大量廃棄を技術で解決。 使用済みおむつが新しい資源に生まれ変わる。

乳児や高齢者には欠かせないアイテム、紙おむつ。これまでは、一度使ったものは焼却するのがあたりまえだったが、それによる環境負荷は大きく、課題を残したまま継続されてきた。だが近年の技術の進歩によって、紙おむつが新たな製品へと再生されている。取り組みが進む紙おむつのリサイクルを通して、これからの循環社会のあたりまえを考える。

見過ごされる「ゴミ」の現実

日本で排出される一般廃棄物の総量は、2000年の5,236万トン(*1)をピークに、2023年には3,897万トン(*2)まで削減。しかしリサイクル率は依然として20%をきっており、25〜60%台のEU諸国に比べるとまだまだ低い(*3)。

ゴミには一般廃棄物と産業廃棄物の2種類ある。事業活動に伴って生じたゴミのうち、金属くずや汚泥、廃油、がれきなど、法令で定められた20種類、および廃棄物処理法に規定する輸入された廃棄物のことを「産業廃棄物」という。一般廃棄物は、産業廃棄物以外のもの、家庭や飲食店などの生ゴミ、紙くず、プラスチック製品、衣類、紙おむつなどを指す。

近年、これら一般廃棄物のなかで使用済み紙おむつの量が増加しており、環境への影響が強く懸念されている。乳児や高齢者、重度障がい者などの生活に欠かせない紙おむつは衛生的で便利だが、使い捨てゆえの深刻な問題をもたらしているのが現状だ。

これまで見過ごされてきたともいえる社会課題に、私たちはどう向きあえばいいのだろうか。


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おむつをリサイクルする背景と技術の仕組み

環境省によると、2020年に約5%だった一般廃棄物に占める使用済み紙おむつの割合は、2030年には7%前後まで増加すると予測されている(*4)。

その背景にあるのは、超高齢化社会による大人用紙おむつの消費量の増加だ。一方、少子化にともなって、ベビー用の紙おむつの生産量、消費量は減少している。

使用済み紙おむつのほとんどは、焼却後、埋立て処分されている。排出量の増加は、焼却処分場への負荷と埋立処分場の圧迫、焼却時のCO2の排出など、さらなる環境負荷をもたらした。そこで着目されたのが、リサイクルだ。

紙おむつは、上質パルプやプラスチック、高い吸水力をもつ高分子吸収材(SAP)といった素材でできている。これらを選別して再生する技術が開発され、リサイクルが可能になった。

回収からリサイクルまでの仕組み

回収・分離・選別

使用済み紙おむつを回収後、水溶化処理という特殊な技術で、消毒・洗浄を行いながら素材ごとに分離して乾燥させる方法と、別の装置を使って粉砕・醗酵・乾燥させる方法がある。

分離させた素材を、そのまま素材として再生利用する場合は前者、エネルギーとして再利用する場合は後者の方法で処理が行われる。

リサイクル製品の例

分離した素材のうち、パルプは耐火ボードという建材やトイレットペーパー、段ボール等、プラスチックは運搬の際に使われるパレット、高分子吸収材(SAP)は猫砂に再生される。粉砕・醗酵・乾燥させたものは、形成処理の後バイオマス燃料として利用されている。


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ゴミが「資源」として生まれ変わる事例

ゴミとして処理されていた紙おむつが、資源として再生される現場の事例をいくつか紹介する。

自治体と企業の連携

福岡県大木町

福岡県大木町では、トータルケア・システム株式会社、福岡県保健環境研究所、地元の消費者と一体となってリサイクルに取り組んでいる。

研究、技術開発ののち、2005年から稼働。病院や福祉施設などから回収されるルートの他、一般家庭から回収されるルートを構築するため、紙おむつメーカー5社が町内約60ヵ所に、専用回収ボックスを設置。住民は専用の指定袋に使用済み紙おむつを入れ、回収ボックスに投入する。

回収されたおむつは、主にパルプに再生され、耐火ボードなどの建築資材に利用されている。

鳥取県伯耆町

鳥取県伯耆町では、町内や隣接する町の病院や高齢者施設、保育園から回収した紙おむつをペレットに成形し、地域の温泉施設などで、バイオマス燃料としてボイラーなどに使われている。

技術革新と新しい製品開発

ユニ・チャーム

紙おむつを構成している高分子吸収材(SAP)は、水分を吸収して閉じ込める役割を担っているが、これまでの再生技術では、品質が落ちるという問題があった。

これを解決したのが、北海道大学との共同研究によりユニ・チャームが開発した技術だ。分離回収したSAPから水分を取り除く際に特殊な酸を使うことで、品質を保った完全な再生が可能になった。それにより、新しい製品「猫の砂」が作られている。

