
日本は世界有数の災害大国であり、近年は豪雨や地震などによる甚大な被害が相次いでいる。災害はもはや特別な出来事ではなく、日常の中に潜むリスクだ。だからこそ、防災を「特別な備え」にせず、暮らしに溶け込ませる工夫が求められる。フェーズフリーやダークツーリズムも交えて、防災意識を日常に根づかせる方法を探る。
災害が「日常」になりつつある現代

かつて自然災害は、「非日常の恐怖」と捉えられていた。しかし、近年は気候変動の影響もあり、豪雨や大型台風、地震、津波などの大規模災害のニュースが日常的に報じられている。災害はもはや特別な出来事ではなく、日常の一部として受け入れる覚悟が必要だ。
とはいえ、災害を他人事のように考えてしまう人も少なくない。「これくらいなら大丈夫」「避難なんて大げさ」という認識の甘さが、ときに大きな悲劇を招いてきた。
防災のハードルを下げ、暮らしの中に溶け込ませるにはどうすればよいだろうか。今回は、そのヒントとなるフェーズフリーやダークツーリズムといった考え方も交えながら、防災・減災について考えていく。
日本が「災害大国」と呼ばれる要因

日本は、世界でも有数の災害大国として知られている。これまで、関東大震災や阪神・淡路大震災、東日本大震災など、数々の大災害に見舞われてきた。日本は常に自然災害と隣り合わせにあり、私たちは「いつか大きな災害が来る」という前提を忘れてはならない。
地質・地形
プレートの運動などに伴って造山運動が起こる地帯を「造山帯」と呼び、日本列島は「環太平洋造山帯」に含まれる。環太平洋造山帯は高くけわしい山脈が連なり、地震や火山活動が起こりやすい環境にある。日本は、ユーラシア・北米・フィリピン海・太平洋という4つのプレート上に位置し、これらのプレートのぶつかり合いが、大地震が発生する要因となっている。
また、日本の約7割が山地で、標高500m以上を超える地域が全体の4分の1を占めている。こうした地形は美しい景観を生む一方で、地震や豪雨の際には山崩れや土石流といった山地災害を引き起こしやすい。
気象条件
日本の多くの地域が、モンスーン(季節風)の影響を受けるアジアモンスーン気候に属している。モンスーンにより明瞭な四季がつくられる日本では、梅雨や台風、豪雪などの気象災害が発生しやすい。
また近年は、短時間の集中豪雨をもたらす線状降水帯が多発しており、これには地球温暖化の影響があると考えられている。このまま地球温暖化が進むと、これまで数十年に一度とされてきた大雨が全国的に増加し、さらには台風による大雨の降水量も増加する見通しだ。
複合的リスク
日本の災害は一つの現象で完結せず、気象条件や地形が絡み合い、複合的に被害が広がりやすい。たとえば2011年の東日本大震災では、地震により大津波が発生し、さらに原発事故も引き起こされた。2024年の能登半島地震では、最大震度7の揺れに加え、新潟、富山、石川、福井県にまたがる広範囲での液状化被害が発生している。
発生が危惧されている南海トラフ巨大地震も、揺れ・津波・火災・ライフライン途絶といった複合災害が想定されている。被害想定は死者32万人規模とも言われており、その被害は計り知れない。
災害を「特別なもの」にしない意識改革

防災・減災に取り組むためには、災害を特別なこととして捉えない意識改革が必要だ。自分が住んでいる場所や日々の生活について、災害の視点を絡めて考えてみることが、防災を日常の一部にする第一歩となる。
防災訓練をイベント化しない
学校や企業で行う防災訓練で、同じ内容を繰り返している場合は、形骸化している可能性が高い。防災訓練を年1回のイベント化しないためには、実際の災害をイメージしたシナリオを組み、再現性の高い計画を立てることが重要だ。
たとえば、避難誘導、救護、情報収集など、それぞれの役割を決めて動く。「廊下が塞がった」「けが人が出た」など、リアルな災害状況を想定したシナリオを組む、など、参加者が自ら考えて臨機応変に動ける仕組みをつくれば、防災訓練の実効性を高めることができる。
防災情報を日常に取り込む
災害アプリをインストールしておくと、緊急速報やリアルタイムの防災情報を受信できる。たとえば「Yahoo!防災速報」は、現在地や登録地域の災害情報や各種警報、緊急情報などをプッシュ通知で知らせてくれるサービスだ。ローカルな情報を仕入れるなら、自治体の公式SNSや防災アプリを活用しよう。避難所の場所やハザードマップを確認できるので、もしもの時に役に立つ。
家族や職場でも、防災についての話題を取り入れてみよう。その日の天気や警報について話したり、職場の朝礼で防災トピックを取り上げたり、小さなことでも日々の心がけで防災力は高まっていく。
「非日常」から「日常」の備えへ。フェーズフリーという考え方

