アテンションエコノミーとは
アテンションエコノミーとは、人々の関心や注意を資源と捉え、経済的に価値があるとする考え方である。現代社会では情報が溢れており、限られた時間内に多くの情報を消費するのは困難である。そのため、企業やメディアは消費者の注意を引き付けるためにさまざまな戦略を駆使している。広告・SNSの投稿・動画コンテンツなどがその一例である。
例えば、YouTubeでは動画の視聴数や視聴時間が広告収益に直結する。そのため、配信する側はサムネイルやタイトルを工夫し、面白い企画を考えるなど、視聴者を引き付ける努力をしている。
また、SNSのプラットフォームでは、「いいね」やシェア、コメントなどのリアクションをユーザーに促す。アカウントの登録時に、興味のあるジャンルを選ばされた経験がある人も多いだろう。これらは、ユーザーにとって魅力的なコンテンツを優先的に表示するために利用され、滞在時間を延ばす目的がある。
つまり、アテンションエコノミーにおいては、人々の関心を集めることが重要な資源となり、その取り合いが激化しているのだ。この現象はデジタル時代の特徴であり、今後も続いていくと考えられる。
注目される背景

1969年、ノーベル賞受賞者でAIの生みの親でもあるハーバート・サイモン氏は「情報経済において、人々の関心が通貨のような価値をもつ」と予測している。この予測は後に、見事に的中することとなる。
その後、元物理学者でインターネット経済の先駆者であるマイケル・ゴールドハーバー氏は1997年に「アテンションエコノミー」という概念を提唱した。彼は「質の高い情報よりも、世間の関心を集める方が経済的価値を見込める」と主張したのだ。
現代社会において、アテンションエコノミーは、特に広告業界やコンテンツクリエイターの間で重要視されている。企業や個人は消費者の注意を引くために、パーソナライズされた広告や魅力的なコンテンツを発信し、私たちの関心を集めようとしている。また、SNSのプラットフォームは、ユーザーの興味に合わせたコンテンツを表示し、利用時間を延ばす仕組みを構築している。
このように、情報の洪水の中で人々の注意を引きつけることが、現代のビジネスやコミュニケーションにおいて極めて重要な要素となっている。インターネットやスマートフォンの普及により、私たちは日々膨大な情報にさらされているが、一つ一つの情報に対する人々の注意や関心は薄まっている。そのため、それを引きつけるための競争がますます激しくなっているのだ。
アテンションエコノミーの具体例

多くの企業は、アテンションエコノミーを活用し、私たちの関心を引きつけようと努力している。以下のような経験がある人も多いのではないだろうか。
- 「これだけで飲めば10キロ痩せる」というキャッチコピーを見て、つい広告をクリックしてしまう
広告主は一瞬で注意を引くキャッチコピーを駆使して、消費者の興味を引き付けている。
- 「緊急速報」と銘打ったニュース記事をクリックしたが、内容は期待外れの一般的な話題だった
これはクリックベイトの一例で、読者のクリックを誘うために誇張された見出しが使われることが多い。
- 有名人のゴシップ動画や投稿に思わず目が行ってしまう
刺激的なコンテンツは人々の関心を引きやすく、視聴数や反応が増える傾向にある。
- 人気のドラマを休日に一気見してしまい、気付けば夜が明けていた
ストリーミングサービスでは、次のエピソードが自動再生される機能があり、視聴者が長時間コンテンツに没頭するようになっている。
これらは、アテンションエコノミーの影響を受けている事例である。上記以外にも、つい気になってクリックしてしまうようなコンテンツはないだろうか。
企業は私たちの関心を集めるために、さまざまな仕掛けをしている。必ずしも悪いことではないが、注意を引く手法が過剰になると、ユーザーの時間や集中力が奪われることにもつながるため、情報の摂取にはバランスが求められる。
アテンションエコノミーを加速させる要因
さまざまな情報が私たちの注意を奪い合う中で、ますます複雑で巧妙な方法が駆使されている。ここでは、その具体的な要因について探っていく。
スマートフォンの普及
スマートフォンの普及により、私たちはいつでもどこでも情報にアクセスできるようになった。欲しい情報が欲しい時に手に入り、暇つぶしのためにSNSや動画を見ることも多いだろう。この便利さは、アテンションエコノミーを強化している。
特にソーシャルメディアの登場は、情報の流れをさらに速め、さまざまなコンテンツが瞬時に消費される状況を作り出した。これにより、企業や個人は目立つためにより注意を引くコンテンツを作り出す必要性が生じ、競争が激化している。結果として、注意を引くための技術や手法も進化し、より洗練されたものになっている。
