クオータ制とは? 目的や事例・日本の現状を紹介

クオータ制とは

クオータ制とは、特定の属性をもつ人々に対し、組織の中で一定の割合や数を割り当てる制度を指す。

例えば、政治や経済の分野で女性の比率が極端に少ない場合、「最低3割は女性」という枠を設けておくことがクオータ制に当たる。また、白人だけになってしまいがちな政治の要職に対し、アジア人やラテン系、黒人などの非白人の割合を決めておく、などの方法でクオータ制を導入するケースもある。

クオータ制は、歴史的または社会的に生じた不平等を是正し、マイノリティにもマジョリティと同等のチャンスを与えることを目的とした制度なのだ。

クオータ制の目的

クオータ制の目的

クオータ制にはさまざまな目的がある。ここでは、3つの代表的な目的を紹介する。

1. 不平等を是正する

クオータ制には、社会的あるいは経済的に不利な立場にあった集団(例:女性、白人社会での有色人種)に対し、機会の平等を提供するという目的がある。

例えば、女性の社会的地位が低いために政治や法律分野で女性が少ない場合、女性の利益に与する政治は行われず、男女の賃金格差はいつまで経っても埋まらない。また、法律分野を男性が独占することで、女性が被害者になりやすい性犯罪などに対する罰が極度に軽くなったり、起訴をするハードルが極端に高くなったりする。こういった不平等は、女性が政治や法律作成の分野である程度の地位につかなければ、変わることはないだろう。

しかし、女性の地位が低いままでは、いつまで経っても政治の分野で女性の割合は増えない。つまり、人為的な手を加えなければ、女性の社会的地位はいつまで経っても上がらないということだ。

このような場合にクオータ制を導入し、女性政治家の割合を増やすことができれば、格差や不平等の是正に期待が持てるようになるのだ。

2. 多様性を推進することで、創造性が高まる

企業の経営陣にマイノリティの割合を増やすことで、新たな視点が盛り込まれ、創造性が高まる。これにより、企業が利益を追求しやすくなるという利点もある。

実際、マッキンゼーの調査(2020年)によると、経営陣のダイバーシティが高い企業は、そうでない企業に比べて収益性が25%向上する傾向があると報告されている。例えば、IT業界の大手企業であるマイクロソフトやグーグルは、多様性を経営戦略の重要な要素と位置づけ、積極的にマイノリティの採用・登用を進めている。その結果、新規事業の創出や市場拡大に成功しており、ダイバーシティの強化が企業成長の一因となっていることが示されている。

3. ロールモデルを作ることで、若者の自殺率を減らす

多様な背景を持つ人が活躍できる社会を作ることで、若者が未来に希望を抱けるようになる。

例えば、同性愛者の若者の自殺率は、異性愛者の若者に比べて極端に高いことが知られている。しかし、同性婚を法律で認めたエリアでは、同性愛者の自殺率は急に下がったという。マイノリティが自分たちは社会から認められていると思うことができれば、精神衛生は改善し、生きる希望が生まれるのだ。

クオータ制の導入によって多種多様な人が活躍でき、要職に就くことを望めるようになれば、若者は未来に希望を感じやすくなるだろう。

クオータ制はマイノリティの人々に「この世は生きるに値する世界だ」と示す一つのアイデアなのだ。

クオータ制の導入例

クオータ制はさまざまな国で導入されている。ここでは一部の事例を紹介する。

ノルウェー:上場企業の取締役女性4割以上

ノルウェーは、世界で初めて企業の取締役会にクオータ制を導入した国だ。2003年に法律を制定し、国営企業および上場企業に対して、取締役の女性比率を4割以上にすることを義務付けた。この取り組みにより、2002年には6%だった女性取締役の割合は、2021年には41.5%に上昇した。

ドイツ:上場企業の監査役 男女それぞれ3割以上

ドイツでは2015年に「女性の指導的地位法」を制定し、上場企業の監査役会において、男女比率をそれぞれ3割以上にすることを義務付けた。これにより、男女どちらかが大幅に多くなるという事態を防止できるようになった。2020年4月時点では、監査役会の女性比率は35.2%である。

インド:地方自治体の3分の1は女性

インドでは1992年に憲法改正が行われ、地方自治体の議席の3分の1を女性に割り当てるクオータ制が導入された。結果、1992年には5%未満だった女性議員は、2000年代には40%以上に増加し、女性の政治参加が大きく進むことになった。

