プレゼンティーズムとは
プレゼンティーズムとは、会社に出勤しているものの、健康問題や職場環境などが理由で生産性が低下している状態を指す。万全ではない状態で無理して仕事をすることで、結果的に業務の生産性が落ち、会社の事業に損失を与えると懸念されている。プレゼンティーズムの状態の従業員は、出勤していることから普段との見分けがつかず、第三者からは通常通り働いているように見えてしまう。
アブセンティーズムとの違い
プレゼンティーズムとよく一緒に用いられる用語として「アブセンティーズム」がある。アブセンティーズムとは、心身の不調により欠勤することを指す。
アブセンティーズムは会社を休んでいるため、会社への損失が大きいと考えられるが、最近ではプレゼンティーズムに伴う損失の方が、アブセンティーイズムの損失や医療費よりも企業の健康関連総コストに占める割合が高いといわれている。
プレゼンティーズムが発生する要因

ここでは、プレゼンティーズムを引き起こす原因を述べていく。
身体の健康問題
業務効率を低下させる代表的な要因が、体調不良やケガ、病気といった身体の健康問題である。特に、微熱や咳などの風邪症状は、休養が必要な状態であるにもかかわらず、軽症と自己判断をして出勤し続ける人も多い。また、腰痛や肩こりなどの慢性的な症状を抱えつつも、無理をして仕事をするケースも少なくない。
英国のプレゼンティーズムに関する研究を記した論文によると、研究中の3年間を通して、体調の変化を自分で分かっていても出勤し続けた人は17%いたと報告されている。このように健康問題を放っておくことで、後から症状が悪化しプレゼンティーズムだけでなく、アブセンティーズムによる会社の損失につながってしまうこともある。(※1)
※1 プレゼンティーイズム―これまでの研究と今後の課題―(武藤孝司)
ストレスや精神的な不調
身体だけでなく、大きなストレスや不安、うつ病といった精神的な不調を抱えながら働き続ける人も多くいる。さらに、ストレスや不調により引き起こされる睡眠不足や腹痛などによりさらに生産性が上がらない状態となることもある。
精神的な症状の場合、身体の症状よりも見分けがつかないため周囲は気付かないことも多い。また、本人は助けを求めることをためらってしまう場合も多く、症状を放置してそのまま働き続けると、休職や離職につながるリスクが高まる。
仕事量の多さや責任感
欠勤することで復帰後に仕事に追われてしまったり、自分がいないことで仕事が滞ったことに責任を感じることで、プレゼンティーズムに陥る人もいる。特に、リーダーや管理職など責任のある立場にいる場合、部下の負担が増えるという懸念から、十分にパフォーマンスを発揮できない状況でも無理して出勤する場合がよくある。また、従業員が不足していたり、自分にしかできない業務があったりすると、代わりの人が用意できないため本人が出勤する状態になってしまう。
スウェーデンとノルウェーで行われた労働者向けの調査をまとめた論文では、体調不良のときに出勤する理由に関して、ネガティブな理由/ポジティブな理由など合計12個の選択肢の中から当てはまるものを複数回答で選んでもらったところ、両国とも「同僚に負担をかけたくないから」という回答が一番多かった。
プレゼンティーズムが与える影響

プレゼンティーズムが発生することで、従業員自身や会社にさまざまな影響を与える。
生産性の低下
プレゼンティーズムが長引くことで、仕事に集中しづらくなり、パフォーマンスが落ちることで生産性が低下する。最初は軽い症状だったとしても、長期間不調が続くとメンタルが不安定になり、症状が悪化する可能性もある。生産性の低下が続くと企業自体の業務効率が落ち、会社全体の損失にもつながる。
経済的損失の発生
従業員がプレゼンティーズムの状態に陥ることで、企業の経済的損失につながる。厚生労働省の資料によると、アメリカにおける研究で企業のヘルスケアに関する全てのコストのうち、医療費や薬代の費用は24%のみで、一方プレゼンティーズムによる損失は、75%を占めると報告されている。(※1)
また、ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社の報告によると、従業員が年収約400万円である場合、健康な人のプレゼンティーズムによる推定年間損失額は60万円であり、高ストレス者では109万円、超高ストレス者では139万円に上るとされている。そのため、従業員が1,000人の会社の場合、1年で最大6,700万円程度の損失が生まれる可能性があると報告されている。
また、従業員が病院へ行く場合は企業側が医療費や保険費を賄う必要があったり、やむなく退職する場合は、労働力を失うだけでなく人材育成にかけたコストも失うため、企業にとっては大きな経済的損失となる。
※1 「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業主のコラボヘルスによる健康課題の可視化
健康状態の悪化
何らかの理由でプレゼンティーズムが発生しているにもかかわらず、無理して出勤し続けると健康状態がさらに悪化する可能性がある。プレゼンティーズムの場合、アブセンティーズムと異なり出勤できる状態のため、改善策を取らずに働き続けてしまう人も多い。しかし、その状態が続くと気づいた時には深刻な症状に陥っている可能性がある。また、身体の不調が重い病気の前兆であった場合、病院へ行けば早期発見で済んだはずが放っておくことで手遅れになるリスクもある。
プレゼンティーズムの具体的な対策方法

