共感疲労とは?情報過多社会が引き起こす弊害と対策をご紹介

共感疲労とは

共感疲労とは、他人の感情や苦痛に対して共感し続けることによって生じる精神的な疲れのことである。特に医療や福祉の現場で働く人々に多く見られる現象であり、患者や利用者の心理的な負担を理解しようとする過程で、自分自身も同様の感情を経験することで引き起こされる。

また、現代社会では、SNSやニュースメディアを通じて、世界中のさまざまな出来事に触れる機会が増えている。これにより、私たちは遠く離れた場所で起きている事件や災害についても知ることができ、それに対して共感や心配を感じるようになる。このような情報の氾濫は、個人にとって過剰な共感を強いることになり、結果として共感疲労を引き起こす原因となる。

共感疲労は、単なる一時的なストレスや疲れとは異なり、継続的な共感の行為が積み重なることで徐々に蓄積される。そのため、自覚症状が出にくく、気づいたときには深刻な状態になっていることも少なくない。

共感する能力は人間関係を築く上で非常に重要な要素である。しかし、過度に共感しすぎると、自己の感情と他者の感情の境界が曖昧になり、ストレスや燃え尽き症候群へとつながるリスクがある。共感疲労によって感情のコントロールが難しくなり、仕事や日常生活に支障をきたすことも多い。

共感疲労の症状

共感疲労の症状

共感疲労は、精神的な疲労感だけでなく、身体へさまざまな影響を及ぼす。以下のような症状が見られたら、それは共感疲労が原因かもしれない。

身体の不調

共感疲労は心理的な状態であるが、その影響は身体にも及ぶ。共感疲労を経験する人々は、だるさや頭痛、食欲不振といった身体の不調を訴えることが多い。これらの症状は、精神的なストレスが身体に表れたものであり、心と体の密接な関係を示している。

だるさは、日常生活における活力の低下を意味し、仕事や家庭生活におけるパフォーマンスの低下につながる。頭痛は、集中力の欠如や判断力の低下を引き起こし、日々の業務に支障をきたす。食欲不振は、栄養状態の悪化や免疫力の低下に繋がり、さらなる健康問題を引き起こす可能性がある。このように、心身の健康状態は密接に影響し合っているのだ。

睡眠の問題

共感疲労は睡眠の質にも影響を及ぼす。「寝付けない」「夜中に何度も目が覚める」「熟睡感が得られない」といった睡眠の問題は、共感疲労の典型的な症状である。

日中の過剰な共感による精神的な疲れは、夜になっても心が休まらず、リラックスして眠りにつくことを難しくする。寝付けないことは、翌日の疲労感や集中力の低下につながり、仕事や学習に悪影響を及ぼしかねない。また、熟睡感がないと感じることは、睡眠の質が低下している証拠であり、身体的な回復が十分に行われていない状態を示している。

気分の低下

共感疲労による気分の低下は、日常生活における感情の変動として見られる。「些細なことですぐに落ち込む」「ちょっとしたことでイライラする」といった形で表れることが多い。

共感疲労を抱える人は、他人の感情に敏感になりすぎることで、自分自身の感情のコントロールが難しくなる。これにより、通常ならば大きな影響を受けないような出来事に対しても、過剰に反応してしまうのだ。

気分の低下は、対人関係のトラブルや仕事のミスにつながることもあり、日々の生活の質を著しく低下させる。また、このような感情の変動は、ストレスの増加やうつ症状のリスクを高める可能性がある。

活動性の低下

共感疲労は、個人の活動性にも影響を及ぼす。「仕事や外出が億劫になる」「趣味を楽しめなくなる」といった症状は、共感疲労による活動性の低下を示している。これは、他人の感情に対する過度な共感が精神的なエネルギーを消耗させ、日常生活における意欲や活力を奪うためである。

仕事への意欲が低下すると、職務の遂行に必要な集中力や創造力が減退し、生産性の低下につながる。また、趣味やレジャー活動に対する関心が薄れることは、生活における喜びや満足感の減少を意味し、全体的な生活の質の低下を招く。

自信の喪失

共感疲労は、個人の自尊心にも影響を及ぼし、自信の喪失という深刻な症状を引き起こすことがある。他人の苦悩に対する過度な共感は、自分自身の価値や能力に対する疑問を生じさせるのだ。

これにより、「自信を持てなくなる」「人から必要とされていないように思う」といった感情が生まれる。特に、他人の問題を解決できないと感じた時、自己効力感が低下し、無力感が増す。

このような自信の喪失は、社会的な孤立感や職場での不安定さを招き、さらにはうつ症状や自己否定の感情を強める可能性がある。自信の喪失を感じた場合は、自己肯定感を高める活動や、専門家のカウンセリングを受けることが有効である。

原因|共感疲労はなぜ起こる?

