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ファッションタウン桐生の取り組みから学ぶ、豊かなまちのあり方 vol.5 【群馬県桐生市】

「ファッション」をまちづくりの中心に据える場所がある。

古くから織物産業で栄えた群馬県桐生市は、江戸時代には「織都」として名をはせ、長きにわたり日本の布づくりをリードしてきた。

そんな同市では、通商産業省(現・経済産業省)が繊維産地の活性化に向けた新戦略の一つとして開始した、ファッションタウン構想のモデル地域に指定されたことを契機として、平成5年から「ファッションタウン」の取り組みを開始。

翌年には、桐生商工会議所が中心となり、ファッションタウンビジョンを策定。「ものづくりとまちづくりを一体とした活力のある生活圏を創り出す」ことなどを打ち出し、平成9年にはファッションタウン桐生推進協議会が発足した。

一般にファッションというとアパレルや衣類を想像するが、ここでいうファッションは、衣服にとどまらず、食や住サービスを含む生活文化全般にわたる新たな価値を有するもの。つまり、広い意味での豊かな生活を目的とした考え方として位置づけられている。

ファッションタウン桐生推進協議会は、全体を統括する運営委員会のほか、生活文化委員会、産業活性化委員会、まちづくり委員会、FTネット委員会、未来創生委員会の5つの専門委員会を中心に、ファッションにまつわるイベントやコンテストの開催、各種プロジェクトの立案、市民の活動サポートなどを現在に至るまで担ってきた。

今回は、同協議会の母体となる桐生商工会議所の宮崎さん、岩波さん、小山さんにファッションタウン桐生の取り組みを伺う中で、ファッションを通じた豊かなまちづくりのあり方を探っていく。

桐生市ファッションタウンの取り組み
(左から)桐生商工会議所・総務課 岩波夏規さん、小山美生さん、宮崎稔広さん

「内発的で、個性的なまちづくり」が生む、市民の自発性とゆるいつながり

ファッションタウン桐生の取り組みでは、人々の内発的モチベーションを大切にしているという。

宮崎さん「ファッションタウンビジョンでは、『内発的で個性的なまちづくりを推進する』ことを大きな特徴としています。強制力がなくて、地域から自然と湧き上がってくる市民性が大切です。市民の方の内側からの発信でないと、事業の継続もできないので、『内発的』は桐生市の中で重要なキーワードになっています。

ファッションウィーク内のクラシックカーイベント
ファッションウィークイベント内のクラシックカーフェスティバルの様子 提供:桐生商工会議所

毎年11月の文化の日を中心に10日前後かけて開催される桐生ファッションウィークでも、行政側からの強制力はありません。メイン会場の有鄰館を中心に市内各所で30以上のイベントが開催されるなど、市民の方の自発的な取り組みが同時多発的に起こっています。例えば骨とう品を扱う我楽多市(がらくたいち)もキーマンを中心に、市民の方々が自発的に活動されています。

あまりがちがちに固めすぎてしまうと、お互いの負担になってしまいかねません。実際、行政側からの要望で始まるイベントはあまり長続きしておらず、市民参加型の事業やイベントの方が長く残っていますね」

桐生市が大切にする「内発性」は、ファッションタウンの取り組みが全国で唯一30年間続いているゆえんでもあるのかもしれない。そして、内発的で個性的なまちづくりは、人々の間のゆるいつながりも生んでいる。

小山さん「決して広くない街の中でのコミュニティなので、市民同士が顔見知りという状況になることが多いと思います。お店同士のつながりもさかんで、集まって桐生を活気づけるためにイベントを開催する方々もいます。どれも強制的なつながりではないことが魅力です」

宮崎さん「みなさん、あまり無理をしてない印象がありますね。移住された方同士がつながってイベントを始めるということもありますよ」

市内のイベントの様子
市内ではイベントが頻繁に開催される 提供:桐生商工会議所

小山さん「布を作る工程に関しても分業で、糸をつむぐ人がいたり、何段階か経てようやく織る作業にたどりつきますね。市内のある職人さんは、その過程にすごく注目していて、布を織る工程をすべて桐生で行い、携わる人全員が幸せになれるものを作りたいと話していました」

岩波さん「織物産業は各社がそれぞれ単独で事業を行っているイメージがありますが、たどっていくと様々なところで結びついていることもあります」

宮崎さん 「富岡製糸場から始まり、その先の分業制の中で、桐生では多くの工程を今でも有している地域なので、そのようなつながりは、織物づくりにおいてもありますね」

個々人の内なる情熱による個性的なまちづくりの中で、人々のゆるいつながりが無数に存在する桐生市には、近年若い人の移住も増えているそうだ。ますます混沌とするまちで生まれるいくつものつながり。その一つ一つは、ファッションタウンを織りなすために欠かせない糸でもある。

地域の歴史や資源を守っていく市民のプライド

桐生市の中心市街地である「本町通り」周辺は重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)に指定されている。織物産業が盛んに営まれてきたこのエリアには、今でも歴史的な建物が並ぶ。

小山さん「重伝建地区に指定されている地域では、代々その土地や建物を守っている方もいると思います。なので、住むにあたって大変な部分があるとしても、自分の代で建物を壊すわけにいかないというプライドを持って住んでる方も多いのでは。私は子どもの頃から本町に住んでいますが、今でも建物がそのまま残っていて風景が全然変わりません」

