バイセクシャル(バイセクシュアル)とは?一度でも同性を好きになったらバイなの?

バイセクシャルとは

バイセクシャルとは、女性と男性、両方に恋愛感情を抱いたり、性的魅力を感じたりする人のこと。

では、以下の場合、彼女はバイセクシャルだと言えるだろうか?

女性・鈴木さんの初恋は幼稚園の時。同じクラスの男の子を好きになった。中学時代は彼氏がいた。高校は女子校に進学。そこでクラスメイトの女子・速水さんを好きになった。想いを打ち明けることはなかったが、夢の中に出てきたり、付き合うことを妄想したり、速水さんの彼氏に嫉妬したりしていた。この気持ちは恋心だ、と感じていた。高校を卒業した鈴木さんは、大学で出会った男子と7年間付き合ったのち、結婚し、出産した。今ときめくのは、メンズアイドルグループの一員で、推し活を生き甲斐にしている。

上記のような状況があったとき、鈴木さんはバイセクシャルだと言えるだろうか? 一度だけ女性を好きになり、それ以外は男性しか好きになっていない、という場合、バイセクシャルだと自認するかどうかは難しい問題だ。

パンセクシャルとの違い

バイセクシャルとは、異性にも同性にも惹かれる性的指向のことだが、一般的には恋愛的指向の意味でも使われる。バイセクシャル、と人が言うとき、それは、「異性にも同性にも性的に惹かれる」ことを意味すると同時に、「異性にも同性にも恋愛的に惹かれる」ことを意味する。

バイセクシャルと似た概念にパンセクシャルという言葉がある。パンセクシャルとは、「性別に関わらず恋愛的・性的に惹かれる人のこと」だ。

バイセクシャルの人は、男性・女性、両性に惹かれる一方、パンセクシャルは惹かれる性別は問わない。好きになったり、性的に惹かれたりする際に、性別を意識しないのがパンセクシャルなのだ。

パンセクシャルは惹かれる性別を問わないため、男性、女性だけではなく、ノンバイナリーの人にも惹かれるケースがある。

セクシャリティには、はっきり分けられないグレイエリアがある

セクシャリティには、はっきり分けられないグレイエリアがある

バイセクシャルは男女両方に惹かれる性的指向だが、どちらに強く惹かれるかは、人によって異なる。例えば、通常は男性に惹かれるが、稀に女性に惹かれる場合もあるし、逆もある。

また、前述の鈴木さんのように、セクシャリティがはっきりせず、複雑な場合もあるだろう。鈴木さんのように、通常男性が好きで、男性と付き合い、一度だけ女性に惹かれたけれど実際の関係には発展しなかった場合、本人は自分を異性愛者(ヘテロセクシャル)だと認識している場合がほとんどだ。だが厳密には、女性にも惹かれたことがあるため、バイセクシャルだと言うこともできる。

鈴木さんは「自分はヘテロセクシャルだ」と定義することもできれば、「自分はヘテロセクシャル寄りだけれど、厳密にはバイセクシャルだ」と自認することも可能なのだ。

セクシャリティには、はっきりとは言い表せない、グレイなエリアがあることが往々にしてあるため、わからない場合は無理やり定義する必要はない。自分のセクシャリティがはっきりしないことは珍しいことではない。例えば、夫一筋で60歳まで生きていきた人が、夫の死後、実は自分は女性に惹かれるレズビアンだった、と気がつくパターンもある。

余談だが、最近認知度が上がってきているアセクシュアル(性的に惹かれない性的指向のこと)にもグレイエリアがある。

「滅多に性的に惹かれることはなく、普段はアセクシャルだと自認しているけれど、一度だけ性的に惹かれた経験がある」という人は、グレイセクシャル、またはグレイアセクシュアル、グレイAと呼ばれることもある。

バイセクシャルに対する誤解や偏見

バイセクシャルは誤解されやすい性的指向だ。以下に、どういった誤解がよくあるのかを解説していく。

1 バイセクシャルは思春期の一時的な迷い

レズビアンやゲイと同様に、バイセクシャルは「若い頃の一時的な迷い」だとか「まだ運命の人に出会っていないだけ」だと誤解されやすい。バイセクシャルであることは、まだ本当の恋愛をしていない、未熟な状態だとみなされることもある。

2 不誠実で浮気者

バイセクシャルは男女両方を好きになることができるため、恋愛や性に奔放だと誤解されることが多い。浮気をしやすいとか、優柔不断でコミットすることを避ける、という誤ったイメージを持たれていることもある。これは当然誤解であり、バイセクシャルでもヘテロセクシャルと同様、浮気者もいれば、ひとりの人と誠実な関係を築く人もいる。

3 ゲイやレズビアンであると言いたくないだけ

かつては、ゲイやレズビアンのコミュニティでバイセクシャルだと公言することは歓迎されていなかった。なぜなら、バイセクシャルの人は、同性と付き合っても、結局は世間体などを考えて異性を選ぶ、と思われていたからだ。また、バイセクシャルを公言していることがある種、逃げ道を用意している卑怯者だとみなされる傾向もあった。しかし、近年この傾向は変わってきているようだ。ネットフリックス初のゲイオンリー恋愛リアリティショー『ボーイフレンド』では、若いゲイ男性が堂々とバイセクシャルであることを公言しており、年上のゲイ男性が、「時代は変わった」と感心するシーンが見られた。

バイセクシャルに対する偏見を生み出す「ヘテロノーマティブ」とは?

