サステナブルツーリズムとは?注目される背景や、もたらす効果、日本と海外の取り組み事例を紹介

サステナブルツーリズムとは?

サステナブルツーリズムとは、観光地の自然環境や文化、地域経済に充分に配慮した観光のこと。つまり、環境、文化、経済の持続可能性を保ちつつ発展させる取り組みで、旅を通じて、地域社会や環境に対してポジティブな影響を与えることを目指す。

エコツーリズムとの違い

エコツーリズムは、自然保護に焦点を当てた観光のあり方で、地域の自然や文化について学び、その価値への理解を深めることを重要視する。これに対してサステナブルツーリズムは、環境だけでなく社会文化や経済の持続可能性も含むより広範な概念である。

グリーンツーリズムとの違い

グリーンツーリズムは、農村などの緑が豊かな土地で、その地域の自然や文化、人々の暮らしに触れ、交流を楽しむ観光スタイルである。例えば、農家での民泊や農作業体験などが、これに当てはまる。サステナブルツーリズムは、都会や農村地域など、場所を問わないのに対して、グリーンツーリズムは、農村・漁村地域での滞在に限定していることが特徴だ。

ニューツーリズムとの違い

ニューツーリズムは、テーマ性が高い体験型や交流型の観光スタイルのことで、例えば、寺院での舞妓体験や農村での宿泊体験などがある。上述のエコツーリズムやグリーンツーリズムは、ニューツーリズムの一つの形態といえる。サステナブルツーリズムにおいて、地域や環境の持続可能性を重視する中で、ニューツーリズムとして新しい形態の観光スタイルが提供され始めてるということだ。

注目されている背景

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サステナブルツーリズムが注目される背景には、人気観光地を中心にオーバーツーリズム(観光公害)の問題が顕著になってきたことがあげられる。観光客の著しい増加により、ゴミ問題、騒音、混雑などが引き起こされ、地域の平穏な生活環境が乱されるという事態が起きているのだ。例えば、京都市では、食べ歩きをする観光客のポイ捨てなどによってゴミ問題が発生していたり、混雑により地元の住民が公共交通機関を使用する際に支障が出ていた。また、観光のための開発によって生物多様性の喪失や水資源の枯渇など、地域の自然環境を破壊する原因になることもある。

他にも、観光による経済成長が一部の人々や地域に偏って利益をもたらし、格差を生じさせていることや、観光の商業化によって地域の伝統や文化が失われることが問題視されている。サステナブルな観光は、観光地の自然環境を保全し、地域コミュニティでの利益の公平な配分を促し、そして地域の文化や伝統を保護するために、世界中で重要な戦略として推進されているのである。国連世界観光機構(UNWTO)をはじめとする国際組織でも、持続可能な観光を地球規模での課題に対する解決策の一つと位置付けている。

サステナブルツーリズムがもたらす効果

サステナブルツーリズムの推進によって、地域の環境、文化、経済によい効果をもたらす。

自然環境を守る

サステナブルツーリズムによって、観光業を発展させながらも、森林や海の環境を保護することにつながる。例えば、沖縄県西表島では自然環境や動物の保全を目的に、入場者数の上限を1日あたり1,200人に設定している。これにより、マングローブなど島の自然を保護しつつ、観光客がありのままの自然を存分に楽しむことができる。

地域の文化振興

地域固有の文化や伝統、歴史を尊重しながら、観光業を発展させることで、地域ごとの文化の振興や復興に貢献することもある。群馬県桐生市では、「ファッションタウン構想」を打ち出し、町の伝統文化である織物文化の振興とファッションを通じた町おこしを行っている。年に一度開催している「桐生ファッションウィーク」には国内外から多くの観光客が訪れ、町の盛り上げに一役買っている。

雇用創出

持続可能な観光のあり方を探る中で、観光客の新たな需要も喚起され、新たな観光ビジネスや雇用が生まれることも多い。新潟県湯沢町では、単発や短時間でも仕事ができる「ギグワーク」で働き手を募集することで、課題であった観光業の人手不足に対応できると同時に、住民が様々な仕事にチャレンジできる環境を整えている。

サステナブルツーリズムの国際認証

サステナブルな観光をしたいと考える旅行者は増加傾向にある。旅行会社Booking. comが世界中の旅行者を対象に実施した調査によると、81%の人が「サステナブルな宿泊施設に滞在したい」と回答した。そのような人にとって、宿泊施設や旅行先の選定に役立つのが以下のような認証ラベルの存在だ。

GSTC(Global Sustainable Tourism Council)

GSTCは、世界持続可能観光協議会(GSTC=Global Sustainable Tourism Council)が策定した国際基準である。宿泊施設向けのGSTC-Iと観光地を対象としたGSTC-Dの2種類があり、それぞれ最低限の達成すべき基準を設け、各国の文化や法律などに合わせて、追加基準で補完できるようにしている。GSTCはあくまで基準を定めるだけで、その基準に沿ってオランダの非営利団体Green Destinationsなどの第三者認証機関が審査や認証を行っている。

日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)

2020年に観光庁が日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)を発表し、オーバーツーリズムへの対策とサステナブルツーリズムの普及を目指している。インバウンドを推進するにあたっては、それぞれの地域の文化や環境などを尊重し保護しながら、サステナブルな観光を進めていく必要があったのだ。このガイドラインは、GSTCによる国際基準をもとに、自然災害への対策や文化的建造物の維持管理などを独自に盛り込んだ内容となっている。2021年に、JSTS-DはGSTC承認基準を満たしていることが公認され、各地方公共団体が地域のマネジメントやプロモーションに活用している。

