ガラスの天井とは
ガラスの天井(Glass Ceiling)とは、女性や、人種、セクシャリティなどのマイノリティが昇進やキャリアアップを目指す際に直面する、見えないけれど確実に存在する障壁のことだ。
ガラスの天井という言葉が生まれたのは1978年。経済学者のマリリン・ローディが女性の昇進やキャリアアップを阻害する「物理的には見えないけれども、昇進を妨げる構造的な制約」をガラスの天井と表現したことから生まれた。当初は女性が経営陣などの上級管理職や、リーダーのポジションを得ることが難しいことを表した言葉だったが、のちに、人種、障がい、セクシャリティなど様々な要因に基づく差別を表す言葉としても使われるようになった。
2024年現在、ガラスの天井が問題視され始めてから40年程度経ったわけだが、いまだにガラスの天井は存在し続けている。
ガラスの天井の事例
まずは、具体的なガラスの天井の事例を確認しておこう。
ガラスの天井の事例1 日本企業では役職が上がれば上がるほど、女性が減る
日本は先進国の中では著しく男女の賃金格差が大きい国として知られている。女性の社会進出が進んだと言われているが、非正規雇用が増えただけで、正規雇用や役職者の数は依然として少ない。
国税庁の統計によると、女性の収入が増えているという世間のイメージとは異なり、男女の賃金格差はここ4年、毎年拡大している。女性の収入のボリュームゾーンは100万円〜200万円だ。(※1)
また、男女共同参画局の調査によると、役職が上がるごとに女性が減る実情がある。2018年時点で民間企業の係長クラスは18.3パーセント、課長クラスは11.2パーセント、部長クラスはわずか6.3パーセントしかいない。主要マスメディアに至っては、役員クラスの女性はゼロだ。(※2)
日本の女性の役職者の割合は、他の先進国よりも低い数値を維持している。この背景には、男性優位の企業文化や、性別役割がある。
例えば、大手企業で働いていた女性が、長年優れた業績を上げていたにもかかわらず、昇進を見送られた理由として、経営陣が「女性は家庭との両立が難しい」という固定観念を持っていた、というケースがある。これは、女性が家事・育児などのケア労働を行うべき、という性別役割に基づいた固定観念が差別を生み出している一例だ。
また、「女性は出産すると辞めてしまう可能性があるから」と昇進を先送りにするケースもある。実際に出産後に辞める女性が多いからという理由で、他の女性も「辞めるはず」と考え前もって昇進を控えることを、「統計的差別」という。統計的差別によって、ガラスの天井が作り出されているケースも珍しくない。
ガラスの天井の事例2 男性社会のテクノロジー業界
アメリカでは多くの企業がガラスの天井の存在を認識し、女性やマイノリティが昇進できるような取り組みを行なっている。しかし、ガラスの天井は無くなっていない。顕著なのは、男性優位の企業文化が根強い、シリコンバレーのテクノロジー業界だ。
IT企業などのテクノロジー企業では、女性のCEOや役員の割合が依然として少ない。女性がセクハラなどの被害を受け、企業を去らなければならない事例も多発している。例えば、マッチングアプリ・Tinderの共同創業者であるホイットニー・ウルフ・ハードは、共同創業者からセクハラを受け、Tinderを去らなければならなくなった。
この事件は、ガラスの天井が単なる昇進の問題だけでなく、職場内の文化やハラスメントの問題とも密接に関連していることを示している。役職者であっても、男性優位の業界で働く女性は、セクハラなどのハラスメント被害を受け、役職を追われることがある。
ホイットニー・ウルフ・ハードは、のちにBumbleという「セクハラが行われない、女性が安全に使えるマッチングアプリ」を作り成功を収めるのだが、こういった成功例は、レアケースだろう。
ガラスの天井の事例3 女性政治家が受けるハラスメントや女性蔑視
政治の世界でもガラスの天井は頻繁に見られる。日本でも、女性の政治家が「厚化粧」など職務とは無関係に容姿をいじられたり、付きまといや嫌がらせにあったりするケースは少なくない。
アメリカにおいても、政治におけるガラスの天井はある。例えば、2016年のヒラリー・クリントンの大統領選挙のキャンペーンは、彼女がガラスの天井に直面した例のひとつだと言われている。ヒラリーには長年の政治経験があったが、女性が大統領になるということに対する反発は強固で、有権者やメディアから厳しい目を向けられた。ヒラリーが女だったから選挙に負けたのだ、と考える人は少なくない。
