発達障害とは?
発達障害とは、脳機能の発達の偏りに起因して生じる障害のこと。親の教育やしつけの問題ではなく、偏りのある発達の特性により、日常生活や社会生活、学業、職業上に機能障害が見られる状態を指す。
一般的には乳幼児から幼児期にかけて症状が現れるが、学童期や思春期、成人になってから顕在化することもある。自分勝手な行動などから「わがまま」「自分勝手」などと周囲から見られ、他人との関係づくりやコミュニケーションなどにも影響が及ぶケースが多く見られる。
日本では2004年に「発達障害支援法」が制定され、2007年にはそれぞれの症例の総称として「発達障害」という表記に統一。なお、「発達障害者支援法」では、発達障害を以下のように定義している。
「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」
障害の特性から、広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー症候群など)、注意欠陥多動性障害(AD/HD)、学習障害(LD)、トゥレット症候群などに分類される。複数の障害が重なって現れることや、年齢によって現れる症状が異なることもある。
発達障害の種類

発達障害にはさまざまなタイプの特性があり、以下のように特性ごとに分類される。ただし、特性だけで断定されるものではなく、また複数の特性をあわせ持っているケースもある。
広汎性発達障害
広汎性発達障害とは、コミュニケーション能力や社会性に関連する脳の領域に関係する発達障害の総称。自閉スペクトラム症とアスペルガー症候群が代表的だ。
●自閉スペクトラム症(ASD)…コミュニケーションの障害、対人関係・社会性の障害、パターン化した行動やこだわり、言葉の発達の遅れなどの特徴を持つ。一般的には自閉症と呼ばれることもある。
●アスペルガー症候群…自閉症と同様に、コミュニケーションの障害、対人関係・社会性の障害、パターン化した行動やこだわりなどの特徴を持つが、言葉の発達の遅れは見受けられない。そのため、幼児期に障害があることは分かりにくいが、成長するにつれて症状が見られる傾向がある。
この2つのほか、言語能力の欠如や手の反復動作などが見られるレット症候群、主に2歳以降に精神発達の後退が見られる小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害を含む。
注意欠陥多動性障害(AD/HD)
注意欠陥多動性障害はAttention-Deficit/Hyperactivity Disorderの略で、AD/HDとも言われる。ケアレスミスや忘れ物が多い(不注意)、じっとできない(多動・多弁性)、すぐに行動に移してしまう(衝動性)という3つの特性を持っている。
大人になってから診断がつくことも多いが、幼少期から不注意や騒動性などで社会活動、対人関係などで悩みを抱えることが多い。自分なりの工夫や対策によって対応することができるが、進学や就職などの社会環境の変化などによって対応が困難になることもある。
その一方、独自の視点や発想力が評価され、社会で活躍している人も多くいる。
学習障害(LD)
知的発達には問題はないが、書く、読む、話す、聞く、計算するなどの特定の能力を学んだり、行うことが難しい状態を指す。
例えば、読字障害(ディスレクシア)は文字が読めないのではなく、読むのが遅かったり、読み間違えることが多い障害。書字表出障害(ディスグラフィア)は文字を書いたり、文章にするのが難しい特性で、読字障害と書字表出障害が同時に発現することもある。
学習障害は「勉強不足」「努力不足」のほか、「勉強が苦手」という理由をつけられることによって見過ごされるケースも多い。そのため支援の開始が遅れやすく、勉強に対して自信を失ってしまっていることもある。一般的には学習到達度の遅れが1〜2年程度あると、学習障害とされる。
トゥレット症候群(TS)
トゥレット症候群は、主にチック障害を含む障害のこと。目をパチパチとさせたり、首をすくめるなどの運動チックと、咳払いや鼻鳴らしなどの音声チックが1年以上続くと重度なチック障害を持っているとされる。通常は、幼少期から思春期の間に発症し、成人するまでに軽減することが多い。
原因はいくつかあるが、脳内回路の異常やセロトニン系の神経伝達物質の異常などが関係しているとされる。
吃音
話し始める際に言葉が出てこなかったり、言葉に詰まったり、同じ音を繰り返したりする発達障害。一般的には「どもる」という状態を指す。人前で話すことが困難なことから、日常生活や学校生活に支障をきたしてしまう。
幼児期や児童期に発症する発達性吃音がほとんどを占め、学校行事に参加できない、授業で発表ができないといった状態になる。成長ととともに症状が軽減したり、消失するのが大半だが、青年期や成人になっても持続するケースがあり、その場合は就職できないなど社会生活にも影響が及ぶ。
発達障害の現状
