あなたのAIは誰の味方?パーソナライズ化されたAIが倫理観と行動を左右する

動画アプリを開けば、見たい動画が次々と提案され、ECサイトではおすすめの商品が並ぶ。AIによるレコメンドが、私たちの意思決定を驚くほど手軽にしてくれている。しかし、AIの最適化は本当に私たちのためなのだろうか。本記事では、AIがもたらす便利さの裏側にある価値観への影響と、透明性や公平性といった課題について考えていく。

パーソナライズ化されたAIへの問い

SNSのタイムラインには自分の興味のある投稿が並び、動画サイトでは次々と見たくなるコンテンツが提案される。オンラインショッピングでは「あなたにおすすめ」の商品が表示され、まるで自分の心を読まれているような体験が日常に溢れている。

背景にあるのは、AIのレコメンド技術だ。私たちの購買データや行動を解析して、最適な情報を届ける仕組みである。レコメンドのおかげで、情報にあふれた世界から最適な選択肢を見つける手間が省けるが、一方でAIの最適化は本当に私たちの味方となっているのか、という疑問が残る。この「最適化」が私たちに与える思考や行動の影響とは、いったいどんなものだろうか。


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価値観の「最適化」がもたらす個人の変容

AIのレコメンド機能が進化するほど、私たちは自分好みの情報だけに囲まれるようになる。これは、「フィルターバブル」と呼ばれる、過去の検索やクリックを元に判断された情報だけが届けられ、異なる視点に触れる機会が減る現象である。たしかに、興味に合ったコンテンツが自動で表示される環境は効率的だが、視野は確実に狭まっていくと考えられる。

そんなフィルターバブルの中で起こる現象として問題視されているのが「エコーチェンバー」である。これは、SNSで自分と似た考えを持つ人々とばかり交流することで、自分が発信した意見と似た反応ばかりが返ってくる状態を表す。同じような意見を繰り返し聞くうちに、特定の情報が正しいと信じ込んでしまうのだ。

フィルターバブルの内側にいると、目の前の情報が偏っているのか事実なのか判断できなくなる。そして、特定の価値観が強まると、異なる意見を拒絶し始めてしまう。時には、ネット上の意見の偏りが社会を分断し、民主主義さえも揺るがすリスクにもなり得る。

また、AIによる最適化は、「セレンディピティ」と呼ばれる偶然の出会いも奪ってしまう。たまたまクリックしたリンク先で思いがけない発見がある、関連性のない動画から新しい興味が生まれるなど、セレンディピティは人間としての幅を広げていくうえで欠かせない。しかし、自分の興味の外側との接点が失われることで、長期的には精神的な成長や豊かさが損なわれる可能性がある。


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レコメンド機能の目的と仕組み

AIはどのようにして私たちの好みを知るのだろうか。ECサイトを例にとると、まずはサイトへのアクセス履歴を集め、次に収集した情報をルールに基づいてモデル化する。最後に、条件にマッチした商品を表示するという流れだ。

よく用いられるのは「協調フィルタリング」と呼ばれる方式である。ユーザーの行動履歴をもとに、商品同士の関連性を分析して関連商品を表示したり、似た好みを持つ他のユーザーがチェックした商品を表示したりする仕組みだ。

ただし、レコメンド機能の目的は、ユーザーの利便性だけではない。プラットフォーム側の狙いは、サイトの滞在時間を伸ばし、購入につなげることにある。そのため、ユーザーが商品を見つけられずに離脱してしまう前に、興味のありそうな商品を効率的に表示している。

つまり、レコメンド機能は「エンゲージメント最大化」というビジネスモデルの一部なのだ。ユーザーの行動履歴やトレンド情報が把握できれば、商品の売れ行き予測を立てられる。在庫が多い商品や売れ残りそうな商品を特定のユーザーに優先的にレコメンドすることで、企業側は在庫を効率的に消化できるというメリットもある。