非常事態に備えるのではなく、普段から使うものを災害時に役立てるという考え方「フェーズフリー(Phase Free)」がある。日常・非日常に関わらずどのような状況にも対応し、誰でも直観的に使えるような商品やサービスを使うことで、災害に強い社会基盤をつくろうという仕組みだ。
日常生活のフェーズフリー
日頃から使っているモノには、そのまま非常時に使うこともできるものが多い。特にアウトドア用品はフェーズフリーと相性がよく、カセットコンロや寝袋、テント、LEDランタンなどは避難所でも活用できる。
普段使うモノをフェーズフリー品に置き換えるだけでも、災害への備えとなる。たとえば、モバイルバッテリーをLED付きのものにすれば、非常時は電源だけでなく照明器具としても使える。家やオフィスで普段から防災スリッパを使うと、被災したときも散乱したガラス片や画びょうなどから足を守ることができる。特別な非常グッズを用意せずとも災害に備えられるのは、フェーズフリー最大の利点だ。
食のフェーズフリー
食べ物については、必要量より多めに購入し、消費した分を補充しながら非常時に備える「ローリングストック」の考え方が普及している。レトルト食品やパックご飯、飲料水はその代表例だ。常温で長期間保管できる乾物も、ローリングストックに適している。ひじき、わかめ、切干大根などは、水で戻せばすぐ食べられるため、非常時でも活用しやすい。
避難所生活ではタンパク質やビタミンが不足しがちなので、魚や肉、水煮野菜、フルーツなどの缶詰も備えておくと安心だ。「もし1週間スーパーに行けなくなったら」と想定して、普段の買い物の延長で必要な食品を買い置きしてみよう。
公共空間のフェーズフリー
身の周りにもフェーズフリーのモノはたくさんある。たとえば公園やマンション内に設置されている「かまどベンチ」は、普段はベンチとして使用しながら、非常時には炊き出し用のかまどとして活用できる。
最近では、フェーズフリーを意識した公共施設も増えている。東京の南池袋公園は、普段は公園として利用されながらも、非常時には一時避難場所・災害トイレ・炊き出し・物資備蓄などの機能を持ち、池袋駅周辺の防災拠点としての役割を担う。
何気なく利用している場所が、実は防災レベルが高いということもあるだろう。少し見方を変えて、防災の観点から町を歩いてみると、新たな発見があるかもしれない。
災害の記憶を未来につなぐ、ダークツーリズムへ出かける

実際に起きた災害から学ぶことも、防災・減災意識を高めるうえで欠かせない。近年では、被災地を訪れ、その痕跡から教訓を学ぶ「ダークツーリズム」が注目されている。
災害の現実を知る
被災地に訪れ、震災遺構を目の前にし、写真や映像ではわからない被害の全貌に触れることができる。被災時間で止まったままの時計や、被害に遭った状態のまま保存された家屋を目にするといった体験は、ダークツーリズムだからこそできることだ。
テレビやインターネットを通じて得る情報は、被害のほんの一部に過ぎない。現地を訪れ、その土地の歴史や人々の悲しみを肌で感じることで、より印象深く心に響く体験となる。
資料館や防災センターなどを訪問すると、被災者から当時の体験談を直接聞くこともできる。被災地に足を運び、はじめて被害の甚大さを思い知らされることも珍しくない。
防災を自分事として捉える
ダークツーリズムを通して被害の大きさを実感することで、防災を自分事として捉えるきっかけが生まれる。被災地の人々が困難を乗り越えた過程を知る中で、「自分なら何ができるか」「どのような備えが必要なのか」を具体的に考えることができるだろう。
災害の記憶に触れ、未来の教訓へつなげるプロセスは、ダークツーリズム最大の目的だといえる。同じ悲しみを繰り返さないためにも、日常の中で防災意識を高め、行動につなげていくことの大切さに気づけるはずだ。
まとめ

自然災害は、もはや「非日常」ではなく、私たちの暮らしに組み込まれたリスクである。日本という国に暮らす以上、私たちは災害を完全に避けることはできない。だからこそ、備えることを特別なものにせず、「災害とともに生きる」という覚悟を持って、防災を日常の中に溶け込ませることが、これからの時代を生きる鍵だ。
日常生活に防災・減災を落とし込むには、“備えない”フェーズフリーの考え方や、被災地を訪れて教訓を得るダークツーリズムなどを取り入れるのも一つの方法だ。自分と大切な人の命を守るためにも、小さなことから始めてみよう。
Edited by s.akiyoshi
注解・参考サイト
注解
(*1)JECE一般財団法人国土技術研究センター|意外と知らない日本の国土
参考サイト
気象庁気象研究所|【共同プレスリリース】地球温暖化がさらに進行した場合、線状降水帯を含む極端降水は増加すると想定されます
東日本大震災・原子力災害伝承館|当館について
一般財団法人消防防災科学センター|No.160(2025春号) |令和6年能登半島地震・奥能登豪雨にみる複合災害とその対応・復旧・復興の課題
一般社団法人フェーズフリー協会
豊島区公式ホームページ|南池袋公園


























丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )