#4 ゴミをなくすには、ゴミという概念をなくすこと

#4 ゴミをなくすには、ゴミという概念をなくすこと

毎日のようにビーサンで浜辺を歩く。海は大切なことを教えてくれる。大切なことに気づかせてくれる。わたしたちが海から生まれてきた生命であることも、その海が育む生態系をわたしたちが破壊していることも。

海辺暮らしの副作用は、人間が嫌いになることかもしれない

浜辺で拾う貝殻には情緒があるが、浜辺で拾う吸い殻には人間に対する失望しかない。連休に訪れたバーベキュー客が想い出とともに持ち帰らなかったものなのは周囲に散乱している享楽の残滓――ビールの空き缶や焼きそばの入っていたビニール、焼き網や割り箸で名探偵でなくても推理できる。推理できないのは原型を留めていないプラスチックの破片だ。

海辺の町で暮らし始めてから散歩のたびにビーチクリーンを続けてきた。最初は個人活動だったが、数年前からは「BLUE SHIP」というビーチクリーンイベントを開催する全国組織に登録してトングを提供してもらっている。ボランティア活動なので持ち出しがないだけでも有り難い。

浜辺に落ちているごみには大きくわけて「放置ごみ」と「漂着ごみ」それと「海洋発生ごみ」の3通りある。海に遊びに来た人が持ち帰らなかったごみ。都市や野山で捨てられたものが風に運ばれ、川伝いに流れ着いたごみ。それが波にさらわれ、外洋で砕かれ、長い旅を経て浜辺に吐き出されたごみ。それと漁業や釣りなどで発生したごみだ。

風と波の力で砂浜はごみの集積地になる。中でも吸い殻と並んで多いのがマイクロプラスチックと呼ばれる5ミリくらいのプラスチック片だ。煙草のフィルター同様、何百年も土に還らずに残るだけでなく汚染物質が付着しやすい。だから素手では触らない。トングでひとつずつ摘まんでゴミ袋に入れていく。拾っても拾っても砂の下からマイクロプラスチックが現れる。海が浜辺に吐き出してくれるのはほんの一部だ。世界の海には1億5千万トンものゴミが漂っているという。しかも今も増え続けている。自分のやっていることなんて焼け石に水じゃないかと投げ出したくなることもしばしばある。

トングで摘まんだマイクロプラスチックの向こうに波間で跳ねるトビウオが目に入る。この小ささならトビウオだって餌と間違えて飲み込んでしまうだろう。昨晩塩焼きで食べたトビウオのことが思い出される。マイクロプラスチックを食べた魚を食べることでわたしたちの体内にも汚染物質が蓄積される。環境ホルモンなどと言われているが、それが魚や人間にどれほどの健康被害を及ぼすのか厳密にはわかっていないらしい。

悩みはもうひとつある。拾い集めたごみが焼却時に温暖化を促進させるCO2を排出することだ。放っておいても拾い集めても環境を汚染する。プラスチックは人類の発明の中でももっとも愚かなもののひとつなのではないかと溜め息をつく。海が人間の生み出した便利さの墓場のように思えてくる。

「プラスチックを嫌いになって欲しくない」

海洋プラスチックごみを買い取っている企業の存在を知ったのは、本稿を書き始めてすぐのことだ。

buoy(ブイ)株式会社。日本各地で活動しているビーチクリーン団体から買い取った海洋プラスチックごみを原材料に様々なプロダクトを製造販売しているアップサイクルブランドだ。ビーチクリーン活動に限界を感じていたわたしが問い合わせると、広報の小林輝星(きらり)さんが話を聞かせてくれた。

始まりは2018年。プラスチック製品のデザインから量産を手掛ける株式会社テクノラボの有志メンバーが社内プロジェクトとして企画したものだったという。

「loTデバイスや医療機器など、人をしあわせにするためになくてはならない、人の生活を豊かにするためにプラスチック製品を作ってきたのに、使い終わった途端に悪者扱いされているのが悲しかった」

最初の一歩が小林さんたちの「プラスチックへの愛」だと知り、わたしは殴られたような衝撃を受けた。わたし自身がずっとその恩恵を受けていながら、海辺でビーチクリーンを始めた途端、掌を返したようにプラスチックを憎むようになっていた張本人だったからだ。

出典:buoy株式会社

だが、海洋ブラスチックごみをアップサイクルするには2つの問題点があったという。ひとつは「プラスチックごみ」と言っても様々な種類があること。プラスチックは種類によって成型する時の融点が違う。そこで採用したのが「熱プレス」。材料に熱と圧力を加えて加工する技術だ。しかし、溶かしてみるまでどんな溶け方をするのかわからない上に、同じ製品でも原材料となるプラスチックの種類が異なるので大量生産ができない。その為、6名の職人がすべて手作業で製造しているそうだ。

もうひとつは「海洋プラスチックごみに付着する汚染物質」。もう一度製品として人の手に渡すには洗浄したいところだが、洗剤を使えばプラスチックビーズが新たな海洋汚染を生む。そこでフィルムコーティングすることで海洋プラチックごみが露出しないような加工を施しているという。

