ゴーストフィッシングとは
ゴーストフィッシングとは、漁業者や釣り人などの管理下から離れた漁具が海中に残存し、意図せず海洋生物を捕獲し続ける現象を指す。日本では、ゴーストフィッシングを幽霊漁業と呼ぶ場合もある。
また、持ち主を失って海に流出する漁具は「ゴーストギア」と呼ばれ、多くの動植物を脅かす海洋ごみとして問題視されてきた。WWF(World Wide Fund For Nature:世界自然保護基金)の報告では、海洋ごみ全体の少なくとも10%は漁業由来であり、流出するゴーストギアは年間50万トン〜100万トンにのぼる。
漁具は、漁の衝撃に耐えられるよう、丈夫で分解されにくいプラスチックや金属などの素材で作られることが多い。ゴーストフィッシングは、漁具が劣化するまで数十年ほど続く場合があり、海洋生物に深刻な被害をもたらす。
ゴーストフィッシングは、国連が提唱するSDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」にも関連するテーマであり、世界中で取り組むべき課題として注目されている。
ゴーストギアが生まれる背景
ゴーストギアは、逸失が原因で発生するものと、過剰漁業やIUU(違法・無報告・無規制)漁業などを背景として意図的に放棄・投棄されるものの大きく2つに分かれる。漁具の逸失は、天候や漁具同士の干渉、人為的ミスといったさまざまな要因で起こりうる。
放棄とは、海で使った漁具を意図的に回収しない行為だ。IUU漁業者が違法行為を隠蔽するために、船から漁具を切り離して逃走するケースも少なくない。また、投棄は、漁具を意図的に海へ捨てる行為を指す。投棄が発生する理由としては、漁具を保管・処分する場所の不足、処分コストの高さなどが指摘されている。
漁具の中でも「刺し網」やかご型・壺型の「仕掛け」は、特に長い期間ゴーストフィッシングを引き起こすとされる。刺し網は、海中に大きな網を壁状に張って魚を捕まえる「刺し網漁」で使われる漁具のことだ。さらに、世界中でマグロやカツオなどの捕獲に使われるFADs(人工集魚装置)も、ゴーストギアの1つである。
上記のようなゴーストギアは、海洋生物にとって最も危険で、汚染量が深刻な海洋プラスチックごみとしても問題視されている。「太平洋ごみベルト」に漂うプラスチックごみの46%がゴーストギア等で占められているという報告もあるほどだ。
ゴーストフィッシングが及ぼす影響
ゴーストフィッシングは、地球規模のさまざまな問題を引き起こす。ゴーストフィッシングが及ぼす深刻な問題について、次の3つに分類して解説する。
海洋生物への影響
ゴーストフィッシングで捕獲されたり、漁具に絡まったりした海洋生物の多くは、窒息や衰弱によって命を落としてしまう。2015年に発表された研究では、世界においてウミガメ全種と海洋哺乳類の66%の種、海鳥の50%の種が海洋ごみの被害を受けていることが分かった。ゴーストフィッシングは、絶滅危惧種の持続可能性を損なう要因としても、危険視されている。
また、ゴーストフィッシングは、海洋生物たちの生息域を破壊する恐れがある。ゴーストギアが、魚や固着生物の生息域として重要な沿岸地域・藻場・サンゴ礁などを傷つけたり、堆積したりするためだ。海洋生物の命や居場所を奪うことで、海の生態系バランスを崩す点も、ゴーストフィッシングが引き起こす深刻な問題である。
漁業への影響
ゴーストフィッシングは、持続可能な漁業を阻害する要因としても軽視できない。プラスチック製のゴーストギアは、数十年単位で海洋生物を捕獲し続ける可能性があり、漁獲量の一部減少を引き起こす懸念もある。
2020年から2021年にかけてオマーン国で行われた調査では、トラップにかかった海洋生物のうち、重量ベースで94%に経済的価値があると判明。この報告により、経済的価値をもたらしてくれるはずの生物の命が、ゴーストフィッシングで無駄に失われていることが示唆された。貴重な水産資源が無駄に失われていくことで、漁業も長期的にダメージを受け続ける恐れがある。
加えて、ゴーストフィッシングによる海洋生物の減少は、資源をめぐる漁業関係者の競争激化につながりかねない。悪天候での無理な操業などによって、ゴーストギアの発生が増える悪循環に陥る可能性も指摘されている。
私たちの生活への影響
FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations:国連食糧農業機関)の報告によると、世界で33億人以上が水産資源を主なタンパク質源として接種しているという。世界人口の増加を受けて食料問題が深刻化する中、海の貴重な栄養資源を奪うゴーストフィッシングは、私たちにとっても見過ごせない課題だ。
また、ゴーストギアなどの海洋ごみが美しい自然環境を損ない、観光資源としての価値を低減させる場合もある。ゴーストギアがスクリューに絡まって船の操作性を妨げたり、船の故障や事故を誘発したりする危険性も指摘されている。このように、ゴーストフィッシングをめぐる問題は、漁業関係者だけではなく、私たちの生活・経済にも悪影響を及ぼすことが分かる。
ゴーストフィッシング対策に向けた動き
