フェアトレードとは?生産者に配慮した貿易のしくみの定義や目安となる認証マーク、課題、私たちにできることを解説

フェアトレードとは?

フェアトレード(公正な貿易)とは、発展途上国から原料や製品を適切な価格で継続的に購入することで、現地の生産者や労働者の生活の質の改善と自立を目指す「貿易のしくみ」のこと。

これまで、途上国と先進国間における国際貿易では、途上国の生産者が正当な報酬を受け取れなかったり、過剰な農薬の散布など劣悪な労働条件で長時間働かされたりしていた。生産効率を上げるために大量に散布された農薬の中には、環境に悪影響を与えるものも含まれており、そのような状況が持続することは、その国で暮らす人だけでなく、その国の自然環境にも深刻な被害を与えてきた。

このような先進国と発展途上国との間の格差を助長するような従来の貿易を見直し、生産者の人たちの人権や生活にも配慮した貿易システムに転換しようという潮流の中、フェアトレードは近年注目を集めている。

フェアトレードの10の原則

PATCH THE WORD フェアトレード

WFTO(世界フェアトレード連盟)は、フェアトレード団体が順守すべき指針として以下の10原則を定めている。

1. 生産者に仕事の機会を提供する

社会的に弱い立場に置かれた、小規模な生産者が不安定な収入状況および貧困から脱するとともに、経済的に自立できるよう、生産者に仕事の機会を提供すること。

2. 事業の透明性を保つ

経営や取引について、全ての関係者に対し説明責任を果たし、参加型の意思決定を行うことで、事業の透明性を保つこと。

3. 公正な取り引きを実践する

小規模生産者が社会的 / 経済的 / 環境的に健康な生活ができるよう配慮を行った上での、公正な取引を実践すること。また、生産者の要望に合わせて、収穫や生産に先立って報酬の前払いを行うこと。

4. 公正な対価を支払う

生産者に対し、その活動地域の基準で社会的に受け入れられるとともに、生産者自身が公正だと考える価格を支払うこと。また、性別や人種、年齢などによらず、同程度の労働に対し、同等の報酬を支払うこと。

5. 児童労働および強制労働を排除する

生産過程での強制労働を許さず、国連の「子どもの権利条約」および子どもの雇用に関する国内法や地域法を遵守することで、児童労働および強制労働を排除すること。また、生産に子どもが関わる場合には、該当児童の健全な生活や安全、教育受ける権利に悪影響を及ぼさないようにすること。

6. 差別をなくし男女平等と結社の自由を認める

雇用や賃金、研修の機会などにおいて、人種や社会階級、国籍、宗教、障害、性別や政治的信条など、あらゆる面において一切の差別をしないこと。男女に平等の機会を提供し、特に女性の参加を推進すること。結社の自由を尊重すること。

7. 健全な労働環境を整備する

生産者が安全で健康的な環境で働くことができるよう、現地の法律やILO(世界労働機関)で定められた条件を遵守すること。また、生産者団体における健康や安全性についての意識の向上に、継続的に取り組むこと。

8. 生産者のキャパシティの向上に貢献する

自分たちの活動を通して、立場の弱い小規模な生産者に、ポジティブな変化をもたらすことができるよう努めること。例えば、生産者の技術や生産・管理能力などのキャパシティが向上し、市場へアクセスできるように支援を行う。

9. フェアトレードを推進する

フェアトレードの目的や必要性をより多くの人に知ってもらえるよう啓発すること。また、消費者に対して販売者や生産者、商品の背景にある情報を提供し、誠実なマーケティングを行うこと。

10. 気候危機や環境保全に努める

生産地で持続的に採れるものなど、持続可能な社会の構築に有効と思える素材を最大限に活用し、エネルギーの消費と二酸化炭素の排出が少ない生産を心がけること。農業ではできるだけオーガニックや減農薬など環境への負荷の低い方法を用いること、梱包にはリサイクル素材や生分解可能な素材を用いることなどが、具体的な取り組みの例として挙げられる。

フェアトレードの歴史

フェアトレードのはじまりには諸説あるが、第二次世界大戦が終わった直後の1947年に、国際協力NGOでボランティアをしていた女性が、プエルトリコの女性たちが作っていた工芸品を、その品質に見合った価格で買い取り、バザーで販売したのが始まりとする説がメジャーである。

