食のバリアフリーとは?すべての人が食を楽しめる社会へ

食のバリアフリーとは

食のバリアフリーとは、様々な理由で食に制限がある人々が、そのバリアを感じることなく食を楽しめるようになるための取り組みのこと。食のバリアに繋がる「制限」とは、以下のようなものがある。

  • 宗教上の制限
    イスラム教のハラル、ユダヤ教のコーシャをはじめ、ヒンドゥー教、仏教、キリスト教など一部の宗教では食を制限されている。代表的な豚肉やアルコールは比較的よく知られているが、それ以外にも経典に細かく記載されており、独自の組み合わせのルールが指定されている場合もある。
  • 思想による制限
    昨今、環境保護や動物愛護の観点から主に動物性食品を制限するベジタリアンヴィーガンが有名になった。制限の度合いは人によって異なるものの、中には信仰する宗教と合わせて完全菜食主義者となっている人も存在する。
  • 身体・健康上の制限
    食物アレルギーや糖尿病、腎臓病など、身体的な理由から食を制限されている人も多い。最悪の場合アナフィラキシーショックを起こし、死に至る可能性もあるアレルギーは、近年その危険性が徐々に知られつつあるが、これまでは単なる好き嫌いと混同されることも多く、理解を得られにくかったという。

その他、グルテンフリーや嚥下食、1歳未満の乳児に禁忌のはちみつなど、想像以上に食を制限されている人は多い。こうした食のバリア問題にぶつかってしまう人のために、選択肢を増やし、あらゆる可能性をもたらそうとするのが、食のバリアフリーである。

食のバリアフリーが注目される理由

食のバリアフリーが注目されるようになった背景には、近年急拡大するインバウンド需要がある。2013年ごろから大幅に増え続けた訪日観光客は、2024年時点で3,687万人と過去最高に達し、コロナ禍直前の2019年の3,188万人を大きく上回った。

国別の割合では、韓国や中国、台湾など近隣国が目立つものの、東南アジアや中東からの訪日観光客も増加傾向にある。これらの国々は、食のバリアにおける「宗教上の制限」に当てはまる文化圏も多く、誰もが自身の食事スタイルを尊重できるような配慮が求められるようになった。

2013年には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、世界でも稀にみる多彩な食文化が発展してきた日本。昨今、世界中で日本食ブームが起こり、訪日外国人の楽しみの一つに「食事」が挙げられることも多いため、観光コンテンツとしての「食」に大きな期待が集まっている。このことから、多様な日本の食材をふんだんに使用した料理を提供することが普通のように思えるが、実は「せっかく頼んだのに食べられない」という場合があり、それが機会損失に繋がる可能性も考えられるのだ。

食のバリアの中で、特に大きな問題といわれているのが「不明瞭な表記」である。例えば、おにぎりの具材など、外側からでは中に何が入っているのか分からない食品がその例だ。

そのため食のバリアフリーを実現させるには、単に食材に配慮するだけではなく、「使用食材や調理・加工方法の明瞭な表示」という観点からも対応しなければならない。

日本でも広がる「食のバリア」

食品製造・販売を行うテーブルマーク株式会社の調査によると、「食のバリアを理由に歓迎会がストレスである」と答えた人は約70%にものぼるという(*1)。特に、食物アレルギーを持つ人よりも、動物性食品を控えている人にその傾向が見られるようだ。

食物アレルギーについては、近年メディアでも報道される機会が増えたことから、認知度は高まっているものの、周囲に知識を持っている人が少なかったり、理解や適切な対応をされなかったりと、悩んでいる人も多い。

ベジタリアンやヴィーガンとなると、その理解度はさらに下がる。日本では菜食主義者の多くは周囲から批判的・否定的な反応を受けているとされ、中には友人から食事に誘われなくなったという人もいるという。

テーブルマークの調査でも、「自身に食の制限があると公表することで、今後誘われなくなるかもしれない」と答えた人が77%いた(*1)ことからも、食の制限は当事者にとって高いバリアとして認識されていることが窺える。

(*1)【春の歓迎会に関する意識調査】食事に関する制限のある方(食物アレルギーやヴィーガン・ベジタリアン等)のうち、“食の制限”が理由で“歓迎会がストレス”と感じた方は約70% | テーブルマーク株式会社のプレスリリース

食のバリアフリーに対する日本の取り組み事例

食のバリアフリー実現への取り組みが求められる中、実際に日本で行われている事例にはどのようなものがあるだろうか。

グローバルな食の表示

一般社団法人日本フードバリアフリー協会が実施する「フードバリアフリー」は、食材および調理方法を表示することで、安心して食事を選んでもらえるような取り組みのことである。2020年に開催予定であった東京オリンピックおよびその後のインバウンド需要拡大を見越して実施されはじめた。対応を各店舗に任せると、まちまちになってしまうため、正しい食材の知識をつけ、共通の表示が行えるよう努めている。

