エコロジカルフットプリントとは?現状と削減に向けた取り組み事例を紹介

エコロジカルフットプリントとは

エコロジカルフットプリントとは、人間の活動が自然環境に与えている負荷の度合いを、数値によって可視化した指標のことである。WWF(世界自然保護基金)によると、「私たちが消費するすべての再生可能な資源を生産し、人間活動から発生する二酸化炭素を吸収するのに必要な生態系サービスの総量」と定義されている。

つまり、人間生活に必須な食物や建築、木材、エネルギー等を得るために消費している資源を再生したり、排出された二酸化炭素を吸収するために必要な土地や水域の総面積のことだ。ちなみにフットプリントとは「足跡」という意味で、エコロジカルフットプリントとは「人間活動が地球環境を踏みつけた、その足跡」と表現されるものである。

人間が資源を必要とする一方で、地球の生産力や再生力、二酸化炭素の吸収力にも限度がある。この力をバイオキャパシティという。エコロジカルフットプリント(需要)とバイオキャパシティ(供給)を比較すると、現在の人間の生活環境が持続可能であるかどうかを判断することができる。

エコロジカルフットプリントの現状

エコロジカルフットプリントの現状

エコロジカルフットプリントの指数は、高ければ高いほど地球環境に負荷をかけているといえる。では、世界と日本の現状は一体どのようになっているか、それぞれについて見ていこう。

世界の現状

各国ごとにエコロジカルフットプリントの指数が算出されているが、先進国の方が数値が高い傾向にある。

世界におけるエコロジカルフットプリントは、1970年代前半からバイオキャパシティを超えはじめており、2013年時点では地球1.7個分にあたると算定された。

国際NGOのGlobal Footprint Networkが発表した、国別のエコロジカルフットプリントのランキング(2022年時点)によると、世界で最も数値が高いのは中国である。次いでアメリカ、インド、ロシア、日本、ブラジル、インドネシア、ドイツ、韓国、メキシコがランクインし、トップ10を構成している。

エコロジカルフットプリントの数値が国や地域によって異なる理由は、その国がどの分野の産業で発展したかが大きい。石油や石炭などの化石燃料を主要産業として発展した国は、やはり数値が高い傾向だ。また、国の土地や利用形態によっては元々バイオキャパシティが低いところもあり、過剰消費にならざるを得ない面もある。

日本の現状

上述の世界ランキング第5位の日本は、かなりエコロジカルフットプリントが高い国といえる。

実際1965年ごろから、過去50年間で日本のエコロジカルフットプリントは55%も上昇している。これは戦後の日本が大量生産・大量消費・大量廃棄の社会、および車依存社会に変化したことが大きく関係していると考えられる。それを証するように、分野別で見ると二酸化炭素による負荷が65%と大部分を占め、資源の海外依存度は89%にも及ぶ。

都道府県別に見ると、上位10位である東京、神奈川、大阪、愛知、埼玉、千葉、北海道、兵庫、福岡、静岡で全体の59%を占めるなど、人が集まりやすい都市部は、エコロジカルフットプリントが高い傾向にある。

また、2013年時点で世界の国々において必要な資源は、平均地球1.7個分と算出されたが、日本においてはそれを大きく上回る2.9個分とされた。1995年以降、国および一人あたりのエコロジカルフットプリントは減少傾向にあるとはいえ、依然として地球環境に大きな負荷を与えていることは間違いないだろう。

エコロジカルフットプリントの課題・問題点

エコロジカルフットプリントはサステナビリティが叫ばれる今の時代、行政や立法の面でも注目されているが、現実的な問題点も多く指摘されている。

その一つは数値の不確定性だ。エコロジカルフットプリントの算出において、人間の活動で消費されるすべての資源について計算されているわけではない。また人間以外の生物が消費している資源については含まれておらず、生物多様性の要素は皆無である。

また、あくまでも自然環境のみに配慮しているため、労働環境や人権問題、賃金面などの社会的な側面はほとんど考慮されていない点も課題として挙げられる。

エコロジカルフットプリントを減らすには

エコロジカルフットプリントを減らすためには

夏の猛暑日など、地球温暖化をはじめとした環境破壊による影響が私たちの肌で感じられるようになった昨今。これからも持続可能な社会活動を行うためにエコロジカルフットプリントを減らすことは、全世界において喫緊の課題である。

