
都市部では交通渋滞や環境負荷の増加といった問題が深刻化する一方、地方では生活インフラの維持が困難となり、地域経済の衰退も加速している。こうした現状を打破する可能性を秘めているのが、「スマートシティ」と「デジタル田園都市」という二つの構想だ。テクノロジーがもたらす新しい社会像について、具体的な事例を交えながら考える。
日本の未来をどうつくる?

少子高齢化や人口減少が進む日本では、従来と同じ生活を続けることが難しくなっている。これからの暮らしをどのように築くかは、社会全体にとって喫緊の課題だ。
都市部では、人口過密化や生活コストの増大、地方では人口減少と高齢化による生活インフラの維持困難といった課題が顕在化している。このような状況を解決するには、経済政策やインフラ整備だけでは不十分だ。そこで注目されているのが、テクノロジーを活用して社会構造を最適化するふたつの取り組み、「スマートシティ」と「デジタル田園都市」である。
病院に行かずとも自宅で専門医の診察を受けられる。自動運転の車が安全に送り迎えをしてくれる。子どもたちは地方の小さな町にいながら、世界中の教育機会にアクセスできる。このような未来が、現実に近づいている。
都市の課題を解決し、暮らしをより効率的で快適にするスマートシティ。人口減少や高齢化が進む地方に新しい価値を生み、持続可能な生活基盤を整えるデジタル田園都市。それぞれは異なる地域課題に応える取り組みでありながら、互いを補い合うことで、都市と地方が共存・共栄する未来を描き出す。
都会と地方それぞれの未来像、そして両者が補完し合いながらつくり出す新しい日本の姿を考えてみよう。
都会と地方の未来像、それぞれの役割

スマートシティは、都市の効率性と快適性を最大化する取り組みだ。一方、デジタル田園都市は、地方の暮らしや産業をデジタル技術で支え、地域の魅力を活かしながら便利さと豊かさを追求する。それぞれの構想の役割を見てみよう。
スマートシティ:都市部の効率を最大化
「スマートシティ」とは、都市部における生活やビジネスの効率を最大化するためのテクノロジー活用の取り組みを指す。都市部では人口密度の高さから生じる交通渋滞や環境負荷の増大、住宅コストの高騰が深刻化している。また、人口が集中することで行政や公共サービスへの負担が膨らみ、医療や福祉の現場では、限られた人員や資源をどう効率的に活用するかが大きな課題だ。これらは従来型の都市整備だけでは対応しきれず、抜本的な発想の転換が求められている。
こうした都市課題に対し、デジタル技術を駆使して解決をめざすのがスマートシティだ。IoTセンサーやAI、ビッグデータを活用し、交通の流れやエネルギー消費の最適化や、災害時におけるリアルタイムの状況把握を実現する。
人々は、移動時間の短縮やエネルギーコストの削減といった直接的なメリットに加え、事故や犯罪の減少、安全性の向上、そして環境負荷の軽減といった社会全体の利益も享受できる。スマートシティは単なる都市の効率化にとどまらず、住民一人ひとりの生活の質を高め、未来志向の都市像を描く取り組みだ。
デジタル田園都市:地域の生活にデジタル技術を組み込む
「デジタル田園都市」とは、地方の生活や産業にデジタル技術を組み込み、都市部と同等の利便性を持ちながら、自然や地域文化と共生する新しいライフスタイルの確立をめざす構想だ。地方は人口減少や高齢化により、医療・教育・物流などの社会インフラを維持することが難しくなっている。さらに、若者の流出も進み、地域経済の活力低下も深刻だ。
デジタル田園都市は、テクノロジーを活用することで、地方に特化した解決策を提供する。たとえば、オンライン教育や遠隔医療の普及によって、都市部に行かなくても質の高い教育や医療サービスを受けられるようになる。また、リモートワークの拡大は、若者や移住者が地方に住みながら全国・世界とつながって働くことを可能にし、地域への定住促進につながる。
このような仕組みが広がれば、地方は「テクノロジーを通じて独自の価値を発揮する拠点」へと進化するだろう。暮らしやすさと地域ならではの魅力が両立することで、人々が誇りを持って住み続けられる社会が実現し、ひいては日本全体の持続可能な発展にもつながっていく。
ふたつの構想が手を取り合う理由

スマートシティとデジタル田園都市は、それぞれ独立した取り組みでありながら、相互に補完し合う関係にある。都市部で培われた最新のテクノロジーやデータ活用のノウハウは、地方に導入されることで、医療や教育、物流といったインフラの効率化につながる。一方で、地方が持つ豊かな自然環境や伝統文化、地域コミュニティの結束力は、都市にとって心身の豊かさや文化的多様性をもたらす資源となる。
都市の先進性と地方の豊かさは、どちらか一方だけでは成立し得ない価値を持ち合わせている。都市に住む人々が地方に目を向けることで、リモートワークや二拠点生活といった新しいライフスタイルが広がり、地方の魅力を享受できるようになるだろう。また、地方にとっては、都市とのつながりが強まることで人材や資本の流入が進み、地域経済の持続可能性が高まる。
都市と地方が連携することは、地域格差の解消や人口の分散、災害時のリスク分散といった社会全体の安定性を高めることにもつながる。都市の効率性と地方の豊かさが互いに補い合うことで、日本全体でよりバランスの取れた社会が実現できるのである。
テクノロジーがもたらす新しい社会

