知的謙虚さとは
知的謙虚さ(Intellectual Humility)とは、自分の知識や能力などに限界があることを把握できている状態を指す。知的謙虚さのレベルが高い人は、自分が不十分であることを知っているため常に学びの姿勢を持ち、反対の意見を積極的に取り入れて自分の主張をブラッシュアップするなどの特徴がある。
このことは、個人のウェルビーイング(Well-being)にもつながるとして、心理学分野などで注目されている。心理学者のステーシー・マッケルロイ・ヘルトゼル氏が提唱する知的謙虚さの定義は次の2つだ。
- 自分の知識の限界を把握し、新しい考えに対しても柔軟であること
- 反対の主張に対しても潔く受け止める能力があること
知的謙虚さのレベルが高い人は、自分に絶対的な自信と決断力があるナルシスト的性質を持つ人とは対極にあるとされる。ただし、自分に自信がないわけでもなく、簡単に他者の言いなりになるものとも異なる。
知的謙虚さのレベルが高い人の特徴
知的謙虚さの研究で注目を集めたのが、2017年に研究結果を発表したデューク大学の心理学者であるマーク・レアリー氏だ。知的謙虚さの度合いによって「同意されなかったときにどのような反応を示すか」が予測できるとした。
レアリー氏によると、知的謙虚さのレベルが高い人は以下のような特徴があるとしている。
- あいまいさに対して忍耐強い
- 問題に対する答えが1つではない、決定的ではない
- 反対意見に対して証拠を求める
- 議論においては両サイドの立場に立ったバランスの良い状態を好む
また、これまでのさまざまな研究により、知的謙虚さのレベルが高い人には以下のような特徴があるとされている。
- 自分とは異なる意見に対して、寛容な態度を持っている
- 自分の間違いに気づいたら、素直に意見を聞いて修正する
- 自分とは異なる意見も理解しようとするため、幅広い知識を身につけている
- 自分が間違うことも意識しているため、事実を見極めるのに長けている
- 多様な視点や情報に積極的に触れるため、意思決定の質が高い
- より幅広い材料で検討するため、組織や社会を進展させる役割を担うことが多い
- 真実に近づいていくためにデータや事実を重視する
- 他者の意見に前向きで、防衛反応も低いため、良好な人間関係を築いている
- 意見が異なる人とも積極的に触れ合うため、他者から好かれやすい
- 自分の限界を把握しているため、挫折しても立ち直れる
知的謙虚さのレベルが高い人はこうした特徴を備えていることから、より良い人生を送るための考え方や資質を身につけているとも言える。
知的謙虚さが重要とされる理由

知的謙虚さが高いレベルにある人の特徴を把握したところで、知的謙虚さが重要とされる3つの理由について解説する。
学ぶことに積極的になる
素朴な疑問を抱くことによって、学びがスタートすることがある。何かを不思議に思うことで、知りたいという欲求が出てくるからだ。
知的謙虚さのレベルが高い人は自分に足りないものを認め、それを埋めるために積極的に取り組む。そのため成長意欲や向上心が強く、学習においては学習行動や学習成果、働く場面においては勤労意欲やそれに伴う成績、スポーツにおいては練習意欲やそれに伴う成績などにつながっていく。
ペンシルバニア大学の心理学教授であるアンジェラ・ダックワース氏も、「誰にとっても知的謙虚さは非常に重要」だとし、その理由を「私たちに学びへの扉を開いてくれるから」としている。
新しい発見に気づきやすくなる
知的謙虚さのレベルが高い人は、幅広い知識や情報を受け入れる寛容さを持ち合わせており、その一方で先入観やバイアスに惑わされにくいという特徴がある。そのため客観的な情報やデータを参考にすることで、真実に辿り着くこともできる。
つまり、自分の常識に頼りすぎることなく、幅広く意見を受け入れる準備が常にできていることになる。そのため、これまでの常識を疑うことができるだけではなく、新しいものを取り入れたり、新しい発見やブレイクスルーになりやすいと考えられる。
リーダーとなる資質を身につけられる
現代は高度に複雑化した問題が数多く存在しており、専門分野を持つ人々との協力および協働が欠かせない。このような時代のリーダーにとって、他者の意見を積極的に聞き、臨機応変に対応する姿勢を持つことは必須のスキルと考えられる。
知的謙虚さのレベルが高い人は、積極的に情報や他者の意見を求めており、例えば部下であっても最適解と感じればその意見を柔軟に受け入れる。
