スローワーキングとは?豊かさを再定義するスローな働き方

スローワーキングとは

スローワーキングとは、余暇や休息の時間がしっかりとれる環境で、一つのタスクに向き合いながら人間らしく仕事をするという働き方である。一見、生産力の低下に繋がるように思えるが、有意義な時間をとり、心に余裕が持てることによってむしろ集中力が保たれ、生産性が上がるといわれている。これは、ウェルビーイングの実現にも繋がる働き方だ。

現代社会では大量のタスクや時間に追われ、大きなプレッシャーの中で働いている人も多い。また、IT技術の発展によって瞬時に世界中の人とやりとりができるようになった結果、ビジネスシーンでは何よりもスピードを重視する傾向にある。一つの情報を深く探究するよりも、より広い範囲に素早く届けることの方が重要とされているのだ。

短時間で多くの成果を生み出すことのみを目的とし、忙しさこそが美徳とされていた働き方は、いま多くの人の心身に悪影響を及ぼしていることが指摘されはじめている。

このような従来の働き方や社会の在り方に疑問を呈し、ワークライフバランスを保つ新しい働き方として提唱されたのがスローワーキングだ。

スローワーキングが生まれた背景

スローワーキングが生まれた背景

スローワーキングの概念が生まれたのは、2004年のことだ。カナダのジャーナリストであるカール・オレノが著書『スローの賞賛(In Praise of Slowness)』において「スロームーブメント」を提唱したことに端を発する。

オレノ氏によると、私たち現代人は、仕事においてもプライベートにおいても、起きている時間をすべて有効的に使わなければならないというプレッシャーに晒され、大きなストレスを生み出しているという。そしてこのストレスが、人々のウェルビーイングを蝕んでいるとも指摘している。

注目すべきは、この書籍が2004年に出版され、この時点で警鐘が鳴らされていたにも関わらず、20年以上の時を経てもなお改善されていないことである。むしろ状況はますます悪化の一途を辿っており、日本でワークライフバランスに関わる働き方改革関連法が施行されたのは、2019年4月1日からだ。

2020年からの新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、リモートワークが普及し、会社へ行く必要性の有無や時短など、多様な働き方が提唱されはじめた。そのような状況で、自身のワークライフバランスについて思索する人が増え、改めてスローワーキングの概念が注目されはじめたのである。

スローワーキングを行うメリット

スローワーキングを取り入れることで得られるメリットには、企業と労働者の双方にもたらされるものがある。ここでは、大きくわけて2つのメリットを見ていこう。

長期的な取り組みが可能に

繰り返すように、現代人のワークライフバランスは崩れており、忙しさから抜け出すことができない人が多いとされる。なぜなら、ノンストップで働くことで稼げているという思考に囚われているため、止まれば金銭を得ることができない、つまり生活がままならなくなるという恐怖に陥ってしまうからだ。企業側も目先の利益を重視しすぎると、休む=生産が止まる、という意識が染みつき、休暇を与えることができなくなってしまう。

しかし、世界ではワークライフバランスを保つことこそが、最も生産性が高まるという考えが主流になっている。日々の仕事や心にゆとりをもつことが、結果的に質の高いアウトプットへと繋がると考えられるからだ。

例えば、企業の成長に必要な重要事項は、長期的に取り組むべきものだが、日々のタスクに追われることで重要事項に取り組めなくなる、という本末転倒に陥ってしまう。しかし、やるべきことをじっくりと考えてその目標に丁寧に取り組むことで、将来的に大きな利益を生む可能性が高まる。また、一度立ち止まってタスクを精査すると、日々追われていた作業を大幅に減らすことも期待できるのだ。

ファストワーキングの穴を埋める

ファストワーキングの穴を埋める

また、現代の社会問題の一つとして、ファストワーキング中心の社会に馴染めず、リタイアしてしまう人に関するものがある。こうした人々は、これまで社会不適合者と認識され、引きこもりや対人恐怖症になる傾向が高いとされてきた。しかし、どのような働き方が合うかどうかは人それぞれであり、例えばスピーディーなマルチタスクを要求されると応えられなかった人が、一つのことに重点的に取り組むことで、驚異的な集中力を発揮するということもある。

つまり、スピード重視、大量生産を目的とすることである種雑になっていた部分を、スローワーキングによって埋められることも可能なのである。

こうしたことから、スローワーキングは革新的な取り組みといえ、企業にとっても大切な戦略の一つになると考えられる。

スローワーキングの効果的な取り入れ方

スローワーキングが大切とはいえ、実践するとなると、具体的にどんなことを取り入れたらいいのか分からないかもしれない。ここでは、手始めにできることや、より良い効果が期待できる取り組みについて見ていこう。

