観光を消費で終わらせない。「STORIES」が開く、旅と経済のサステナブルな関係

旅を通して何を得るのか。ただの消費にとどまらず、地域との関係性を育む「旅」の在り方が問われている。宿場JAPANが手がける新プロジェクト「STORIES」は、北品川を舞台に、旅人と地域の経済・人・文化をつなぐ新しい仕組みを構築。現地での取り組みや旅人の声から、その可能性と課題を探る。

北品川から始まる「旅の関係人口」

東京・品川エリアを中心に、ゲストハウスや宿泊施設の企画・運営を行う株式会社宿場JAPANが、2025年7月10日より新しい旅の体験「STORIES(ストーリーズ)」の提供を開始した。同社は「小さな宿の感動から地域と世界をつなぐ」を理念に掲げ、人や文化に寛容な人材育成と多文化共生社会の実現に力を注いでいる。

体験型ツアーであるSTORIESは、旅人と地域住民をつなぐことを目的とした試みだ。これは、創業時より「ゲストハウス、そして旅行業を通して社会課題を解決する」ことを志してきた宿場JAPANが、「旅をするほど世界がよくなる」という考えをかたちにするために始めた取り組みである。

代表取締役の渡邊崇志氏は、「来てもらうこと」がゴールになっている観光地の現状を指摘。一部地域では、その土地のリアルな暮らしが見えないまま観光が進むことで、住民と旅行者の間に距離が生じ、オーバーツーリズムやマナー問題が顕在化している。

こうした現状を踏まえ、「地域との継続的な関係性を築く旅人」こそ、関係人口の担い手になることを期待している。また、地域においては後継者不足や人口流出、自然災害などの課題を抱え続けていることから、地域との多様な関わりを持つ人を増やすことを重要なテーマとして位置づけている。

一度きりの消費型の観光や単発のイベントに訪れてもらうだけでは、本当の意味での地域と旅人の関わりは築けない。こうした課題に対する明確なソリューションであると同時に、「家族・仕事・地域といった人の営みの中にある、静かな幸せを共有したい」という思いからSTORIESは生まれた。



観光と経済をつなぐ、サーキュラーな設計

旅によって地域を盛り上げていくためには、「人」と「お金」の循環を構築することが不可欠だ。持続可能な地域づくりの実現に向けたSTORIESのツアーでは、地域文化を守り育てることを目的に、ツアー参加費の一部を地域に還元する仕組みが導入されている。旅人はツアー体験を通じて地域の人と接点を持ち、持続的な暮らしを支える一歩に貢献することになる。これは、近年注目されているサステナブルツーリズムの好例と言えるだろう。

具体的には、参加者が支払ったツアー代金のうちの宿泊料・手数料を除いた分が、ツアー催行に協力した商店主へ対価として直接還元される仕組みだ。将来的には財団の設立も視野に入れ、集まった資金を「まちで新たな挑戦をしたい人」の起業支援につなげる計画も進めている。

最長で4泊5日まで調整可能な本ツアーでは、東京の下町・北品川に根ざした店舗での仕事体験、伝統文化に触れる機会、地元の家庭料理を味わう体験など、多様なプログラムが提供されている。たとえば、商店街で働くまちの人や職人の「日常」に密着する体験や、お寺でのマインドフルネスの時間などが設けられる。また、まちが抱える課題や、旅人の「関わりしろ」についてカルチャーガイドとともに考える機会も用意されている。これらはツアーの一例だが、地域住民をはじめとする賛同者や企業からの協賛金、寄付など、地域の枠を超えた協働により成り立つ本ツアーの可能性は、今後さらに広がっていくだろう。


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旅のあとも続く、物語のある関係

STORIESは、単なる一時的な滞在を超えた、まちとの継続的な関係性が生まれる“新しい旅のカタチ”だ。まちで暮らす人々と旅人をつなぐことで、移住・定住のきっかけづくりや雇用の創出など、地域における好循環が生まれていくだろう。

地域に密着して過ごす貴重な体験は、地元の人にとっては当たり前の暮らしでも、旅人には“新鮮な日常の豊かさ”として映る。人生を分かち合う中で、訪れる人と迎える人との関係性が深化し、旅人は単なる訪問者から地域の担い手へと変化していく。STORIESは、理想の旅の体験を目指す「誰でも参加できる」オープンなプロジェクトだ。行政、地域団体、商工会、観光事業者、NPOなど、立場を問わない協働体制の形成にも力を入れている。

関係人口が増えることで、異なる価値観や視点がまちに持ち込まれ、常に“新鮮な風”が吹くようになる。宿場JAPANは、こうした循環が地域を超え、やがて国境を越えて広がることで、社会的な仕組みとして根づいていくことを見据えている。「地域にふれる」「人と出会う」「自分を見つめなおす」といった体験に重点を置く本ツアーでは、旅行者と地域の人々がともに「ストーリーを紡ぐ場」をつくっていくことを目指している。

単なる観光商品ではない「ローカルとローカルがつながる仕組み」として機能していけば、その地域に“居場所”を見つけた旅人の再訪にも直結していく。宿場JAPANは、「旅人と旅先の地域住民がつながり合うこと」をテーマとしたSTORIESでの体験が、ゆくゆくは分断を超え、相互理解が浸透した社会の実現へと結びついていく未来を描いている。

Edited by k.fukuda

参考サイト

二地域居住・関係人口ポータルサイト|総務省
株式会社宿場JAPAN|公式サイト
宿場JAPAN、全く新しい旅サービス「STORIES」をリリース!「旅をするほど世界がよくなる」地域還元型ビジネスモデルを提案|PR TIMES
宿場JAPAN、持続可能な品川のまちづくりを目指し、旧東海道品川宿周辺まちづくり協議会と連携協定を締結|PR TIMES
宿の魅力と課題、スモールラグジュアリーホテルの可能性|宿場JAPAN 代表 渡邊 崇志さん|hoteltree
Beyond the tourist map.世界を変える旅をつくる|note

About the Writer

ともちん

大学で英文学を学び、小売・教育・製造業界を経てフリーライターに。留学や欧州ひとり旅を通じて「丁寧な暮らし」と「日本文化の価値」に触れ、その魅力を再認識。旅や地方創生、芸術、ライフスタイル分野に興味あり。言葉を通して、自尊心と幸福感を育めるような社会の実現に貢献することを目指している。
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