SASBとは?SASBスタンダードが注目される背景やメリット、企業の取り組み事例などをご紹介

SASBとは

SASBとは、Sustainability Accounting Standards Board(サステナビリティ会計基準審議会)の略で、企業のサステナビリティに関する情報を投資家やその他の利害関係者に提供するための基準を策定する組織である。2011年に設立され、米国を拠点として活動している。

SASBが定める基準は、企業が環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報を開示する際の指針となる。これにより、投資家は企業の長期的なリスクと機会を評価しやすくなる。

SASBの特徴は、業種ごとに異なる基準、SASBスタンダードを設けている点である。例えば、エネルギー業界と金融業界では、重要視されるESG要素が異なるため、それぞれに適した基準が設定されている。また、SASBスタンダードは、財務に関連するサステナビリティ情報に焦点を当てているため、投資家にとって実用的である。

SASBスタンダードは、企業の透明性を高め、持続可能な経営を促進する役割を果たす。これにより、企業は社会的責任を果たしつつ、投資家からの信頼を得ることが期待できる。

ISSBとの関係

ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、2021年に設立され、SASBを含む既存の基準を統合し、国際的なサステナビリティ情報開示基準を策定する役割を担っている。ISSBは、SASBスタンダードを維持・向上させる責任を負っており、SASBと同様に業種別に基準を設定する手法を取り入れている。

ISSBはSASBスタンダードを基盤としつつ、より広範な国際基準を目指している。これにより、企業は一貫したサステナビリティ情報を提供し、投資家や利害関係者にとっての透明性が向上する。

GRIとの違い

SASBとGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)は、どちらも企業のサステナビリティ情報開示を促進する基準を提供しているが、その対象と目的には違いがある。

SASBは主に投資家を対象としており、財務的に重要な情報を提供することを重視している。一方、GRIは投資家だけでなく、消費者や市民社会など幅広いステークホルダーを対象としており、企業の経済・環境・社会への影響を包括的に報告することを目的としている。

共通点としては、どちらも企業の透明性を高め、持続可能な経営を促進する役割を果たしている点が挙げられる。しかし、SASBは財務的なマテリアリティ(重要課題)に焦点を当て、GRIは広範な社会的マテリアリティを重視している。この違いにより、企業は目的に応じて適切な基準を選択することが求められる。

注目される背景

SASBが注目される背景には、いくつかの重要な要因がある。まず、投資家の間でESG(環境・社会・ガバナンス)情報の重要性が高まっていることが挙げられる。投資家は、企業の長期的な価値創造能力を評価するために、財務情報だけでなく、ESG情報も重視するようになってきた。このため、企業はESG情報を適切に開示する必要があり、SASBスタンダードがその指針となっている。

次に、国際的な基準の統一が進んでいることもSASBの注目度を高めている要因である。2021年に設立されたISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、SASBを含む既存の基準を統合し、国際的なサステナビリティ情報開示基準を策定する役割を担っている。これにより、SASBスタンダードは国際的に適用される可能性が高まり、企業は一貫した情報開示を行えるようになったのである。

さらに、企業の透明性と信頼性を高めるための法規制の強化も、SASBが注目される一因である。多くの国で、企業に対するESG情報の開示要求が厳格化されており、SASBスタンダードに従うことで、企業はこれらの規制に対応することが可能となるだろう。

最後に、SASBスタンダードが業種ごとに異なる点も注目される理由である。各業種に特化した基準を設けることで、企業は自社の特性に応じた情報開示が可能となり、投資家にとってもより具体的で有用な情報が提供される。これにより、企業の持続可能な経営が促進され、投資家からの信頼を得られるのである。

SASBスタンダードの特徴

SASBスタンダードの特徴

SASBスタンダードは、企業の透明性を高め、投資家にとって有用な情報を提供するために設計されている。以下に、その主要な特徴を説明する。

シングル・マテリアリティの立場をとる

SASBスタンダードは「シングル・マテリアリティ」の立場をとっている。これは、企業のサステナビリティ情報が財務パフォーマンスにどのように影響するかを重視する考え方である。具体的には、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報が、投資家の意思決定にどれだけ影響を与えるかを評価する。

