オーバーツーリズム解決の切り札「ツーリストシップ」。旅行者の行動変容が生む地域との新しい関係性

深刻化するオーバーツーリズムに対し、従来の入場制限や規制とは異なる新たなアプローチが注目されている。それが「ツーリストシップ」だ。一般社団法人ツーリストシップが提唱するこの概念は、旅行者の意識改革を通じた地域との健全な関係性構築を目指し、持続可能な観光実現への可能性を示している。

スポーツマンシップから着想を得た新概念「ツーリストシップ」とは

「ツーリストシップ」とは、旅先への配慮と貢献を通じて交流を楽しむ姿勢やその行動を指す。コロナ禍後の観光客増加に伴い、オーバーツーリズムの弊害が深刻化するなか、旅行者の意識と行動変容を促す手法として注目されている。

ツーリストシップは、「旅先への配慮」「旅先への貢献」「旅先との交流」「ホストになる」の4つの基本に分けられる。

例えば、旅先の文化や宗教を尊重し、暮らしと自然環境を尊重すること。現地で生産されたものを購入し、その土地ならではの文化を体験すること。さらに、旅先で得た経験を活かし、次に訪れる旅行者をもてなすことなどが挙げられる。いずれも観光客の「お客様意識」からの脱却を促し、旅行者と地域が対等な関係を築くための重要な指針である。

「旅行者にも心構え(シップ)が必要である」との発想から、スポーツマンシップの考え方にヒントを得て生まれた概念であるツーリストシップは、オーバーツーリズムに直面する自治体においても注目されている。

観光税の導入や入場規制といった従来の規制的手法は観光地の負担が大きく、旅行者との対立構造を生みやすい。一方、「旅をする人」自身に想像力を働かせ、配慮を促すツーリストシップのアプローチは、旅行者の自発的な行動変容を通じてサステナブルツーリズム実現への道筋を示している。実際に、以下の自治体では具体的な取り組みが進められている。

京都府京都市

京都市では、一般社団法人ツーリストシップ、嵯峨美術大学、京都市交通局の3者が連携し、ツーリストシップに関する広報紙を市バス車内や地下鉄駅構内、各案内所などに順次掲示している。

毎回異なるテーマと学生のイラストを用い、ツーリストシップ行動を促すデザインを作成。観光客に地域の暮らしへの理解と思いやりを促すことで、オーバーツーリズム抑制への寄与が期待されている。

福岡県太宰府市

太宰府市では、太宰府天満宮の参道周辺のマナー問題やゴミのポイ捨てなどに対応するため、「令和の都だざいふ 4つのツーリストシップ」を策定。あわせて5言語対応のリーフレットも制作した。

ゴミの持ち帰りやトイレマナー、公共交通機関の活用推進に加え、太宰府天満宮の参拝方法を明記し、現地の作法を尊重するよう発信している。

「住まう人も訪れる人もともに慶びを分かち合える“令和の都 だざいふ”」の実現を目指し、同市は積極的な情報発信とマナー向上に取り組んでいる。

沖縄県石垣市

石垣市では、観光客の海岸利用やロードキル(野生動物の交通事故)などの問題を受け、「ツーリストシップ石垣島4ヶ条」を策定した。

海水浴やダイビング中にサンゴを傷つけないこと、野生動物に配慮した安全運転、ゴミの分別や現地の生活圏・立入禁止区域への侵入防止などが盛り込まれている。

石垣島の自然と暮らしを守りつつ、サステナブルな観光を楽しむための理解と協力を求めている。


エスニック・ツーリズムとは 少数民族の文化や伝統を体験する観光スタイルを解説

68項目の行動基準が示す具体的実践方法

『ツーリストシップ行動集』は、持続可能な観光を実現するために、旅先で実践できる具体的な行動と考え方をまとめた「旅行者の行動基準」だ。GSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)の原則と整合性を持たせつつ、次の5つで構成されている。