広告業界の発展
アテンションエコノミーと広告業界は切っても切り離せない存在である。近年、GAFAMなどのIT企業やSNSの普及により、私たちの「注意」が広告収入を生み出すと捉えられている。
ユーザーが広告に慣れてくると、単純な広告では注意を引くことが難しくなり、企業は新たな仕組みや仕掛けを考案するようになった。この結果、広告はよりインタラクティブでパーソナライズされたものに進化し、私たちの関心を引き続けている。こうした流れが、アテンションエコノミーをさらに加速させていると言える。
ソーシャルメディアの進化
ソーシャルメディアの進化もアテンションエコノミーに大きく貢献している。各プラットフォームはアルゴリズムを駆使し、ユーザーの年齢・性別・地域・興味などに合わせたコンテンツを表示させている。最近検索した商品の広告に「追いかけられる」経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。
この結果、フィルターバブルやエコーチェンバーの現象が生じ、ユーザーは自分の興味に合った情報しか目にしなくなっている。これにより、注意を引くための競争はさらに激化し、ソーシャルメディア上での情報拡散速度も増している。
インフルエンサーの存在
インフルエンサーの存在もアテンションエコノミーを加速させる大きな要因である。彼らは中毒性のあるコンテンツを作り出し、フォロワーの関心を引きつけることに特化している。時には「バズる」ことだけを目的としたコンテンツが制作されることもある。その結果、ユーザーはますます短時間で楽しめる情報を求めるようになっている。
インフルエンサーの存在はソーシャルメディア上で大きな影響を及ぼすようになった。彼らの影響力が、アテンションエコノミーを一層推進している。
アテンションエコノミーの罠

アテンションエコノミーは、一見すると便利で楽しいものに見えるが、その裏には多くの問題が潜んでいる。人々の注意を引くための情報は、時として日常生活にさまざまな負の影響を及ぼしている。
SNSへの依存症を助長する
SNSは私たちの日常生活に深く入り込み、その影響力を強めている。常に新しい情報や刺激を提供し続けることで、ユーザーがアプリから離れられないようにしている。ユーザーの生活リズムを乱したり、情報から取り残される不安に襲われるFOMOに陥るなど、現実世界での活動に支障をきたすことも多い。
2024年10月8日には、アメリカの13州と首都が「TikTok」を提訴した。彼らは「TikTokが若者たちの依存症を助長し、精神的および肉体的健康に悪影響を与えている」と主張している。
SNS依存症は、社会的孤立感や時間管理能力の低下を引き起こす原因にもなっている。アテンションエコノミーで関心が奪われ続け、SNSから抜け出せなくなることは人々の健康に害を及ぼすことが懸念されている。
メンタルヘルスに悪影響を及ぼす
アテンションエコノミーは、メンタルヘルスにも深刻な影響を与えている。情報が溢れる中で、ネガティブなニュースや刺激の強いコンテンツも当たり前のように流れてくることが、ユーザーにストレスや不安感をもたらしている。
特に若者においては、SNS上の「切り取られた他人」と「自分の現状」を比較しがちである。これは自己評価を低下させ、うつ病や不安障害を引き起こすリスクが高まっている。さらに、オンライン上でのいじめやハラスメントも深刻な問題となっており、これらがユーザーの精神的な健康を蝕んでいるのだ。
メンタルヘルスへの悪影響を防ぐためには、デジタルデトックスやオフラインでの活動を増やすことが有効だ。
集中力が低下する
アテンションエコノミーの影響で、私たちの集中力は確実に低下している。短い動画や一瞬で消費される情報に慣れることで、長時間の集中が難しくなっているのだ。これにより、学業や仕事においても集中力の低下が問題となっている。
また、次から次へと情報にさらされる状態が続くと、一つのタスクに集中することが難しくなるとの指摘もある。マルチタスクが常態化することで、さらに注意力が散漫になっているのだ。
集中力が低下すると、仕事や作業の生産性が低下し、ストレスの増加にもつながる。長期的な健康に悪影響を及ぼす可能性もあるため、集中力を取り戻すためのデジタルデトックスや時間管理の改善が必要である。
フェイクニュースが出回りやすい
アテンションエコノミーの中で、フェイクニュースの拡散も大きな問題となっている。情報が瞬時に広がる現代社会では、誤った情報や虚偽のニュースが簡単に出回ることがある。特にSNS上では、感情を刺激するコンテンツが拡散しやすいため、フェイクニュースが広がりやすい。