世界と日本の発達障害の現状について解説していく。
世界の現状
発達障害に関する国際的な統計はないが、世界保健機関(WHO)によると世界の子どもと若者の約10%(約2億人)に、知覚障害、知的障害、精神障害があるとしている。また概算では、0〜14歳の2.5%に中度から重度の知覚障害、知的障害、精神障害があるとされる。さらに、0〜14歳の8%に、学習障害または行動的障害、その両方があると考えられている。
またアメリカの「疾病予防管理センター(CDC)」が2023年3月に公表した、2020年時の8歳児の自閉スペクトラム症の子どもの割合は全世界で2.76%となっている。2000年の0.67%から、2008年には1.13%となり、2018年には2.3%と、調査のたびに上昇している。
日本の現状
日本では、文部科学省が発達障害に関する調査を行っており、2022年12月には「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」を公表した。
これによると、「学習面や行動面で著しい困難を示す」とした割合は、小中学生で8.8%(推定値8.4%〜9.3%)、高校生では2.2%(推定値1.7%〜2.8%)となっている。このことから、小中学校には100人のうち8.8人の割合で発達障害の子どもがいると推定されている。
また信州大学が行った調査によると、2009-2014年度に出生した子どもの自閉スペクトラム症の累積発生率が5歳で約2.75%となっていることも報告されている。
さらに「令和5年度障害者白書」によると、国内の身体障害者は436万人、知的障害者は109万人、精神障害者は614万人いるとしている。知的障害者のうち18歳未満は22.5万人と報告している。これらすべての人が、発達障害に当てはまるわけではないが、何らかの障害をももつ人はこれほど多くいるということがわかる。
発達障害の人が直面する問題

発達障害はいじめや虐待などを招き、さらにニートや引きこもり、不安定就労にもつながるなど社会課題の一つになっている。具体的には、「差別」「孤独」「労働」の3つの課題が大きい。
差別に遭う
日本では2016年に制定された「障害者差別解消法」と「障害者雇用促進法」によって、障害者に対する不当な差別的取り扱いの禁止と合理的配慮を提供することが求められている。ただし、法律上は差別が禁止されているが、実態としてはさまざまなシーンで差別的な扱いは残っていると考えられる。
例えば、発達障害があることで、受けたい教育が受けられない、行きたい保育園の入所を断られた、入居を断られた、といった不当な扱い(差別を含む)を受けることがある。また本人を無視して、付き添いの人や介助者、支援者にだけ話しかける、対応を拒否することも差別にあたる。
孤立してしまう
発達障害の特徴には、コミュニケーション能力が欠如していたり、ルールの理解ができなかったり、協調性が欠如していることなどが多い。また、注意欠陥多動性障害(AD/HD)であれば衝動的な行動をしたり、学習障害(LD)であれば言葉が読めない、自閉症スペクトラムであれば自分の興味のあること以外には興味を持たないといった特徴がある。
こうした特徴を持つことから、周囲から煙たがられたり、扱いにくいと思われ、避けられるようになってしまう。そのため、発達障害者は社会から孤立するケースが多い。しかも発達障害者自身がこうした状況に慣れてしまい、「自分は嫌われている」「いつも周りから排除される」と思い込み、自分から孤立を選択してしまう例も少なくない。
社会的な孤立は、健康リスクに大きな影響を及ぼすとされる。うつ病リスクが2.7倍で、認知機能の衰えるスピードが20%早くなるという研究結果もある。また、不摂生などで糖尿病の発症リスクが1.4倍になるとも言われ、早死にするリスクが50%も高くなる。また孤立感が高まることで、自殺や犯罪率の上昇につながる傾向も報告されており、発達障害を起因とする孤立によって、このようなリスクが上昇する可能性も十分にある。
労働の機会が与えられない
一種の差別にあたるが、発達障害者は適切な労働の機会が与えられないことも大きな社会問題となっている。労働の機会が得られないことで経済的な困窮に陥ってしまい、独り立ちをするきっかけを失ってしまうことになる。
また、労働そのもの、あるいは労働によって収入を得ることは、人生のやりがいにもつながる。仕事にやりがいを持ってモチベーションを維持しながら働くことは、毎日の充実感につながり、さらには自己肯定感を高めて成長を促してくれることに他ならない。つまり労働の機会が与えられていないことは、発達障害者にとって人生の醍醐味を与えられていないと同じことを意味している。
また、障害者を適切に雇用しないことによる経済的な損失も算出されており、世界にいる13億人の障害者を社会から排除するとOECD諸国のGDP7%が損失されるという報告もされている。