シングル・マテリアリティの立場では、企業の財務的な健全性や長期的な価値創造に直接関わる情報が重要視される。例えば、気候変動対策や労働環境の改善が企業の収益やリスクにどのように影響するかを明確にすることが求められる。

これにより、投資家は企業の持続可能性と財務パフォーマンスを総合的に評価できる。企業は財務的に重要なサステナビリティ情報を開示することで、投資家からの信頼を得られるのだ。

77の産業分類に分けられる

SASBスタンダードは、企業のサステナビリティ情報を業種ごとに適切に開示するために、11のセクターと77の産業分類に分けられている。各業種の特性やリスクに応じた具体的な基準が設定されているのだ。

例えば、エネルギー業界では温室効果ガス排出量が重要視される一方、金融業界ではデータセキュリティや顧客プライバシーが重視される。このように、業種ごとの特性に応じた基準を設けることで、企業は自社の特性に合った情報を開示しやすくなり、投資家にとってもより具体的で有用な情報が提供される。

細則主義を採用している

SASBスタンダードは「細則主義」を採用している。これは、詳細な数値や定性的な情報の開示を求める方針である。

具体的には、企業が開示すべき情報を具体的かつ明確に規定しており、例えば温室効果ガスの排出量や労働安全の統計など、具体的な数値やデータを提供することが求められる。これにより、投資家は企業間での比較が容易になり、より正確な評価が可能となるのだ。

一方で、細則主義には企業ごとの特徴が捉えづらくなるという側面もある。しかし、SASBスタンダードは、業種ごとの特性に応じた基準を設けることで、この問題を緩和している。結果として、企業の透明性が高まり、持続可能な経営が促進されるのである。

サステナビリティ課題を特定している

企業のサステナビリティを評価するために、SASBスタンダードは以下5つの視点と、それに関連する26の課題カテゴリを設定している。

環境温室効果ガス排出・大気の質・エネルギー管理・水および排水の管理・廃棄物および有害物管理・生物多様性への影響
社会資本人権および地域社会との関わり・顧客のプライバシー・データセキュリティ・アクセスおよび手頃な価格・製品の品質と安全性・消費者の福祉・販売慣行と製品ラベル
人的資本労働慣行・従業員の安全衛生・従業員参画とダイバーシティ
ビジネスモデルとイノベーションサービスのライフサイクルへの影響・ビジネスモデルの強靭性・サプライチェーンマネジメント・材料調達および資源効率性・気候変動の物理的影響
リーダーシップとガバナンス事業倫理・競争的行為・規制の把握と政治的影響・重大インシデントリスク管理・システムリスク管理

これらの視点と課題カテゴリは、SASBスタンダードが規定する開示項目の基礎となっている。これにより、各業種の特性やリスクに応じた具体的な課題が明確になるのだ。

SASBスタンダードの普及状況

SASBスタンダードは、国際的に広がりを見せている。2024年現在、SASBスタンダードを採用する企業は増加傾向にあり、特にS&Pグローバル1200指数に含まれる企業のうち906社がSASBスタンダードを採用。日本でも、TOPIX100銘柄のうち51社がSASBスタンダードを採用している。

日本企業の例としては、トヨタ自動車・東芝・三菱地所グループなどが挙げられる。これらの企業は、SASBスタンダードに基づいたサステナビリティ報告書を作成し、投資家に対して透明性の高い情報を提供している。また、SASBスタンダードは法的拘束力がないにもかかわらず、企業間の比較が容易であることから、多くの企業が取り入れている。

このように、SASBスタンダードは国際的に認識されつつあり、企業の透明性向上と持続可能な経営を支援する重要な基準となっている。

SASBスタンダードを採用するメリット

SASBを導入するメリット

SASBスタンダードを採用することで、企業だけでなく、社会にとってもさまざまなメリットがある。ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説する。

企業にとってのメリット

SASBスタンダードを採用することで、企業にとって多くのメリットがある。まず、企業の透明性と信頼性が向上する。SASBスタンダードに基づいた情報開示は、投資家やステークホルダーに対して企業のサステナビリティへの取り組みを明確に示すことができるため、信頼を得やすくなる。

次に、ブランディングの向上が期待できる。サステナビリティに対する取り組みを積極的に開示することで、企業のブランド価値が高まり、競争力が強化される。特に、環境や社会に配慮した企業活動は、消費者や投資家からの評価を高める要因となるだろう。

