グリーフケアとは
グリーフケアとは、身近な人の死を悲嘆する人の心にそっと寄り添い、できるだけ立ち直ることができるよう、支援する取り組みのことだ。
グリーフは「深い悲しみ」を意味する言葉であり、喪失感や絶望感などの心理的な反応から、不眠や食欲不振、倦怠感などの身体的な反応まで、死別によって引き起こされる様々な影響のことを指している。このような状況をおもんばかり、必要に応じて「ケア(お世話)」をするのがグリーフケアだ。
グリーフケアの基本的な考え方は、対象者の悲しみを決して否定しないことだ。もちろん最終的な目標は、悲しみから立ち直り、再びエネルギーを取り戻すことにある。しかし、立ち直るための経緯や時間は人それぞれである。「いつまでも悲しんでいてはダメ」「楽しいことをしていれば大丈夫」というアドバイスは、むしろ逆効果になるかもしれないことを心がけなければならない。
また、大切な人を亡くした当初は、やるべきことに追われて活動的になっているケースは多く、この姿を見た人から「意外と元気そう」と思われてしまうこともある。しかし日常が戻った頃、改めて現実に襲われることで急激に悲嘆に暮れる人も多いため、安易な判断には注意が必要だ。
ペットロスとグリーフケア
人だけではなく、時には動物との死別を悲嘆することもあるだろう。動物と暮らしている人々にとって、その動物たちは家族である。当然ながらその悲しみは深く、なかなか立ち直ることができない人も多い。
これは一般に「ペットロス」といわれるものだが、未だ社会的には理解されにくく、周囲からの言葉によってさらに苦しみが増すことも。
このことから、ペットロスに陥る人々にもグリーフケアが必要だという声も広がっている。
グリーフケアの歴史

死別した人の心を癒すという取り組みは、1959年にイギリスで設立された団体による、未亡人と家族のためのカウンセリングサービスから始まったとされる。
その後、1960年代には欧米で広がるようになり、1972年にはイギリスの精神科医コリン・マーレー・パークスが死別と喪失をテーマとした論文を発表。そこで初めて「グリーフケア」という言葉が学術的に確立された。
日本では、1970年代から研究の対象として認識されはじめている。その後、グリーフケアの概念が広がる大きな契機となったのは、2005年に起きた福知山線脱線事故だ。突然家族を失い、重いグリーフに苦しむ遺族の姿から、2009年に日本で初めてグリーフケアを専門とした研究機関「グリーフケア研究所」を設立。2011年に発生した東日本大震災において、家族を失った子どもたちに向けて厚生労働省がグリーフケアを提供したことも、大きな話題となった。
グリーフケアが必要とされる背景
古来人々は、周囲のコミュニティの中でお互いに死別の悲しみを癒し合ってきた。日本でもグリーフケアという言葉が生まれるずっと前から、その役目は家族や地域の人々、お寺などが自然と担っていたのである。しかし戦後、急速に広まったグリーフケアという概念。そこには、グリーフケアの重要性や必要性が高まることは必至と思われる時代背景が大きくかかわっている。
人間関係の希薄化
人間関係が希薄になった現代では、隣人の顔を知らないばかりか、中にはインターネット上での繋がりしかないという人も。また核家族が一般的になるなど、家族関係にも変化があり、孤独死や老老介護なども年々増加傾向にある。
こういった環境の中、大切な人を失った悲しみに寄り添ってくれる人の存在が薄れているといわれているのだ。
看取り機会の減少
一昔前は、看取りは自宅で行われるのが一般的で、子どもたちは曾祖父母、祖父母など年長者の死と自然に関わっていた。
しかし近代にはいると、核家族が増加したことで家庭内で死を目の当たりにする機会が減少したことに加えて、今では大半の人が病院で最期を迎えるようになり、看取りの機会が減っている。このことから、「死」というものとの向き合い方が分からず、一人で抱え込む人が増えているという。
高齢化による死別経験の増加
年齢が上がるにつれ、両親や配偶者、友人との死別を立て続けに経験するようになることも決して少なくはない。そうした状況で周囲との付き合いが億劫になったり、一人暮らしになったりすることで人との繋がりが減り、悲しみを共有できなくなる可能性がある。
今後ますます高齢化する社会では、グリーフケアが必要な人々は増加すると考えられ、重要性はさらに高まるとされる。
グリーフケアの段階

