DRR(災害リスク軽減)とは
「DRR(Disaster Risk Reduction)」とは、「災害リスク軽減」とも呼ばれ、自然災害による被害を最小限に抑えるための取り組みである。災害は地震・台風・洪水など多岐にわたるが、被害を抑えるための準備や対策を講じることが重要だ。DRRの目的は、災害発生前の予防から発生後の復旧・復興までを包括的にカバーし、被害を未然に防ぐことにある。
もちろん、災害そのものを予防する努力も重要ではあるが、その効果が表れるまでには時間がかかる。その間にも災害は発生し続ける可能性があるため、人々を守るための対応が求められる。国連事務局の組織の一つである「国連防災機関(UNDRR)」も、人命を最優先に考え、DRR の取り組みを強調している。
DRRはSDGsとも密接に関連しており、目標11「住み続けられるまちづくりを」では、防災対策の強化が求められている。安全で持続可能な都市の実現には、災害リスクを削減し、コミュニティのレジリエンス(回復力)を高めることが不可欠だ。また、目標13「気候変動に具体的な対策を」も、気候変動に伴う災害リスクの軽減を意識した取り組みが重要視されている。
DRRへ向けた世界の動き

国際社会はDRRの重要性を認識し、長年にわたり取り組みを行ってきた。ここでは、2つの国際的枠組みを通じて、DRRの進展とその影響について紹介する。
兵庫行動枠組 2005-2015
2005年の国連防災世界会議で採択された「兵庫行動枠組 2005-2015」では、各国が取り組むべき優先行動が定められた。主な内容は以下の通りである。
- 防災を国の優先課題に位置づける
- 災害リスクの評価と早期警報の整備
- 防災文化の構築と知識・技術・教育の活用
- 潜在的なリスク要因の軽減
- 効果的な応急対応のための事前準備強化
この枠組みの進捗状況をフォローアップするために、防災グローバル・プラットフォーム(GPDRR)が設置され、2年ごとに会議が開催されてきた。
しかし、2005年から2015年の間、災害による被害は依然として大きかった。国連の調査によると、70万人以上が死亡し、140万人以上が負傷、約2,300万人が家を失った。この背景には、気候変動・急速な都市化・貧困・不平等などがある。特に途上国では、災害への備えが不十分であることが課題であった。
参考:「兵庫行動枠組 2005-2015」~災害に強い国・地域の構築|内閣府
仙台防災枠組 2015-2030
2015年に国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組 2015-2030」は、兵庫行動枠組の後継として、より人間中心の予防的なアプローチを強調している。主要な目標は、「人命・暮らし・健康、経済的・物理的・社会的・文化的・環境的資産に対する災害リスクおよび損失を大幅に削減すること」である。
具体的には、2030年までに災害による死亡者数や被災者数の削減、経済損失の削減、重要インフラへの損害削減など、7つのグローバルターゲット達成を目標としている。
これを実現するためには、国家や地域機関、国際機関などが「災害リスクの理解」「災害リスク管理のガバナンス強化」「災害リスク削減への投資」「効果的な災害対応への備えと復旧過程の改善」といった優先行動を推進することが求められる。
世界で発生している自然災害