表向きは「あなたに合った提案」と謳い、ユーザーの満足度向上を掲げている。しかし裏側では、滞在時間と収益の最大化が優先されているのだ。

ユーザーの利便性と企業の利益は、必ずしも一致しない。私たちが「便利だ」と感じている体験の裏で、企業の経済原理が静かに働いている点を理解しておくのが大切だろう。


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社会システムとしてのAI倫理と公平性への挑戦

AIは世の中にある実際のデータから学習する。しかしデータには、社会の差別や偏見が含まれている場合がある。結果として、AIは社会に存在するバイアスを学習し、増幅してしまう危険性があるのだ。

具体的な事例として、米アマゾンが開発したAIによる人材採用システムは、女性を差別するという学習面での欠陥が判明し、運用を取りやめる結果となった。AIに過去10年分の履歴書パターンを学習させたところ、エンジニア職の応募は男性が多かったため、「女性」に関連する単語が入った履歴書の評価を下げてしまったのだ。

偏ったAIの判断は、特定のユーザーに不利益をもたらし、社会の格差を固定化させるリスクがある。AIはユーザーの過去の検索やクリックという初期行動を学習するが、初期行動が特定の情報ジャンルに偏っていた場合、AIはその偏りを個人の強い興味だと誤認してしまう。

たとえば、娯楽情報ばかり見るユーザーに対しては、専門的な情報には「興味がない」と判断する。結果、キャリアアップにつながる情報や学びの機会が表示されなくなり、人生の選択肢を狭めてしまう可能性があるのだ。

AIが生み出す格差を防ぐには、アルゴリズムの監査や規制といった社会的な仕組みが必要だ。日本では2019年に内閣府が「人間中心のAI社会原則」を公開しており、さまざまな人々が幸せを追求できる社会の実現を掲げている(*1)。テクノロジーが進化し続ける世界において、AIが倫理的な問題を起こさないルールづくりがより求められていくだろう。


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テクノロジーと主体的に関わることの重要性

AIは便利な存在であると同時に、私たちの価値観や選択を気づかないうちにコントロールする側面も持っている。自分好みの情報に囲まれる便利さと引き換えに、私たちは何を失いつつあるのだろうか。

レコメンド機能と付き合う上で大切なのは、「なぜこれが表示されるのか?」と問いかける習慣を取り入れることだ。デジタルリテラシーと呼ばれる批判的な視点を持つことで、自分の意思決定がどこまで自分自身のものなのかを見極められる。

ただし、個人の努力だけでは限界があるため、プラットフォーム側にも変わってもらう必要があるだろう。なぜその情報が表示されるのか、どんなデータが使われているのか。ユーザーにきちんと説明する責任を果たしてもらわなければ、技術だけが先に進んで倫理が置き去りになってしまう。

AIとの付き合い方に正解はない。ただ、AIが提案してくるものをそのまま受け取るのではなく、ちょっと立ち止まって考えてみてはどうだろうか。便利さを拒絶する必要はないが、自分で考える感覚まで手放してしまわないように意識するだけで、AIとの関係性は変わってくるだろう。

Edited by s.akiyoshi

注解・参考サイト

注解
※1 人間中心のAI 社会原則|内閣府

参考サイト
Amazon Personalizeと生成系AIでマーケティングソリューションを高度化する | Amazon Web Services
令和元年版 情報通信白書|インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの|総務省
令和5年版 情報通信白書|フィルターバブル、エコーチェンバー|総務省
レコメンド機能|なるほど統計学園|総務省統計局
レコメンドとは?仕組みやメリットを理解しECサイトを活性化させよう|Salesforceブログ
AI公平性・説明可能AI(XAI)の 概説と動向|株式会社日本総合研究所 先端技術ラボ

About the Writer
中村衣里_中村エレナ

エリ

大学時代は英米学科に在籍し、アメリカに留学後は都市開発と貧困の関連性について研究。現在はフリーライターとして、旅行・留学・英語・SDGsを中心に執筆している。社会の中にある偏見や分断をなくし、誰もが公平に生きられる世界の実現を目指し、文章を通じて変化や行動のきっかけを届けることに取り組んでいる。関心のあるテーマは、多様性・貧困・ジェンダー・メンタルヘルス・心理学など。趣味は旅行、noteを書くこと、映画を観ること。この人が書いた記事の一覧

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