プレゼンティーズムは対策により、その影響を最小限にできる。
健康経営を推進する
企業が健康経営を推進することも対策のひとつだ。経済産業省によると、「健康経営とは従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義されている。健康経営を推進するために、企業では従業員の健康状態を向上させるために、さまざまなプログラムの導入が求められる。たとえば、健康診断の受診を義務化したり、定期的な健康チェックを行ったり、栄養指導をしたりといった取り組みが挙げられる。
また、身体の健康だけでなく、ストレスチェックやメンター制度、1on1面談など、心の健康を維持するための取り組みも必要だ。健康経営を進めることで従業員の心身の健康を保てるだけでなく、従業員自身の健康に対する意識も高まる可能性がある。
従業員の相談窓口をつくる
相談窓口をつくるのも対策として挙げられる。窓口を設けることで、従業員が心身の健康状態に不安や疑問がある場合に気軽に相談できる。しかし、健康に関する悩みはデリケートなこともありなかなか打ち明けられない場合もあるため、外部の人に相談できる窓口を活用する方法もある。
気軽に相談できる場を設けることで健康の不安を早い段階で払拭できるため、プレゼンティーズムの改善につながるのだ。
柔軟な働き方制度を設ける
働き方に関する選択肢を複数設けることも大切だ。短時間勤務やリモートワーク、労働時間を自分で決められるフレックス制度などが例として挙げられる。さまざまな働き方制度を設けることで、従業員は自分の都合に合わせて働くことができるため、ワークライフバランスを向上させられる。
仕事とプライベートのバランスが取れることで、仕事のモチベーションもあがり、プレゼンティーズムを防止できる。
プレゼンティーズムの対策事例
ここでは、オフィス環境を改善することでプレゼンティーズムを予防する企業事例を紹介する。
アマゾンジャパン株式会社
世界的なネット通販企業Amazon.comの日本支社である「アマゾンジャパン株式会社」では、会社としての高い成果をあげるだけでなく、従業員自身が楽しみながら働くことを推進している。
オフィスづくりにおいては、定期的に従業員の意見を反映させながら改善を繰り返している。例として、従業員が仕事の合間に体を動かせるよう、社内に安全に配慮されたボルダリングウォールを設置し、気分転換につなげる取り組みをしている。また、食堂では栄養バランスを考えた健康的なメニューを提供したり定期的に野菜マルシェを行ったりなど、従業員の食生活改善に貢献している。
株式会社ダスキン
清掃用品や衛生用品に関するレンタルや販売事業を展開する「株式会社ダスキン」では、創業時より「喜びの種をまこう」を企業スローガンとし、従業員が快適に過ごせるオフィス環境をつくっている。
ダスキンではコミュニケーション空間を大切にしており、オフィスの最上階にはカフェスペースが設置され、飲み物や自社商品のドーナツなどが無料で提供されている。ここは、打ち合わせや情報交流の場として利用されており、従業員がリラックスして過ごせる場所となっている。カフェスペースを設けることで、従業員同士のコミュニケーションの充実につながったり仕事中にひと息つけるように工夫している。
まとめ
体調不良や職場環境などの原因で出勤はしているものの生産性が低下するプレゼンティーズムは、企業の損失を生む問題として注目されている。プレゼンティーズムを改善するには、従業員自身が無理をせずに休んだり健康に気を使うことも大切だが、同僚や会社のサポートも大切である。
プレゼンティーズムに陥る人は、自分が無理していることに気づいていない場合も多い。休みやすい環境づくりや個々の健康状態を把握するといった仕組みをつくることで、プレゼンティーズムを防止する大きな手助けとなる。このような仕組みづくりによって防止できれば、従業員だけでなく企業全体のパフォーマンス向上にもつながっていくだろう。
参考文献
健康経営 オフィス レポート|経済産業省
プレゼンティーイズム ―これまでの研究と今後の課題―|武藤 孝司「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業 主のコラボヘルスによる健康課題の可視化|厚生労働省
ストレスによる企業のコスト損失額は、高ストレス者一人当たり 150 万円に達する可能性があることが判明|ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社
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