
概要
INTRODUCTION
この回で伝えたいこと。
渋谷のまちでは、毎日膨大な量の“カット後の髪の毛”が生まれている。
これまで当たり前のように「ゴミ」として処理されてきた素材だが、
実は多様な可能性を秘めた資源でもある。
美容室が最も多い渋谷だからこそ、この“小さな資源”が
まちの循環につながる未来を描けるかもしれない。
今回は、一般社団法人マターオブトラストジャパンの
濱七彩子さんをゲストにお迎えし、髪の毛をめぐる循環の可能性について語りあう。
ゲスト
GUEST
対話の扉を開き、新しい世界を描き出す。

濱 七彩子
一般社団法人Matter of Trust Japan代表。理美容廃材、とくに髪の毛を活用した環境保全プロジェクトを推進。海洋汚染対策や地域循環モデルの構築に取り組み、国内外のヘアリサイクル普及を牽引している。
テーマ
THEME
この回を読み解く言葉。

美容師とベテラン農家が仕掛ける実験。髪の毛で育つ「あけぼの大豆」が示す持続可能農業
美容室で日々廃棄される「髪の毛」が、地方の農業を支える資源になるとしたら。横浜の美容室と山梨県身延町のベテラン農家による異色のコラボが今、注目を集めている。実験の舞台は、地域在来種「あけぼの大豆」の畑。KWは、髪に含まれる「ケラチン」だ。これは美容と農業、都市と地方をつなぐ新しいサーキュラーエコノミーの実験である。
用語集
RELATED TERMS
番組中に登場するキーワード解説。
注目
HIGHLIGHTS
心に刻む、その一言。

