廃校が地域を救う。思い出の学び舎から生まれる新しい物語

近年、廃校を活用した新たな地域の拠点や観光スポットが増えている。半世紀を優に超えた建物が、魅力あふれる施設へと変わり、人や物の交流が盛んになっていく様は、これからの地域の在りかたを提示しているかのようだ。本記事では、地域活性の要として期待が寄せられる廃校活用の可能性と、その役割について再確認する。

“思い出の校舎”を新たな拠点に

近年、廃校になった校舎を宿泊施設やシェアオフィス、カフェ、美術館などに活用する事例が増えている。各地で広がる、思い出の校舎を新たな拠点にする取り組みは、文部科学省による「みんなの廃校プロジェクト」を中心に推進されている。

魅力的な活用事例が多く、新たなビジネスモデルとしての注目度も高いが、廃校活用の背景にあるのは、1975年以降今も続く少子化という深刻な社会課題だ。

学校の統廃合は大きく三期に分けられる。第一期は、1950年代の町村合併によるもの。第二期は、高度経済成長である1970年代のドーナツ化現象による人口減少。第三期は、1990年代以降の少子高齢化の影響によるものだ。

学校の統廃合は、各地で多くの廃校施設をうみだした。文部科学省は1992年に廃校調査を始め、2002年代以降には官民連携による活用推進を加速させた。2020年に「みんなの廃校プロジェクト」を立ち上げ、地方公共団体と民間企業の連携をサポートしてきた。

2024年5月の時点では、廃校施設7,612校のうち、5,661校が地域資源として活用されている。


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独特の魅力を放つ廃校のポテンシャル

廃校活用は、そのポテンシャルの高さから注目度が高くなっている。廃校施設が新たな拠点となることで、地域社会と地域経済の活性化、レジリエンスで持続可能な地域づくりにつながるからだ。

地域での経済循環がうまれやすいことから、ローカリゼーションの促進も期待ができる。その他、注目される理由としては以下のことがある。

歴史的、文化的な価値が高い

廃校になる学校は、明治時代に開校し150年前後の歴史を有するものが多い。昭和の前半に建てられた木造校舎や資料から、当時の学校の様子を体感することができる。

長い年月を地域とともに歩み、いくつもの時代を超えてきた歴史の流れと重み、文化的価値を感じることができるのは、廃校施設だからこその独特の魅力といえる。

初期費用を抑えることができる

ある程度インフラ基盤が整っている既存の建物を活用するため、初期費用や工事期間を抑えることができるのも、事業者にとっては大きなメリットだ。

広大な敷地、広い校舎とグラウンド、体育館にプール、場合によっては別棟の給食室などを、最小限の費用で活用できるのも廃校施設ならではだろう。

地域に受け入れられやすい

地方公共団体や地元の事業者、大学、住民を巻き込んで、アイデアをだしあいながら事業を進めることで、職種や世代の壁を越えた人間関係が築きやすくなる。円滑な人間関係は相互の信頼をうみ、地域住民の理解と協力が得やすく、協働体制の構築がしやすくなる。


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廃校活用の取り組み事例

廃校活用の取り組みは、宿泊施設、体験や交流施設などさまざまだ。複数の要素と機能を備えた複合タイプや、エコツーリズムアグリツーリズムの要素を含む宿泊施設も多い。取り組み事例を、主なカテゴリにわけて紹介する。

宿泊・地域体験

秋山郷結東温泉かたくりの宿(新潟県)

1993年にオープンした、新潟県と長野県にまたがる豪雪地帯・秋山郷の小さな集落にある温泉宿。

1932年に建設された校舎を改築。集落のお母さんたちから教わった郷土料理のアレンジ料理、津南の天然水、グラウンドでのキャンプやグランピング、自然のなかでの渓流釣り、トレッキング、本格的な登山など、地域の資源と魅力を最大限に活かしている。

農村ゲストハウスNOTEL(香川県)

瀬戸内海に浮かぶ小豆島の農村・肥土山の、ゲスト同士が交流できる宿泊施設で、2024年にオープン。

肥土山は、豊富な湧き水と棚田、江戸時代から続く農村歌舞伎や虫送りといった伝統行事が今も残る地域。地元の文化や自然に触れながら、ゆっくりステイでき、ローカルツーリズムの拠点として注目されている。

泊まれる学校さる小(群馬県)

一日一団体貸切の、宿泊施設。温もりのある木造校舎、25メートルプール、広いグラウンドなどを活かし、企業や学生のグループ研修、合宿、運動会、キャンプなどさまざまな目的で活用されている。東京都心から2時間という立地も手伝って、2012年のオープンから今も、変わらないスタイルで運営されているユニークな事例の一つ。

交流・文化や自然体験

秋津野ガルテン(和歌山県)

2018年にオープンした、農村と都市の交流を楽しむグリーンツーリズム施設。

地元野菜のレストラン、農業体験、宿泊施設、市民農園などのほか、ICTテレワーク拠点としても活用されている。

築60年以上経過した校舎を地元が買い取り、住民主導で計画、運営が行われている。地域の文化、伝統、産業を活かしながら、多世代がともに働き、地域づくりに参加しているモデルケースとしても広く知られ、視察に訪れる人も多いようだ。