重伝建の街並み
歴史のある建物が並ぶ重伝建エリア 提供:桐生商工会議所

岩波さん「やはり愛着を持っている人はすごく多いという雰囲気がありますよね。私も子どもの頃、通学時に何軒もの織物会社の前を通っていました。織り機のカシャカシャする音は日常の生活に溶け込んでいて、そういう呼吸は今でもまちなかに残っていると思います。

戦時中に大規模な空襲被害がほとんどなかったこともあり、桐生市内には、重伝建エリアを中心に、明治、大正、昭和の建物も比較的多く残っているのですが、一方で個々の物件にスポットが当たることは少ないです。私が所属するまちづくり委員会では地域資源の掘り起こし、それらを活用して地域の活力を高めることを目指しています。

例えば『わがまち風景賞』では、地域の活性化に結びつけることを目的として、後世に残したい桐生らしい風景を表彰しています。この賞では、単に古い物件よりも、桐生の織物の歴史などに紐づくような物件が選ばれる傾向にあります。

「わがまち風景賞」受賞物件
「わがまち風景賞」受賞物件を巡るツアーの様子 提供:桐生商工会議所

また、今年で30回目となる『ファッションタウン桐生写真コンテスト』でも同様に、地域の特色ある写真150点ほどの中から、単なるきれいな風景写真よりも、桐生ならではの行事の光景など、地域を象徴する写真が多く入選します。

2年ほど前から始めた『オープンファクトリー事業』では、『桐生フォーカス』をテーマに、昔からの繊維工場や工房などの製造現場を一般の見学者向けに開放しています。これにより、地域に根付く技術、文化、歴史の魅力が再発見されることを期待しています」

オープンファクトリー
オープンファクトリーの様子 提供:桐生商工会議所

こうした取り組みを通じて、織物のまちとして栄えた桐生に眠る数多の資源を、市民の手を借りて掘り起こす。そしてその魅力を地域内で共有することで、地域のアイデンティティを再発見しているのだ。

古いモノと新しいモノの融合。作り出せないものに価値を見出す桐生の人々

桐生市には、歴史的な建物を活かしながら、新しい価値を創出する取り組みも多く見られる。同市のファッションは、決してゼロから新しいものを作ることだけではない。

小山さん「古い建物を残して、新しい要素を融合していく部分にすごく魅力を感じます。例えば市内には、ノコギリ屋根工場を活用した美容院やパン屋さん、古い建物をリメイクした帽子屋さんなどがあります。新しいものだけでなく、古いものを活用して、そこに新しい要素を入れていくのは、とてもおしゃれで魅力的ですよね。歴史があるものを守りつつ、今の時代にあったお店や取り組みに活用する動きがますます増えればいいなと思います」

ノコギリ屋根工場を活用した美容院
ノコギリ屋根工場を活用した美容院 提供:桐生商工会議所

宮崎さん 「やはり歴史ってもう作れないものなので、それがいいですよね。行政でも古い建物をまちなか交流館にリニューアルするなどの動きがあります。

若い人たちも、古民家を活用してカフェを開いたり、一度廃業した銭湯を再び開業するなど、古いものと新しいものを融合したお店も増えています。彼らも、作り出せないものに魅力を感じているのではないでしょうか」

古いものに足すからこそおしゃれ—代々受け継がれてきた地域資源を活用しながら、今の時代の味も加えていくという独自のファッション観が桐生のまちには浸透している。

「過去」ではなく「現在進行形」のまち。織都・桐生のこれから

最後に、織都・桐生のこれからの姿について伺った。

宮崎さん 「織物は衰退している産業ではありますが、『織物で栄えた街』というレッテルになると、そのもの自体のいまの価値が見逃されてしまいます。やはり桐生市の織物産業は過去のものではなく、この先も残していきたいです。

織物関係では、若い二代目、三代目の方がオリジナルブランドを立ち上げている事例もあります。また、朝倉染布さんの撥水風呂敷や刺繍アクセサリーの000(トリプル・オゥ)など、新しいブランドも続々と登場してきています」

岩波さん「『かつて栄えた街』という切り取られ方は多いですよね。過去は過去として誇りを持っていますが、昔栄えた街というだけではなく、歴史や昔の建物をどのように活かしていくかということにスポットを当てていきたいです。廃業する方もいますが、未来に向けて、地域資源をどう活かしていけるか。桐生ならではの取り組みを増やしたいです」

小山さん「桐生は、男女問わずおしゃれな方が多い気がします。昔から代々大事にしている着物を着ている方や、世界的に有名な桐生産の松井ニットのマフラーを巻いている方もいます。みなさん、身につけているものに誇りを持っていて、それが自信にもなっていると思います。そのような人が集まる桐生市がこれからより一層、活気づいてほしいですね」

取材後記

桐生市は「生活文化全般にわたる新たな価値を有するもの」をファッションと定義し、人々の内発的なモチベーションを引き出すまちづくりを進めている。その「ファッションタウン構想」は、単なる産業政策にとどまらず、地域の暮らしを豊かにする哲学でもあるように感じた。

代々受け継がれてきた伝統を大切にしながらも、ただ過去にすがるのではなく、新しいアイデアやクリエイティブな要素を積極的に取り入れ、進化し続ける桐生のまち。その姿は、まさにファッションの本質を体現しているのではないだろうか。

取材を終えた帰り道、自転車で軽やかに去って行く宮崎さんの姿が印象的だった。豊かな自然と歴史が混在する桐生のまちを颯爽と駆け抜けるその姿もまた、一つのファッションなのかもしれない。これからも桐生の「現在進行形」の魅力を見守っていきたい。

参考サイト
ファッションタウン桐生推進協議会 

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