1960年代に入ると、フェアトレードはその形態を大きく変えることになる。それ以前は、貧困に苦しむ途上国の人々の救済を目的とした「慈善事業」としての側面が強かったのに対し、現在のフェアトレードは、途上国で生活する人々が貧困を脱するとともに、自立した経済生活を送れるよう支援するための取り組みとして位置付けられている。それにあたって必要となる仕組みやフェアトレードを専門に行う団体、フェアトレード商品のみを販売するフェアトレード・ショップが生まれたのも、この時期である。

ただしこの頃は、フェアトレードではなく「オルタナティブ・トレード」という言い方が一般的であった。この呼称には、途上国の人々を苦しめてきた貿易を過去のものとし、新たな貿易の仕組みを作ろうという意味が込められている。

日本では、1974年に「シャプラニール」という団体がフェアトレードの活動に取り組んだことを契機に、フェアトレードという概念およびその取り組みの内容が知られるようになった。

認証ラベル

私たちの身の回りにある製品がフェアトレード製品なのか、認証ラベルによって判断することができる。フェアトレードの基準を満たしていることを示す認証ラベルには具体的に以下のようなものがある。

WFTOマーク

出典:ピープルツリー

WFTOマークは、世界フェアトレード連盟によって認証を受けた団体につけられる認証ラベルである。ただし、製品へのラベル掲載には別途で認証を取得しなくてはいけない。

このラベルを取得するためには、生産者の労働条件、賃金、児童労働、環境に対する配慮が、基準を満たしている必要がある。また、取得後も自己評価と相互評価、外部検証などといった様々な取り組みを通じて、ラベルにふさわしい活動ができているかを精査されるため、継続的に団体の信頼性を担保しているラベルであると言える。

国際フェアトレード認証ラベル

出典:フェアトレード・ジャパン

国際フェアトレード認証ラベルとは、製品の原料調達、輸出入、加工、製造の各工程において国際フェアトレードラベル機構が定めた基準を満たしている製品を証明するラベルである。また、コーヒーやバナナといった認証原料100%からなる製品にも表示される。

この認証ラベルは、2002年から運用が開始され、現在は欧州や北米、日本、オーストラリア、ニュージーランドなど世界30ヶ国以上にラベル推進組織が存在している。

フェアトレードが重要な理由

フェアトレードが重要な理由としては、生産者や労働者の生活の保障と子どもの権利の保障が挙げられる。

市場がグローバル化していく中で、これまで途上国の生産者は労働に見合った適切な報酬を得ることができずに、生活が困窮するほど安い賃金で働いているケースが多かった。そのため、生計を立てるために子どもたちが働き手となることもあり、その結果、子どもたちが教育を受ける機会が制約されるなど、貧困の連鎖が発生していた。

1989年に国連によって採択された「子どもの権利条約」の中では、国は児童の教育を受ける権利を保障するとともに、児童が経済的に搾取されないように保護する責務を負うとしている。しかし、上述のような原因から、現在もアフリカの一部地域では、依然として就学率が6割を下回っている。

フェアトレードによって、生産者や労働者が適切な賃金を受け取ることで、安定した生活を送ることができるだけではなく、その子供たちの、子供らしい生活も守ることができる。そのため、持続可能な社会を作るためにも、また機会の不平等といった格差を埋めるためにも、フェアトレードに取り組むことは重要だと言えるだろう。

フェアトレード市場

フェアトレードによって生産された商品は、私たちの生活のすぐそばにも数多く存在しており、年々その割合を増やしている。どのような製品がフェアトレードによってやりとりされているのか、また現在のフェアトレード市場はどのような状況にあるのだろうか。

代表的なフェアトレード商品

代表的なフェアトレード製品としては、コーヒー、紅茶、カカオ、バナナ、コットン、サッカーボールなどが挙げられる。これらの製品の多くは、アフリカやアジアなどの発展途上国で生産されているものだ。

中でも、フェアトレードコーヒーはスーパーや大手コーヒーチェーンのスターバックスなどで取り扱われているため、日常生活で見かける機会も多い製品なのではないだろうか。

世界のフェアトレード市場

2016年の時点で、国際フェアトレード認証の仕組みに参加する小規模農家、および労働者は160万人を超えた。それに伴い、フェアトレード製品の推定市場規模は約78億8千万ユーロ(約9,470億円=当時のレート換算)に達した。また、輸入業者から各生産者組織に直接保証されるフェアトレード・プレミアムは、1億5000万ユーロ(約180億円)と過去最高額に達した。それらの資金は、開発途上国の生産者および労働者の生活の質の向上や地域社会全体の改善に活かされている。