ゴーストフィッシング対策に向けた動きの1つとして、2015年のGGGI(Global Ghost Gear Initiative)の設立が挙げられる。GGGIは、漁業者・港湾・水産企業・非政府組織・各国政府・国際機関などが協力し、ゴーストフィッシングを引き起こすゴーストギアなどの問題に取り組む組織だ。
GGGIでは、海洋プラスチック汚染の解決に特化した包括的指針として、関係グループへ向けて、ゴーストギアを発生させないためのアプローチや、流出させてしまった漁具の回収方法などについて、重要なガイダンスを策定している。
また、持続可能な漁業の国際認証を運営するMSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)も認証規格を見直す際に、ゴーストギアの管理方策を定めた。2024年7月に発表された新しい規格には、すべての認証漁業を対象に、「漁具の流出や流出した漁具の影響を最低限に抑えること」を求める内容が明記されている。
海洋保護については、長年にわたり、国際レベルでの明確な規制・目標の必要性が問われてきた。しかし、2023年6月には「国連公海条約案」が採択され、これまで包括的な枠組みがなかった「公海の保全と持続可能性」にまで踏み込んだ内容が盛り込まれた。
新しい条約案にはプラスチックごみなどの海洋廃棄物への対応も含まれており、ゴーストフィッシングの問題についても、国際規模でより積極的な取組が期待される。日本では、2019年5月に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定。改訂版の「漁業系廃棄物処理のガイドライン」には、漁網などの適切な廃棄・再利用の方法、漁業者としての責務が示されている。
ゴーストフィッシング対策の取組事例

WWFジャパンは、リサイクル事業を展開するテラサイクル社と連携して使用済みの漁網を回収し、リサイクル・製品化する仕組みづくりに取り組んでいる。ゴーストフィッシングの発生予防には、漁業関係者による適切な漁具管理が欠かせない。漁業者・自治体・漁業組合・協賛メーカーといった各主体を巻き込み、適切な漁具の管理・リサイクル体制の構築を目指している。
2022年5月には、気仙沼において「地域と一緒に!漁網のみらいプロジェクト」がスタートした。プロジェクトでは、ゴーストギアのない「持続可能な漁業」に向けて取り組む漁業者を市民が一緒に応援し、漁網のみらいについて考える。
アメリカやヨーロッパ諸国でも、漁網を回収してリサイクルする取組が行われている。例えば、カリフォルニアに拠点を置くBureo(ブレオ)社は、回収した漁網からNetPlus(ネットプラス)というリサイクル素材を開発。NetPlusは、ジャケットやサングラス、サーフフィンなどのアイテムに再利用されている。
まとめ
プラスチックごみによる環境汚染が注目を集める一方、ゴーストフィッシング問題の深刻さは、漁業関係者の間でさえも十分に認識されていないのが現状だ。今後は、ゴーストフィッシング対策の重要性を正しく理解した上で、世界で足並みを揃えて問題解決に取り組む必要がある。
ゴーストフィッシングを防ぐために、まずは漁具を扱う漁業者自身の意識改革や工夫により、ゴーストギアを発生させない対策が必要だ。漁業者・自治体・専門機関・リサイクル企業などが連携して、漁具の適切な使用・管理・再利用体制を整える取組も欠かせない。また、リサイクル製品や環境に配慮された水産物の購入を通じて海洋汚染対策に貢献するなど、消費者にできる行動も決して少なくない。一人ひとりがゴーストフィッシング問題を認識し、対策に向けた行動を選択することが求められている。
参考記事
ゴーストギアの根絶に向けて|WWF
Kühn, S., Rebolledo, E. L. B., & van Franeker, J. A. (2015). Deleterious effects of litter on marine life. In Marine anthropogenic litter (pp. 75-116). Springer,Cham.
Al-Masroori, H., Al-Ou, H., McIlwain, J. L., & McLean, E. (2004). Catches of lost sh traps (ghost shing) from shing grounds near Muscat, Sultanate of Oman. Fisheries Research, 69(3), 407-414
2020 THE STATE OF WORLD FISHERIES AND AQUACULTURE|FAO
深刻な海洋プラスチック問題の原因「ゴーストギア」を無くそう!|WWFジャパン
MSC漁業認証規格 第3.1版|MSC
国境を越えて:なぜ新たな「公海」条約が世界にとって不可欠なのか(UN News 記事・日本語訳)|国際連合広報センター
漁業系廃棄物処理ガイドライン(改訂)|環境省
ゴーストギア発生予防対策・地域プロジェクト|WWFジャパン
地域と一緒に!漁網のみらいプロジェクト|WWFジャパン
NetPlus®︎ Material|Bureo®︎
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