インフォームド・コンセントとは?患者の選ぶ権利を保障するための概念について

インフォームド・コンセントとは

インフォームド・コンセントとは、「知らせた」を意味するインフォームド(Informed)と「同意」を意味するコンセント(Consent)を掛け合わせた造語で、医療行為を受けるときに、医師などの医療従事者から十分な説明を受けて、その説明を理解・納得した上で同意することを指す。

つまり、インフォームド・コンセントは、医療従事者が患者やその家族に対して十分に説明をすることで、患者の「選ぶ権利」「自己決定権」「納得感」を尊重する、非常に重要なプロセスだと言える。

インフォームド・コンセントの歴史

インフォームド・コンセントの概念は、第二次世界大戦後に生まれたと言われている。第二次世界大戦中、ナチス・ドイツは、ユダヤ人に対して差別的で非人道的な人体実験や大量虐殺を行った。戦後、こういった過ちが二度と起きないように、医療に対してより高い倫理観が求められるようになった。

契機となったのは1973年、アメリカの病院協会が「患者の権利章典」を採択したことだ。「患者の権利章典」では、医療を受ける際、患者が医療従事者から十分に情報提供を受ける権利があることが示された。

これに伴い、日本国内でも1990年ごろから「患者には医療従事者からきちんと納得感の得られる説明を受ける権利がある」という考えが広まり、インフォームド・コンセントの概念が広まっていったのだ。

つまり、日本では、「インフォームド・コンセント」という概念が一般的になってから、まだ約30年しか経っていないということになる。そのため、いまだに一部の医療機関では医師が説明を怠るケースもある。

インフォームド・コンセントの具体的なプロセス

次に、インフォームド・コンセントの具体的なプロセスについて見ていこう。

ステップ1. 医療従事者が情報を提供する

まずは、患者に「知らせる」必要がある。

ステップ1は、医療従事者が、患者の症状、治療方法の選択肢、予想される効果、副作用、代替医療の有無、セカンドオピニオンを受けるべきか、などを患者に知らせる段階だ。この時に重要なのは、患者が理解できるように噛み砕いて説明する、という点だろう。医療の専門用語を使って説明したのでは、一般人は理解できない場合もある。必要があれば、図解するなどして、わかりやすい説明を心がける必要がある。

また、「知らせる」ために特別な配慮がいるケースもある。たとえば、患者が外国人で日本語の理解が難しい場合は、よりわかりやすい日本語を使う必要があるし、場合によっては通訳を連れてくるようアドバイスする必要があるだろう。また、患者が痴呆症、アルツハイマーなどを患っている場合には、一度説明を聞いただけでは理解できない場合もあるし、忘れてしまうケースもある。その場合は、保護者などのサポーターを連れてくるよう依頼する必要があるだろう。

いずれにせよ、患者本人または保護者に「わかりやすく」説明することが不可欠だ。

ステップ2. 患者が理解しているかを確認する

全て説明した後に、患者の理解度を尋ねる必要がある。

「何かわからないことがありますか?」「不安があれば後からでもいいのでいつでも質問してください」などのフォローの言葉があると、患者は安心できるだろう。

医師が忙しそうにしている場合、患者はもう一度説明をしてほしいと思っても遠慮してしまうケースがある。黙っているから完全に理解しているというわけではない、と理解し、患者の不安を取り除けるよう、配慮する必要があるだろう。

ステップ3. 同意をとる

医師から説明を受けた患者は、どのような治療法を選ぶのか、迷うかもしれない。その場合は急かさずに、患者の意思が固まるのを待つ必要がある。

患者が納得できたら、同意書に署名を行う。そしてようやく治療が始まる。「インフォームド・コンセント」のこの3ステップを踏むことで、患者は自身の治療に納得感を抱くことができ、積極的に治療を受けることができるようになるのだ。

インフォームド・コンセントの目的

インフォームド・コンセントの目的

インフォームド・コンセントにはさまざまな目的がある。ここでは主な目的について解説していく。

1. 医療従事者と患者の信頼関係をつくる

通常、患者は自身の病気に対して、どれくらいの重さなのか、完治するのか、など不安を抱えていることが多い。不安要素が多い中で治療を進めていると、「本当にこの医師の言うとおりにすべきなのか」と疑心暗鬼になってしまうこともある。