共感疲労が起こる原因

共感疲労はなぜ起こるのだろうか。ここでは、共感疲労が起こり得るケースやそのメカニズムについて紹介する。

周囲の人からのつらい話をたくさん聞いたとき

周囲の人からのつらい話をたくさん聞くことは、共感疲労を引き起こす一因である。人は自然と他者の感情に共感する生き物であり、友人や家族、同僚からの悩みや苦しみの話に耳を傾けることは、社会的なつながりを保つ上で重要な役割を果たす。

しかし、これらの話を聞くことが多くなると、その感情を自分のものとして取り込んでしまい、精神的な負担が増大する。特に、解決策が見つからない問題に対して共感し続けると、無力感やストレスが蓄積し、心の疲れとなって現れるのである。

身近な人が病気や事故などの不幸にあったとき

身近な人が病気や事故などの不幸に遭遇したとき、私たちは特に強い共感を感じることがある。親しい人の苦痛は、自分自身のことのように感じられ、その結果として強い心理的な反応を引き起こす。このような状況では、共感による心の負担が大きくなり、疲労感につながることも少なくない。

特に、親しい人の不幸は、日常生活において頻繁に思い出され、そのたびに心理的なストレスを感じることになる。この反復する共感が、共感疲労の原因となるのである。親しい人の不幸に対する共感は、避けがたいものであるが、それが疲労感につながらないよう、自己ケアの重要性が高まる。

戦争や事故などの悲惨なニュースを見たとき

戦争や事故などの悲惨なニュースを目にすると、人はメディアからの報道によって、その状況に自分がいるかのような感覚に陥ることがある。映像や記事を通じて他者の痛みや恐怖をリアルに感じ取るためであり、強い共感を引き起こすのだ。

この過程で、視聴者は精神的な負担を感じ、共感疲労を経験することになる。特に、連日のように流れる悲報は、心に重くのしかかり、継続的なストレスとなって現れる。

感情の「感染」

共感疲労の原因として、感情の「感染」がある。これは「情動感染」とも呼ばれ、他人の感情が自分にも伝わり、共感が生じる現象である。このプロセスは、脳内の「ミラーニューロン」の働きによって起こるとされている。

ミラーニューロンは、他者の行動や感情を観察することで活性化し、観察者が同じ感情を体験するかのような感覚を引き起こす。例えば、他人が悲しんでいるのを見ると、自分も悲しくなるという経験は、このミラーニューロンの働きによるものだ。このように、他人の感情が直接的に自分に影響を与えることで、共感疲労が生じるのである。

ストレスホルモンの増加

ストレスを感じている人を目の当たりにすると、観察者の体内でもストレスホルモンの量が増加することがある。これは、他者のストレスが自分にも伝わり、身体が反応するためである。特に、コルチゾールやアドレナリンといったホルモンは、ストレス状態にあるときに分泌される。

これらのホルモンの増加は、心拍数の上昇や緊張感の強化など、ストレス反応を引き起こす。長期間にわたってこのような状態が続くと、心身の疲労が蓄積し、共感疲労を引き起こす原因となる。他者のストレスに対する共感は、心理的な影響だけでなく、身体的な反応をもたらすのである。

共感疲労にになりやすい人の特徴

共感疲労になる傾向が強い人には共通の特徴があるとされている。以下の3点に当てはまる場合は、共感疲労を生じる可能性が高いと言えるだろう。

感受性が強い人

感受性が強い人は、他人の感情や体験に対して敏感であり、特定の状況や情報から人よりも多くのことを感じ取る傾向がある。このような人々は、他人のつらい話を聞いた際に、過剰に同情しやすく、まるで自分が相手と同じ体験をしているかのような苦しみを感じることがあるため、共感疲労を引き起こすリスクも高いと言える。

感受性が強いという特性は、共感の深さをもたらすが、同時に心理的な負担も大きくなるため、自己ケアが特に重要となる。

気を遣いすぎる人

気を遣いすぎる人は、他人の感情や状況に対して深く共感し、その結果として共感疲労を起こしやすい。他人が困難に直面しているとき、「気持ちを理解してあげたい」「何か自分にできることはないだろうか」と強く思いやる傾向にあるからだ。過剰な気遣いは、自分自身の感情的なリソースを消耗させ、精神的な疲れを引き起こす。