スマートシティとデジタル田園都市によって、私たちの暮らしは大きく変わろうとしている。ここでは、すでに実用化が進んでいる、あるいは今後の普及が期待される具体的な取り組みを紹介する。
遠隔医療
現在、日本の医療分野では医療資源の偏在が大きな課題だ。特に、高齢化率の高い地方や離島では、医師や薬剤師などの医療従事者が不足しており、住民が十分な医療を受けられないケースが増えている。
そこで注目されているのが、オンライン診療やオンライン服薬指導を活用した遠隔医療だ。ビデオ通話を通じて診察や服薬指導を受けることができるため、遠隔地に住んでいても都市部の専門医の診療を受けることが可能となる。
診療後には処方薬が自宅に配送される仕組みも整いつつあり、通院が困難な高齢者や障がいを持つ人々にとって大きな支えとなる。遠隔医療は、“場所に縛られない医療”を実現し、医療格差の解消に寄与する。
自動運転
交通分野では、AIによる高度な認識と制御により、車を自律的に走行させる研究開発が進んでいる。運転免許を返納した高齢者や移動が困難な人々でも、自由に移動できる社会が実現する日も近いだろう。
都市部では、渋滞の解消や交通事故の減少が期待できる。自動運転車が相互に通信し合い、交通の流れを最適化することで、通勤時間や物流の効率改善が期待できる。
一方、公共交通の便が少ない地方では、自動運転バスやオンデマンド型の移動サービスが、新たな移動手段として期待されている。運転手不足が深刻化する中、自動運転は地方の生活を支える重要な技術となるだろう。
スマート物流・農業
都市と地方を結ぶ物流や農業分野も、テクノロジーによって大きく道が開かれる。たとえば、ドローン配送や自動走行の物流システムが普及すれば、過疎地でも生活必需品や医薬品を迅速に届けることが可能だ。災害時における物資の迅速な輸送も実現し、地域の安全性向上にも寄与する。
農業分野では、センサーやドローンを用いた「スマート農業」が広がりつつある。気象や土壌のデータをAIで分析し、最適な栽培方法を導き出すことで、生産性を高めながら人手不足を補うことが可能だ。さらに、収穫や出荷のプロセスも自動化されることで農作業の効率化が進み、地方の農業は新たな成長産業へと進化できる。
物流と農業の効率化は、地方経済の活性化につながるだけでなく、都市住民にとっても新鮮で多様な食材を安定的に受け取れるというメリットを生む。また、地方の農産物や特産品がより広く流通することで、地域ブランドの価値向上や観光促進にもつながり、地方全体の持続可能な発展を後押しするだろう。
オンライン教育・リモートワーク
これまで都市部に集中していた教育機会や職業機会も、オンライン化によって、地方でも展開することが可能となる。オンライン教育では、地方にいながら都市部の進学塾や専門講師の授業を受けることができ、子どもたちの学習格差の縮小を促す。VRやARを活用した体験型教育が普及すれば、地域に関係なく魅力的な学習環境を享受できるだろう。
リモートワークに関しても、インターネット環境の整備と企業文化の変化により、地方在住者が都市部の企業に勤めるケースが増えている。都市への一極集中を緩和しながら、地方での定住や移住を促進する効果も期待できる。
テクノロジーと温かさが融合する未来へ

スマートシティとデジタル田園都市の融合と推進により、都市は先進技術を活かして効率的で快適な生活を実現し、地方は自然環境やコミュニティの強みを活かして豊かな暮らしが送れるようになる。
しかし、本来の意味で“豊かな生活”を実現するには、効率や便利さを追求するだけでなく、人と人とのつながりや地域コミュニティの温かさを失わないことが重要だ。テクノロジーは生活を支える道具であり、生活の質や幸福感を高めるために活用するという考え方を忘れてはならない。
両者が互いに補完し合い、技術と人間らしさが融合する社会。それこそが、日本が目指すべき持続可能で魅力的な未来であり、次世代に引き継ぎたい理想の社会像だろう。
Edited by s.akiyoshi
参考サイト
スマートシティ – Society 5.0 – 科学技術政策|内閣府
国際・デジタル:スマートシティに関する取り組み|国土交通省
デジタル田園都市国家構想|内閣官房
デジタル田園都市国家構想|デジタル庁
本記事は、特集「デジタル社会を生き抜く」に収録されている。AIなどデジタル社会の課題と、人間らしくしなやかに生き抜くための持続可能な仕組みを探った。ほかの記事もあわせて、より多角的な視点を見つけよう。

特集|デジタル社会を生き抜く
人類史上かつてないスピードで発展していく現代社会。
デジタル社会の到来は、私たちの生活の利便性を高めている。
一方で、圧倒的なスピード感や情報の渦に疲弊していることも否定できない。
ウェルビーイングを保つため、私たちはこの社会とどう向き合っていけばいいのだろうか。
































夢野 なな
ライター、イラストレーター。芸術大学美術学科卒業。消費が多く騒々しい家族に翻弄されながらも、動植物と共存する生き方と精神的な豊かさを模索中。猫と海、本が好き。神奈川県の海に近い自然豊かな田舎で暮らす。創作に浸る時間が幸せ。
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