フェイクニュースが出回ると、ユーザーが偏った情報を信じる原因となり、社会全体の情報リテラシーの低下を招いている。対抗するためには、ネットリテラシーの向上や信頼できる情報源を選ぶことが重要である。
デジタルコンテンツのあり方を見直す企業の事例

デジタル社会において、企業の姿勢が私たちの生活や健康に与える影響は計り知れない。特にSNSの利用時間が増加する中で、ユーザーの生活にどのように寄り添い、健全なデジタルライフを提供するかが問われている。ここでは、デジタルコンテンツの見直しを図った企業の事例を紹介し、その取り組みがもたらす影響について考察する。
LUSH
イギリス発祥の自然派化粧品ブランド「LUSH」は2021年11月26日、InstagramやTikTokなどの公式SNSアカウントの更新を一斉に停止すると発表した。これは、SNSがユーザーに与える負の影響を懸念したためである。
LUSHのチーフ・デジタル・オフィサーは、「一部のSNSプラットフォームが、人々にスクロールさせ続け、リラックスできなくなるアルゴリズムを使っていることは、ラッシュの理念と相反する」と語っている。
ネバダ大学の研究では、SNSアカウントを持つ人の20%が少なくとも3時間に1回はチェックしなければならないと感じていることが明らかになっており、この依存症を懸念しての決断であった。この決断により、LUSHは消費者の健康と安全を最優先に考える姿勢を示している。
BeReal
BeRealは、ありのままの瞬間をシェアすることを目的とした新しいSNSで、2020年にフランスで立ち上げられた。ユーザーは1日1回、加工やフィルターを使わずにその瞬間の「リアル」を撮影する。通知が来たら2分以内に写真を投稿するルールがあるため、「映える」自分を演出するのが難しい。
BeRealは、SNS疲れやインスタ映え疲れに対する新しい選択肢として注目されている。投稿できるのは1日1回で友人間のみにシェアされる。新しい投稿をすると前の投稿が消える仕組みで、友人同士でその日その瞬間をシェアすることを楽しむことが目的だ。BeReal上で有名になることは望めないものの、若者の間では「キラキラしなくて楽」と人気がある。
BoringPhone
スマホの機能は年々進化を遂げ、ますます便利で多機能になっているが、その一方で、私たちの生活から関心を奪い、過剰に依存させる傾向も強まっている。これに対して、BoringPhoneはシンプルで必要最低限の機能だけを備えた「世界一退屈なスマホ」で、ユーザーがスマホに依存せずに過ごせるように設計されている。
ビールメーカーの「ハイネケン」と、アメリカのファッションブランド「ボディガ」のコラボにより開発されたこのスマホは、通話・ショートメッセージ・カメラ・GPSなどの基本機能のみを搭載している。そのため、Eメール・ブラウザ・ソーシャルメディア・アプリストアは含まれていない。
必要最低限の機能に制限することで、スマホに支配される生活から脱却できると注目を浴びている。スマホを使いすぎていると感じる人々にとって、デジタルデトックスの一環として利用できるだろう。
まとめ
アテンションエコノミーの中で私たちができることは、意識的に自分の注意を守ることである。例えば、デジタルデトックスを定期的に行ったり、情報の取捨選択を慎重にすることで、自分の精神的な健康を保つことにつながる。また、信頼性の高い情報源を選び、メディアリテラシーを高めることも重要だ。
私たちの注意を引く手法は、私たちの注意を引く手法も高度化していくと考えられる。しかし、企業や個人が倫理的な情報提供を行い、健全なデジタルライフを築くための取り組みが求められるだろう。アテンションエコノミーの影響を理解し、意識的に向き合うことで、より豊かな生活を実現できるのではないか。
参考記事
令和5年版 情報通信白書「アテンション・エコノミーの広まり」|総務省
知っておきたい16のキーワード「アテンション・エコノミー」|総務省
誰もが誘導されている アテンション・エコノミーによる支配|日経ビジネス
アメリカ13州と首都がTikTok提訴、10代若者のメンタルヘルスに「大混乱」もたらしたと|BBC NEWS
Be Somewhere Else|LUSH
アメリカで人気の新SNS「Be Real」 加工なしが魅力 インスタ疲れも|NHK
The Boring Phone
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