ガラスの天井が存在し続ける理由

ガラスの天井は度々問題になっているが、依然としてなくならない。ここでは、なぜガラスの天井が存在し続けるのか、を解説する。
ガラスの天井が存在し続ける理由1 性別に基づくステレオタイプ
「男らしさ」はリーダーシップを発揮することであり、「女らしさ」はサポートしたりケアしたりすることである、という社会通念がある。
また、女性は感情的で判断力に欠ける、女性は昇進を望まない、女性にとっての幸せは結婚し子どもを育てること、男性は妻子を養わなければならないからしっかりした給与を払う必要がある、といったステレオタイプが存在し続けている。
そういったステレオタイプゆえ、「女性より男性の方が昇進するのに相応しい」と無意識に考えている人は男女ともに少なくない。
ガラスの天井が存在し続ける理由2 育児・家事の女性への偏り
女性が昇進試験などのキャリアアップの機会があるにもかかわらず、その試験を受けないでいる理由には様々な要因がある。ひとつには、家庭内での家事や育児を担当しており、これ以上、時間を使えないと考えるパターンがある。現在、日本では共働きであっても、女性が家事・育児を主に担っている割合が多い。キャリアに全力を注ぐことができないため、結果として、昇進が妨げられるケースもある。
ガラスの天井が存在し続ける理由3 ネットワークにアクセスできない
多くの企業では、昇進やキャリアアップに有利な「ネットワーク」が存在する。男性同志がつるむホモソーシャルな会社では、女性がこのネットワークから排除され、それがガラスの天井の一因になることがある。
ガラスの天井が存在し続ける理由4 経営陣にシスジェンダーの男性しかいない
経営陣にシスジェンダーの男性しかいない場合にもガラスの天井が生まれやすくなる。つまり、企業や組織の経営陣に女性やマイノリティがいない、もしくは少ない場合、「女性やマイノリティを昇進させるべき」という機運が高まりにくい。リーダーになる人は、自分と同じ性別や同じ学歴、経歴など、似たバックグラウンドの人を選びやすい傾向にあるため、結果として、女性やマイノリティの昇進が不利になる、という一面もある。
ガラスの天井を打破するためにできることとは?

現在、世界中でガラスの天井を打ち破るための様々な取り組みがなされている。ここでは、一例を紹介する。
ガラスの天井を打破するための取り組み1 経営陣の3割を女性にする
意思決定の場所で、マイノリティの割合が3割を超えれば、風土が変わると言われている。経営陣に女性を3割にする、など、具体的な目標を決めて取り組むことでガラスの天井を打ち破る一助となるだろう。
ガラスの天井を打破するための取り組み2 柔軟な働き方を導入する
フレックスタイム制やテレワークの導入、性別を問わない育児休暇の充実など、出産や子育てを経てもキャリアを継続しやすい環境を整えることも大切だろう。
ガラスの天井を打破するための取り組み3 家事・育児・介護の女性への偏りを減らす
家事・育児・介護への女性への偏りを減らし、性別関わらずケアワークをすることも必要だ。そのためには、性別役割を解体していくような教育が必要だろう。
ガラスの天井を打破するための取り組み4 メンター制度の導入
女性がリーダーのポジションに就くための支援として、メンター制度が考えられる。成功した女性のリーダーが次世代の女性をサポートするシステムが整えば、ガラスの天井を打破する一助となるだろう。
さいごに。4年連続男女の賃金格差は拡大。「ガラスの天井」問題は解決していない
多くの女性やマイノリティの人々は、仕事を続ける中で、ガラスの天井に直面する。現在、日本ではいくつかの民間企業がガラスの天井を打破する取り組みを進めているが、2024年現在、4年連続で男女の賃金格差は広がっており、全体的に見ると解消に向かっているとはいえない状況だ。危機感を持ってこの問題に対処しなければ、日本はますます経済的な苦境に立たされることになるだろう。
誰もが平等にキャリアアップでき、差別されない豊かな社会を目指すためには、国、企業、個人、それぞれが行動を変えていく必要がある。
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