なお、日本では「障害者雇用率制度」を設けており、身体障害者・知的障害者・精神障害者の労働者の割合を「法定雇用率」以上にする義務がある。民間企業の法定雇用率は2.5%で、従業員が40人以上の事業主は障害者を一人雇用する必要があるという計算になる。
日本での発達障害に対する支援や対策
日本で行われている発達障害に対する支援や対策について、法律と公的な支援サービスの側面から紹介する。
法律の整備
日本では発達障害者(児)の早期発見と支援を目的に、2004年に「発達障害者支援法」を制定している。それまでは障害者として見ていなかった自閉スペクトラム症やアスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害を発達障害として定義した。
また、切れ目のない支援が行われるよう2016年には「発達障害者支援法」を改正。国や地方公共団体が責任を持って、発達障害者の支援を行うことが明文化されている。さらに発達障害者の雇用を促進したり、差別を防止するために「障害者虐待防止法」「障害者優先調達推進法」「障害者雇用促進法」「障害者差別解消法」などを制定し、発達障害者に対する支援の範囲を幅広くし、内容も手厚くしている。
発達障害者支援センターの設置
発達障害者支援センターは発達障害者の指導や相談などを行っている機関で、2002年に「自閉症・発達障害支援センター」として創設。2004年に「発達障害者支援法」が制定されたことを受け、該当する施設を「発達障害者支援センター」として指定されている。なお、発達障害者支援センターは2024年4月現在、47都道府県に97施設を展開している。
発達障害者支援センターの主な支援内容は次の3つ。
・相談支援…発達障害に関わるさまざまな相談に応じている。本人や家族だけではなく、職場や学校関係者の相談にも対応している。必要に応じて、福祉制度の説明を行い、医療機関や福祉施設、教育機関の紹介も行っている。
・発達支援…発達障害者の発達に関する支援、家庭での療育方法について相談やアドバイスを行う。必要があれば、発達検査の実施や発達障害児の特性に応じた支援計画の作成も行う。また児童相談所や知的障害者厚生相談所、医療機関との連携も図る。
・就労支援…就労を希望する発達障害者の相談に応じている。また、公共職業安定所、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどの関係機関と連携して情報の提供も行っている。
このように、発達障害の人々やその家族の苦悩に寄り添いサポートるために、行政主導の支援も進んできており、日本においてもソーシャルインクルージョンが少しずつ推進され始めている。
私たちができること
日本では「空気を読む」ことを求める風潮があり、発達障害をもつ人々は生きにくい状況にあるとも言える。場の空気が読めない、相手の気持ちを理解しない、その場になじまない行動をしてしまう、といった特性があるからだ。
しかし発達障害は脳の偏った発達により、世界の見え方が違い、特有の考え方のもとで行動しているとされる。つまり発達障害の特性を理解し、さらにその人ならではの個性を尊重することで、大いなる才能が見いだされることもある。また、自分勝手に感じられる言動を理解することにもつながる。
発達障害は、周囲の理解と支援によって「障害」ではなく「個性」になるとされ、「発達障害に必要なのは治療ではなく対応」とも言われるほどだ。たとえ周囲とのズレを感じていても、周りの人が理解することによって、発達障害の特性を生かして自分らしく生きることができるようになるはずだ。
まとめ
日本の小学校の場合、発達障害を抱える児童は30人クラスであれば3人いる計算になる。しかし発達障害というくくりがあるからそのような計算が成り立つが、子どもの特性は十人十色。もっと言えば、発達障害を持っていても持っていなくても、誰でも未完成であり、誰かに何かしらの迷惑をかけるのが人間ではないだろうか。
SDGsの原則で「誰一人として取り残さない社会」が掲げられているように、それぞれが自分の個性を活かせる社会を築くことが大切である。誰でも異なる個性や性格をもつことは当然なのだから、発達障害の人をバリアの外に置くのではなく、特性や性格を理解し、社会の中で共存できるようにしたいものだ。「通常」という枠に、誰もが苦しめられることがないような社会を築くことが、いま求められている。
【参考記事】
発達障害ってなんだろう?|政府オンライン
通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について
令和5年版障害者白書
世界13億人の障がい者にとって「孤立感」は日常的。ポストコロナ時代を考える|Forbes
孤独・孤立|社会福祉法人岡崎市社会福祉協議会
発達障害|e-ヘルスネット
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