そのため、他人との境界線を明確にし、適切な範囲で気を遣うことが、共感疲労を防ぐ上で重要である。自分の感情と他者の感情を区別し、健康的な距離感を保つことが重要だ。

使命感が強い人

使命感が強い人は、他人を助けることに深い責任感を持ち、困っている人を放っておけない傾向がある。特に、医療・福祉・教育などの対人援助の仕事に従事している人々は、この使命感を強く持っており、他人の苦痛に対して積極的に関わろうとする。

しかし、強い使命感は他人の問題に対して過剰に共感し、自身の感情を消耗させる原因となる。結果として、共感疲労を感じる機会が増え、心理的な疲れを引き起こすことになる。使命感が強い人は、自己の限界を理解し、適切な自己ケアを行うことが、共感疲労を防ぐ上で重要である。

共感疲労に陥らないための対策

共感疲労に陥らないための対策

共感疲労に陥らないためには、考え方の工夫や、ちょっとした行動を心がけることが有効な対策となる。ここでは日常で取り入れられる共感疲労への対策として、以下の5つを紹介する。

適切な境界線を設定する

共感疲労に陥らないためには、自分と他者との間に適切な境界線を設定することが重要である。これは、他人の感情や問題を自分のものとしすぎないように意識することを意味する。

具体的には、他者の問題に対して共感は示しつつも、それが自分の感情や生活に過度に影響を与えないようにする。また、他人を助けることと自己の健康を守ることのバランスを取ることが求められる。この境界線を意識することで、他者への共感と自己の心理的な安定を両立させることが可能となる。

自信の健康と心のケアを実践する

共感疲労を防ぐためには、自身の身体的な健康と心のケアを実践することが不可欠である。十分な睡眠を取る・バランスの良い食事を心がける・定期的な運動をするといった基本的な健康管理が有効だ。

また、ストレスを軽減するためのリラクゼーションや趣味への時間を確保することも重要となる。心のケアとしては、感情を適切に表現し、信頼できる人とのコミュニケーションを持つこと、必要に応じて専門家のサポートを求めることなどが挙げられる。自己の健康と心のケアを継続することで、共感疲労に陥るリスクを減らし、精神的なバランスを保つことにつながる。

デジタルデトックス

デジタルデトックスは、共感疲労を防ぐための有効な手段である。スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスから一定期間離れることを意味し、SNSやニュースサイトなどの情報源からの一時的に距離を置くことで、心の休息を得る。

デジタルデバイスの使用を控えることで、日々の情報の洪水から解放され、心理的な負担を軽減することにつながる。デジタルデトックスを行うことで、リアルな対人関係や自然との触れ合いを重視し、心の平穏を取り戻すことが期待される。

ポジティブなことを書き出す

日々のポジティブな出来事や感謝の気持ちを書き出すことも、共感疲労への対策として有効である。ネガティブな感情やストレスからの気分転換を促し、心のバランスを取り戻すのに役立つ。

例えば、日記やノートに、その日に感じた小さな幸せや達成したことを記録する。これにより、ネガティブな出来事に焦点を当てがちな思考パターンを変え、ポジティブな側面に目を向ける習慣が身につく。ポジティブなことを書き出すことは、自己肯定感を高め、共感疲労による心理的な圧力を軽減する効果が期待できる。

自分の気持ちを第三者に話す

共感疲労を防ぐためには、自分の気持ちを信頼できる第三者に話すことが効果的である。これは、心の中に溜まった感情やストレスを外に出し、客観的な視点を得るための手段だ。友人や家族、カウンセラーなど、話を聞いてくれる人に自分の感じていることを正直に伝えることで、心の重荷を軽減することができる。

また、第三者からのフィードバックやアドバイスは、問題を異なる角度から見るきっかけを与え、新たな解決策を見つける助けとなる。自分の気持ちを話すことは、共感疲労による圧力を和らげ、心の健康を保つ上で重要な役割を果たすのだ。

まとめ

情報過多社会において共感疲労は、現代人が直面する課題の一つである。今後、テクノロジーの進化により情報の流通はさらに加速するだろう。その中で、私たちは情報の取捨選択を学び、心の健康を守るためのスキルを身につける必要がある。この問題に対処するためには、個人の意識改革も必要となるのだ。

また、教育や職場でのメンタルヘルスの重視、カウンセリングや心理サポートのアクセス向上など、共感疲労に対する公的な対策も重要だ。個人が自己ケアを行いやすい環境を整えることが、共感疲労の予防と対策につながる。

共感疲労に対する認識を深め、それを軽減するための具体的な方法を提案し続けることが、これからの社会における責務であると考えられる。情報過多社会においても、心豊かな生活を送るためには、共感と個人の健康のバランスを見極める知恵をもつことが、個人としても、社会としても求められるのである。

【参考記事】
共感疲労について|株式会社セーフティネット

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