エコロジカルフットプリントの減少には、まず資源を循環させ、バイオキャパシティ以下の消費量に納めなければならない。具体的には、公共交通機関の利用または徒歩や自転車での移動、植物を増やして二酸化炭素吸収量を上げる、再生可能エネルギーの活用またはエネルギー効率のよい製品を選ぶ、地産地消の推進などの方法が挙げられる。

なお、これらを実現するには国・企業レベルでの取り組みが必要不可欠だ。また、車依存社会を脱するための交通網整備、植林などの土地確保、就農希望者への補助、再生可能エネルギー事業への投資などの検討は、各自治体が主体となって行う必要がある。

削減に向けた取り組み事例

持続可能な社会を実現するため、各国はどのようにエコロジカルフットプリントを活用しているのだろうか。世界と日本の取り組み事例を見ていこう。

ドイツ

ドイツでは現在、政府のウェブサイトを活用し、自分の生活におけるCO2排出量を計測する市民が増加している。住まい、モビリティ(交通)、食生活、収入の各項目で、質問に対する回答を入力すれば自動的にCO2排出量を計測してくれる。多くの市民が、どのように生活を変えればCO2を削減できるか考えるために、このシステムを活用している。

CO2の削減が地球にとって必要なことと理解していても、実際の自分の排出量を把握している人は決して多くはないだろう。このツールを使えば、自分のどんな行動が、どのくらいのCO2量を排出しているか「見える化」することができるのだ。

それにより、飛行機の利用によって膨大な量のCO2を排出することを懸念する人も増えている。そのため、ドイツの一部航空会社では、会社が行うCO2削減プロジェクトへの寄付金を含めた航空券を販売しており、消費者はそれを購入することで排出量を相殺できるというサービスを提供している。

スウェーデン

環境先進国であるスウェーデンにおいて、都市ごみの処理方法の比率は「焼却」が約4割を占めている。しかし一般にイメージされる「燃やすだけ」の方法ではなく、「エネルギー回収」を行っているのが特徴だ。これは、廃棄物を焼却したときに生まれる熱エネルギーを回収し、化石燃料などの代替エネルギーとして再利用する方法である。

また、ごみを100種類に分別しているため、家庭ごみの99%はリサイクルまたはエネルギー源として使用される。家庭から出る生ごみはコンポスト化することが一般的で、スーパーマーケットでも生ごみ回収用の紙袋が無料で配布されている。

他にも、分別リサイクルボックスや資源ごみの自動回収システムの設置、デポジット制度(空き缶やペットボトルをリサイクルすると返金される仕組み)の導入など、国民がリサイクルに取り組みやすいような体制や環境が整備されている。

日本

日本では、2009年度から2011年度にかけ経済産業省、環境省、国土交通省、農林水産省の主導により「カーボンフットプリント制度試行事業」が行われた。カーボンフットプリントとは、製品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのCO2排出量を数値化したものである。エコロジカルフットプリントと同じくCO2を定量的に示すことで、その製品・サービスのサプライチェーン関係者におけるCO2削減意識を向上させるものだ。

この事業の目的は、活動量の取得やカーボンフットプリントの算出に必要な情報の交換が可能であるかを検証することだ。事業者は、原材料調達・製造、流通、使用、使用後処理の各段階におけるCO2排出量を、細かい基本ルールに則って計算。検証が行われた各事業者の情報はWEB上で公開され、製品には事業者によってCFP値が記載されたロゴマークを貼付することとなった。

2012年からは運営元を民間に移し、現在は一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)によって「SuMPO環境ラベルプログラム」が運営されている。

まとめ|持続可能な世界を保つためにすべての人々が理解すべき指標

エコロジカルフットプリントは、持続可能な世界の実現に向けてより多くの人が知る必要がある指標だ。この数値の高い状態が続けば、いずれ地球はあっという間に限界を迎えてしまうだろう。

その対策の多くは国や企業レベルで行うものであるため、あまり身近に感じられないかもしれない。しかし、電気や水道の使用を節約する、環境に配慮した会社の製品やサービスを選ぶ、食品ロスをなくす、地産地消を心がける、徒歩や自転車で移動するなど、個人単位でもできることはたくさんある。

またエコロジカルフットプリントについて関心をもち、調べることもアクションの一つである。いくら国や企業が体制や仕組みを整えたとしても、現実的な変化に繋がるのは一般消費者である私たち一人ひとりの意識であることを忘れてはならない。

【参考記事】
エコロジカルフットとは|エコロジカル・フットプリント・ジャパン
エコロジカル・フットプリント指標について|環境省
試行事業の概要|経済産業省
カーボンフットプリント制度試行事業について

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