「電子ゴミ(E-waste)」とは?電子ゴミの現状と引き起こされる問題、その対策を解説

電子ゴミとは?

電子ゴミとは、スマートフォン、パソコン、冷蔵庫、テレビなどをはじめとする電気・電子機器の廃棄物の総称。英語では、E-waste、WEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment)と呼ばれる。

世界人口の増加、所得の増加、工業化、都市化など、様々な要因が重なったことで、世界全体の電子機器の消費量は毎年平均して約250万トンずつ増加していると推測されており、それに伴って電子ゴミの量も急増している。また、電子機器の利用から廃棄までのスパンが短くなっていることも廃棄量増加の一因となっている。

電子ゴミは、地球温暖化をはじめとする多くの問題を引き起こすため、近年世界中で対策の必要性が叫ばれている。また、電子ゴミの中には、多くの金属資源が含まれていることから、資源活用という観点からも注目される。

電子ゴミの現状

The Global E-waste Monitor」によると、世界の電子廃棄物の発生量は2019年に5360万トンで過去最多を記録。このうち正規の処分ルートで回収されたものは17.4%のみで、リサイクル可能な金属資源は570億米ドルに及ぶと言われている。また、2030年までに7,400万トン、2050年には1億1,000万トンに達する見込みということだ。アジアは最も多くの電子ゴミを排出しており、その量は2,490万トンに及ぶ。日本の排出量は年間257万トンで、一人当たり約20kgの電子ゴミを出している計算になる。

大量の電子ゴミは、廃棄物に関する法整備がされている先進国から法整備がされていない途上国へ輸出されることが多く、先進国で回収された電子ゴミの約80%が途上国に輸出されているという報告もあるほどだ。

しかし、発展途上国では電子ゴミに関する処分の法律や規制が存在していなかったり、機能していなかったりする。このように、回収手段が確立していない国や地域に大量の廃棄物が流れ込むことは、リサイクル率の低さの一因にもなっている。

電子ゴミに関するさまざまな問題

電子ゴミは、地球環境、人々の健康、社会的な問題の3つの点において、以下のような重大な問題を引き起こす。

環境への影響

途上国に送り込まれた電子ゴミは、焼却や埋め立てなどの不適切な処理がされている。プラスチックを含む電子ゴミの焼却によって、ダイオキシンなどの有毒物質が発生し、広範囲に及ぶ深刻な大気汚染を引き起こしている。さらに、廃棄された冷蔵庫やエアコンなどからは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスが発生する。2019年に電子ゴミから排出された温室効果ガスは、9,800万トンで全世界の排出量の0.3%にも及んだ。また、廃棄物の埋め立てによって、水銀、鉛などが土壌に浸透し、長期的な土壌汚染や水質汚染の原因にもなっている。このような環境汚染が進行することで、動植物も深刻なダメージを受けるため、その地の生態系バランスの維持も危険な状態となる。

健康への影響

電子ゴミには、人体に有害な鉛や水銀、カドミウムが含まれていることもあるため、廃棄物が不適切に処理されることで、このような有害な物質を体に取り込んでしまう危険性がある。水銀はコンピュータのモニターなどに用いられており、電子ゴミに年間50万トン含まれていると推測される。また、汚染された空気を吸うことで肺炎などの呼吸器疾患を引き起こすこともある。更には、日常的に汚染物質を摂取することで、癌や感染症のリスク上昇、妊娠中の死産や早産の危険性、生まれてきた子どもが神経系やDNAなどに先天的なダメージを負う可能性も高くなるなど、人体に対して非常に多くのリスクをはらんでいる。

社会的な問題

先進国において電子ゴミに対する規制が強化され始めたことで、その多くが先進国から途上国へと流れている。「電子ゴミの墓場」と呼ばれているガーナのアグボグブロシーには、欧米などから年間25万トンに及ぶ大量の電子ゴミが運ばれてくる。現地の人々は、電子ゴミから銅や金などの金属資源を取り出すことで生計を立てており、適切な施設や道具を用いることなく危険な作業を日常的に行っている。子どもや若者もそのような作業をしており、電子ゴミの処理作業は児童労働の温床にもなっている。他にも、中国の規制強化を起因として、インドや東南アジアの国にも多くの電子ゴミが送り込まれている。先進国でのみ規制を強化することは、電子ゴミ問題の根本的な解決にはなっていないというのが現状だ。

世界の電子ゴミ対策

世界中で電子ゴミ問題が深刻化する中、2019年末時点で78か国が電子ゴミに関する政策や法令を整備しているという状況だ。日本と欧州諸国においては、それぞれ以下のような電子ゴミ対策を取っている。

日本の対策

1998年に家電リサイクル法を制定し、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機などをリサイクルすることを定めた。消費者は家電を廃棄する際に、適正なリサイクル料金を支払い、業者に引き取ってもらう必要がある。メーカーなどはリサイクルの義務があり、数値目標も課されている。

2013年には小型家電リサイクル法を制定し、携帯電話、パソコン、電子レンジ、カメラなど、ほとんどの家電製品に対象を広げた。これにより、都市鉱山に埋もれた銅や金、レアメタルなどの資源を有効活用することが期待されている。また、「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」では、使用済み携帯電話などの小型家電を全国から集めて、東京オリンピック・パラリンピックで使用するメダルの原料とする取り組みが行われた。

ヨーロッパ諸国の対策

EUでは、2003年にWEEE指令が発効され、電子機器の生産者に対して処分までの責任を課すと同時に、加盟国に対してはリサイクルシステムの構築を義務付けた。2020年には、欧州議会が市民に対して「修理する権利」を認めた。これにより、修理やメンテナンス情報へのアクセス環境を整えるなど、家電製品の使用期間を延ばすための計画がなされている。さらに、2022年10月に欧州議会で電子機器の充電端子をUSBタイプCに統一する法案が可決された。2024年までに、携帯電話、タブレット、キーボード、マウスなどの充電端子が統一され、2026年までにはノートパソコンも対象になる予定である。また、商品購入時に充電器の有無も選べるようになる。こうした積極的な取り組みもあり、2019年はEU圏内で発生した電子ゴミの42.5%をリサイクルするなど、ヨーロッパは最もリサイクル率が高い地域となっている。

まとめ

電子機器が身近な存在になっていく一方、それらの廃棄に関しての知識や情報はまだあまり知られていないのが現状である。国や地域ごとのルール作りやシステムの構築、企業による製品設計の見直しなどに加えて、私たち消費者もなるべく長期間使用する、廃棄までを見据えて購入するなど、電子機器との向き合い方を真剣に考える必要性があるのではないだろうか。

参考記事
国連大学ウェブマガジン
増え続ける電子ごみ

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k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定概念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。