昆虫食とは
昆虫食とは、文字通り昆虫を食材とした料理や食事のことを指す。世界中で1,900種類以上の昆虫が食べられており、特にアジア、アフリカ、南米で比較的よく食されている。
人類が誕生して以来、昆虫はタンパク源として食べられてきたが、肉や魚などのほかの食材からタンパク質が容易に摂れるようになったため、その需要は減っていた。しかし、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が発表した「Edible insects:Future prospects for food and feed security」の報告書で、昆虫食の環境面や経済面におけるメリットが提示され注目されるようになった。
昆虫食への関心は高まっているが、受容の割合は高いわけではない。ヨーロッパの3か国で「昆虫を肉の代替品としたいか」と質問をしたところ「したい」と答えた割合はたったの20%であった。また、実際に昆虫食を食べたことがある割合も低かった。
だが、昆虫食の市場はこれから成長していくと期待されている。世界的なリサーチ会社であるMeticulous Research社による調査によると、食用昆虫市場は2033年までに179億ドルに達する見込みだとされている。
昆虫食が注目される背景

ここでは、昆虫食が注目される背景を3つのポイントに分けて解説する。
食糧問題
世界人口の増加に伴う食糧危機において、昆虫食は解決策の一つになるとされている。 2024年時点での世界人口は約82億人だが、先述の国際連合食糧農業機関(FAO)の報告書によると、2050年にはおよそ90 億人へと増加し、世界規模の食糧危機が発生する可能性があると述べられている。
急速な人口増加の理由としては、発展途上国とされてきたアフリカ諸国やアジアの国々の経済発展があるとされる。世界人口の増加がこのまま進むと、2050年には世界的に経済が成長する一方で、食糧の供給が追いつかないとされているのだ。
食糧危機に直面するうえで、カロリー換算や穀物ベースであれば、90億人の人口を養えるとされている。しかし、健康な生活を送る上で必須となる肉や魚などのタンパク質が不足すると推測される。肉などのタンパク質を確保するためにはコストがかかるため、消費できる人が限られてしまい、世界的なタンパク質不足になると危惧されているのだ。
たとえば、牛肉1kgの生産には、25kgの穀物と22tの水が必要で、多くの資源とコストを費やす。現時点においても、タンパク質の確保には費用がかさむのだが、人口増加によって需要が急増すると、生産コストの高い肉は販売価格もさらに上昇するのだ。その課題を解決するために、重要な栄養素であるタンパク質を、家畜の代わりに昆虫から得ようとする試みが活発になっている。
赤肉の代替品
昆虫は、消費量が問題となっている赤肉(牛・豚・羊肉など)の代替品としても注目を集めている。欧米を中心に、赤肉の多量な消費が問題となっており、人口増加や環境保全のために赤肉消費の減少が求められている。昆虫食は、赤肉と同じようにタンパク質や脂肪、ミネラルなどの栄養素が豊富に含まれている。また、赤肉の生産には広い土地や膨大な肥料や資源を使うが、昆虫食の生産にはそれらが必要ないことから、代替品として期待されている。
また、欧米では近頃「環境に配慮する」や「健康的」といったワードが市場において肯定的な評価を得ており、昆虫食やベジタリアン食品は赤肉よりも環境に良いと認識されている。そのため、環境負荷やアニマルウェルフェアを考慮する傾向が特に強い若者を中心に、今後昆虫食の需要が増えていく可能性がある。
フードテック
「フード」と「テクノロジー」を合わせた言葉である「フードテック」が話題を呼んでいることも背景の一つである。フードテックでは、テクノロジーを活用することで、これまでにない形での食品の生産や供給を目指している。そして、食糧不足や生産者不足などの食にかかわるさまざまな問題に対して対応する。
フードテックの例としては、コオロギの飼育過程にDXの技術を導入し、生産効率と労働生産性をアップするといったものがある。業界ではスタートアップ企業が多く誕生しており、今後もさらなる成長が見込まれている。
昆虫食のメリット

ここでは、昆虫食を取り入れることのメリットを説明する。
さまざまな栄養素が含まれる
昆虫食には、さまざまな栄養素が含まれている。特にタンパク質においては牛や豚、鶏などと同じで全体の2割ほどを含み、さらに乾燥させると6〜7割含まれるといわれている。また、昆虫のタンパク質に含まれるアミノ酸は、小麦や米、トウモロコシ、キャッサバなどには少ない成分が含まれていることから、それらを主食とする地域では、不足するアミノ酸を摂取できる。
タンパク質以外にも亜鉛やカルシウム、鉄分、マグネシウムなどのミネラルから、ビタミンや不飽和脂肪酸まで非常に多くの栄養素が含まれている。そのうえ糖質が少なく、コレステロール値も低いため、ヘルシーな食材なのだ。
地球にやさしい
昆虫食の生産は環境への負担が少ないため、世界的に注目される環境問題に貢献できるといわれている。牛や豚などの家畜と比較して、飼育時に排出される温室効果ガスが少ないのだ。
たとえば、食用昆虫の代表であるミルワーム、コオロギ、バッタの生産時に必要な温室効果ガスは、家畜に比べるとおよそ100分の1とされている。これはSDGsの13番目の目標である「気候変動に具体的な対策を」へ貢献するものでもある。
生産がしやすい
