マルチバースとは?宇宙は一つではない?注目される背景や根拠、代表的な仮説をご紹介

マルチバースとは?

マルチバースとは、複数の宇宙が同時に存在するという概念である。ユニ(一つの)バースに対して、「マルチ(複数)」と「ユニバース」を掛け合わせた造語で、日本語では「多元宇宙」とも呼ばれる。これは、一つの宇宙だけが存在するのではなく、無数の宇宙が並行して存在する可能性を探る科学的な理論である。

マルチバースの概念は、宇宙の成り立ちやその進化について新たな視野を広げる。例えば、「ビッグバン理論」では、一つの宇宙が急速に膨張して現在の形になったとされる。しかし、マルチバース理論では、そのビッグバンが無数に存在する可能性があるとされている。それぞれの宇宙は異なる物理法則や条件を持ち、私たちが住む宇宙とはまったく異なる世界が広がっているかもしれないのだ。

また、マルチバースは哲学的な問いも引き起こす。「私たちが存在する宇宙は無数の可能性の一つに過ぎない」という考え方に触れると、さまざまな哲学的な疑問が生まれる。例えば、「私たちが生きる意味や価値観、倫理的な選択がどのように影響を受けるのか」といった問題である。また、無数の宇宙が存在する中で、私たちがどのような存在であるのか、そしてその中での自由意志の意味についても深く考えさせられる。これらの問いは、私たちの認識や存在意義を再考させる契機となる。

マルチバースの研究はまだ始まったばかりであり、その全貌は未知数である。しかし、この概念は宇宙の理解を深化させ、新たな科学的発見や理論の発展につながる可能性を秘めている。

パラレルワールドとの違い

マルチバースとパラレルワールドは、一見似ているが異なる概念である。どちらも複数の世界が存在することを前提とするが、マルチバースは科学的理論に基づき、異なる物理法則や条件を持つ無数の宇宙が存在する可能性を探る。

一方、パラレルワールドは、同一の時間軸で異なる選択や出来事が展開する「仮想世界」を指す。例えば、「私たちの世界と似た別の現実が存在し、私たちの選択や行動が異なる結果をもたらすという」という考え方だ。

マルチバースは異なる宇宙の存在を示唆し、その研究は物理学や宇宙論に根ざしているが、パラレルワールドは選択や出来事が異なるだけで基本的には同じ現実を扱っており、フィクションや哲学的思考から生まれたものである。

注目される背景

マルチバースとは?

マルチバースが注目される背景には、いくつかの理由がある。まず、哲学的な問いや思想とも深く結びついている点が挙げられる。無数の宇宙が存在するとする考え方は、人間の存在意義や自由意志についての深い洞察を促す。哲学者や思想家、そして一般の人々の間でも大きな関心を呼んでいる。

また、エンタメ業界でもマルチバースのアイデアが広く取り入れられている。映画・テレビ・ドラマ・漫画などで、異なる世界やパラレルワールドを舞台にしたストーリーが多く描かれるようになった。マルチバースという概念が一般の人々にも広まり、理解されやすくなったことも注目される理由の一つである。

さらに、メタバースの発展もマルチバースへの関心を高める要因となっている。メタバースとは、仮想現実空間であり、インターネット上の3D空間で人々が交流し、活動することができる世界である。メタバースのコンセプトは、現実世界と並行して存在する別の世界という点で、マルチバースのアイデアと共鳴している。この仮想空間の進化が、物理的な世界だけでなく、多次元的な宇宙についての関心を喚起しているのだ。

これらの要素が組み合わさり、マルチバースは哲学、エンターテイメント、そしてメタバースといった多様な分野で注目を浴び、広く認知されるようになってきたのである。

メタバースとの関係

メタバースとの関係

マルチバースとメタバースは、異なる概念ながら現代のテクノロジーと密接に関連している。メタバースとは、インターネット上に構築された仮想空間であり、世界中の人々が自由に行き来できるバーチャルな世界を指す。この仮想空間は、VRやAR、3DCGなどの先端技術を活用しており、現実世界とは異なる体験を可能にする。

一方、マルチバースは物理学の概念であり、複数の異なる宇宙が存在するという理論である。これらの宇宙は、生態系や物理法則が異なり、その間を移動したり交わったりすることはできない。つまり、メタバースは仮想空間におけるもう一つの現実であり、マルチバースは現実の宇宙が複数存在するという考え方である。

ビジネスの世界では、メタバースとマルチバースの融合が進行中である。例えば、仮想空間での活動がブロックチェーンや暗号資産と結びつき、ユーザーやデジタルアイテムが自由に行き来できる世界が生まれつつある。これにより、消費者や企業の動き方、ビジネスのあり方、マーケティングの手法などに大きな変化がもたらされるだろう。

マルチバースとメタバースの概念が交差することにより、物理的・デジタル・バーチャル空間の三つの異なる経験から、新たな価値が生まれることが期待される。

マルチバースに関する代表的な仮説

マルチバースにはいくつかの仮説があり、特に有名なのが「泡宇宙モデル」と「多世界解釈」である。これらの仮説は、それぞれ異なるアプローチで無数の宇宙や現実の存在を説明する。

泡宇宙モデル

泡宇宙モデルは、宇宙がビッグバンによって誕生し、その後急速に膨張して無数の小さな宇宙が生まれると考える。これらの小宇宙は「泡」のようにたくさん存在し、それぞれが異なる物理法則や条件を持っているかもしれない。例えば、私たちの宇宙と似ている宇宙もあれば、全く異なる性質を持つ宇宙もある。