その他、使用済み紙おむつから新しい紙おむつを再生させる、世界初の紙おむつ循環型リサイクルシステムを構築している。

地域コミュニティの巻き込み

大阪・関西万博

大阪府および近隣府県、関西広域連合の他、複数の企業と地域団体連携による会期中のイベント会場に、啓蒙活動を兼ねたインタラクティブな回収ボックスを複数設置。リサイクル製品を製造し、保育園や介護施設などに寄付する仕組みを構築している。

ここに紹介した事例の成功要因は、入念な環境・地域資源の調査と、消費者や地元住民の声に耳を傾ける姿勢にあったと思われる。いずれの取り組みも、すぐに実現できたわけではなく、調査と研究を積み重ね、計画を立て、実行してきたからこその好事例といえるだろう。


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普及に向けた課題と未来への展望

2005年に始まった、使用済み紙おむつのリサイクル。2023年時点では、全国21の自治体が取り組んでおり、57の自治体が検討中だという(*5)。環境省は、2030年までに取り組みの実施・検討を行った自治体の総数を100にする目標を掲げ、普及の推進を図っているが、普及にはいくつかの課題がともなう。

コストと採算性

  • 高度な分解技術をもつ設備を必要とするため、焼却・埋立処分に比べてコストが高い
  • 回収から再生までのプロセスにおいて発生する費用負担の調整が必要になる
  • 設備にかかるコストと、再生された素材の市場価値とのバランスが悪く、採算性の高いビジネスモデルが確立しにくい

住民の理解と協力による回収体制の確立

  • 合理的な回収体制を確立するために、高齢者施設や病院、一般家庭の理解と協力を得る必要がある
  • 地域の状況に応じたインフラ整備、回収ルールの標準化が必要

衛生管理体制の確立

  • 回収時、及び一時保管時の衛生上の問題をクリアにする必要がある
  • 衛生管理において必要な専門的知識をもった人材の確保が難しい

課題解決に向けた取り組み

これらの課題の解決に向け、環境省は「使用済み紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」を定め、さまざまな支援を行っている。

  • 検討時に必要な情報を国が調査、整理をし、自治体に提供する
  • 自治体の取り組み段階(現状調査、回収・再生方式の検討、設備導入、住民への普及啓発など)に応じた支援の実施
  • 事業者に対する技術開発、設備導入の支援
  • 事業者と自治体のマッチング支援や説明会の開催

再生素材の活用に成功した企業による商品アピール、顧客の増加とともに、課題の解決が図られていくことになるだろう。


バタフライダイアグラムとは

循環型社会の「当たり前」を創る

使用済み紙おむつのリサイクルシステムは、廃棄物処理の合理化、環境負荷の軽減だけでなく、地域住民を巻き込んだシステムの構築により、紙おむつ利用者の負担の軽減、地域資源の活用などを通して、地域課題の解決に貢献することができる取り組みだ。

一度使ったら捨てて廃棄処分するものというイメージが定着しているが、有用な素材で構成された再生可能な、循環型社会にとって重要なピースの一つとしての役割を担うことができる。

遠くない未来「おむつはリサイクルするもの」というイメージが定着し、リサイクルがあたりまえになれば、誰もが無理なく持続可能な環境に貢献できるのではないだろうか。

Edited by s.akiyoshi

注解・参考サイト

注解
(*1)一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成12年度実績)について|環境省
(*2)一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和5年度)について | 環境省報道発表
(*3)なぜ日本のごみのリサイクル率はヨーロッパに比べて低いのか?| 国立研究開発法人国立環境研究所
(*4)紙おむつリサイクル関連|環境省
(*5)令和6年度 使用済紙おむつリサイクル実証実験に関する調査報告書|筑前町役場環境防災課 

参考サイト
令和4年度版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第三章循環型社会の形成 第一節1-2 廃棄物の排出量|環境省
使用済み紙おむつを資源に変えませんか|環境省
使用済み紙おむつの再生利用等に関するガイドラインについて|環境省
令和5年度使用済紙おむつ再生利用等に関する調査報告書
紙おむつリサイクル:民間企業と自治体の最新取り組み|介護運営TALK ROOM
紙おむつリサイクル|福岡県リサイクル総合研究事業化センター
伯耆町における 使用済み紙おむつ燃料化事業|鳥取県伯耆町
研究ノート① ユニ・チャームが実現した紙おむつの循環型リサイクル|ユニ・チャーム
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)協賛│TOPPAN

About the Writer

Satoyo S

大学時代は英文科に在籍していたものの、建築設計の道へと進み、結婚・出産を機に退職。その三年後にHR広告営業を経て、障害福祉事業所の運営、行政事業の執行に携わり、現在はコンサルタントとして独立。社会福祉法人の理事も兼務している。ウェルビーイング、地域文化、伝統食品、市民活動、市民政治をテーマに執筆。物事の背景を深く掘り下げることを得意とし、「誰もが互いの個性、価値観、気候風土が育んだ文化を認めあい共生できる社会」を目指している。
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