もちろん環境に負荷が掛かる新たな着色も施していない。100%偶然集まった海洋プラスチックごみの素材と色だけで独特の模様が生まれている世界にひとつだけのプロダクトだ。また、ひとつ一つの製品には二次元コードが紐付けられていて、ごみが回収された場所と回収した団体を紹介したサイトを見ることもできるという。

出典:buoy株式会社

「手にすることで海から離れた人にも海洋ごみの問題を知ってもらうことが、日々の行動を変えるきっかけになればと」

2020年に合同会社化してからはコースターや一輪挿し、掛け時計やキーホルダーなど40から50の製品を製造販売している(2025年には株式会社化)。美術館や水族館、地域の物産店やふるさと納税の返礼品などにもなっているという。これらのプロダクトだけでも新たに化石燃料からプラスチックを精製して作ることがなくなればどれだけプラスチックを減らすことができるだろう。

「一度は不要ごみとされたプラスチックに新たな価値、新たな役目を与えて、寿命を延ばしてあげることがわたしたちの使命なんです」

言葉の裏に切実な思いを感じた。すると個人的な思いですけど、と前置きした上で小林さんは言った。

「どうせゴミになるんだから作っても意味がないって言われるのがとても悲しい」

わたしはプラスチックの一生に思いを馳せていた。小林さんの言葉がプラスチックの思いを代弁していたからだ。人間の都合で化石燃料として採掘され、精製され二度と土に還らない命として生を受ける。人の生活を豊かにして、いらなくなったらごみとして捨てられる。放置されても燃やされても生まれ故郷である地球を汚染する。悲しき宿命を背負わされたプラスチックが経済成長と引き換えに何もかも使い捨ててきた人間社会の象徴に思えた。そんなわたしたちの使い捨て文化は自分たち自身にまで及んでいる。

「新しい役目を与えてあげれば生命はまた輝き出すんです」

わたしは小林さんの言葉でようやく気づいた。愚かなのはプラスチックを発明したことではなく、わたしたち人間が愛を失ってしまったことだと。

「ビーチクリーンは善意だけでは限界がある」とbuoyは契約を結んだ日本各地のビーチクリーン団体から海洋プラスチックごみを1㎏400円で買い取っている。プラスチックのバージン材とほぼ同じ価格だという。ごみというラベルを貼られたプラスチックも、生まれたてのプラスチックも価値は同じだと小林さんは言った。

「ごみ」という概念をなくすこと。その価値観の変革は環境だけでなく、わたしたちの社会そのものを再生してくれるような気がした。

「また、海が教えてくれた」

今日もトング片手に浜辺を歩いた。マイクロプラスティックを拾い集めながら、わたしならどんな役目を与えられるだろうと考えていた。

「見て、ビーチグラスだよ」

娘が拾い上げたビーチグラスをうれしそうに見せてくれた。もともとは20世紀初頭に大量投棄されたガラス瓶だ。海はそれを長い年月をかけて波頭で砕き、切っ先を削り、丸みを帯びた美しい宝石にして浜辺に打ち上げてくれている。わたしの家では拾い集めたビーチグラスを貼り合わせてローソク立てとして使っている。海は人間よりも先に、わたしたちが捨てたものに新しい価値を吹き込んでいたのだ。

砂の間からまたマイクロブラスチックが顔を出した。プラスチックの年間国内消費量は約1千万トンと言われている。99%の回収率を実現できたとしても年間10万トンが海洋汚染や大気汚染の原因になっていく。

国連環境総会では2022年3月の「プラスチック汚染を終わらせる」という決議に基づき法的拘束力のある国際文書を策定する為の政府間交渉を続けているが結論は持ち越されている。

5月30日ごみゼロの日。6月5日は環境の日。6月8日は世界海洋デー。その前後は日本財団と環境省による海ごみ対策強化期間でもある。わたしがトングの提供を受けているBLUE SHIPでも5月13日から6月8日までの間、日本全国一斉清掃キャンペーンを実施している。

「buoyはいつかなくなるために存在しているブランドなんです」と小林さんは言っていた。「海洋ごみが拾えなくなったので新しいものが作れなくなった」という未来の訪れとともにbuoyも解散するのだと。

娘が大人になる2040年のことを想像した。buoyはなくなっていないだろうと思った。海洋ごみがなくなっていないからじゃない。海洋プラスチックごみのアップサイクルという役目を終えても、彼らが新たな価値をまとい輝いているような気がしたのだ。

未来はわたしたちひとり一人の次の1歩に託されている。だからわたしは今日もトング片手に浜辺で資源を拾い集める。旅するように暮らす、この町で。

2025年5月20日

参考サイト

buoy株式会社

About the Writer

青葉 薫

横須賀市秋谷在住のライター。全国の生産者を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」を上梓。本名で放送作家/脚本家/ラジオパーソナリティーとしても活動。日本環境ジャーナリストの会会員/横須賀市都市計画審議委員/横須賀市環境審議委員/株式会社オフィスクレッシェンド取締役
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種蒔く旅人Ⅱ
~2040、未来の君へ~

文・写真 青葉薫

夕陽が海に沈む三浦半島・秋谷。

15年前に都会を離れ、
この海辺のまちで

「食べるものを育てる」暮らしを手に入れた。

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