデルの特徴は、宿泊者が町全体を自由に歩き回り、地元の人々や文化に自然に触れられる点にある。従来のホテルでは、客室、レストラン、フロントが一つの建物に集約されるが、分散型ホテルではそれらの機能が複数の建物に分かれており、地域の空間や歴史的景観を活用する。これにより、観光客は「まちに暮らすように滞在する」体験を得られる。

日本への導入は2000年代後半から始まり、空き家や古民家が多く残る地域で広がっている。国や自治体も、観光資源の再活用や地域経済の活性化策として後押ししており、持続可能な観光モデルとして期待が高まっている。


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分散型ホテルのメリット

分散型ホテルは地域の資源を活かしながら、観光客と地域住民の交流を促進し、「また来たい」と思えるような体験ができる。以下にメリットを挙げる。

空き家・歴史的建築物の再活用

分散型ホテルは、地域に残る空き家や古民家を宿泊施設として活用するため、廃墟化を防ぎ、景観保全にも寄与する。歴史的価値のある建物が再生されることで、観光資源としての魅力が高まり、地域ブランドの向上にもつながる。

地域経済の活性化

宿泊施設、飲食店、アクティビティが地域全体に分散することで、観光客の消費がまち全体に広がる。ホテル内にレストランを抱える従来型と異なり、地元の飲食店や商店が直接恩恵を受けやすい構造である。

地域との一体感ある滞在体験

観光客は地域の通りや広場を歩きながら、地元住民と自然に交流できる。これにより、「観光地として訪れる」から「暮らしの一部を体験する」へと意識が変わり、リピーターや関係人口の増加が期待できる。


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日本国内の分散型ホテル

国内でも、各地で分散型ホテルの事例が増えている。地域の特性を生かした運営が行われており、観光と地域活性化の両立を目指している。

沿線まるごとホテル(東京都)

沿線まるごとホテルは、JR東日本がローカル沿線地域の活性化を目的に、株式会社さとゆめと東日本旅客鉄道株式会社の共同出資によって設立されたプロジェクトだ。鉄道の沿線地域全体を一つのホテルに見立て、駅舎や鉄道施設をフロントやラウンジ、沿線に点在する空き家や古民家を客室としている。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」でも、「空き家を分散型ホテルに」という切り口で紹介されている。まさに、“エリア全体を回遊しながら泊まる体験”を促す仕組みだ。

地域住民がホテルのスタッフとして運営に関わり、宿泊者は列車で移動しながら複数の地域を巡る体験ができる。宿泊施設では、地元の食材が提供されている。2025年5月16日には、同プロジェクトの中核となる施設「Satologue」(さとローグ)のレストラン及びサウナがオープンしている。(2025年8月現在、宿泊棟の開業準備に伴い、一時的にレストランのご予約受付を停止)

沿線の集落全体を一つのホテルに見立てた地域活性化を図る仕組みは、観光消費を町全体に循環させ、エリアを盛り上げる一助として期待されている。

NIPPONIA 小菅 源流の村(山梨県)

「NIPPONIA 小菅 源流の村」は、山梨県小菅村で展開されている分散型古民家ホテルである。人口約700人の小規模な村全体を一つのホテルに見立て、築100年以上の古民家を客室やレストランとして再生し、村の暮らしや自然を体感できる滞在を提供する。フロントや食事処、宿泊棟が村内に点在し、訪れた人は歩いて移動しながら地域の日常に溶け込むことができる。オープンの際には、築150年の名士宅「細川邸」(通称「大家」棟)が客室とレストラン棟として再生された。さらに第二期として、崖っぷちの古民家を改修し「崖の家」として一棟貸し客室が2020年に加えられている。

アクティビティの中には、村の住民がガイドとなって案内する散策や、「多摩源流 小菅の湯」の無料利用、焚き火や電動アシスト自転車の貸し出しなどがある。村民が運営やガイドとして関わることで、雇用や交流が生まれ、観光と地域活性化を同時に実現している。

2024年8月には5周年を迎え、現在では年間約1,800人と、村の人口(約618人)の3倍近くもの宿泊客数を記録。リピーターも多く、「村人ガイドにもう一度会いたくて来た」という声もあるという。

海の京都・伊根町の舟屋群(京都府)

京都府北部にある伊根町では、「農泊」や体験型観光と舟屋宿泊を組み合わせた地域活性化に取り組んでいる。伊根町の舟屋群は、伊根湾沿いに約230軒が連なる独特の景観で、1階が船用ガレージ、2階が居室となっている構造が特徴である。これは江戸時代中期から続く漁師の営みに基づく建築形態であり、そのまま今も人々の生活や活動と共に継承されている。

町内全体の舟屋のうち、約19軒が宿泊施設として活用され、「一日一組限定」の貸切スタイルで、プライベート空間としてゆったりと滞在できる贅沢さが特徴だ。舟屋宿泊とともに観光案内所、カフェ、ネイルサロンなどが整備され、地元住民の暮らしに触れる仕組みもある。また、「舟屋ガイドとめぐるまるごと伊根体験」では、舟屋内部の見学や「もんどり漁」の見学・体験といった、地域文化に深く触れるツアーも用意されている。


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分散型ホテルの課題と今後の展望

分散型ホテルは多くの可能性を秘めているが、運営面や制度面でいくつかの課題が残されている。まず、施設が点在しているため、フロント業務や清掃、設備管理に手間とコストがかかる点だ。宿泊者へのサービスを均一に保つためには、ITを活用した予約・案内システムや地域全体でのオペレーション体制の構築が必要である。また、歴史的建造物の改修には高額な費用がかかることが多く、資金調達の方法や公的支援の活用が課題となる。

さらに分散型ホテルは、1軒だけでは成り立たず、自治体や地域全体の協力が必要不可欠だ。観光客が増えることで生活環境の変化や騒音問題が懸念される場合もあり、地域と観光業のバランスを取るための地域住民の理解や合意形成が重要となる。

今後は、分散型ホテルの運営を観光だけでなく「関係人口の拡大」や「二拠点居住」といったライフスタイルの提案へと広げることで、長期的な地域活性化につながる可能性がある。また、デジタル技術やリモートワークの普及を背景に、滞在型ワーケーション拠点としての展開も有望である。



まとめ

分散型ホテルは、空き家や歴史的建物の再生を通じて地域資源を活用し、観光客と地域住民をつなぐ新しいまちづくりの形である。運営面や資金面での課題は残るものの、ローカル地域全体を舞台にした滞在型のツーリズムは、観光地としての魅力だけでなく、人と地域のつながりを生み出す力を持つ。旅を通じて、その土地の暮らしや文化に触れることは、地域が抱える課題や未来への取り組みを知るきっかけとなるだろう。次に訪れる旅先では、分散型ホテルのような形で地域に入り込み、旅を楽しみながら次世代へ続くまちづくりの可能性を感じてみてはいかがだろうか。

Edited by s.akiyoshi

注解・参考サイト

沿線まるごとホテル
NIPPONIA 小菅 源流の村
伊根の舟屋とは|伊根町観光協会

About the Writer
佑 立花

佑 立花

2018年よりWEBライターとして活動。地方創生やサステナビリティ、ウェルビーイング、ブロックチェーンなど幅広い分野に関心を持ち、暮らしに根ざした視点で執筆。現在は農家の夫と生まれたばかりの子どもと共に古民家で暮らし、子育てと仕事を両立しながら、持続可能な未来につながる情報発信を行っている。
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