髪の毛が海や土を守る資源になると知ると、皆さんびっくりされます。

渋谷で生まれた髪の毛が、渋谷の飲食店で出る油を吸い、
最終的に渋谷の焼却場で燃料として使われる——街の中だけで循環するモデルがつくれるかもしれない。

髪の毛という、身近でありながらゴミにも資源にもなる存在を、
ひとつの街の中で循環させることができたら、とても面白いですよね。
音声で聴く
AUDIO
声に触れて、世界を感じて。
文字で読む
TRANSCRIPT
言葉の行間に、心をたどる。
日本一美容室が多い渋谷と「髪の毛ゴミ」(00:26~)
小原
本日もよろしくお願いいたします!
望月・福田
よろしくお願いいたします!
小原
この番組では、「今まで捨てていたものを、どう資源として循環させていけるか」をテーマにお届けしています。今月のゴミッションは「日本一美容室の多い渋谷区で、廃棄される髪の毛を再資源化できないか」 です。
日本では美容室の数がコンビニを上回るとされ、2024年の渋谷区では前年度から288店増えて3,007店に達している。1km²あたり約199店舗という極めて高い密度となっている。
関西SDGsユースアクションの資料では、日本国内で一年間に廃棄される髪の毛は推定約1万トン。東京都を除く48都道府県のうち13県は渋谷区より美容室が少ないとされ、渋谷区は国内でも髪の毛の廃棄量が最も多い地域の一つに位置づけられる。
小原
望月さん、この1万トンの髪の毛が全部リサイクルされたら、環境にも経済にも大きなインパクトがありますよね。
望月
そうですね。今は大半が廃棄されていると思いますので、それがリサイクルされて経済合理性のある形で何かの製品になっていくのであれば、社会にとっても良いことだと思います。
小原
ただ、ヘアドネーションは31cm以上必要で、提供する側にもハードルがあります。さらに髪の毛はミイラにも残るほど分解されにくく、土に還りにくい。だから焼却処理になってしまい、コストもCO₂も発生する……
ということで、今日は 髪の毛の再資源化に実際に取り組む方 をお迎えしました。
一般社団法人マターオブトラストジャパンの濱七彩子さんです。よろしくお願いします。
濱(以下、敬称略)
よろしくお願いいたします。
小原
まず、マターオブトラストジャパンで髪の毛をどのように活用しているのか、教えていただけますか?
濱
はい。本来、美容室から事業ゴミとして廃棄されていた髪の毛に着目し、髪の表面のキューティクルが油を吸着する特性を利用して、ドネーションでいただいた髪をヘアマットに加工しています。それを海での油流出現場や、最近では農業などの現場で活用しています。アメリカ発の取り組みで、私は日本での展開を広めています。
髪の毛が海と畑を守る?「ヘアマット」の活用が広がる(09:21~)
小原
髪の毛が油を吸うなんて知らない人も多いですよね。ヘアドネーションのように長さの条件などはあるのでしょうか?
濱
ヘアマットに使う髪の毛は、10cm以上あれば大丈夫です。
加工の工程で、2〜10cmほどの短い毛と10cm以上の長い毛に分けて使っています。31cm以上が必要なヘアドネーションよりも、ずっと参加しやすい仕組みですよね。
小原
カラーやパーマをかけている髪でも大丈夫ですか?
濱
はい、基本的にどんな髪でも受け入れています。
髪質や状態によって吸着率が多少変わることはあると思いますが、寄付のハードルは上げないようにしています。
小原
濱さんがこの活動を始めたきっかけは?
濱
2020年の大型船舶の油流出事故がきっかけです。
油にまみれた海の映像を見て「何か自分にできないか」と調べていた時に、髪の毛で油回収をしている海外団体を知り、思い切って連絡しました。オンラインで話す機会をいただき、その後日本で拠点をつくることになりました。2021年にヘアマット製造機が届き、活動が本格化しました。
小原
世界でも同じ取り組みが増えているそうですね。
濱
はい。始めた頃は13〜14カ国ほどでしたが、今はフィリピンや韓国など次々に新しい拠点ができていて、どんどん増えています。
小原
海だけでなく農業でも活用されているとか。
濱
そうなんです。ヘアマットを土の上に敷くことで、「断熱」「保湿」「雑草抑制」などの効果が期待できますし、髪の主成分であるケラチン(窒素を含むたんぱく質)が、分解されながら土壌の栄養として作用します。海外では、ヘアマットを敷いた区画で収穫量が30%増えた実験例 もあります。日本でも原宿の原っぱファームや、山梨県身延町の大豆畑で実験しています。
渋谷発「髪の毛×飲食店×焼却炉」の循環モデルを実現できるのでは!?(23:44~)
小原
これからヘアマットを社会に停泊させていくうえで、いま濱さんが感じている課題はどんな点でしょうか?
濱
はい。活動を知ってくださる方は増えましたが、活用に結びつけるのは簡単ではありません。現状は「髪の毛で本当に吸うの?」「扱いはどうなの?」という声も多いです。化成由来のオイルマットのほうが使い勝手も良く、効果も安定しているので、現場でヘアマットが優先される状況にはまだ至っていません。
望月
業界や行政が一緒に動く必要もありますよね。
福田
渋谷のように美容室が密集している街で広がったら、どんな可能性があるでしょうか?
濱
髪の毛って「落ちた瞬間にゴミ」という感覚が強いんですが、それが海や土を守る資源になると知ると、皆さんびっくりされます。その驚きが「ほかにも資源になるものはないか」という意識変化につながっています。
望月
ビジネスモデルとして考えると、渋谷区内の飲食店のグリストラップにヘアマットを入れて油を吸わせ、その油を吸ったマットを、廃棄物を高温で焼却する「クリーンセンター(ごみ処理場)」の燃料として活用する、という循環も考えられます。つまり、「渋谷の美容室で切られた髪の毛が、渋谷の飲食店で出た油を吸い、渋谷の焼却場で燃料として使われる」という、街の中だけで回る循環です。
濱
実は私が運営する世田谷のカフェでも、グリストラップに髪の毛を入れて油を吸わせていて、その後、生ごみや落ち葉と一緒にコンポストに入れて堆肥化する実験をしています。
「油を吸って終わり」ではなく、さらに次の循環につなげるという意味で、望月さんのお話はまさに同じ方向性だと感じました。
福田
髪の毛という、身近でありながらゴミにも資源にもなる存在を、ひとつの街の中で循環させることができたら、とても面白いですよね。
小原
本当にそう思います。人口増加とともに世界で焼却される髪の毛も増えていく。人間が日常的に生み出す再生可能な資源として、どう活用していくか。今日の話が渋谷から始まるサーキュラーエコノミーのヒントになったのではないでしょうか。皆さん、本日はありがとうございました。
濱・望月・福田
こちらこそ、ありがとうございました。
小原
こうした“小さな循環”を積み重ね、渋谷が「捨てるものがない街」になっていけたらいいですね。また次回お会いしましょう〜!
連載
MORE STORIES
小原信治が紡ぐ、もうひとつの物語。

種蒔く旅人Ⅱ
~2040、未来の君へ~
文・写真 青葉薫
夕陽が海に沈む三浦半島・秋谷。15年前に都会を離れ、この海辺のまちで「食べるものを育てる」暮らしを手に入れた。
朝は産み落とされたばかりの鶏卵を炊き立ての白米にかけ、夜は目の前の海で採れた魚と自分たちで育てた野菜で晩酌を楽しむ。心はいつも凪いでいる。
だが今、気候危機という現実が、この美しい日常に影を落とす。2040年、娘が大人になる頃の世界はどうなっているのか。
この海辺のまちで生まれた我が子に何を残せるのか。未来への「希望の種」を探す新たな旅が始まる。旅するように暮らす、この町で。



































1万トンの髪の毛が全部リサイクルされたら、環境にも経済にも大きなインパクトがありますよね。