その他、市場規模やニーズなどの実態調査をはじめ、フードバリアフリーに関する研修、発信、ワークショップの開催などの事業を展開している。

アレルギー対応食料理コンテストの開催

公益財団法人ニッポンハム食の未来財団は、食物アレルギーに配慮されたレシピを募集し、アレルギー疾患を持つ人々に広く活用されることを目的としてコンテストを開催している。2024年には第10回を迎え、これまでに6,500を超える作品が寄せられたという。

部門は食事とデザート・おやつの2つに分かれており、受賞作品はレシピと動画が公式サイトで公表されている。

加速する日本の高齢化と食のバリアフリー

加速する日本の高齢化と食のバリアフリー

日本は2007年に高齢化率が21%となり、超高齢化社会に突入した。2024年には総人口に対する高齢者率は29.1%となり、これからさらに高齢化は進むと推定されている。

3人に1人は高齢者という状況では、嚥下障害や誤飲といった高齢者における食のバリア問題は、早急に解決しなければならないだろう。この現状を受け、日常食から介護食まで幅広く対応した「ユニバーサルデザインフード」が開発されている。これは、やわらかさや細かさなど、食べやすさに配慮した食品のことだ。

ユニバーサルデザインフードには、日本介護食品協議会が制定した規格をクリアした証明であるロゴマークと、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」という4つの区分が記載されている。

また、とろみによって飲み物や食べ物をまとめ、喉へ流れやすくする「とろみ調整食品」などもあり、様々な人の健康状態や、咀嚼・嚥下などの身体能力に配慮されているようだ。

「食が制限される」と聞くと、宗教や思想によるものをイメージしがちだが、改めて考えると日本でも食のバリアは身近にあり、今後誰にでもぶつかる可能性があることを再認識させてくれる。

食のバリアフリーで気をつけること

日本では、食のバリアフリーへの取り組み事例はまだまだ少ない。その理由としては、やはり「食のバリア」への認知度が低いという点にあるだろう。自然が豊かで、気候が安定している日本では、古来豊富な食材を手に入れることができ、多彩な食文化が発展したとされる。厳しい宗教規律もない民族であることから、そもそも「特定の食材を制限する」という価値観が生まれにくいとも考えられる。それが、宗教上の理由を筆頭に、ヴィーガンなど思想による制限への認知度の低さや無理解に繋がっているのかもしれない。

また、食物アレルギーは年々理解度は上昇してはいるものの、対応は十分とは言えない。「口に入れなければいい」と思われがちだが、同じ製造ラインというだけで症状が出るという、重いアレルギー反応に苦しんでいる人もいる。

いくら求められていることとはいえ、食のバリアフリーに取り組むためには、しっかりとした知識が必要であることを理解し、曖昧なまま対応しないことも大切だ。分からない場合や出来ない場合は、その旨をはっきりと示すことも重要だろう。

宗教上、思想上、健康上とどんな理由であっても、何となくの知識で対応してしまうことが一番恐ろしいといえる。今後食のバリアフリーを広めていくために、まずはこうした前提知識や問題を国民へ周知させていくことが課題となるだろう。

まとめ

まとめ

多様性が叫ばれる現代社会では、ジェンダーや年齢、人種、国籍、宗教など様々な分野で対応が求められている。その傾向は今後、食の分野でも高まりを見せることは明白だ。

日本食は、豊富な食材の使用や洗練された調理方法が大きな魅力であり、その点は世界でも評価されている。一方で、インバウンド需要が増え続ける中、日本食を楽しみに訪れた外国人観光客の文化的背景に配慮することも同時に求められている。

さらに、国内でも食に関する制限は多様化しており、アレルギー、ヴィーガンなどへの対応も重要視されている。

すべての人がバリアを感じることなく、食を楽しむ社会をつくることは容易ではない。ありとあらゆる代替食をつくることもまた、現実的ではない。しかし「食材や調理過程を丁寧に表示する」という方法だけでも、食のバリアフリーに繋がっていく。まずは小さなことからでいい。食のバリアを持つ人がいることを知り、その背景を尊重することが大切だ。

参考サイト
世界中の様々な食の規律等|一般社団法人日本フードバリアフリー協会
食のバリアフリーとは?|ブランド総合研究所
ハラールやヴィーガンなど。食の多様性をインバウンドの強みに(前編)|インバウンドノウハウ|JNTO(日本政府観光局)
食物アレルギーの日常生活での困難。安心して暮らせるようになるには? | 日本財団ジャーナル
ユニバーサルデザインフードとは|日本介護食品協議会について|日本介護食品協議会
日本における菜食主義者の葛藤 ――自己矛盾の克服と他者との共生を目指して――|中村 有沙 , 大瀧 友里奈 , 山﨑 晶子|『日本オーラル・ヒストリー研究』第 18 号(2022 年)
食の多様化、グローバル化に向けて|一般社団法人日本フードバリアフリー協会
第10回食物アレルギー対応食 料理コンテスト | 公益財団法人ニッポンハム食と未来財団

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