さらに、経営リスクの軽減にもつながる。SASBスタンダードは、企業が直面するサステナビリティリスクを特定し、適切に管理するための枠組みを提供するため、長期的な経営リスクの軽減に役立つ。例えば、気候変動や労働環境の改善に関するリスクを事前に把握し、対策を講じることが可能だ。

また、資金調達がしやすくなる点も大きなメリットである。投資家は、SASBスタンダードに準拠した情報開示を行う企業を評価しやすくなるため、企業はより有利な条件で資金を調達できる。これにより、企業の成長と持続可能な経営が促進されるのである。

社会にとってのメリット

SASBスタンダードを採用することは、企業だけでなく、社会全体にも多くのメリットをもたらす。まず、持続可能な社会の実現につながる点が挙げられる。SASBスタンダードは、企業が環境や社会に与える影響を明確にするため、企業活動の透明性が向上し、持続可能な社会の実現に貢献する。

次に、情報が統一されることで、社会全体でのサステナビリティ情報が比較しやすくなる。その結果、企業間の競争が健全化し、より多くの企業が持続可能な経営を目指すようになる。また、消費者や地域社会などのステークホルダーにとっても、企業のサステナビリティへの取り組みが明確になるため、信頼性が向上する。

さらに、SASBスタンダードは、投資家にとっても有用な情報を提供するため、資本市場の効率性が向上する。投資家は、企業のサステナビリティ情報を基に、より正確な投資判断を行える。これにより、持続可能な企業への投資が促進され、社会全体の経済成長にもつながるだろう。

SASBスタンダードに取り組む企業事例

SASBスタンダードに取り組む企業は多業種にわたる。ここでは、国内企業の代表的な事例として、以下の3社を紹介する。

旭化成株式会社

旭化成株式会社は、SASBスタンダードに基づくESG情報の開示に積極的に取り組んでいる。特に、温室効果ガス排出量の削減やエネルギー管理、水資源の保全など、環境面での取り組みが注目される。

具体的には、温室効果ガス排出量やエネルギー消費量、水使用量などの環境データを詳細に報告している。また、労働安全衛生やコミュニティとの関係についても情報を開示し、企業の社会的責任を果たしていることを示している。

これらの取り組みは、持続可能な社会の実現に向けた取り組みであり、同社の透明性と責任を高めるものである。

九州電力株式会社

九州電力は、SASBスタンダードに基づき、環境・社会・ガバナンス(ESG)情報を開示している。特に、温室効果ガス排出量や水資源管理に関するデータを詳細に報告している。

例えば、2023年度の統合報告書では、GHG排出量として19,040,000トンのCO2を排出したことを明示している。また、水資源管理においては、火力発電や原子力発電に使用する水の取水量や消費量を具体的に示している。

これにより、投資家やステークホルダーに対して透明性の高い情報提供を行い、持続可能な経営を推進している。

武田薬品工業株式会社

武田薬品工業株式会社は、SASBスタンダードに基づく持続可能な経営を推進している。具体的には、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報を透明性高く開示し、ステークホルダーとの信頼関係を築いている。

例えば、環境面では、温室効果ガスの排出削減や再生可能エネルギーの利用拡大に取り組んでいる。また、社会面では、従業員の多様性とインクルージョンを重視し、働きやすい職場環境の整備を進めている。ガバナンス面では、コンプライアンスの徹底とリスク管理の強化を図っている。

これらの取り組みにより、武田薬品工業株式会社は持続可能な成長を目指している。

まとめ

気候変動や社会的責任に対する関心が高まる中、企業のサステナビリティ情報の透明性が求められており、今後、SASBスタンダードはさらに重要性を増すと考えられる。

SASBスタンダードは、業種ごとの特有の課題を明確にし、投資家が企業の長期的なリスクと機会を評価するための有力なツールである。特に、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大する中で、SASBスタンダードの導入は企業にとって競争優位性を高める手段となるだろう。

SASBスタンダードが企業の持続可能な成長を促進し、投資家と企業の間の信頼関係を強化する役割を果たすことが期待される。

【参考記事】
ESG情報開示枠組みの紹介|日本取引所グループ
SASB対照表|旭化成株式会社
SASB INDEX|九州電力
SASB インデック報告書 2024年|武田薬品工業株式会社

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