自らの意思決定を絶対的なものとして権力を振りかざす独裁的なリーダーに比べ、他人の意見を尊重するため部下からの忠誠心も得られる。つまり、知的謙虚さのレベルを高めることで、VUCAと呼ばれる現代にふさわしいリーダーとしての資質が身につけられると考えられる。
知的謙虚さを構成する4つの要素
ペパーダイン大学の心理学者エリザベス・クラムレイマンクーゾ氏の研究によると、知的謙虚さは「意見の尊重」「知的側面で自信過剰でないこと」「自尊心の知性からの分離」「意見を修正する意思」の主に4つの要素で構成されるとしている。
これをもとに知的謙虚さを測るには、以下の4つの問いによって行われる。
他人の主張や意見を尊重できるか
知的謙虚さのレベルが高い人は、他人の主張や意見を尊重することで、自分自身が新たな見識を持てると理解している。そのため、積極的に他人の主張や意見から学びを深め、自分の知識を補完したり、強化することができる。
自信過剰になっていないか
自分が間違っている可能性があることを常に意識することで、新たな発見や解決策を見つけることにつながる。反対に知的謙虚さのレベルが低い人は、自分の主張に自信を持ち過ぎてしまい、他者が提案する最適解を選択しようとしない。
知性から自尊心を分離できるか
知的謙虚さのレベルが高い人は、一時的な勝利よりも、長期的に価値を高めていく方が自分にとって最善だということを知っている。現在の自分に固執しすぎることがないため、他者の勝利や成功も率直に喜び、称賛することができる。
意見や主張を修正する意思があるか
自分の主張に反対する意見を潔く認めることには勇気がいる。しかし知的謙虚さのレベルが高い人は、常に柔軟な姿勢で物事を捉えており、自己を高めるために意見や視点を修正する意識も持ち合わせている。
知的謙虚さのレベルを高めるためには

知的謙虚さのレベルを高めるためには、まず自分自身が完璧ではなく、不十分な存在であることを認めることが重要だ。その上で代表的な4つのポイントについて解説する。
自己分析を行う
自分の限界を知るために、常に自己分析を行うことが重要だ。「自分はここまでのことしかわからない」という限界点を知ることで、できることの幅を広げたり、ものの見方を変えるために必要なことが見えてくる。
「知らないこと」を書き出す
自分が知らなかったことや新たな事実を認めることも重要だ。これまで知らなかった知識や情報に触れた際にノートやスマートフォンなどに書き留めておき、改めて深く掘り下げたり、自分に必要なものか見つめ直すことで自身をレベルアップさせることができる。
自分を疑う
自分とは異なる意見や主張にも価値があると思うことが、自身の成長につながる。そのため常に自分の意見や主張、視点、考え方を疑い、異論に触れた際には封殺するのではなく改めて考え直すようにしたい。
「自信」と「謙虚さ」のバランスを保つ
他者の意見を聞き入れるだけでは、知的謙虚さのレベルは高くならない。自分の長所を認めるためにも、譲れないものや自信のあることを改めて確認することも忘れてはいけない。そのためには、しっかりと自分の足もとを見つめ、自身の根幹にあるものを確かめることが重要だ。
知的謙虚さのレベルを自主的に高めることは難しいため、他者から学ぶ機会が必要だということも心に留めておきたい。つまり、自分と意見が違うと思われる他者との交流を積極的に求めることも、知的謙虚さを高めるためのポイントと言える。
まとめ
知的謙虚さは、複雑で高度化された社会的な問題が増えてきた現代において、自分をブラッシュアップさせることができる資質や能力、スキルとして注目されるようになっている。
また、知的謙虚さとウェルビーイングに関する研究も数多くされるようになっており、謙虚であることが心身の健康につながるという考え方も注目されている。
知的謙虚さのレベルが高い人は、自分の長所を確かめた上で足りない部分に目を向け、日々学びながら成長していく。自分を認め、他者から学ぶことで、問題に対しても悲観することなく前向きに進むことができそうだ。
参考記事
リーダーに必要な「知的謙虚さ」レベルを測る4つの質問|Forbes
謙虚さと心理的ウェルビーイング|謙虚さの定義、謙虚さと超越性と社会的活動の関係|NECソリューションイノベータ株式会社
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