近年、地球温暖化が進むにつれて異常気象が増加しており、世界各地で自然災害が頻発している。特に2023年は、世界の年平均気温偏差が+0.54℃となり、観測史上最も高い値を記録した。
以下に、近年に各国で起こった自然災害の一例を挙げる。
- アルゼンチン:2021年末から2022年初頭にかけて大規模な森林火災が発生し、南部のチェブ州で広範囲にわたり森林が消失した。
- アメリカ:同じ時期、コロラド州でも山火事が発生し、歴史上最大の被害となった。
- パキスタン:2022年、モンスーンによる豪雨と熱波の影響で国土の3分の1が水没する大洪水が発生。多くの被災者が避難生活を余儀なくされ、二次災害として感染症の拡大も問題となった。
- トルコ:2023年2月、南東部でM7.8の大地震が発生し、広範囲にわたって建物が崩壊し、多くの死者が出た。
- リビア:2023年9月、暴風雨に伴う洪水が発生し、多くの死者と行方不明者を出す被害が生じた。
世界中でさまざまな自然災害が発生しており、その被害は年々増加している。異常気象による大災害は今後も続く可能性が高く、各国が防災対策を強化することが求められている。
世界から注目される日本の防災力
国際的に防災意識が高まる中で、日本の防災力が注目を集めている。特に災害対策において「予防防災」の概念が根付いている点が日本の特徴だ。事前の対策で自然災害の被害を最小限に抑えることが、日本の繁栄と安全を支えている。
日本が予防防災を重視する背景には、自然災害リスクの高さがある。国連大学の報告によると、日本は自然災害リスクが世界で17番目に高い国である。これは、日本が地震や台風、洪水といったさまざまな自然災害に頻繁に見舞われる地域に位置していることに起因する。さらに、日本の地形や都市化の進行により、リスクはさらに高まっている。
災害の被害が多発する中で、日本はその経験を活かし、防災対策を強化してきた。例えば、阪神・淡路大震災や東日本大震災の教訓を基に、建物の耐震化や防災教育の推進が行われている。また、国際防災会議や仙台防災枠組など、国際レベルでの防災指針の策定にも積極的に関与している。これにより、日本の防災力は国内外で高く評価されている。
世界の防災意識
国際社会では近年、防災意識がますます高まっている。例えば、キューバでは経済的には恵まれていないにもかかわらず、先進的な防災体制を整えている。住民が主体的に避難する姿勢が評価され、ハリケーン襲来時には一体となった避難が行われた。避難所の整備や避難計画の策定など、政府と住民が協力して防災に取り組む姿勢が見られる。
インドネシアも自然災害が頻発する国である。2004年のインド洋大津波以降、防災法の整備や防災庁の設立が進められた。地域レベルでの防災計画策定が推進され、防災教育や訓練も充実している。特に、コミュニティが協力して防災に取り組む文化が根付いており、防災体制の強化に貢献している。
一方で、防災意識の低さが課題となっている国や地域も存在する。例えば、一部の発展途上国や地域間の連携が不十分なエリアでは、防災教育や訓練が十分に行われておらず、災害時の対応が遅れることがある。また、ヨーロッパの一部地域では自然災害の頻度が低く、住民の防災意識が低下しやすい。
しかし、未曾有の災害が訪れない保証はないため、どの地域でも防災意識の向上や教育、訓練の強化が求められる。
環境保護と防災を両立する「Eco-DRR」
Eco-DRRとは、自然環境を活用して災害の被害を軽減し、持続可能な社会の実現に貢献する取り組みである。自然の生態系が持つ調整機能を活用することで、災害リスクを低減し、地域の発展と環境保全を両立させることを目指している。
例えば、森林やマングローブ林は津波や洪水の力を和らげ、土壌の浸食を防ぐ役割を果たす。また、生態系が健康であれば、気候変動の緩和や食物供給といった多くの恩恵も受けられる。森林は雨水を吸収し、地下水や河川に貯留することで洪水の被害を軽減し、土壌を固定して地滑りを防ぐ役割もある。さらに、森林は水を浄化し、水質を改善する役割も果たす。
しかし、世界ではこれらの自然環境が開発や汚染、気候変動の影響で減少しているのが現状だ。このため、自然の防災機能を回復し、保護することが求められている。
DRRとジェンダー平等

気候変動により災害の影響や発生頻度が増加する中、途上国や女性・子どもなど社会的に弱い立場にあるとされる人々は、災害の影響を特に受けやすい。災害は国連が掲げるジェンダー平等の達成を妨げる可能性があり、各国にとって災害リスクの軽減が重要な課題となっている。
例えば、災害が頻発している東アフリカでは、ジェンダー不平等が女性や女児に及ぼす災害の悪影響を増幅させている。ウガンダでは、降雨量の減少が女子の就学率に影響を与え、ジェンダーの不平等が災害の影響を一層深刻にしている。
この状況を改善するため、国連教育科学文化機関(UNESCO)は2023年、ケニアでDRRにジェンダー包摂を組み込んだワークショップを実施した。アフリカ諸国からステークホルダーが参加し、ジェンダー視点を取り入れた災害リスク軽減の重要性が共有された。
ジェンダー平等の視点を取り入れたDRRの取り組みは、より包摂的で持続可能な社会を実現するために不可欠である。各国が協力し、多様なニーズに対応した対策を推進することが求められている。
まとめ
気候変動による自然災害の頻度や規模が増大する中、DRRに向けて各国が協力して防災対策を強化し、持続可能な社会を実現することが求められている。また、ジェンダー包摂やEco-DRRといった視点を取り入れ、多様なニーズに対応する取り組みも課題だ。
災害の多い日本では、小学校での避難訓練など、古くから防災意識が根付いている。数々の被災経験があるからこそ、国際的なリーダシップをとりながらDRRを先導し、次世代に引き継ぐことができる。
政府や地域社会、個人が一丸となって防災意識を高め、実効性のある対策を講じることが重要だ。各国が知識と経験を共有し、共に未来の災害リスクに備えることで、自然災害に強い社会をつくれるだろう。
参考記事
防災・減災/Disaster Risk Reduction|Japan Youth Platform for Sustainability
令和5年以降に発生した世界の主な自然災害|内閣府
防災先進国キューバ|東京大学情報学環総合防災情報研究センター
インドネシアの防災政策と今後の協力の重要性|内閣府
Eco-DRR(エコ ディーアールアール)|環境省
世界での防災・減災の取り組み|一般社団法人ピースボート災害支援センター(PBV)
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