仕事とプライベートに境界線を引く

いつでもどこでも手軽に連絡がとれるようになったことで、帰宅後や休日も仕事の連絡をとっているという人も少なくないだろう。しかしスローワーキングにおいて最も大事なことは、休息をとることだ。したがって、家に帰ったら仕事用のスマートフォンは使用しない、休日は仕事用のパソコンを開かないなど、仕事とプライベートの間にきっちりと線引きをすることが大切だ。

また、昼休みにパワーナップ(10~20分程度の昼寝)を取り入れると、午後からのパフォーマンスが上がるとされている。パワーナップ以外にも目を閉じる、散歩をするなど、自身に合わせた効果的な方法を取り入れ、勤務時間と休憩時間を切り離してみよう。

マルチタスクからモノタスクへ移行する

現代では、マルチタスクをこなす能力を評価されることが多い。しかし一方で、一つひとつにかける時間や手間が限られるため、質が落ちてしまうという欠点があるのも事実だ。その点モノタスク、つまり一つのタスクにじっくり取り組むと、集中力を高めることができる。

もちろん、状況に応じてマルチタスクが求められることもあるが、それ以外の場合は時間を設定し、モノタスクで取り組む方がストレスやプレッシャーが減り、結果的により良い成果を生み出すことが可能になるのだ。

リモートワークを検討する

リモートワークを検討する

新型コロナウイルス感染症の流行で、リモートワークが世間的に広まったことも記憶に新しい。リモートワークを取り入れるメリットとして、朝夕の時間を有意義に使えるようになることがあげられる。

都市部では満員電車、地方では車の渋滞という通退勤ラッシュに対し、強いストレスを抱いている人も多いことから、リモートワークを検討することもスローワーキングの一つだ。毎日は難しくとも、たとえば月に2回だけでもラッシュアワーから解放されることは、大きなストレスの軽減に繋がるだろう。

スローワーキングがもたらす環境への影響

実はスローワーキングは、人間のウェルビーイングを実現するだけではなく、環境問題にも好影響を及ぼすと考えられている。人の働き方が地球にまで影響するというのは、一体どういうことだろうか。

そもそも、なぜファストワーキング、つまりスローワーキングと対極にある働き方が主流になっているかを考えると、そこには「大量生産・大量消費」という社会の考え方が存在する。人が豊かになるために多くの製品を生み出し、さらに短期間で消費と生産を回転させることで企業の利益も上がる。人々は商品やサービスに手軽さと便利さに価値を求めるようになり、企業は効率的に生産することを追い求めることとなった。このような動きが、ファストワーキングの風潮を押し上げることになった理由の一つである。

こうした社会の弊害は、気候変動、ゴミ問題などの様々な環境問題として現れはじめた。長い間、多くの問題が世界中で指摘され、早急な対応の必要性が叫ばれつづけているものの、昨今ますます深刻化していることは私たちの肌でひしひしと感じられるところである。

ところが、もしかするとスローワーキングを選択することで、こうした状況に良い影響を与えることができるかもしれないのである。私たちがウェルビーイングを求め、便利さや効率とは真逆のスローなライフスタイルを取り入れると、必然的に地球環境へ配慮した生活へ変化していく。

仕事は、衣食住とともに私たちの生活の大部分を占めるものだ。多くの人がスローライフやスローワーキングを取り入れると、社会全体のスピードが抑えられることになり、資源の消費速度や無駄遣いも減少することが期待できるのである。

まとめ

まとめ

スローワーキングは、休息をしっかり取りつつ、一つのタスクに集中することで質の高いアウトプットを行い、生産性を高めようとする働き方のことだ。ワークライフバランスを保ち、自身のウェルビーイングを実現しようとする風潮から生まれた、新しい仕事の価値観である。

特に若い世代は、従来の仕事のあり方に疑問を持つ人が多いとされてきたが、加えて新型コロナウイルス感染症の流行によって、より幅広い世代で議論されるようになった。その結果、スローワーキングの考え方が今改めて注目されているのだろう。

仕事というのは、あくまでも私たちが豊かで幸せな生活を送るための手段である。人生のほとんどの時間を使って仕事に打ち込むことは、果たして本当の幸せに繋がっているのだろうか。

「何のために働いているのか」と悩んでいる人は、まずはワークライフバランスを整え、スローワーキングについて考えてみることからはじめてみよう。

参考サイト
This is how to make the ‘slow work’ movement work for you |Fast Company
The benefits of the slow work movement |Fast Company
スローワークって何? | NPO法人 日本スローワーク協会

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