泡宇宙モデルでは、宇宙の膨張が続く限り新たな宇宙が次々と生まれ、それぞれの宇宙が独立して存在していると考えられている。観測が不可能な領域に存在するため、直接的な確認は難しいが、理論的には無限の可能性を秘めている。

多世界解釈

多世界解釈(エヴェレット解釈)は、1957年に観測物理学者ヒュー・エヴェレット氏によって提唱された理論である。量子力学に基づき、観測結果が確定するたびに宇宙は分岐し、無数の並行する世界が存在するという考え方である。

例えば、コインを投げた場合、表が出る「世界」と裏が出る「世界」の両方が同時に存在し、それぞれが並行して進行するというものである。この解釈では、私たちが一つの選択をするたびに、異なる選択をした別の自分が存在する宇宙が生まれ、それぞれの宇宙が並行して存在することになる。

多世界解釈は、量子力学の奇妙な性質を説明する試みとして非常に興味深いものであり、異なる現実がどのように並行して存在するのかを考える視点を提供している。科学者たちにとっては、未だ解明されていない多くの謎を解く鍵となるかもしれない。

「宇宙が一つではない」とする科学的根拠

「宇宙が一つではない」とする科学的根拠

科学者たちが「宇宙は一つではない」と考える理由には、いくつかの科学的な根拠がある。例えば、私たちの宇宙がなぜ特定の物理定数(重力の強さや光の速度など)や性質を持っているのかを説明するためには、他の宇宙が存在するという仮説が有力視される。

物理定数が微妙に異なるだけで、宇宙の性質や存在する物質が大きく変わる可能性がある。なぜ私たちの宇宙がこれほど「ちょうど良い」条件を持っているのかを考えると、「無数の宇宙が存在し、その中の一つとして私たちが観測されるだけである」という考え方が浮上するのだ。

また、観測される現象やデータが、単一の宇宙モデルでは説明しきれないことも理由の一つである。例えば、宇宙の加速膨張・暗黒物質・暗黒エネルギーの存在などが挙げられる。これらの現象を説明するためには、複数の宇宙が存在し、それぞれが異なる物理法則や条件を持っているという仮説が有力視される。

さらに、量子力学の観測問題も他の宇宙の存在を示唆している。量子力学では、物体の状態が観測されるまで決まらないとされており、この「未確定な状態」が他の宇宙で観測される可能性があるという考え方である。これにより、私たちが観測する宇宙は、数多くの可能性の中の一つに過ぎないという結論が導かれる。

これらの科学的根拠に基づき、マルチバースの概念はますます注目されており、さらなる研究が進められている。マルチバースの存在を解明することで、私たちの宇宙や存在についての理解が深まることが期待されている。

マルチバース作品の歴史

マルチバースという概念は、長い歴史を持つフィクションの世界で頻繁に取り上げられてきた。最初にこの概念が注目されたのは、1920年代から1930年代にかけてのサイエンスフィクション小説であった。当時の作家たちは、異なる現実や並行世界の存在を探求し、物語に取り入れることで新たな展開を試みた。

1940〜1950年代には、コミックブックがマルチバースのアイデアを広める重要な役割を果たした。特に、DCコミックスは「フラッシュ・オブ・ツー・ワールズ」というストーリーラインで、異なる宇宙のヒーローが共存する世界を描いた。このアイデアは、後に他のコミックシリーズにも影響を与え、多くのスーパーヒーロー作品で取り入れられることとなった。

1980年代には、テレビや映画もマルチバースのコンセプトを取り入れ始めた。特に、アメリカのFOXチャンネルで放映された「スライダーズ」というテレビドラマでは、主人公たちが異なるパラレルワールドを旅する様子が描かれ、視聴者に強い印象を与えた。この頃から、マルチバースはエンターテインメントの一部として広く認知されるようになった。

21世紀に入ると、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)や「スパイダーマン」シリーズなど、映画の分野でもマルチバースが重要なテーマとして扱われるようになった。これらの作品では、異なる宇宙のキャラクターが交わることで、複雑で魅力的な物語が展開されている。

このように、マルチバースの概念は、長い歴史を経てさまざまなメディアで進化し続けている。未来のエンターテインメントにおいても、マルチバースは新たなアイデアや物語の舞台として重要な役割を果たし続けるであろう。

まとめ

今後、マルチバースの研究はさらに深化し、科学的な証拠や新たな理論が発見されることが期待される。量子力学や宇宙論の進展によって、他の宇宙の存在が証明される可能性もゼロではない。

また、技術の発展により、仮想現実やシミュレーションを通じてマルチバースの概念がより具体的に体験できるようになるかもしれない。

マルチバースの研究が進むことで、私たちの宇宙観や存在意義に対する理解も深まる。同時に、異なる宇宙の可能性を探ることで、人類の想像力や創造性が刺激され、さまざまな分野に影響を与えるだろう。

マルチバースは、科学とフィクションの交差点であり、その探求は私たちの視野を広げる大きな一歩となる。

参考記事
マルチバース、パラレルワールド、異世界の科学的根拠|ナショナルジオグラフィック
宇宙は一つではない?多元宇宙に2つの仮説|日本経済新聞

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