都市鉱山とは?定義や必要性、活用にあたっての課題を解説

都市鉱山とは

都市鉱山とは、都市部で排出される使用済みの家電、携帯電話、パソコンなどに含まれる金属資源を、鉱山に見立てたリサイクル概念のこと。

1988年に東北大選鉱製錬研究所の南條道夫教授らが提唱したことで、以前から説かれていた都市鉱山の重要性への認識が更に広まった。

今後、アフリカを中心に世界人口の大幅な増加が予想されており、それに伴って金属資源の需要も増えていくことが確実とされている。そのような状況の中、鉛、銀、亜鉛、錫などは需要の大部分をリサイクルで賄わなくてはいけなくなると予想され、リユース・リサイクルの仕組みをつくることが喫緊の課題と捉えられている。

都市鉱山活用の必要性と課題

都市鉱山の活用が、社会のサーキュラリティを高めるうえで重要なトピックとして位置づけられている背景は主に二つある。

一つは、環境配慮への観点からだ。電子廃棄物の不適切な廃棄や埋め立て処分は、大気汚染、水質・土壌汚染などの原因となっており、また、環境汚染による地域住民への健康被害も問題となっている。都市鉱山の活用は、これらの問題の解決にも寄与することになる。

さらに、産業発展の観点からも都市鉱山の重要性が説かれている。イノベーションを支えるために必要不可欠な高性能物質などへの資源需要は高く、特にレアメタルは高度な電子機器や電気自動車などに欠かせない資源である。今後、需要の高まりに伴い供給を制限されたり価格が高騰する可能性があるため、都市鉱山の活用は産業の発展のためにも必要不可欠と言える。

その一方で、都市鉱山の活用のための回収フローの確立やコスト面での課題もある。都市鉱山の中には、既にゴミとして処理されたものや家庭に眠る携帯電話や家電製品も含まれており、それらを回収するためのシステムを確立しなければならない。

また、リサイクル事業者の採算が合うような仕組みづくりも欠かせない。都市鉱山の再資源化にあたってのコスト負担が大きく、リサイクル事業者にとっては経済合理性がないというのが現状だ。

これらの問題を解消するためには、地方自治体だけで回収システムを構築するのではなく、全国または国際規模でのシステムづくりを行い、資源を集中することでスケールメリットが働く方法などが検討されている。

日本の都市鉱山

日本の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵すると言われており、金属資源が乏しい日本においては都市鉱山の有効活用は必須課題でもある。

国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)によると、世界の現有埋蔵量に対して、日本が都市鉱山として有している資源は、金は約16%(約6,800トン)、銀は約22%(6万トン)、錫は約11%、タンタルは約10%、インジウムは約16%と試算されている。

これらの資源をいかにして採掘していくかを考える必要があり、製品ごとの使用量と製造・流通・販売といったサプライチェーン上のどこにどれくらいあるかという情報の把握が求められる。環境省による「資源循環×デジタル」プロジェクトでは、金属資源の含有量等の情報をプラットフォーム上で管理することで、資源循環を推進しようと試みている。このような行政を主体とする仕組みづくりは、都市鉱山を有効に活用するためには欠かせないものとなるだろう。

都市鉱山の活用事例

いくつかの障壁も残されているが、都市鉱山への注目度は依然として高く、以下のような都市鉱山の活用例も実際にある。

東京オリンピックメダルプロジェクト

「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」にて、都市鉱山をメダルの原料として活用するプロジェクトが実施された。使用済みの携帯電話やパソコン、小型家電などを日本全国から集め、2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックのメダルの原料とする取り組みだ。

全国各地に回収ボックスを設置し、市民などから使用済みの携帯電話や小型家電などを集めた。それにより、東京オリンピック・パラリンピックで授与する金・銀・銅あわせて約5,000個のメダルの原料を、都市鉱山で賄うことに成功した。大会後も、「アフターメダルプロジェクト」として都市鉱山の活用は継続的に行われている。

電気自動車(EV)

気候危機への対策として、日本においても2035年までに新車販売を電気自動車のみにする方針を打ち立てるなど、世界中で電気自動車へのシフトチェンジが進んでいる。そのような状況の中、電気自動車の車載電池に使用するニッケル、コバルト、マンガン、リチウムなどのレアメタルへの需要が高まっている。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大による生産への影響や、ロシアのウクライナ侵攻の影響も加わり、レアメタルの供給及び価格は不安定である。そこで、電気自動車の車載蓄電池の主流であるリチウムイオン電池から、レアメタルを取り出し、再びリチウムイオン電池の材料として利用する水平リサイクルの動きを各社がとり始めている。EUでは、2020年12月に欧州電池規則案が可決され、2030年1月1日以降電気自動車などに用いるニッケル、コバルト、リチウムについてリサイクル材の最低含有率を義務付けることを決定した。


このように、レアメタルなどの金属資源への需要が高まる中で、都市鉱山の活用は積極的に取り組みが進められている。今後、都市鉱山をいかに採算がとれる資源にできるかという点が、都市鉱山の活用をさらに加速させる鍵となるだろう。

わたしたちができること

都市鉱山の活用に向けて、家庭で眠る電子機器や家電製品を確実に回収することも欠かせない。日本の都市鉱山には、金属資源が豊富にあるとはいえ、その多くは家庭内に潜んでいるのが現状だ。そのため、私たち個人がこの問題を知り、以下のような行動をとることが求められる。

  • 家電を適切に処分する

日本では、家電リサイクル法によって、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の4品目を廃棄する際に、リサイクル料金を支払って処分することが定められている。また、2013年小型家電リサイクル法施行以降、各市町村では小型家電回収ボックスを設置し、使用済みの家電28類型の品目の回収を行っている。この法律に則り、役所等に置かれた回収ボックス、もしくは、宅配便を利用して処分することで、小型家電に含まれる金属資源のリサイクルにつながる。

  • リサイクルに適した製品を購入する

リサイクルが容易な設計の製品を購入することも一つの手だ。解体しやすい接合方法として、スナップフィットという手法があり、この方法は、部品点数が少なく分解が容易であることから、パソコンや家電製品のプラスチック部品の接合に多く採用され始めている。このように、リサイクルに適した設計の商品を購入することで、リサイクルの推進に一役買うことができる。

今後の展望

金属資源の枯渇が世界規模で発生することが明らかな中、都市鉱山の活用は官民学が一体となって取り組むべき課題との認識が強まっている。

都市鉱山を効果的に活用していくことは、資源の有効活用のみならず、資源採掘の際の環境負荷の軽減、若年労働者問題などの不法採掘の防止、アフリカや東南アジアで問題になっている廃電子機器の不法投棄の防止など様々な利点をもたらす。

一方で、コスト面での障壁があるのもまた事実で、国や企業の垣根を超えて社会全体での仕組みづくりが必要となるだろう。行政、企業、個人が一体となって取り組むことが出来れば、都市鉱山の有効活用が進み、金属資源循環の仕組みを確立することができるかもしれない。

参考記事

わが国の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵(独立行政法人物質・材料研究機構)
都市鉱山リサイクルの課題と展望
「都市鉱山」に眠るレアメタルの資源化に向けて(三井住友フィナンシャルグループ)
「都市鉱山」に眠る金・銀の活用を
都市鉱山、EVで再び走り出す
「資源循環×デジタル」プロジェクト~資源循環における情報プラットフォームの活用~

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k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定概念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。