スローツーリズムとは?旅のスタイルとメンタルヘルスにいい理由を解説

スローツーリズムとは

スローツーリズムは、人気の観光スポットを転々と見てまわる効率優先のマスツーリズムとは対照的に、一つのエリアに一定期間滞在し、自分のペースでゆったりと自由な旅をするスタイルだ。今世界ではスローツーリズムが定番になりつつあるといわれ、その流れは日本でも起きている。

1980年代後半にイタリアで始まった、地元食材を使った伝統的な地域料理と、地元の生態系の保全などを奨励するスローフード運動から派生し、数十年の時を経てサステナブルツーリズムの概念として確立された。

スローツーリズムの定義

スローツーリズムには、そのスタンスを明確にするための定義がある。

  1.  持続可能であること
  2.  本物の文化にふれること
  3.  その地の時間と空間に浸る
  4.  地域社会とのつながりをもつ

具体的には、以下のようなスタンスで旅をするということだ。

  •  マスツーリズムをさける
  •  短いスパンでの移動をさけ、一つのエリアに長く滞在する
  •  なるべく環境負荷のかからない交通手段を選ぶ
  •  地元素材を使った伝統的な地域料理を、地元のお店で楽しむ
  •  その地の自然や生態系、地元の人々に配慮した行動をする
  •  地域文化や歴史にふれる体験や、地元の人との交流を楽しむ
  •  地域経済の循環や活性化を意識し、なるべく地産製品を買う
  •  地元の産業や農業などの技術について知る、学ぶ、体験する
  •  リラックスして、ゆったりとした気持ちで過ごす

多くの人が同じ時期に、同じようなルートで定番の観光スポットをまわるマスツーリズムでは、交通機関や飲食店などが混雑しやすく、人の波に押されてゆっくり見ることも、地元ならではの料理を楽しむことも難しくなる。その結果、精神的にも体力的にも疲れ、記憶に残る思い出深い旅にはなりにくい。地元の人にとっても、交通渋滞や混雑などで日常生活に支障をきたすこともあり、観光客を歓迎する気持ちにはなれないだろう。

効率的にまわることを優先し、飛行機や特急電車などなるべく早く目的地に着く交通手段を選ぶため、環境への負荷も大きくなりがちだ。これらはやがて環境劣化、文化衰退を招きかねないとして、持続可能な旅の在り方を明確にしたのがスローツーリズムだ。

スローツーリズムが注目される理由

ヨーロッパでは早くから取り入れられていたスローツーリズムだが、この数年はアメリカでの注目が高くなっていると言われている。世界各国に拠点をおく調査会社イプソスが行った2024年の世論調査によると、アメリカ人の旅行トレンドに、スローツーリズムと慣行的ではない観光地があがっているという。

その主な理由としては、サステナブルへの意識の高まり、社会全体のデジタル化、さまざまなことの多様化といった社会的変化によって、潜在的なストレスがもたらされていることなどがあげられている。これまでのマスツーリズムに、旅先でストレスや疲れを感じた経験をもつ人が増えたこともあるといわれている。

たくさん観て回るストレスフルなマスツーリズムから、日常のしがらみやストレスから開放されるスローツーリズムへと、さらに移行すると見られている。

スローツーリズムの旅のスタイル

スローツーリズムには、いくつかのスタイルがある。

例えば地元のゲストハウスやB&B(ベッド・アンド・ブレックファスト:宿泊と朝食をセットにした宿泊施設)などに滞在し、レンタサイクルや公共交通機関、徒歩などで街中を移動して、その地の文化や歴史にふれたり、人々との会話を楽しむバックパッカーの旅がある。また、自然豊かな島に滞在し、珍しい野生動物の観察や島の散策を通して、その島固有の産業の成り立ちや文化、人々の営みを知る旅などもその一つだ。

スタンスさえ崩さなければ、こうでなければならないというものはなく、自分の意思で自発的に行動できる自由さも、スローツーリズムの魅力である。滞在する地域によっては不便に感じることもあるかもしれないが、スローな旅をサポートしている国や地域は少なくない。