食用昆虫は生産がしやすいのも大きなメリットの一つだ。昆虫は、飼育変換率(1kgの収穫に対して必要な飼料)が高いため、少ない飼料で多く生産できる。たとえば、牛とコオロギを比べると、コオロギは牛の4分の1の飼料量で飼育可能だ。飼料は廃棄物や堆肥などを活用しているため、食品ロス削減にもつながる。
また、牛は体の40%ほどしか食べられる部位が無い一方、昆虫はほとんどの部位を食べることができる。可食部位に対する飼育変換率を考えると、昆虫は牛と比較して12倍以上も少ない飼料で生産できるということになる。
さらに、昆虫は狭い土地で飼育でき、高価な道具も不要であるため、生産のための初期投資が抑えられる。先ほど述べたように飼料にかかるコストも抑えられるため、貧困層でも起業できるチャンスがあるといわれている。
昆虫食のデメリット
昆虫食にはさまざまなメリットが存在する一方で、デメリットもいくつかある。
見た目・味・においなどに嫌悪感がある
見た目や味、においに対する嫌悪感があることで、虫を食べ物として見られない場合が多い。長い触覚や変わった模様、長い脚などがお皿に盛られると自然と抵抗を感じてしまう。
ただし、日本人が昔から食べてきた食材に、虫と類似した特徴を持つものもある。それは、エビやカニといった甲殻類である。同じような見た目の特徴を持っているにもかかわらず、日本では嫌悪感を抱く人は少ないだろう。このように、虫を食材として認識できるようになれば、嫌悪感をぬぐえるかもしれない。
アレルギーを起こす可能性がある
食用昆虫は、アレルギーを引き起こす可能性がある。先ほど説明したように、昆虫やエビやカニといった甲殻類と体の構造が似ており、同じ節足動物に分類される。そのため、アレルギーを引き起こす物質も似たものを持っているといわれているのだ。
たとえば、虫を日常的に食べる中国やタイでは、バッタを食べてアナフィラキシーショックを起こしたケースもある。また、甲殻アレルギーを持つ人はミルワームやコオロギにアレルギー反応を起こしたという報告もある。そのため、甲殻類アレルギーを持つ人は、昆虫でもアレルギーを引き起こす可能性が高いため注意が必要だ。
また、虫によってはイカや貝類が持つアレルギー物質と似た物質を持つものもあるため、軟体動物にアレルギーを持つ人もリスクがある。このように、虫によって異なるアレルギー物質の存在が報告されているため、食物アレルギーを持つ人は特に注意しなければならない。
食中毒のリスクがある
食用昆虫には、食用肉と同じように食中毒のリスクがある。食中毒を引き起こす代表として知られるカンピロバクターは昆虫体内で増えないものの、サルモネラ菌は体内で増殖する可能性がある。また、魚や肉などと同じように、寄生虫による食中毒のリスクがあり、食べた昆虫から人へ寄生が起こる場合が多い。
そのため、昆虫においても食べる際には十分に加熱処理を行い、飼育する際は外部からのウイルス侵入をしっかり防ぐ必要がある。
日本で昆虫食を販売しているブランド・店を紹介
最後に、国内で昆虫食を販売するブランドや店を紹介する。
無印良品
インテリア用品から洋服、食品などを展開している「無印良品」では「コオロギせんべい」や「コオロギチョコ」といったコオロギを用いた商品を販売している。無印良品は、世界で昆虫食の開発が進む中、日本でいち早く商品化を実現したブランドである。
元々無印良品はブランドとして、社会課題を念頭に置いた商品開発をしていた。昆虫食開発の背景にある食糧問題や環境問題を考えるきっかけになればという思いから、食用昆虫研究の先進国であるフィンランドにて情報収集を行い、商品開発に取り組んだ。無印良品のコオロギは衛生的に安全な環境で飼育したものを使っており、商品はエビのような香ばしさのある味を生み出している。
昆虫食のTAKEO
昆虫食のTAKEOは、2014年に創業した日本初の昆虫食専門ストアである。オンラインストアを展開しており、昆虫飲料や昆虫ふりかけなどさまざまなオリジナル食品を販売している。製造は自社工場で行っていることもあり、多種多様な品種の生産を行っている。商品の価格は500円〜2,000円程度であるため、初めて昆虫食を試す方も気軽に購入できる。
東京の浅草では、スタッフと会話をしながら商品を選び、さらには軽食も楽しめる店舗を運営している。「タガメサイダー」や「コオロギパスタ」などオリジナリティのある料理が楽しめる。実際にものを見て購入したい方は、店舗に訪れるのが良いだろう。
まとめ
食糧危機や環境問題が深刻化する世界において、昆虫食は新たな栄養源として注目を集めている。昔から食べられており、今でも食べる地域はあるものの、馴染みのない多くの人にとっては昆虫を食することに抵抗感があるのではないだろうか。しかし、昆虫は栄養価があるだけでなく生産のしやすさや環境負荷の低さといった多大なメリットが存在する。市場の成長具合や今後の地球環境を考えると、昆虫食が食卓に並ぶ日はそう遠くないのかもしれない。
参考記事
Edible insects Future prospects for food and feed security|国連食糧農業機関
昆虫の食糧保障、暮らしそして環境への貢献1|国連食糧農業機関
昆虫食受容に関する心理学的研究の動向と展望
昆虫と食文化
dible Insects Market to be Worth $17.9 Billion by 2033|Mediculous Research
昆虫食のTAKEO
コオロギが地球を救う?|無印良品
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