サステナブルツーリズムの事例

サステナブルな観光を促進する動きは国内外で活発になってきている。以下、海外と国内の事例をそれぞれ紹介する。

【海外事例】サステナブルツーリズムを取り入れている地域

事例① ハワイ州「マラマハワイ」

ハワイ州では、ハワイ語で「思いやりの心」を意味する「Mālama Hawaiʻi(マラマハワイ)」をスローガンとして、ハワイの伝統文化や自然環境を守るために様々な取り組みを進めている。観光客に対しては、ウミガメなど海洋生物への配慮や有害成分の入った日焼け止めの使用禁止、エコバッグやマイボトルの持参の呼びかけなど、環境に優しい行動を促す5つの指針を設けている。

事例② ポルトガル「2027サステナブル観光戦略」

ポルトガル政府観光局Turismo de Portugalは、国の主要な収入源でもある観光業を持続可能に発展させるために、「2027サステナブル観光戦略」を掲げ、2027年までに持続可能な観光立国を目指すことを表明している。環境や地元の労働者に対する配慮をすると同時に、経済を成長させ、ポルトガルをプロモーションすることも戦略的に考えている。

事例③ カナダ・フォーゴ島「”見捨てられた島”を再生」

カナダ東部のフォーゴ島は、かつてタラ漁が盛んだったが、1960年代に外国船による乱獲で産業が破綻した。しかし、2000年代に入り、島出身の女性が高級ホテル「フォーゴ・アイランド・イン」を立ち上げたことをきっかけに観光で再生を遂げる。観光ビジネスは故郷の自然と文化を守るツールであるとして、観光客が地域の文化や風土に触れることを意識した持続可能なビジネスモデルを構築している。

【国内事例】サステナブルツーリズムを取り入れている地域

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事例① 群馬県みなかみ町

群馬県みなかみ町では、ラフティング、ロッククライミング、スキーなど自然を活かしたアウトドアアクティビティを通じてサステナブルツーリズムを推進している。ありのままの自然を楽しむことや自然の偉大さを五感で感じられることなどから、これらのアクティビティは多くの観光客を惹きつけており、自然環境の保全と観光業の発展の両立に貢献している。

事例② 新潟県新潟市

新潟市では、食や花をテーマにしたサステナブルツーリズムが展開されている。地域の農産物を活用した食体験や、四季折々の花を楽しむことができるイベントなどが開催されており、地域経済の活性化と環境保全が図られている。これらの取り組みは、訪れる人々に地域の自然や文化の魅力を深く理解してもらう機会を提供している。

事例③ 岐阜県

岐阜県では、「日本の源流に出会える旅」をコンセプトに、持続可能性を意識したプレイス・ブランディングを行っている。小坂の滝めぐり、乗鞍山麓五色ヶ原の森などの自然資源、中山道ぎふ17宿や伝統芸能「地歌舞伎」など、地域ならではの文化資源を活用しながらサステナブルツーリズムを推進している。こうした取り組みは国際的にも高く評価されており、2020年から3年連続で、白川村・長良川流域・下呂市の3地域が「世界の持続可能な観光地100選」に選出された。

わたしたちができること

サステナブルツーリズムにおいては、自治体などがルールや基準を作り、それを観光客が実践していく必要があるため、わたしたち一人ひとりの取り組みが重要だ。具体的には、以下のような取り組みが考えられる。

観光地の自然環境を保全する

生物を怖がらせたり危害を与えないこと、植物をむやみに持ち帰らないことなどに注意し、観光地の自然環境や生物多様性を尊重し保全することが重要だ。トレッキングやスキューバダイビングなど、自然を利用したアクティビティは数多くあるが、それらへの配慮をしながら、自然の偉大さを享受することが、旅人の責任といえる。

地域の文化や歴史を尊重する

訪問する地域の文化を尊重しながら、異文化理解を深めることも重要だ。地元の伝統芸能を鑑賞したり、地域の特産を購入したりすることで、文化の振興だけでなく、地域の経済の発展にも貢献することができる。私たち自身も、地元の伝統や文化遺産に触れることで、異文化に対する寛容性が育まれたり、新たな発見につながるなど、相互に良い影響をもたらす。

地域ごとのルールを確認する

旅行をする際は、事前に訪れる国や観光地ごとのルールを確認することが望ましい。宗教上の理由などで、禁止されている服装や言動がある場合もある。また、持ち込みが制限されているモノや、立ち入り禁止区域など観光地ごとのルールが存在することもあるため、ガイドブックなどで確認するのがよいだろう。

まとめ

サステナブルな観光は、政府や自治体が主導して各地で対策が施されている。環境、文化、経済における課題の解決だけでなく、それらの発展にも期待が寄せられているため、今後も各方面から積極的な動きが見られることが予想される。

対策が進むサステナブルツーリズムだが、旅行者一人ひとりが意識し行動していかないことには、状況が変わらない課題でもある。旅行に行くとどうしても開放的になり、振る舞いがルーズになってしまうかもしれない、しかし、世界中にある美しい景色や素晴らしい体験を、これからも存分に愉しみ、そして私たちの子どもや孫の世代にも、旅する体験を受け継いでいくためにも、サステナブルな観光を心掛けたい。

参考記事

持続可能な観光の定義|国連世界観光機構(UNWTO)

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k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定概念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。