早くからスローツーリズムを推奨してきたヨーロッパでは、古城や中世のプリズン跡、ワイナリーやウイスキー醸造所を巡る、古代のワイン製造技術やパスタの作り方を学ぶ、小さな島々の自然と暮らしを知るなど、バリエーションがとても豊富だ。

アジア圏でもラオスやタイ、ブータンなどが、スローツーリズムの旅先としてよく知られている。

ラオスとタイ国境にあるメコン川流域は、雄大な自然と特有の生態系が広がっており、少数山岳民族も多いことから、複数の文化や歴史、自然にふれることができる。

ブータンではホームステイのように民家に滞在し、地元の行事に参加できることが特徴的だ。人との交流を通して、その地でしか知ることのできない歴史と文化、食生活、循環型農業などにふれ、新たな学びと感動を得られる旅として人気が高い。仏教の国でもあることから、近年はマインドフルネスな旅先としても注目されている。

日本でもスローツーリズムが推奨されるようになり、「地域文化への志向」「人々や文化とふれあう」「個人の自発的な行動」といった三つの理念のもと、瀬戸内、四国など地方を中心にスローな旅の日本モデルが創出されはじめている。

スローツーリズムがメンタルヘルスに与える影響

実際のところ、人はスローツーリズムによってストレスから開放されるのだろうか。

本来、旅そのものにリフレッシュ効果があるとされてきた。旅でなくても、いつもと違う空間でいつもと違う料理を味わったり、新しいものを見たりと自由に行動することは、心の健康を高めるといわれている。

また、適度な刺激が脳を活性化させ、認知機能の低下を防ぐという研究結果もある。特に大自然に身を委ねるような体験は、精神を安定させる効果が高いという。完全に日常から切り離された環境で、ゆったりした時間を過ごす「トラベルセラピー」という心理的アプローチがあるほど、その効果の高さは認められている。

さらに、旅は計画している時から好奇心をくすぐり期待感を高めるため、幸福感があがるとされる。何かを買うことへの期待より、旅先で得られる新しい体験への期待のほうが、はるかに幸福度を高めるようだ。

これらのことから、スローツーリズムは私たちの心を大いに癒し、メンタルヘルスに良い影響を与えてくれることが期待できるだろう。

まとめ

現代人の生活は、急速に進むデジタル化によってたくさんの刺激を受けている。膨大な情報や視覚的な刺激は脳への負荷がかかりやすいことが、かねてより指摘されてきた。また、リアルな人間関係によるストレスと異なり、パソコンやスマートフォンから受ける刺激によるストレスは気づきにくいとも考えられている。

こうしたことからも、時間や固定観念にしばられず自由に行動でき、新しい学びや出会いに感動し、心が癒されるスローツーリズムへの移行は加速しそうだ。人々の行動が変われば環境負荷の軽減、マスツーリズムによる諸問題の解決などにもつながることから、各国や各地域のさまざまな取り組みに期待が高まっている。

参考サイト
SLOWDOWN – Promotion of slow tourism for sustainable, local and regional economic development and well-being | Interreg Europe
Slow travel: What is it? How can you have a slow travel holiday?|COUNTRY LIVING
Laos is One of National Geographic’s Top Five Spots for Slow Travel in 2023|Laotian Times
The Islands of Tahiti Publishes a Strategic Roadmap for Inclusive and Sustainable Tourism | Site Corporate de Tahiti Tourisme
Mindfulness Journey|Wellness Bhutan
Slow Travel Trends Gain Momentum in the Mass Market for 2025|Euromonitor International
Tourism, therapy, mental wellbeing – travel is more than just a leisure activity|WiT
Summer Travel Survey 2024: Americans Want Authenticity|Generali Global Assistance
スローツーリズムによる地域振興~スローツーリズムの創出方法による検討~|吉原俊朗|社団法人中国地方総合研究センター
環境負荷に配慮した瀬戸内海スローツーリズム創出調査 報告書|国土交通省
スローツーリズムに関する基礎的研究―スロー運動との関係性および定義・現状・展望―|原 一樹|立命館大学人文科学研究所紀要134号 , pp.149-182(2023)
IT 化とストレス|春日 伸予|日本労働研究雑誌 2011年4月号(No.609) , pp.34-37

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