フランス:パリテ法で大幅に男女比率改善

フランスは2000年に「パリテ法」を制定し、政党に対して選挙候補者リストを男女同数にすることを義務付けた。この取り組みにより飛躍的に女性議員の割合は増加し、現在では約4割を占めている。日本でもパリテを導入しよう提案した政治家は存在するが、実現には至っていない。

クオータ制未導入の日本の現状

日本ではクオータ制の法制化は進んでおらず、政治や経済分野における女性の参画比率は、国際的に見て低い数値を維持している。

特に政治分野においては、女性政治家の割合が他の先進国と比べて非常に少なく、2023年1月時点で衆議院の女性議員比率は、186か国中164位だ。

2024年10月に実施された衆議院総選挙では、女性議員数は73名、全体の15.7%となり、過去に比べると高い数値を記録した。しかし、政府が掲げていた「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合を30%にする」という目標には到底及んでいない。

こうした背景には、性別役割意識の強さやミソジニー(女性蔑視)による女性政治家へのハラスメントなどの文化的な問題がある。

女性管理職の割合

企業の経営者や幹部における女性の割合も極端に低い。女性の社会進出が進んだといっても、低賃金の仕事や、派遣社員などの非正規が増えているだけであって、高賃金を得られている女性は非常に少ないのが現状だ。

2024年10月時点で国内企業の女性社長の割合は8.4%と過去最高を記録したが、依然として10%に届いていない。また、上場企業や大手企業における女性管理職の割合は、30%未満の企業が7割以上を占めている。特に建設業や製造業、主要メディアなどは管理職の9割以上が男性という企業がほとんどだ。

さらに、東京証券取引所のプライム市場に上場する約1,600社のうち、女性CEOはわずか13人で、全体の1%にも届かない。

2021年時点での企業役員に占める女性の割合は12.6%であり、クオータ制を導入している諸外国と比較して、非常に低い水準にある。

日本がクオータ制を導入しない理由

日本では、ほとんどの政治家がクオータ制の導入に及び腰だ。元々日本より遥かに経営陣や政治家に女性が多い国や企業ですらクオータ制を導入していにもかかわらず、日本がクオータ制導入を積極的に進めないのはなぜだろうか。

それは、「現在の不平等を維持したままでいい」あるいは「男性には男性の役割、女性には女性の役割があるのだから、クオータ制を導入して無理やり女性の数を増やす必要はない」と思っている人が多いからだろう。日本は性別役割意識の強い国であり、権力を持つポジションやお金の集まる地位を男性が独占していることを「自然なこと」だと捉えがちなのだ。

クオータ制はダイーバーシティ&インクルージョンの観点から実施される、人権に配慮した施策だが、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」で下位に位置するなど、人権意識が諸外国と比べて低いと言われている日本では、この制度をすんなり受け入れることが難しいという一面もある。

また、長引く不景気によって経済的に苦しい人が増えたことにより、長年の差別を是正するためのクオータ制が、「女性(あるいは何らかのマイノリティ)だけ優遇され、自分たちは『逆差別』を受けている」と感じてしまう人も増えてきている。経済的な苦しさゆえに、他のマイノリティが被っている不公正に対して声を上げられないどころか、「彼等だけずるいのではないか」という思考になってしまうケースも珍しくないのだ。

こういった経済的要因や文化的要因により、日本では現状クオータ制の導入が進んでいないと考えられる。

まとめ

クオータ制は、不公正を是正する手段の一つである。諸外国では政治や経済の分野で導入が進んでいるが、日本では現状、採用されていない。ジェンダーロールに対する意識には文化的な要因も影響するため、単純に海外の施策をそのまま適用することは難しい側面があるだろう。しかし、少なくともクオータ制導入に関する議論がよりオープンに行われ、さまざまな意見が反映されることを期待したい。

参考記事
平成23年版男女共同参画白書|内閣府男女共同参画局
村上彩佳「フランスにおける女性議員の増加のプロセスとその要因:クオータ制導入の頓挫からパリテ法の制定・定着まで」
女性クオータ制で何が変わる? インド地方議会の事例からわかること|東京財団政策研究所
全国「女性社長」分析調査(2024年)|帝国データバンク
Japan has just 13 female CEOs among top 1,600 companies, survey shows|The Guardian

関連記事

新着記事

ABOUT US
patchtheworld 編集部
PATCH THE WORLDは、自然環境からまちづくり、ジェンダー問題まで環境・社会問題に関するあらゆるトピックを発信しています。 地球も、地域も、私たちひとりひとりも、豊かに暮らすことができるように、共に考えるための場所です!