この成長には、インターネットサービスの急速な普及により、発展途上国に対し過去に行われていた搾取や、彼らが置かれている現状、またフェアトレードの意義などといった情報に、人々が手軽にアクセスできるようになったことが寄与していると考えられる。

日本のフェアトレード市場

2022年時点で、日本のフェアトレードの認証製品の推計市場規模は195.6億円となった。これは前年の157.8億円と比べて24%利益が増加したことになり、過去10年で最大の伸び率であった。このように日本国内においても、フェアトレード市場は目まぐるしいほどの成長を見せている。

これには、国内でSDGsが再注目されるとともに、企業や消費者も、その達成のために社会的責任を果たすことが求められるようになったことなどが関係しているものと思われる。

しかしながら、フェアトレードインターナショナルの本部があるドイツと比較すると、日本の市場規模はドイツの5分の1ほどしかないことがわかる。また、フェアトレード製品の年間購入額は1人当たり126円で、欧米諸国と比較して非常に少ないことがわかる。これは言い換えると、日本におけるフェアトレード市場はまだまだ発展の余地を残しているということでもある。

フェアトレードの課題

フェアトレードの課題として、商品価格が高いことがよく挙げられる。

フェアトレード商品は、生産ならびに製造にあたって、人件費や認証制度に対する費用など、多くのコストが必要となるため、そうではないものと比べて割高になってしまう。これらのコストは、フェアトレードが公正性を追求するためには、必要不可欠なコストでもある。

しかしながら、消費者にとって、価格は商品の購買において重要な判断材料であり、値段が高いフェアトレード製品にはなかなか手を伸ばせないことも多いようだ。その結果、企業や店舗側もフェアトレード製品の取扱いをためらうケースがある。

フェアトレードの更なる発展のためには、企業側と消費者で相互に歩み寄り、価格面での課題を乗り越えていく必要があるのではないか。

わたしたちができること

フェアトレードを発展させるために、私たちができることとして以下のようなことが考えられる。

一つは、フェアトレード製品を購入することだ。コーヒーや紅茶など、フェアトレードに関する商品を購入することで、フェアトレード市場の拡大に貢献でき、関連した取引数の増加にもつながる。上述の課題のように、フェアトレード製品は、比較的値段が高いものが多く、なかなか日常の買い物には取り入れることが難しい場合もある。そのような時は、誰かへの贈り物や特別な日に限ってフェアトレード品を購入することも有効だ。

また、フェアトレード団体に寄付を行うこともフェアトレードの普及に対する貢献になる。最近では、インターネット上で少額から寄付することができるので、気になる方はぜひ団体の公式サイトなどを確認してほしい。他にも、SNSなどでフェアトレードに関する情報を発信することもよいかもしれない。

まだ馴染みが薄いフェアトレードだが、これからの発展が期待できる市場でもあり、そのために私たち個人ができることも多くある。

まとめ

フェアトレードによって、生産者の経済的自立や生活の向上、子どもの権利の保障などを目指そうという動きが強まっている。欧米諸国では、フェアトレード製品は広く普及しており、すでに日常に入り込んでいるようだ。一方、日本では関心がある一部の人にしか認知されていないのが現状ではあるが、SDGsとの関連性も非常に高く、日本でも徐々に認知が拡大してきていると言える。

フェアトレードの普及にあたっては、私たち消費者の小さな行動や選択の積み重ねが非常に重要となるはずだ。少し余裕がある時に、商品の価格の背景を考えてみるのもよいだろう。商品の流通工程などを知ると、驚くほど安い値段で売られているものも少なくない。こうした背景を知り、恵まれた環境で日々生活する私たちの生活に少しだけ変化を与えることで、生産者の方々の生活に少しでもよい変化が訪れることを願う。

参考記事】
フェアトレードとは|フェアトレード・ジャパン
【2021年フェアトレード国内市場規模発表】国内フェアトレード市場規模158億円、昨年比120%と急拡大|フェアトレード・ジャパン

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k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定概念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。