グリーフケアにおける立ち直りの段階には、様々な意見やモデルが存在するが、ここでは大きく4つに分け、そのプロセスを辿っていく。なお、必ずしもこれらの段階に沿ったり、すべての段階を通過するわけではない。さらに、同じ段階を何度も行き来したり、段階が重複することもあるという。
- ショック期
大切な人を失い、真っ先に訪れるのがこの「ショック期」。亡くなったことへの衝撃から呆然としたり、麻痺した感覚になることもある。「皆が泣いているのに、自分だけ泣けなかった」という経験をした人の中には、このパターンが当てはまることもあるかもしれない。
また、受け止めることができず現実逃避をしたり、パニックに陥るなど、様々な症状としてショックが現れるのがこの時期だ。 - 喪失期
ショック期を経て、頭が少し落ち着きを取り戻すと、心に大きな穴が空いてしまったような感覚に陥る。亡くしたことを実感し、やがてショック期よりも強い悲しみや絶望に襲われる「喪失期」が訪れる。
頭では故人の死を理解しているつもりでも、感情がついていかず、不眠や頭痛、倦怠感など様々な身体症状が現れる時期でもある。 - 引きこもり期
故人の死を受け入れ、悲しみが頂点に達した頃、「もっとこうすればよかった」「なぜこんな目に合わなければいけないのか」「死とは何か」といった、様々な思案が浮かんでくる。
この時期を「引きこもり期」といい、自分の中にこもったり、実際に家から出なくなったりして、次々と心に浮かんでくる後悔や罪悪感、怒り、絶望などと向き合うようになる。 - 再生期
時間をかけて故人の死と向き合い、自分の人生をしっかりと歩むエネルギーが湧いてきたとき「再生期」が訪れる。表情や言動が明るくなったり、周囲の人との時間を楽しめるようになる時期だ。
この再生期に到達するまでの時間は、人によって大きく異なる。また、その方法も様々だ。なかなか立ち直れないからといって焦ってしまうのは、一番避けたいことだ。
悲嘆のプロセス12段階
ドイツの哲学者アルフォンス・デーケンが提唱したプロセスでは、上記の4つの段階よりもさらに細かく、12段階あるという。ここでは簡単に、「悲嘆のプロセス12段階」の項目のみを記述する。
- 精神的打撃と麻痺状態
- 否認
- パニック
- 怒りと不当感
- 敵意とうらみ
- 罪意識
- 空想形成ないし幻想
- 孤独感と抑うつ
- 精神的混乱と無関心
- あきらめからの受容
- 新しい希望(ユーモアと笑いの再発見)
- 立ち直りの段階(新しいアイデンティティの誕生)
グリーフケアにおける注意点
グリーフケアは専門家によるものばかりではなく、自分が支援する立場になることもある。身近な人が悲嘆しているとき、私たちはどんな言動を心がければいいだろうか。
傾聴に努める
相手が自分の力で死別を乗り越え、歩んでいくためにとにかく励まそうとしたり、手助けをしようとする人もいるだろう。しかし、むやみな励ましはかえって相手にプレッシャーを与えたり、知らない間に傷つけてしまう可能性を頭に入れておかなければならない。
グリーフケアにおいて、最も大切なことは「聞く」ことだ。アドバイスなどを挟まず、とにかく相手の悲しみを吐き出せる、安心して話せる環境をつくってあげることが重要である。
グリーフについて理解する
死別直後は周囲に気遣ってもらえるものの、しばらくすると「まだ落ち込んでいるのか」という周囲の無理解によって気持ちを抑え込んでしまう人もいる。
そうならないためには、グリーフ、すなわち「深い悲しみ」によって現れる心身症状や行動について、しっかり理解しておく必要がある。それらは正常な反応であると受け入れてあげることが、相手へ寄り添うことの第一歩だ。
まとめ
死別による悲しみは、誰もが経験しうるものである。またその悲しみは、人だけではなくペットを亡くした人にも襲い掛かるもの。つまり、グリーフケアを必要とする可能性は誰にでもありえることなのだ。
一見、通常通りの生活を送っているように見えても、ふとした瞬間に喪失感や絶望感で心が覆いつくされてしまうこともあるだろう。
日常生活に支障をきたすほどの症状ともなれば専門医にかかるほかないが、その前にしっかりとグリーフケアを受け、少しずつでも前に進んでいくことは可能かもしれない。
今後ますます重要となるグリーフケア。今はまだ自分事と思えない人でも、一度その必要性について、じっくり考えてみてもいいのではないだろうか。
【参考サイト】
グリーフとは-グリーフケアへの誘い|株式会社 日本香堂
グリーフケアの基本|援助の注意点 | みはまクラブ
グリーフケアとは|日本グリーフケア協会
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