1.旅行の基本

「自分のことは自分で守る」という意識のもと、体調管理や非常時の備えを促す。周囲への配慮として、「静かに・きれいに・ていねいに」を心がけ、早朝・夜間の騒音を控え、ゴミのポイ捨てやマナー違反の写真撮影を避けるなど、地域との信頼構築につながる基本行動を紹介している。

2.社会経済のサステナビリティ

旅先の暮らしに配慮し、地域社会への貢献を意識した行動を促す。公共交通機関の利用マナーや交通ルール、子どもを犯罪から守る危機管理、混雑回避のための事前予約の推奨など、旅先の暮らしと地域経済に配慮した行動が含まれる。

3.文化のサステナビリティ

地域の文化や宗教、歴史を尊重する姿勢を重視。旅先で気をつけたい施設利用時のマナーや伝統文化への配慮、現地の人々との関わり方などを解説し、自国での当たり前を他国に持ち込まず、旅行者がその土地の背景を理解し、敬意をもって行動することを求めている。

4.環境のサステナビリティ

自然や生態系への影響を最小限に抑える行動を明記。海や山でのアクティビティにおけるマナー、野生動物への餌付け防止、環境への負荷軽減など、観光地の自然と生態系を守っていくための具体策を紹介している。

5.住民としてのサポート

旅行者である一方、旅行者を受け入れる立場としての視点も重要である。旅先では余裕を失いがちな旅行者の背景を理解し、困っていれば声をかける、迷惑行為があればやさしく注意するなど、地域観光の担い手としての関わり方を示している。

これらの指針を通じて、旅行者が主体的に考え行動することで、観光地との共生を実現し、持続可能な観光の未来を支えることを目指している。


秋のお散歩マーケット

検定制度が生む行動変容と地域への波及効果

ツーリストシップの理念を実践に移すため、「ツーリストシップ検定」という認定制度が設けられている。この検定は、公式テキスト『ツーリストシップ行動集』をもとに、観光に関わる大学・企業・自治体・旅行者が、“旅のふるまい”を網羅的に学ぶためのものだ。オンライン講義やワークショップを経て試験に合格すると、修了証が発行される。

また、理念の普及を目指す人向けには「ツーリストシップアンバサダー検定」も用意されており、修了者は講師やアンバサダーとして活動することができる。こうした認定者の活動の広がりにより、地域内でのマナー意識の向上や、住民との相互理解が促進されることが期待されている。

ツーリストシップは、観光地と旅行者が対等で健全な関係性を築くことを促し、持続可能な観光地づくりに役立っている。今後、有名観光地に限らず全国の自治体でこの理念が浸透すれば、地域の多様性を尊重した観光行動が広がり、地域経済や文化の持続可能性の向上にもつながるだろう。

一般社団法人ツーリストシップは、「ツーリストシップ」という言葉が、将来的にスポーツマンシップのように広く知られ、国際的な観光倫理のスタンダードとして定着することを目指している。

Edited by k.fukuda

参考サイト

TOURISTSHIP – 広がれツーリストシップ|TOURISTSHIP公式サイト
ツーリストシップ行動集|TOURISTSHIP公式サイト
ツーリストシップ検定|TOURISTSHIP公式サイト
GSTCスタンダードの概要|GSTC公式サイト
オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組|国土交通省 観光庁
3者連携事業「ツーリストシップニュース」(第4弾)の掲出 京都市交通局×一般社団法人ツーリストシップ×学校法人大覚寺学園嵯峨美術大学|京都市交通局
「令和の都だざいふ 4つのツーリストシップ」を策定しました|太宰府市
ツーリストシップ石垣島4ヶ条|石垣市
脱オーバーツーリズムの旅行術を学ぶ「ツーリストシップ検定」開始~旅行者から始める、持続可能な観光の第一歩~|PR TIMES

About the Writer

ともちん

大学で英文学を学び、小売・教育・製造業界を経てフリーライターに。留学や欧州ひとり旅を通じて「丁寧な暮らし」と「日本文化の価値」に触れ、その魅力を再認識。旅や地方創生、芸術、ライフスタイル分野に興味あり。言葉を通して、自尊心と幸福感を育めるような社会の実現に貢献することを目指している。
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