太陽の森ディマシオ美術館(北海道)

1947年建設の校舎と、北海道の大自然を活かした美術館として2010年にオープン。

元体育館には、ギネス世界記録に認定された世界最大の油彩画が飾られ、プールはガラスの美術館として再利用されている。

広大な敷地の一角には、グランピング棟として3Dプリンター製ハウス3棟を設置。四季折々の雄大な自然を感じながら、芸術に触れることができる体験型施設。

リバーバンク森の学校(鹿児島県)

地元の職人とボランティアでリノベーションした自然体験施設。

1933年に建てられた木造大講堂を修復し、85年以上前の学校の原型をなるべく再現。宿泊棟のほか、隣接する森にはキャンプのできるウッドデッキを設置。校庭でのキャンプ、キャンプファイヤーも可能だ。

地域の活動拠点

FOREST DOOR 旧神楽小学校(兵庫県)

森の情報発信基地をコンセプトにした体験型施設として、2019年にオープン。

内装に地元丹波産の木材を使った館内には、サテライトオフィスやコワーキングスペース、研修室、宿泊施設、DIYスペース併設の丹波の木材直売所などがある。近隣の里山を探検することもでき、幅広い世代がそれぞれの目的にあわせて活用できる。

八頭未来の田舎プロジェクト隼lab.(鳥取県)

暮らしに関わるさまざまな機能を持ちあわせた、コミュニティ複合施設。

カフェ、ショップ、訪問看護ステーションのほか、複数の企業が入居。シェアオフィス、シェアキッチン、ワークショップルーム、コミュニティスペースでは各種イベントが開催され、世代を超えた住民の交流の場として活用されている。

会津ジイゴ坂学舎m&yu(福島県)

2011年3月の東日本大震災以降、福島のドキュメンタリー映画の制作拠点としてスタート。その後、ギャラリーやミニシアター、イベントスペース、カフェレストランを併設し、地域住民の交流の場に。現在では観光スポットの一つとして活用されている。


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廃校活用における課題点

新たな地域の拠点として期待が集まる廃校活用だが、克服すべき課題もある。

  • 活用団体が見つからず、活用されていない
  • 住民と運営主体の意見調整がうまくいかない
  • 消防法や建築基準法、旅館業法に適合しない
  • 施設維持のための費用確保が困難である
  • 災害時の避難場所としての機能が損なわれる恐れがある

これらを解決するには、長期的な視点での活用目的と方法を考え、地域住民に根気よく丁寧な説明を重ねることが重要だ。地域の環境が変わることに不安を感じる住民は多いからだ。

住民の不安に寄り添うように対話を重ね、地域の未来を共有することが課題克服の鍵となるだろう。


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まとめ

話題性が高く注目が集まりやすい廃校活用は、単に建物の再利用ととらえられることがある。だが実際は、それほど単純なことではない。社会資源である廃校施設を地域の新たな拠点とし、人が集い、働く場として生まれ変わらせるソーシャルグッドな取り組みである。

また、地域の記憶を守りながら、人と地域経済の流れを新たに創り、多世代が自然に交流できるコミュニティをうみだす壮大な挑戦だ。その意味と意義を、あらためて確認する必要があるのではないだろうか。

Edited by s.akiyoshi

参考サイト

令和6年度廃校施設活用状況実態調査の結果について|文部科学省
廃校ビジネス|サービス一覧|ビジネスアイデア|B-search 船井総研
超少子化高齢社会の問題|長寿社会の問題|健康長寿|公益財団法人長寿科学振興財団
学校統廃合|国立国会図書館 文教科学技術課
高齢化の進む地域のレジリエンスを高める廃校の再利用とは|WORLD ECONOMIC FORUM
根岸裕孝・熊野稔・桑野斉・丹生晃隆・土屋有・長友瞳. 廃校活用にむけた現状と課題. 14p-15p
~未来につなごう~「みんなの廃校」プロジェクト|文部科学省
秋山郷結東温泉 かたくりの宿
NOTEL | 小豆島・肥土山の農村ゲストハウス
泊まれる学校 さる小
秋津野ガルテン
ディマシオ美術館
リバーバンク森の学校
FOREST DOOR
隼lab.
会津ジイゴ坂学舎

About the Writer

Satoyo S

大学時代は英文科に在籍していたものの、建築設計の道へと進み、結婚・出産を機に退職。その三年後にHR広告営業を経て、障害福祉事業所の運営、行政事業の執行に携わり、現在はコンサルタントとして独立。社会福祉法人の理事も兼務している。ウェルビーイング、地域文化、伝統食品、市民活動、市民政治をテーマに執筆。物事の背景を深く掘り下げることを得意とし、「誰もが互いの個性、価値観、気候風土が育んだ文化を認めあい共生できる社会」を目指している。
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