一方、医療従事者がしっかりと説明し、患者が納得することができれば、相互の信頼関係を育むことができる。「この医師(あるいは理学療法士、看護師など)は頼りになる」と思うことができれば、よりリラックスした状態で治療に臨むことができるだろう。

2. 患者が自分で治療方法を選べるようになる

インフォームド・コンセントという概念が広まるまでは、「医療の専門家は医師であり、素人である患者は口を挟むべきではない。医師の言うことに従うべきだ」という考え方が主流であった。そのため、患者は医師の治療方針に疑問を抱くことが許されず、与えられた治療を粛々と受け入れるしかない場合も多かった。

しかし、インフォームド・コンセントの概念が一般的になると、患者が自分自身の治療方法を選ぶことができるようになった。かかりつけの医師の治療方針や説明の仕方に納得がいかなければ、セカンドオピニオンとして別の医師を頼ることも一般的になったのだ。

つまり、インフォームド・コンセントという概念が普及するに従って、患者側の選択肢が大幅に広がった、と言えるだろう。

3. 治療効果を高める

患者が「こんな治療やる意味あるのかな」と疑っている場合と、「この治療をすることで症状が改善するはず。この治療が最適だ」と思えている場合では、どちらが治療に積極的になれるかは明らかだろう。インフォームド・コンセントによって納得いく治療方法を選択できれば、治療に積極的になることができ、ひいては治療効果が高まることも期待できるのだ。

インフォームド・コンセントに関する困難

インフォームド・コンセントは、患者の自己決定権を守るだけでなく、医療の質を向上させるためにも重要なプロセスだ。患者が治療内容を理解し、納得して治療に臨むことで、治療への協力体制が高まり、結果として治療効果の向上が期待できる。また、医療者とのコミュニケーションが深まることで、信頼関係が強化され、医療過誤の防止にもつながるだろう。

このように、インフォームド・コンセントにはたくさんの利点があるが、実際の現場では、しっかり説明し同意をとる、というプロセスを踏むのが難しいケースもある。

以下で、インフォームド・コンセントが難しくなる要因を解説していく。

1. 説明が難しい

医師が患者に治療について説明する際、専門用語を使わずに解説するのが難しい場合がある。平易な言葉で噛み砕いて説明する必要があるが、医師は医療のプロであって、伝えるプロではないので、人によっては、解説が下手な人もいる。

インフォームド・コンセントを徹底するためには、各々の医師が患者への伝え方を学べる勉強会に参加するなど、トレーニングを積む必要があるだろう。

2. 患者側に理解する能力が足りない

患者がまだ幼かったり、老化により理解度が落ちていたり、読み書きの能力が低い場合、いくら医師の解説がうまくても伝わらないことがある。

こういった場合は、保護者やサポーターが患者の理解を助けるために手助けをする必要があるだろう。

3. 時間がない

物理的に時間が足りずに十分な説明が行えない場合もある。医師が忙しそうにしているために、患者側が疑問を感じても、気軽に質問できない場合も珍しくないだろう。

インフォームド・コンセントを行うために必要なこと

十分なインフォームド・コンセントを行うためには、医師の数を確保するなど、国をあげての対応が必要だ。そして、医師になった後も、学び続けられる環境を整える必要があるだろう。

さいごに

医療従事者から十分に説明を受けた患者が、「インフォームド・チョイス」(複数の治療法から患者が選択する)をし、「インフォームド・ディシジョン」(患者が治療に対し自己決定する)することが、「インフォームド・コンセント」であり、「インフォームド・コンセント」は、患者の自己決定権を尊重するためにとても大切なプロセスだ。

インフォームド・コンセントという概念を知っていれば、「納得できない治療は受けるべきではない」という意識が生まれる。そうすれば、自分や周囲の大切な人が治療を受ける際、納得いくまで説明を求めることができるだろう。自分でも積極的に情報を集め、不安を医療従事者に伝えることで、納得のいく医療を受けることができるはずだ。

参考記事
患者の権利憲章|米国病院協会
インフォームドコンセントガイドライン|藤田医科大学

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