「女性なのにすごいね」は無意識の差別?マイクロアグレッションとは?

マイクロアグレッションとは

マイクロアグレッションとは、差別かどうかわかりにくい形で行われる差別的言動のことだ。たいてい、発言者は差別という意識がないため、「自覚なき差別」と呼ばれることもある。

マイクロアグレッションは、人種、性別、性的指向、性自認、宗教、障害などに対する、「ステレオタイプや偏見」に基づいて行われるが、発言者は自分にステレオタイプがあることに気がついていないことが多い。同時に、被害者も社会的な偏見を内面化している場合、「あの発言は嫌だったけど、自分が考えすぎなのかも」と悩むことになる。

マイクロアグレッションは、発言者にとっても被害者にとっても、「それが差別である」ということに気がつきにくく、それゆえ、繰り返しやすい差別の一形態なのだ。

今回は、マイクロアグレッションの事例と、加害者にも被害者にもならないためのヒント、そして、マイクロアグレッションを受けてしまった場合の対応策についても紹介していく。マイクロアグレッションの事例を事前に知っておくことで、いざ差別の現場に直面した際、適切な判断ができるようになるだろう。

マイクロアグレッションの事例

まずは、マイクロアグレッションの事例について紹介する。

マイクロアグレッションの事例 1 性的指向・性自認に関する発言

「○○くん、彼女いるの?」

無意識のステレオタイプ:普通は異性愛者のはず

この発言を男性に対して行った場合、発言者は単なる雑談か、仲良くなるためのきっかけとしてこの言葉を発しているのかもしれない。しかし、この男性が同性愛者であった場合、男性は嘘を吐くか、性的指向を明らかにするか、の二択を迫られることになるかもしれない。異性愛者は、世の中のほとんどが異性愛者だという前提で生活しがちだが、実際には、様々な性的指向の人間がいる。「普通は異性愛者にちがいない」という前提で会話を進めると、まったく悪気がなくとも、相手に居心地の悪い思いをさせてしまう可能性があるのだ。

「LGBTQの人たちにも寛容な社会になればいいよね」

無意識のステレオタイプ:性的マイノリティの人に、シスジェンダー・異性愛者の人と同じ権利を与える必要はない。

上記の発言は、いっけん、性的多様性を受け入れている発言のように見える。しかし、「寛容」とはそもそも「過失を認めて受け入れること」である。寛容という言葉には、「存在を認めてあげる」という性的マイノリティではない側の上から目線として受け取られる。発言者は性的マイノリティに対して、理解があるつもり、寄り添うつもりで上記の発言をしたのかもしれない。しかし、その言葉のチョイスが、無意識の差別につながる場合もあるのだ。

マイクロアグレッションの事例 2 人種に関する発言

「日本語上手ですね」 

無意識のステレオタイプ:ルックスから判断して、日本人じゃないだろう

典型的な日本人の容姿ではない相手に対し、「日本語上手ですね」と発言するのは、褒めているつもりでも差別につながっているケースがある。なぜなら、相手は実は日本人かもしれないからだ。黒人、白人、ヒスパニックのように見える容姿の人物でも、日本人だというケースはある。にもかかわらず、日本人ではないという前提で会話を進めれば、相手に心理的ダメージを与える可能性があるのだ。この手の発言は、発言者には初めて発した言葉でも、受け手は何十回も聞いているケースが多い。自分は日本人なのに、何度も初対面の人に外国人扱いされてうんざりしている、という人も少なくないのだ。

マイクロアグレッションの事例 3  性別に関する発言

「女性なのにすごいね」

無意識のステレオタイプ:普通、男性のほうがすごい

「女のくせにえらそう」「男にくせに○○もできないの?」といった発言が差別であることは明らかだ。「女のくせにえらそう」は、女はわきまえろという差別意識に基づいており、「男のくせに○○もできないの?」という発言は、男は○○できるべき、という性別役割に基づいている。

一方、「女性なのにすごいね」は、表面上褒めているように見えるのでやっかいだ。たとえば、「女性なのに年収〇万円なんてすごい」と発言した人がいたとする。実際、日本は男女の賃金格差が大きい国であるから、女性が高収入を得るのは男性より難しい。それゆえ、「女性なのに年収〇万円なんてすごい」という発言は、事実に基づいた発言であり、なんの問題もないようにも思える。

しかし、「女性なのにすごい」という言葉は、そもそも女性を男性より下位に置いていないと出てこない言葉だ。たとえば、日本人がアジア人差別の蔓延している海外に移住し、現地の人から、「アジア人なのに高収入で凄いね」と言われたとする。統計上、現地の人の方が高収入だったとしても、モヤっとする人は多いだろう。表面上褒めているつもりでも、相手を下に見ていることが伝わる言動は、受け手は敏感に感じるものだ。

マイクロアグレッションをしないためにできること

マイクロアグレッションをしないためにできること

上記の例を見て、「この発言、自分もしていたかも」と思われた方は少なくないだろう。発言者が意識して差別的言動をしないようにしないと、マイクロアグレッションはなくならない。ここでは、マイクロアグレッションをしてしまわないために、できることを解説していく。

マイクロアグレッションをしないためにできること 1 学ぶ

マイクロアグレッションは、無意識の偏見や差別に基づいて行われる。そのため、「思いやりをもって相手と接する」だけでは不十分だ。まずは、自分のバイアスに気が付く必要がある。

入門書としては、『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション――人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』(明石書店)がある。本書では、マイクロアグレッションが、レイシズムや、性差別、異性愛中心主義と深く関わっていることが示されている。自分の偏見を自覚するためにも、学び続けることが必要だ。多様性について学べば、他者に対し、思いやりの心を持つことができるようになるだろう。

マイクロアグレッションをしないためにできること 2 謝罪・改善する

自分の言動が差別的だったと指摘された場合、自己防衛的にならずに謝罪することが大切だ。差別をしない人はほとんどおらず、誰でも差別はしてしまうものだ。指摘されたら、自分が変われるチャンスだと考えれば、次また同じ過ちを犯すことがなくなるだろう。

マイクロアグレッションの対処方法

さいごに、マイクロアグレッションをされた、または見かけた場合、どのように対応すればいいのかを解説する。

マイクロアグレッションをされた場合

冷静にその言動が不適切であること、差別的だと感じたことを相手に伝えることができれば一番よいだろう。しかし、状況や立場によっては、難しい場合もある。その場では驚いて反応できなかったけれど、自宅に帰ってから思い出して怒りが湧いてきたというケースもあるだろう。

その場合は、時間が経ってからでもいいので、信頼できる友だちや家族、上司に相談する、という対処法がある。心理的ダメージを受けた場合は、カウンセラーなどに話を聞いてもらうのも一案だ。

大切なのは、「気にしすぎかも」と、自分が受けた心のダメージを過小評価しないことだ。自分の心の健康を第一に考えて、健やかでいられる方法を模索するのがよいだろう。

マイクロアグレッションを見かけた場合

マイクロアグレッションを見かけた場合、被害当事者は声を挙げられない場合が少なくない。第三者としてできることは、その場で、その言動が不適切だと指摘することだ。また、被害者に寄り添い、話を聞いてあげることも大切だろう。

まとめ

マイクロアグレッションは、無意識に行われることが多いため、継続して発生しやすい。いっけん軽微だが、繰り返し行われることで、被害者の心には大きなダメージが発生する場合もある。加害者や傍観者にならないために、また、被害にあった際に即対応できるように、日常生活の中で自分自身の言動を振り返り、多様性を尊重する意識を持つことが重要だろう。

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