ところで、なぜバイセクシャルには様々な誤解や偏見が見られるのだろうか? そこを理解するためには、ヘテロノーマティブ(異性愛規範)について知っておく必要がある。

ヘテロノーマティブとは、異性愛者であることが社会にとって正常であり、それ以外の性的指向は異常であり、正しくない、と見做す規範のことだ。

例えば、かつては小学校の教科書に「思春期になれば異性に対する性的関心が芽生える」といったことが正常なこととして描かれていた。近年、そういった記述は少なくなっているが、現代でも、ヘテロノーマティブは健在だ。

ヘテロノーマティブの問題点

ヘテロノーマティブの問題点

当然ながらヘテロノーマティブ的な価値観は、バイセクシャルを含むLGBTQ+の人々にとって生きづらさを生じさせる要因になる。異性愛が当然で同性愛がおかしい、とされている社会では、自分自身のアイデンティティを隠さなければならなかったり、否定されたり、笑われたりする経験をすることが少なくない。

例えば、バイセクシャルの人々は次のような経験をすることがある。

1 嘘をつかなければならない

女性には「彼氏いる?」男性には「彼女いる?」と聞くことに、何ら違和感を抱かない人は少なくないだろう。彼らがバイセクシャルで同性と付き合っている場合、この質問に答えるのは難しい。「彼氏はいないけど、彼女なら」と正直に答えただけでも、「カミングアウト」と捉えられてしまい、職場や学校で浮いてしまうかもしれない。そういった面倒を避けるために、彼氏を彼女、彼女を彼氏に置き換えて話すなど、日常的に嘘をつかなければならず、ストレスを感じることもよくあることだ。

2 アウティングのリスクが高い

ヘテロノーマティブの社会でなければ、同性や両性を好きになることに偏見や差別は付随しない。しかし、現実に、異性愛が正常、同性愛は異常だとする価値観を抱いている人が多い社会の中で、自身のセクシャリティを公表するのはハードルが高いことだ。自分から公表しなくても、アウティングのリスクはある。アウティングとは、他人のセクシャリティを同意なく広めることだ。2015年、一橋大学の学生が自身のセクシャリティをアウティングされたことを苦に自殺した事件・一橋大学アウティング事件の一件で、異性愛者でないことが公にされることが、場合によっては自殺するほどの苦悩を引き起こすことが確認された。こういった痛ましい事件も異性愛規範が強固でなければ起こらなかったはずである。

3 異性愛への圧力

ヘテロノーマティブの社会では、異性愛に人々を誘導しようとする様々な圧力がある。それゆえ、バイセクシャルの人が、両性に惹かれることを隠して異性愛者として振る舞い、パートナーとして異性を選ぶ道を選ぶケースもある。

ヘテロノーマティブを乗り越えるために

ヘテロノーマティブな社会を変えるためには、多様な性的指向や性自認が尊重され、異性愛以外の人々も平等に扱われる社会を作ることが重要だ。そのためには、次のような取り組みが考えられる。

1 多様な性的指向や性自認について知る

学校で、LGBTQ+に関する教育を行い、多様な性的指向や性自認が存在することを教えることが重要だろう。性的マイノリティに対する偏見や誤解を減らすためには、子ども達に教育をすると同時に、大人は「異性愛が正常でそれ以外は外れ値」という考えをアンラーニングしていく必要がある。

2 メディアで性的マイノリティの表象を増やす

恋愛ドラマなどでは、近年ゲイやレズビアン、アセクシュアルなどの性的マイノリティのキャラクターが増えてきた。このように、性的マイノリティの表象を行うことが大切だろう。描かれ方も重要だ。今はまだ、性的マイノリティが悲劇的な最後を迎える映画やドラマが多すぎる、という問題がある。性的マイノリティを特殊な人、結局最後は不幸になる人、として描いた場合、いくら画面に性的マイノリティがたくさん登場しても、エンパワーメントにはならず、偏見を助長するだけになるだろう。

同時に、著名人の性的マイノリティをメディアで取り上げていくことも重要だろう。日本では、メディアに取り上げられる性的マイノリティは、ゲイ男性に大きな偏りがある。レズビアンやバイセクシュアルはほとんどメディアで重要な地位を築くことがない。この点も、変えていく必要があるだろう。

3 同性婚の実現など、法整備を進める

近年、アジアでも次々と同性婚が合法化している。日本ではパートナーシップ条例を導入する自治体はあるが、パートナーシップ条例は結婚と違い、遺産相続などの法的効力がないため、不十分な状況だ。LGBTQ+コミュニティに対する法的な保護を進めることは、ヘテロノーマティブな社会を変えるために欠かせないステップだろう。

さいごに。自分を自由に表現できる社会を目指して

バイセクシャルはヘテロノーマティブな社会の中でしばしば無視され、誤解されることが多いセクシャリティだ。

すべての人が自由に自分自身を表現できる社会を築くためには、性的指向の多様性を理解し、尊重する必要があるだろう。

参考書籍
『見えない性的指向アセクシュアルのすべて』ジュリー・ソンドラ・デッカー著 上田勢子訳(明石書店
『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』神谷悠一著(集英社新書)

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